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雑談と文学(小説)

雑談と文学(小説)の掲示板

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  • 2024/04/25 16:30
  • rss

掲示板のコメントはすべて投稿者の個人的な判断を表すものであり、
当社が投資の勧誘を目的としているものではありません。

  • 安部萬之丞 「ふたつの小説とひとつの戯曲」(Amazon.co.jp)よろしくお願いします。

  • 半年以上、暫く使っていないパソコンからです。
    二階の寝室にあるのですが無線が繋がらずほって置きました。
    これまではリビングも二回も有線でしたが試行錯誤して無線で
    昨日やっと屈指し繋がりました。

    二階くらいって失敗して、まぁ有線でもいいかと思ったけどコードが邪魔で
    多分パスワードが間違っていたでしょうね。

    昨日も今日も暑いです。今日から半袖にしました。
    でも明日からまた気温が下がるとか。この季節難しいです。

  • おはようございます。

    今朝は暫く使っていないパソコンからです。
    二階の寝室にあるのですが無線が繋がらずほって置きました。
    昨日やっと屈指し繋がりました。

    昨日も今日も暑いです。今日から半袖にしました。

  • 此処の所一週間ウイルスに悩まされました。
    「貴方のPCはウイルスに感染しいます」
    これから5分に一度くらい、更にウイルス削除です。
    貴方のソフトは期限が切れいます。すぐ再登録を。月に000円
    こっちの方がウイルスみたいなものです。仕舞にったソフトを調べて見ました。
    2023年度の怪しいのを消して行ったらピタリと無くなりました。

    これは気を付けないと怖いです。
    昨年は間違って、エクセルとワードのソフトを削除し酷い目に合いましたよ。

  • 五秒間の戦い 後編

    園子は、まもなく三十路を迎える。いくら結婚年齢層が上がったとは言え、やはり三十代では聞こえが悪い。果物に例えるなら食べごろ。これを過ぎたら賞味期限切れ寸前、商品価値が下がる。それは絶対嫌だ。何度かお見合い写真を渡れたが今回は上物、いやタイプ。逃がしてはならない。
     だから今日の日の為に、お見合いの作法など勉強して来たのだ。
     勿論、相手にも因るが、紹介してくれた人の話では稀にみる好青年だと聞く。
     全てがこの日の為に習い事をし、作法を習い、エスティックサロン、美容店へと今日の為に備えて来たのだ。
     だが此処で転んだら総てが水の泡。洋服も水の泡では洒落にもならない。
     その洒落にもならない現実が、今その足元にある水溜りに倒れこみそうな状態にあるのだ。

     『駄目!! ここで倒れたら自慢のワンピースが泥だけになるのよ』
     『お見合いの時間まで、あと二十分。絶対に倒れる訳には行かないわ』
     バランスを崩した瞬間に、園子は自分の身体と脳に訴えた。
     もし倒れたら全てが終わる。途中で着替えたとしても約束した、お見合いの時間に間に合わない。特に大事な時間に遅れるような女は、時間にルーズだと嫌われるに決まっている。

     だが無情にも園子の体は体勢が崩れて、斜め後ろに傾いて行く。
     足を滑らした右足が前方に引き出され、少しずつ靴底が上を向いて行く。
     『止めて!! なんとしても転ぶことは許されないのよ』
     ほんの一瞬のことだが、そんな事が脳裏を駆け巡る。
     あと、頼りになるのは左足だけだ。その左足に力が加わる。
     必死に体勢を立て直そうと、四十五度に折り曲がった膝が最後の砦となった。

     『頑張るのよ! ここで転んだら私のお見合いは駄目になるわ。そしてあっと言う間に、三十五歳いやいや四十路になるわ』
     左足全体に力が加わる。鍛えられた筋肉が太腿に伝わる。
     ご主人様の一大事(筋肉の囁き)とあって、ありったけのパワーを左足に集中して行く。園子の体は覚えていたのだ。こういう時のバランスのとり方を。
     散々と練習を重ね来た、あの辛い日々が蘇る。一時はオリンピックを夢見てフィギュアスケートの猛特訓した体が覚えていた。今こそ、その成果を証明するのだ。オリンピックの夢は叶わなくても、お嫁の夢は叶えさせて!!
     それと同時に園子の両手がサ~と左右に開いた。

     それはもう、まるでイナバウアーだ。氷上のメダリストのようだった。
     崩れかけた体勢は、序々に持ち直して行き寸前のところで危機を脱したのだ。
     それは僅か五

  • 五秒間の戦い  前編

    時は二〇〇六年二月トリノオリッピックで日本選手団は誰一人として金はおろか銅メダルさえ届かなかった。オリッピックも終盤、彗星の如くいや妖精の如く現れたフィギュアスケートで日本初の金メダルを獲得した荒川静香選手。世界が称賛した快挙は今も語り継がれ「イナバウアー」という流行語を生み出した。
    このイナバウアーは日本中が湧いた。上体を後ろに反らす「レイバック」も加えて一世を風靡した。つまり上半身の美しい曲線は本来「レイバック」と呼ばれて称賛されるべき技術なのだ。この日を境にフィギュアブームになった。
    上体を後ろに反らす「レイバック」も加えて一世を風靡した。つまり上半身の美しい曲線は本来「レイバック」と呼ばれて称賛されるべき技術なのだ。

    園子もイナバウアーに憧れフィギュアを始めたのが十年前、だが夢はかなわなくOLとして働いていたが今でも時おりフィギュアのレッスンコースに通いレッスンコーチをしている。

     その日は朝から雨が強く降っていて、道には所々に水溜りが出来ていた。
    しかし天は園子を祝福するかのように、出かける頃には空は真っ青に晴れ渡っていた。
     街を行き交う人の中に小学生達が歩いて来る。彼女達の向かう先は分かっていた。かつて園子が通ったアイススケート場があり、そこにはフィギュアのレッスンコースがある。『いいなぁ、あの子達には夢があって』つい彼女達を見て園子も同じ道を歩んだ日々が蘇る。

    と、よそ見した時だった! 歩道にある鉄のマンホールの蓋で足を滑らせた。
    ツルッと右足が滑り、上体が後ろに傾きかけ同時に右足が上がって行く。
    あっ転ぶ!! 園子は一瞬、脳裏をかすめた。
     『駄目! 今は絶対転んではならない。もし此処で転んだら私の人生はどうなるの』 
     小学生達に気を奪われ、マンホールの蓋に足を乗せたのが間違いだった。しかも周りに水溜まりが残っていた。倒れたらワンピースが泥まみれになる。
     今日は園子にとって大事な日なのだ。大袈裟に言うなら勝負の日だ。
     もしかしたら自分の一生を、左右しかねない一日となるのだ。
     そう今日は、お見合いの日。
     数日前から色んなブティックを見て周り、お気に入りのワンピースを買った。
     淡い水色で、いかにも若さが引き立つようなワンピースだ。
     これなら相手の方も、心を揺さぶられるだろう。

    つづく

  • >ところで、もう、ドリームさんは(株と小説創作)でなく、こちらの(雑談と文学)の方で続けられるおつもりですか?

    こちらは自分のスレッドを持ってみたいと思い作りました。

    主に自作の小説を載せようと思ってます。
    あたらはところで、もう、ドリームさんは(株と小説創作)でなく、こちらの(雑談と文学)の方で続けられるおつもりですか?
    いいえあちらは中小路昌宏さんと共に雑談の場で良いじゃないでしょうか。

    >村田は、まだ生きていたが動けず断末魔の叫びをあげて≫

    死ぬ直前、水が入ってきて最後の悲鳴みいなものです。
    誰でも黙って死ぬより「助けてれ」とか「あああー」とか悲鳴を上げると思って(笑)

    友人が亡くなるのは辛いですね。つい明日は我が身かと考えてしまうし。

  • >>14

     補足です。涙ポロポロ流したのは私の妻ではなく、友達の奥さんです。誤解されるかと思ったので・・・

  •  こんにちわ。

     2歳年上の友人が亡くなり、昨日の通夜と今日の葬儀に行ってきました。
     2歳年上とはいえ、まだまだ元気で、亡くなる前日まで車を運転していたそうです。それが脳内出血とかで突然・・・・
     まあ本人は、苦しまずにポックリ逝ってしまったので幸せなのかもしれませんが奥さんは可哀そうです。私の妻の顔を見ると、涙をポロポロ流していました。

     ところで、もう、ドリームさんは(株と小説創作)でなく、こちらの(雑談と文学)の方で続けられるおつもりですか?
     二つ同時に存続させても意味はないので、それなら私もこちらに引っ越ししましょうかね?
     だったら、こちらの方へ(作家でごはん)の人たちを誘い込んでもいいでしょうか?

    ・・・・・・・・・・・
     「その名は梟(恨み節)」読みました。
     これは「作家でごはん」へは投稿されるおつもりですか?

    «村田は縛られて車に乗せられ、暗闇の川の中に沈んで行く。
     村田は、まだ生きていたが動けず断末魔の叫びをあげて≫

     ※ 川の中に沈んでいく時、叫ぶことが出来るのでしょうか? ほかにもちょっと、ウーン?と感じたところがありました。投稿されるのなら、もう一度見直しされた方がいいのではないかと、思います。

  • その名は梟  (恨み節) 後編

    それは幸子が今まで貯めた三千万円の入った大型バックだった。
     「何を言っているの、ここなら誰にも分からないわ。心配しないでよ」
     仁美は証券会社に勤めていて、幸子をなだめてから仕事に出かけた。
     夜になって幸子は新宿にあるクラブの入り口の脇に立っていた。
     店はメチャクャにされ恋人まで殺された。もはや刺し違えても村田を殺そうと思った。
     暫らくすると村田が舎弟二人を連れて出て来た。幸子は村田に向かって走った。
     体当たりしたように見えたが、右手にはナイフが握られていた。
     村田の腕から血がしたたり落ちる。
     「てめぇ! よくも若頭をやってくれたな!」
     幸子の命がけの復讐も虚しく終り、せめて彼の仇をと思ったのだが叶わなかった。
     その翌朝、横浜港の桟橋に溺死体で、幸子が発見された。
     警察の発表では酒に酔って港に落ちた、溺死事故であると報じられた。

     幸子から私に何かあったらと頼まれていた事を実行に移した。
     親友の死を知った仁美は、噂で聞いた方法である人物に連絡を取った。
     数日後、新聞の三面記事の下に二行広告が載っていた。
     (梟への願い。TEL○○〇・・・・・・)
     横浜は山下公園。ひと気も少ない夜の十一時だった。
     「お願いします。私の親友の敵を取ってください。彼女から預かった金で彼女の無念を晴らして下さい」
     抹殺人・梟は、新聞記事の以来を受けて仁美と待ち合わせしていた。
     「いいだろう……抹殺の条件はあるか?」

     「特にないですが幸子の恨み節を、その男に聴かせてください」
     「親友というなら信用して引き受けよう」
     「あっありがとう御座います。怖い人かと思って足がすくんでいたのですが貴方は優しいんですね」
     「ふっ……人によるがね。分かっていると思うが他言無用だ。それと裏切りは死を意味する」

     一方、幸子を合法的に殺した村田達は。
     「若頭、少し勿体ない事をしましたね」
     「バカヤロウ! 少しくらい、いい女だったら新宿には山ほどいるぜ」
     「ハッハハ それもそうですね」
     「まぁいい、それより今日の取引は、抜かりがないんだろうな」
     「大丈夫です。江戸川の河川敷に夜十二時です」
     その河川敷に若頭の村田と舎弟三人が、取引相手を待っていた。
     「若頭、あれじゃないですか?」
     遠くから一台の乗用車がライトをパッシングしながら近づいて来た。
     「間違いありません。合図を送っていますから。こっちも合図します」
     舎弟は同じようにライトをパッシングさせた。

     その車から長身の男が一人出て来た。夜だと言うのにサングラスを掛けて服装はすべて黒で総一されていた。
     まるで闇に溶け込むように……そして獲物を狙う梟のように。
     「待たせたな。でっ、そっちのブツを見せてくれないか」
     「あんた? 見慣れない顔だな。一人で来たのか? いい度胸じゃないか」
     「いや……仲間人三人は後部座席とトランクで眠っているぜ」
     「なに!? どういう事だ」
     「こう言うことだよ」 バシッ バシッ バシッ 
     サイレンサー付きのベレッタM92が、闇夜に一瞬光った瞬間だった。三人は一瞬にして倒れた。村田は急所が外れたのか油汗を流して、その男を見た。
     「心配するな。てめぇの舎弟は気絶して寝ているだけだ。だがお前は地獄行きだ」

     「誰だ。お前は? なんの恨みがあって」
     「恨み? 恨まれるのはお前の方だろう。俺はそんな奴を抹殺する闇の梟だ」
     「なに!? お前があの抹殺人のふくろう……誰の依頼だ」
     「人の恋人を横恋慕。あげくに二人とも殺してしまうとはな。俺も悪党だがてめぇ程じゃないぜ。女には優しくするものだ。それから彼女の遺言だ。お前に〔恨み節〕を聴かせてやってくれってな」

     「ちょちょっと待ってくれ! 頼む後生だ。死ぬ前に依頼主の名前を……」
     「なぜ拘るんだ。今更聞いてどうする?」
     「もしかして丸山仁美という女ではないか」
     梟は驚いた。依頼主をなぜ知っているのかと。
     「どう言うことだ。なぜ彼女を知っている?」
     「それは……」
     「なるほど。だがなぁ、お前の罪は消える訳はないぜ」
     村田は縛られて車に乗せられ、暗闇の川の中に沈んで行く。
     村田は、まだ生きていたが動けず断末魔の叫びをあげて生き地獄を味わいながら、やがて車は川底に消えていった。

     翌日、リンビングでグラスを片手に夜九時のニュースを見ていた。
     「流石ね。抹殺人ふくろう……か」
     そう言って呟き、一人でニヤリと仁美は微笑んだ。
     その隣には、残りの千五百万の現金が置いてある。
     「幸子も、お人よしね。何処で情報を手に入れたか私も村田には証券会社の金を操作した事で村田に脅かされていたのよ。だから幸子には悪いけど、矛先を貴女に向けさせたの。それで村田の脅しも和らぐと思って、多分あなたは私の所にやってくると思っていたわ。でも現金までを私の所に持って来るなんて、お人好しもいい処よ」

     その時だ。ドアの方から僅かに風が入って来たような。
     いや正確にはドアが開けられた時の微風だった。
     「だれ!?」
     「ノックなしで失礼するよ」
     「あっ? 貴方は……どうやって鍵を開けたの」
     「梟は羽音を立てずに忍ぶ込む事が出来るのさ」
     「なっなんで!? ニュースを見たわ。お金が足りないと言うの」

     「お前も大した女だな。ヤクザを騙して俺まで欺くとはな」
     「わっ私、なんの事か……」
     「残念だったな。村田が死ぬ間際に言っていたぜ。本当の裏切り者はお前だってな」
     「チッ村田も心底悪党ね。……もしかして私を殺しと言うの? ねぇ依頼がないと人は殺さないじゃないの? そうでしょう」
     「だから依頼主は居るよ。幸子の妹だ。幸子のスナックがあった場所で依頼を受けたのさ。抹殺してくれってな。依頼金はそのバックだ」
     「なっこれは私の金よ! でも私は人を殺して居ないわ。利用しただけじゃない」
     「一番信頼している親友に、裏切られて死んで行った人間の気持がお前には分かるのか? 信頼を裏切る事は例え女でも死に値するぜ」
     「やっ止めて!!」
     バシッ~鈍い音が部屋に響いた。
     「お前も裏切られ死んで行った、幸子の怨念の恨み節でも聴くんだな」

  • その名は梟  (恨み節) 前編

     闇夜に羽音を立てず獲物を抹殺する。人は彼をこう呼ぶ、その名は梟。

     ホテルの一室で数人が言い争いをしていた。
    「おい! お前はこの女を誰だか知って手を出したのか!!」
     「そっそんな。手を出すだなんて俺は幸子さんが好きだから……」
     「ほう、愛している好きだから笑わせるな。おい幸子! この男がそんな事を言っているが。いいのか?」

     「ほっ本当です。義彦さんと私は愛し合っています」
     「なんだとガキじゃあるまいし。お前! 若頭を裏切ろうと言うのか、えーどうなんだ」
     「待ってください。若頭の村田さんには確かに親切にして貰いました。でも私は村田さんのモノではありません。お店では世話になっていますが」
     「てめぇ! 若頭が、ただで面倒みるとでも言うのか。良く考えてみろ」
     「それじゃあなんですか。最初からそのつもりで私を……」
     「最初からとは、どういう意味だい。人聞きが悪い事いうな!」
     「だったら義彦さんと私が、恋愛関係にあったって自由じゃないですか」
     「ふざけるな! それじゃどうしても若頭のツラを汚しってんだな」

     幸子は小さなスナックを経営していたのだが、ここは新宿界隈の一角。当然みじかめ料(用心棒代)を取る組織がいる。もちろん表向きは、おしぼり業者とか名前を変えて法外な金を取る。その中には用心棒代も含まれていて、揉め事があった時に若い者が駆けつけて治めてくれるが、収めないと店への嫌がらせや妨害が始まる。事があるごとに金を吸い取られる仕組みだ。
    そこに松沢組の若頭である村田が、幸子に目をつけていたのだ。欲しい女は必ず手に入れる。まず幸子のスナックでひと暴れする。これが数回続けば他の客が寄り付かなくなる。
     暴れた客は組が送り込んだ仕掛人と呼び、その仕掛人を同じ組の者が追い払い助け船を出す。当然、礼金を取る。次に若頭が乗り込み俺に従えば商売も上手く行くと、俺の女になれば心配ないと引き摺り込まれれば、もはや蟻地獄となり全てを吸い取られる。 

     「まぁいいや幸子。強がりもそこまでだ。この色男は連れて行くぜ。まあ良く考える事だな」
     「まっ待ってよ! 義彦さんに何をするつもりなの?」
     「それはお前次第だ」
     「止めて!! 連れて行かないで」
     男達三人は義彦を連れて、ホテルの部屋を出て行った。

     それから幸子は店を休業して、必死に義彦の行方を探した。
     五日目にして幸子は店を開けたが心は沈んだままだ。義彦が未だに行方知れずだからだ。その店に若頭の村田が舎弟を連れて現れた。
     「むっ村田さん。彼をどうしたんですか」
     「ああ心配ない今の処は元気みたいだが、それもお前次第だ」
     「それ、どう言う意味? 嫌よ、わたし力づくでは動かないわ」
     「そうかい……お前がそうなら仕方がないな」
     村田に逆らう者は容赦しない。舎弟の手前もある、舎弟ともども怖さを見せつける。

     数日後、幸子のスナックにダンプカーが突っ込んだ。幸子は幸いにカスリ傷程度だが、客の数人が重症を負った。
     ダンプカーの運転手は泥酔状態で運転して居た為に衝突のショックで即死した。
     だが、その運転手は幸子が探していた恋人の義彦だった。
     無理やり強い酒を飲まされ、ほとんど意識のないまま運転席に座らされた。
     まさに泥酔事故に見せかけた計画的な殺人だった。それと同時に飲酒運転容疑で付く、これでは仏が浮かばれない。
     あれは事故じゃないと警察に訴えたが、状況からして計画的な証拠はないと却下された。
     幸子は自分の命の危険を感じ、店を閉め横浜に住む親友の丸山仁美のマンションに転がり込んだ。
     「幸子、一体どうしたの。何があったの?」
     「仁美、わたし悔しい。彼がヤクザに殺され、店もメチャクチャにされたわ。もう私は生きる望みもなくなったわ」
     「馬鹿なこと言わないで。まだ三十になったばかりなのに元気を出して。きっとまたやり直せるから……ね」
     「ありがとう仁美。暫くここに置いてくれる。そして私に万が一の事があったらこれで……お願い」

    つづく

  • 「まぁ確かに北海道は魅力的だし住んでも良いかと思っている」
     「今さら隠さなくてもいいよ。風子が好きなんだろう。勿論、風子はそれを望んでいる。ただ女の口から言えるわけがないだろう。相思相愛の仲じゃないか。お前からプロホーズするんだな。他に何か悩みが……なるほど仕事の事か。どうだ、ペンションでもやったら、土地はただ見たいな物だし問題は建築費かな。なぁに俺が知り合いに頼み安く貰う。それでも足りなければ俺がなんとかするからさ」
    「ありがとうよ。まぁ多少の蓄えはあるし。なんとかなるとだろう」
    「そうかお前が来てくれたら最高だ。また嫁さんを貰ったような気分になるよ」
    「バカかおまえ、気色悪い事を言うな。でも楽しくなりそうだな」

     そんな出来事があったのはもう三年前になる。風子との出会いを想い出していた。俺はあれ以来、知床の魅力に惹かれて移り住んでいる。もうひとつハングライターの魅力に取りつかれ夢中になっている。
     いや本当に惹かれたのは、知床ではなく風子の魅力にかもしれない。風子も俺を気に入ってくれて最大限の歓迎を受けたものだ。
     やがて今日も夕日がペンションを照らす。それを写真に収めてたくて泊り客たちはペンションの前で、夕日をバックにポーズを取っている。シャッターを押す役目は風子だ。
     「はぁい次のお客さん、どうぞご一緒に並んでください。夕日が沈まないうちに」
     風子もすっかりペンション経営の楽しさが分かって来たようだ。
     俺はそんな風子を見ながら不思議な巡り合わせ俺は側より俺は側よりだと思っている。
     「もう! 正人さん何をしているの。お客さんがいらしたわよ」
     勿論、正人とは俺の名前だ。別にペンションを手伝っている訳ではない。
     俺は全財産を注ぎ込んでペンションを建てた。それでも足りない分は風子の両親が出してくれた。この地に風子と永住する為だ。風子も賛成してくれた。なんで親友の片思いの風子と結婚する事になったかって?
     そりゃあ男と女だもの、いや運命だったのか、それとも斉藤が俺達を結ばせたのではないかと思っている。失恋した女と、女に縁がなかった俺。あいつなりにお似合いと思ったのだろうか、多分そうだろう。
     いや違う。風子と俺は奴に嵌められたんだ。いま思うと本当に忌々しい奴だ。
     でも俺も風子も、あいつに嵌められた事に感謝している。

     了

    雑談と文学(小説) 「まぁ確かに北海道は魅力的だし住んでも良いかと思っている」  「今さら隠さなくてもいいよ。風子が好きなんだろう。勿論、風子はそれを望んでいる。ただ女の口から言えるわけがないだろう。相思相愛の仲じゃないか。お前からプロホーズするんだな。他に何か悩みが……なるほど仕事の事か。どうだ、ペンションでもやったら、土地はただ見たいな物だし問題は建築費かな。なぁに俺が知り合いに頼み安く貰う。それでも足りなければ俺がなんとかするからさ」 「ありがとうよ。まぁ多少の蓄えはあるし。なんとかなるとだろう」 「そうかお前が来てくれたら最高だ。また嫁さんを貰ったような気分になるよ」 「バカかおまえ、気色悪い事を言うな。でも楽しくなりそうだな」   そんな出来事があったのはもう三年前になる。風子との出会いを想い出していた。俺はあれ以来、知床の魅力に惹かれて移り住んでいる。もうひとつハングライターの魅力に取りつかれ夢中になっている。  いや本当に惹かれたのは、知床ではなく風子の魅力にかもしれない。風子も俺を気に入ってくれて最大限の歓迎を受けたものだ。  やがて今日も夕日がペンションを照らす。それを写真に収めてたくて泊り客たちはペンションの前で、夕日をバックにポーズを取っている。シャッターを押す役目は風子だ。  「はぁい次のお客さん、どうぞご一緒に並んでください。夕日が沈まないうちに」  風子もすっかりペンション経営の楽しさが分かって来たようだ。  俺はそんな風子を見ながら不思議な巡り合わせ俺は側より俺は側よりだと思っている。  「もう! 正人さん何をしているの。お客さんがいらしたわよ」  勿論、正人とは俺の名前だ。別にペンションを手伝っている訳ではない。  俺は全財産を注ぎ込んでペンションを建てた。それでも足りない分は風子の両親が出してくれた。この地に風子と永住する為だ。風子も賛成してくれた。なんで親友の片思いの風子と結婚する事になったかって?  そりゃあ男と女だもの、いや運命だったのか、それとも斉藤が俺達を結ばせたのではないかと思っている。失恋した女と、女に縁がなかった俺。あいつなりにお似合いと思ったのだろうか、多分そうだろう。  いや違う。風子と俺は奴に嵌められたんだ。いま思うと本当に忌々しい奴だ。  でも俺も風子も、あいつに嵌められた事に感謝している。   了

  • 恋愛経験の殆どないない俺が女心は分からないが、生きる喜びは何かと風子に言い聞かせた。説得力があったかどうか分からないが、風子は次第に明るさを取り戻して行った。同時にお兄ちゃんの友人だけかあって心の優しい人だと印象付けたようだ。結局、斎藤は風子を妹のような存在でしかなかったのだろう。本当に好きななら東京に就職なんかしないはずだ。まったく罪な男だぜ。
     
     「あの氷室さん、この事は斎藤さんに内緒にして下さい」
     「言える訳がないじゃありませんか! もっと自分を大事にして下さい」
     俺は語気を強めて言った。斎藤だって困るはずだ。なんたって結婚したばかりだ。どう説明しろと言うのだ。
     「ごめんなさい。そうですよね。同情されたら私が余計惨めになりますものね」
     「そうです。風子さんは若い。これから沢山の恋愛をして良い人を見つけて下さい」
     「良い人……居ると良いですけど」
     「風子さんは明日から仕事ですよね。僕はこれから富良野から小樽を廻ろうと思っています。色々と案内して頂き有難う御座いました」
     「いいえ、本当に迷惑をお掛けしました。お気をつけて旅をなさって下さいね。それとまた知床に来てくださいね」
     「勿論です。この広い大地はまだ沢山の見る所がありそうですから」

    親友の結婚式のあと北海道を周って見ようと思っていたが少し予定が狂ってしまった。でも風子という不思議な子に出あった事はある意味楽しめたかも知れない。
     東京に帰ってから風子からメールを貰った。メールとは便利だ。メールには数枚の写真が添付されていた。知床の景色、羅臼など写真も入っていたが最後の二枚は風子と俺と一緒に撮った写真と風子自身の写真だった。なんだか無性に恋しくなって来た。景色もだが風子に。そして俺の心を揺さぶった。あれから何度も風子から北海道に来て誘われた。それから年に何度も行くようになった。酷い時は土日の連休を利用し一泊で帰って来る日もあった。
     そんなある日、斎藤に「そんな北海道が気に入ったらこっちに引っ越して来いよ」と言われた。

    つづく

    雑談と文学(小説) 恋愛経験の殆どないない俺が女心は分からないが、生きる喜びは何かと風子に言い聞かせた。説得力があったかどうか分からないが、風子は次第に明るさを取り戻して行った。同時にお兄ちゃんの友人だけかあって心の優しい人だと印象付けたようだ。結局、斎藤は風子を妹のような存在でしかなかったのだろう。本当に好きななら東京に就職なんかしないはずだ。まったく罪な男だぜ。    「あの氷室さん、この事は斎藤さんに内緒にして下さい」  「言える訳がないじゃありませんか! もっと自分を大事にして下さい」  俺は語気を強めて言った。斎藤だって困るはずだ。なんたって結婚したばかりだ。どう説明しろと言うのだ。  「ごめんなさい。そうですよね。同情されたら私が余計惨めになりますものね」  「そうです。風子さんは若い。これから沢山の恋愛をして良い人を見つけて下さい」  「良い人……居ると良いですけど」  「風子さんは明日から仕事ですよね。僕はこれから富良野から小樽を廻ろうと思っています。色々と案内して頂き有難う御座いました」  「いいえ、本当に迷惑をお掛けしました。お気をつけて旅をなさって下さいね。それとまた知床に来てくださいね」  「勿論です。この広い大地はまだ沢山の見る所がありそうですから」  親友の結婚式のあと北海道を周って見ようと思っていたが少し予定が狂ってしまった。でも風子という不思議な子に出あった事はある意味楽しめたかも知れない。  東京に帰ってから風子からメールを貰った。メールとは便利だ。メールには数枚の写真が添付されていた。知床の景色、羅臼など写真も入っていたが最後の二枚は風子と俺と一緒に撮った写真と風子自身の写真だった。なんだか無性に恋しくなって来た。景色もだが風子に。そして俺の心を揺さぶった。あれから何度も風子から北海道に来て誘われた。それから年に何度も行くようになった。酷い時は土日の連休を利用し一泊で帰って来る日もあった。  そんなある日、斎藤に「そんな北海道が気に入ったらこっちに引っ越して来いよ」と言われた。  つづく

  • 「そうですか……それなら良いのですが」
     「ねえ氷室さん。この辺は滝が多い所でね。オシンコシンの滝やそして、ここの乙女の涙の滝、そして少し離れた所に男の涙の滝があるのよ」
     「へえ~ロマンチックですね」
    「本州には乙女の滝は栃木の那須、長野の蓼科、大阪にもあるようですね」
    「へぇもの知りですね」
    「乙女の滝ってなんとなくロマンッチクだからそんな地名が増えたんじゃないでしょうか」

      確かに案内された乙女の涙の滝は、水の量か少なく岩場に弾かれ涙の雫のように落ちて行く。やがて滝を後にして、景色が良い海岸の方に行こうと風子に誘われた。
     「先程のフレペの滝(乙女の涙の滝)。失恋した乙女の涙がここにどれだけ流されたでしょうね。ほら下を見て百メートルの絶壁よ。ここで失恋の淋しさに耐えられずに飛び込んだ乙女達の魂が眠っているのよ」
     「えっ身投げした人が居るのですか? 風子さん……そんなに前に行ったら危ないですよ」
     すると風子は急に泣き出した。俺は驚いた、やはり何か思いつめていて、我慢の限界を超えたのだろうか。俺は側より慰めようとした時だった。
     だが風子は突然、走り出し海に向かってダイビングした。風子は風になれ~~~と叫びながら落下していった。
     「ふ、ふうこさ~~ん! 嘘でしょう!?」
     俺はあまりにも突然の出来事に驚いた。いったいどうしてだ!!
     一瞬だが俺の頭の中で彼女の淋しそうな表情の意味が理解出来た。だが気づくのが遅かった。

     風子は斉藤を好きだったんだ。たぶん心では風子は割り切っていても耐えられなかったのだろう。心の動揺は隠せず発作的に死のダイビングをしたんじゃないか? 落下して行く風子を見ながら、俺は奇跡でもいいから助かってくれと祈った。その時だ! 海の下から上に向かって突風が吹き上げてくる。落下して行く風子が一瞬、風にあおられ落下のスヒードが落ちた。下を見ると風子はなんと、身に着けていたジャンパーを広げて鳥のように舞いながら海面に落ちた。とはいえパラシュートじゃないから、かなりの衝撃を受けたはずだ。
     俺はオロオロしながら風子の落ちていった海を見ると、近くにいた観光用の船だろうか、風子の傍に近づいてゆくのが見えた。なんとか助けってくれと祈った。万が一の事があったら斎藤になんと言ってわびれば良いか。風子が残し行った車は幸いキーが差し込んだままだった。俺は観光船の船乗り場に向かって走った。
     一時間半後、風子は観光船の乗り場事務所で毛布にくるまっていた。
     幸いに打撲程度で医者も入院には及ばないとの事だった。通報を聞いて駆けつけた警官の説教が終わった処だった。
    そこに俺が車で駆けつけると。身内の者かなどと聞かれた。
     「いいえご迷惑をおかけして申し訳ありません。私は彼女に観光案内して頂いている者です」頂いて
     それでこれまでの経過を聞かれた。仕方なく友人の結婚時に来たこと。その友人の妹のような存在が彼女で、彼女に好意に甘えてしまってまさかこんなことになるとは。彼女の居ない場所でそのお兄ちゃん的存在が結婚し落胆したのが原因だろう伝えた。警察もやっとり理解し返してくれた。二度とそんな気を起こさないように自宅まで送り届けるという事で解放して貰った。

    乾燥機で洋服を乾かして貰ってから、俺は風子が運転して来た車に乗せて代わり俺が運転し、取り敢えず俺の宿泊しているホテルに向かった。暫くお互いに言葉を交わさず走り続けた。
     風子が少し落ち着いたところで俺は話しかけた。
     「風子さん……あなたはやっぱり斉藤の事を……」
     「ごめんなさい。本当は飛び込むつもりはなかったんです。つい感情が込み上げて来て、そう思ったら走っていました。迷惑をかけてごめんなさい。でもあの時、急に風が私を突き上げて、その時に死んではいけないと思った瞬間、本能的にジャパーを広げていました。あれは神風なのかも知れません。本当に馬鹿な事をして申し訳ありません。もう吹っ切れました。私にはお兄ちゃんは、お兄ちゃんでしかなかったんです。妹が兄を好きになるなんて可笑しいですよね」
     風子はそうは言ったものの俺は心配で、予定を変更し三日ばかり知床にとどまった。

    つづく

    雑談と文学(小説) 「そうですか……それなら良いのですが」  「ねえ氷室さん。この辺は滝が多い所でね。オシンコシンの滝やそして、ここの乙女の涙の滝、そして少し離れた所に男の涙の滝があるのよ」  「へえ~ロマンチックですね」 「本州には乙女の滝は栃木の那須、長野の蓼科、大阪にもあるようですね」 「へぇもの知りですね」 「乙女の滝ってなんとなくロマンッチクだからそんな地名が増えたんじゃないでしょうか」    確かに案内された乙女の涙の滝は、水の量か少なく岩場に弾かれ涙の雫のように落ちて行く。やがて滝を後にして、景色が良い海岸の方に行こうと風子に誘われた。  「先程のフレペの滝(乙女の涙の滝)。失恋した乙女の涙がここにどれだけ流されたでしょうね。ほら下を見て百メートルの絶壁よ。ここで失恋の淋しさに耐えられずに飛び込んだ乙女達の魂が眠っているのよ」  「えっ身投げした人が居るのですか? 風子さん……そんなに前に行ったら危ないですよ」  すると風子は急に泣き出した。俺は驚いた、やはり何か思いつめていて、我慢の限界を超えたのだろうか。俺は側より慰めようとした時だった。  だが風子は突然、走り出し海に向かってダイビングした。風子は風になれ~~~と叫びながら落下していった。  「ふ、ふうこさ~~ん! 嘘でしょう!?」  俺はあまりにも突然の出来事に驚いた。いったいどうしてだ!!  一瞬だが俺の頭の中で彼女の淋しそうな表情の意味が理解出来た。だが気づくのが遅かった。   風子は斉藤を好きだったんだ。たぶん心では風子は割り切っていても耐えられなかったのだろう。心の動揺は隠せず発作的に死のダイビングをしたんじゃないか? 落下して行く風子を見ながら、俺は奇跡でもいいから助かってくれと祈った。その時だ! 海の下から上に向かって突風が吹き上げてくる。落下して行く風子が一瞬、風にあおられ落下のスヒードが落ちた。下を見ると風子はなんと、身に着けていたジャンパーを広げて鳥のように舞いながら海面に落ちた。とはいえパラシュートじゃないから、かなりの衝撃を受けたはずだ。  俺はオロオロしながら風子の落ちていった海を見ると、近くにいた観光用の船だろうか、風子の傍に近づいてゆくのが見えた。なんとか助けってくれと祈った。万が一の事があったら斎藤になんと言ってわびれば良いか。風子が残し行った車は幸いキーが差し込んだままだった。俺は観光船の船乗り場に向かって走った。  一時間半後、風子は観光船の乗り場事務所で毛布にくるまっていた。  幸いに打撲程度で医者も入院には及ばないとの事だった。通報を聞いて駆けつけた警官の説教が終わった処だった。 そこに俺が車で駆けつけると。身内の者かなどと聞かれた。  「いいえご迷惑をおかけして申し訳ありません。私は彼女に観光案内して頂いている者です」頂いて  それでこれまでの経過を聞かれた。仕方なく友人の結婚時に来たこと。その友人の妹のような存在が彼女で、彼女に好意に甘えてしまってまさかこんなことになるとは。彼女の居ない場所でそのお兄ちゃん的存在が結婚し落胆したのが原因だろう伝えた。警察もやっとり理解し返してくれた。二度とそんな気を起こさないように自宅まで送り届けるという事で解放して貰った。  乾燥機で洋服を乾かして貰ってから、俺は風子が運転して来た車に乗せて代わり俺が運転し、取り敢えず俺の宿泊しているホテルに向かった。暫くお互いに言葉を交わさず走り続けた。  風子が少し落ち着いたところで俺は話しかけた。  「風子さん……あなたはやっぱり斉藤の事を……」  「ごめんなさい。本当は飛び込むつもりはなかったんです。つい感情が込み上げて来て、そう思ったら走っていました。迷惑をかけてごめんなさい。でもあの時、急に風が私を突き上げて、その時に死んではいけないと思った瞬間、本能的にジャパーを広げていました。あれは神風なのかも知れません。本当に馬鹿な事をして申し訳ありません。もう吹っ切れました。私にはお兄ちゃんは、お兄ちゃんでしかなかったんです。妹が兄を好きになるなんて可笑しいですよね」  風子はそうは言ったものの俺は心配で、予定を変更し三日ばかり知床にとどまった。  つづく

  • 翌朝、驚いた。本当に寒い確か八月の末なのに。朝食を終え俺はこの式場のホテル一階にある喫茶室で、モーニングコーヒーを飲みながら知床半島のパンフレットを見ていた。その時だった。フロント係の人が歩み寄って声を掛けて来る。
     「氷室正人様おいでですか? お電話が入っております」
    斎藤かな? わざわざ朝からノロケ話でも言うつもりかと思った。ノロケはいいからさっさっと新婚旅行に行ってしまい。
    残された独身の身を考えて見ろってんだ。と思いつつ受話器を取る。
     「ハイ、氷室ですが」
     「お早う御座います。昨日はお疲れ様でした。清水です。清水風子」
    勘違いだった。いくら野暮でそれないかと苦笑した。そういえば忘れていた。確か案内してくるような事を聞いたが昨日会ったばかりで申し訳ない気がするが。
     「ああ昨日はどうも、良い結婚式でしたね」
     「はい、昨日の約束覚えていますか? 予定がなかったら早速案内しますが、いかがでしょうか?」
     「それは願ってもない事ですが、迷惑じゃないですか」
     「いいえ、私も三日間の休みを取っているから平気ですよ。それにお兄ちゃんに貴方の事を頼まれていますから。何しろ大の親友だから頼むと言われていますから。遠慮なさらずに行きましょ」
     俺にとっては有難いことだ。しかも若くてなかなかの美人だ。断る理由はどこにもない。それに斉藤の気遣いを断る訳には行かなかった。これが男だったら気遣いは有難いですがと、断っていただろう。

     結婚披露宴の時とは違い今日の風子はまたラフな格好をしていた。何故か大きなジャンパーを着こんでいる。背中にはハングライダーの絵が書いてある。会員に配られたものだろうか。
     「氷室さんどこに行きたいですか。私は地元の人間ですから、この地区の観光なら知らない所はないですよ」
     「そうですね。う~~ん……それなら清水さんにお任せします」
     「確か知床を見るのが楽しみとか仰ってましたね。知床半島の先まで行きたいのですが道路がないので途中で右に曲がり羅臼まで行きましょうか。あそこは気球やハングライダーが楽しめますよ。あっそれから私をフウコと呼んでください」
     「はっはい、では早速。風子さん。もしかして風子さんはそこの会員か何かですか?」
     「はい、それほど上手じゃありませんが年に一度の大会に出ています。その他にも別な会に参加して楽しんでいます。私は風の子と書いてフウコ。そのせいか風が大好きなんです」
     風子は屈託なく笑っていた。しかし時折なにか思い出しように悲しげな表情を浮かべていた。何故か気になるが、だからと言って何かありましたかと聞く訳にも行かない。
     彼女の運転で羅臼に向かうが一体どこを走っているのか分からない。ただ道は真っ直ぐですれ違う車は滅多になかった。これが北海道か……ただ今時、珍しくカーナービが付いていなかったが道を知り尽くしているから無理に取り付ける必要もないのだろう。
     「あの風子さん道にある大きな矢印のような物は何ですか。あっちこっちで見かけましたが」
    「あれは雪が降った時、道路の幅が何処まであるか知らせる為のもので、溝に落ちないようにする目印です」
    「なるほど北海道ならばですね」

    彼女は地図を渡し羅臼を指差した。
     「へぇ、近く国後島が見えるんですね。遠いのに宜しいんですか」
     「ええ、羅臼から吹く風はハングライターに適していて人気が高いですよ」
     やがて羅臼に到着した。そこには大きな気球が浮かび上がっていた。
    澄み切った青空に空気が澄んで気持ちいい。せっかくだから気球に乗りましょうと言われた。これも初めての体験だ。自分一人だったらこんな体験は出来なかっただろう。
    季節は夏休みも終わる頃だが大勢の観光客が順番を待っていた。
    三十分ほどして自分達が気球に乗る番がやってきた。ゴオーと云う音と共に火柱が気球を暖め持ち上げる。ゆっくりと真っ青な空に上がって行く。ただ観光用なのでワイヤーで飛んで行かないよう固定されていて八十メートル上空で静止した。雄大な北海道の大地を堪能出来た。ただ安全だと云われても落ち着かなかったが、風子が言ってくれた。

     だが次に乗ろうと誘われたのがハングライダーだった。
     「大丈夫ですよ。二人乗りも出来ますから。飛行機に乗っているよりも安全ですから」
     俺は流石にそんな度胸がなかった。風子は苦笑し、せっかく来たからちょっと飛んで来ますね。退屈なら喫茶室で珈琲でも飲んでいて下さいと言って彼女はフライトの準備に掛かった。
    風子は俺に手を振ってハングライダーに乗って飛び立って行った。まるで風のように。
    俺はずっと眺めていた。こんな楽しみ方もあるんだ。都会ではこんな事は出来ない。時間に追われる毎日よりも自然を楽しむ人間らしい生き方かも知れない。しかし彼女はまさに風の申し子のようだ。
    風子はフライト飛行を終わって「ああ気持ち良かった。でもごめんなさいね自分から誘って置いて」そう言った。


     羅臼で食事をしてから俺達は羅臼展望台に向かった。
    そこから見える大きな島は、それが国後島だった。日本名が付いた湖や山はロシアの領土となっていて不思議な感じがした。それから知床横断道路を戻ってまたオホーツク側に周ると何故か思い詰めたように風子が言った。
     「ここにはフレペの滝、別名乙女の涙と言う滝があるの。観て行きませんか」
     今朝の彼女と違って次第に風子の、顔の表情が青ざめて見えた。
     「あの……風子さん。どこか具合でも悪いじゃないですか?」
     「いいえ……大丈夫ですよ。私もともと顔色が悪い方ですから」

    つづく

    雑談と文学(小説) 翌朝、驚いた。本当に寒い確か八月の末なのに。朝食を終え俺はこの式場のホテル一階にある喫茶室で、モーニングコーヒーを飲みながら知床半島のパンフレットを見ていた。その時だった。フロント係の人が歩み寄って声を掛けて来る。  「氷室正人様おいでですか? お電話が入っております」 斎藤かな? わざわざ朝からノロケ話でも言うつもりかと思った。ノロケはいいからさっさっと新婚旅行に行ってしまい。 残された独身の身を考えて見ろってんだ。と思いつつ受話器を取る。  「ハイ、氷室ですが」  「お早う御座います。昨日はお疲れ様でした。清水です。清水風子」 勘違いだった。いくら野暮でそれないかと苦笑した。そういえば忘れていた。確か案内してくるような事を聞いたが昨日会ったばかりで申し訳ない気がするが。  「ああ昨日はどうも、良い結婚式でしたね」  「はい、昨日の約束覚えていますか? 予定がなかったら早速案内しますが、いかがでしょうか?」  「それは願ってもない事ですが、迷惑じゃないですか」  「いいえ、私も三日間の休みを取っているから平気ですよ。それにお兄ちゃんに貴方の事を頼まれていますから。何しろ大の親友だから頼むと言われていますから。遠慮なさらずに行きましょ」  俺にとっては有難いことだ。しかも若くてなかなかの美人だ。断る理由はどこにもない。それに斉藤の気遣いを断る訳には行かなかった。これが男だったら気遣いは有難いですがと、断っていただろう。   結婚披露宴の時とは違い今日の風子はまたラフな格好をしていた。何故か大きなジャンパーを着こんでいる。背中にはハングライダーの絵が書いてある。会員に配られたものだろうか。  「氷室さんどこに行きたいですか。私は地元の人間ですから、この地区の観光なら知らない所はないですよ」  「そうですね。う~~ん……それなら清水さんにお任せします」  「確か知床を見るのが楽しみとか仰ってましたね。知床半島の先まで行きたいのですが道路がないので途中で右に曲がり羅臼まで行きましょうか。あそこは気球やハングライダーが楽しめますよ。あっそれから私をフウコと呼んでください」  「はっはい、では早速。風子さん。もしかして風子さんはそこの会員か何かですか?」  「はい、それほど上手じゃありませんが年に一度の大会に出ています。その他にも別な会に参加して楽しんでいます。私は風の子と書いてフウコ。そのせいか風が大好きなんです」  風子は屈託なく笑っていた。しかし時折なにか思い出しように悲しげな表情を浮かべていた。何故か気になるが、だからと言って何かありましたかと聞く訳にも行かない。  彼女の運転で羅臼に向かうが一体どこを走っているのか分からない。ただ道は真っ直ぐですれ違う車は滅多になかった。これが北海道か……ただ今時、珍しくカーナービが付いていなかったが道を知り尽くしているから無理に取り付ける必要もないのだろう。  「あの風子さん道にある大きな矢印のような物は何ですか。あっちこっちで見かけましたが」 「あれは雪が降った時、道路の幅が何処まであるか知らせる為のもので、溝に落ちないようにする目印です」 「なるほど北海道ならばですね」  彼女は地図を渡し羅臼を指差した。  「へぇ、近く国後島が見えるんですね。遠いのに宜しいんですか」  「ええ、羅臼から吹く風はハングライターに適していて人気が高いですよ」  やがて羅臼に到着した。そこには大きな気球が浮かび上がっていた。 澄み切った青空に空気が澄んで気持ちいい。せっかくだから気球に乗りましょうと言われた。これも初めての体験だ。自分一人だったらこんな体験は出来なかっただろう。 季節は夏休みも終わる頃だが大勢の観光客が順番を待っていた。 三十分ほどして自分達が気球に乗る番がやってきた。ゴオーと云う音と共に火柱が気球を暖め持ち上げる。ゆっくりと真っ青な空に上がって行く。ただ観光用なのでワイヤーで飛んで行かないよう固定されていて八十メートル上空で静止した。雄大な北海道の大地を堪能出来た。ただ安全だと云われても落ち着かなかったが、風子が言ってくれた。   だが次に乗ろうと誘われたのがハングライダーだった。  「大丈夫ですよ。二人乗りも出来ますから。飛行機に乗っているよりも安全ですから」  俺は流石にそんな度胸がなかった。風子は苦笑し、せっかく来たからちょっと飛んで来ますね。退屈なら喫茶室で珈琲でも飲んでいて下さいと言って彼女はフライトの準備に掛かった。 風子は俺に手を振ってハングライダーに乗って飛び立って行った。まるで風のように。 俺はずっと眺めていた。こんな楽しみ方もあるんだ。都会ではこんな事は出来ない。時間に追われる毎日よりも自然を楽しむ人間らしい生き方かも知れない。しかし彼女はまさに風の申し子のようだ。 風子はフライト飛行を終わって「ああ気持ち良かった。でもごめんなさいね自分から誘って置いて」そう言った。    羅臼で食事をしてから俺達は羅臼展望台に向かった。 そこから見える大きな島は、それが国後島だった。日本名が付いた湖や山はロシアの領土となっていて不思議な感じがした。それから知床横断道路を戻ってまたオホーツク側に周ると何故か思い詰めたように風子が言った。  「ここにはフレペの滝、別名乙女の涙と言う滝があるの。観て行きませんか」  今朝の彼女と違って次第に風子の、顔の表情が青ざめて見えた。  「あの……風子さん。どこか具合でも悪いじゃないですか?」  「いいえ……大丈夫ですよ。私もともと顔色が悪い方ですから」  つづく

  •  そんな話をしながら彼女の運転で網走市内を抜け、やがて釧綱本線と平行して走る線路を隔ててオホーツク海が広がっている。流石は北海道と思わせる景色を見ながら披露宴会場を目指していた。
    時おり名所に差し掛かると、まるでバスガイドみたいに丁寧に説明してくれた。車を運転する風子がいろんな事を話してくれる。風子は今ハングライダーに凝っているそうだ。大空に舞うと気分が爽快で風になれるとか、確かにスポーツが得意そうには見える風子だった。
     そんな話を聞いているうちに目的地の斜里町に到着した。
    斜里町の中にあるのがウトロで、漢字では〔宇登呂〕と書く。知名度は知床、ウトロの方が圧倒的で実際には斜里町宇登呂温泉街を知床温泉と名乗っているそうだ。
     だが肝心の知床半島の羅臼はここから百キロ以上先にあるとか。レンタカー借りても一日掛かるらしい。北の大地と言われるだけあり本当に広いようだ。

     「本当にありがとう御座いました。披露宴は夕方六時なので、まだ三時間以上もあります。お蔭さまで、ゆっくり風呂に入りくつろげそうです」
     「いいえ、どうぞごゆっくり次は式場でお会いしましょう」
     今日はここに宿泊するが結婚式も披露宴も此処で行われる。チェックインして早速、露天風呂に入った。
    目の前には海が見えるが海の色は黒く波は荒々しく関東の海とは違う北海道らしさを感じた。
    今夜の披露宴も楽しみだが北海道の旅も楽しみだ。披露宴の前に斎藤に挨拶と思ったが、忙しそうで会えそうにもない。
    数ヶ月ぶりに会ったのは披露宴会場となった。
     やがて披露宴は盛大に行われ、嬉しそうな斉藤の顔が独身の俺には羨ましい。
     結婚式に付きものの友人のスピーチの時間になった。地元の同級生達は斎藤の幼い頃の失態を暴き、招待客の笑いを誘っていた。だが俺は東京の職場で知り合ったから、それ以前の事は知らない。
    何か扱き下ろして笑わせようと思ったが、思いとは裏腹に持ち上げてしまった。

    「ではわざわざ東京から起こしで新郎様の大の親友であらせられる氷室正人様 宜しくお願いします」
    大の親友と持ち上げられてしまった。斎藤がそう司会者に伝えたのなら悪い気はしない。俺はマイクを取って会場を見渡した。場慣れてと言う訳ではないが上がる事はなかった。
     「本日はおめでとう御座います。僕は斎藤くんとは東京の会社に同期入社で氷室正人と申します。どう云うわけか斎藤とは気が合うというか、仕事そっちのけで毎日のように飲み歩いておりました。まぁライバルでもあり、どっちが先に出世するか競い合っておりましたが、処が彼はサッサと会社を辞めて帰ってしまいました。僕に負けて尻尾を巻いて逃げたと思いましたが僕を出し抜いて結婚すると云うじゃありませんか。これってルール違反じゃありませんか? 仮にも僕は彼を親友と思っております。それなら僕に結婚しても良いか許可をとるべきではありませんか? しかも勝手に僕を招待してこんな美人の奥さんを見せつけるなんて残酷ですよ。毎年GWには一緒に山に登っていたのに今年から行く気になりません。そんな親友を取られた奥様を恨み……いやいや美人を悔しいですが恨める筈がありません。ここは潔く降参し、おめでとうと言わせて貰います。僕は、北海道は初めてですが改めて思いました。空港から車に乗って景色を眺め空気が上手いし自然が綺麗で斎藤から何度も聞かされましたが改めて本当に良い所だと思いました。もう斎藤の居ない山登りには興味は失せましたが、今度からは北海道に旅しようと思います。その時は斎藤、会社を休んでも案内してくれよな。(だが感情が込みあげ言葉に詰まってこう締めくくった)以上、嫉妬満載の悪友でした」

    言いたいた事をあまり言えなかったが予想以上に受けて拍手喝采だった。感情が込みあげ言葉詰まったのが受けたようだ。皮肉なものだ。そんな俺のスピーチに斎藤は涙ぐんでいた。なんかこっちが照れくさい。
     会場は大いに盛り上がっているが、風子の姿を探しと空港で合った時のカジュアルな恰好から清楚な洋服が似合う、お嬢様に変身していた。まるで別人のようだ。 思わずオーと声を出そうなった。 
    風子もさぞ喜んで祝福しているだろうと挨拶に行こうと思ったが、風子が涙ぐんでいた。
    目元にハンカチを当てて目を真っ赤にしている。お兄ちゃんと呼んだ男の晴れ姿を、妹としての喜びが感動となっての涙なのだろうか。これでは挨拶に行けない。披露宴が終わって二次会に担ぎ出されたが何故か風子の姿はなかった。
    二次会の最中に斎藤から声が掛かった。
    「今日は有難うな。こんな遠い所まで本来なら知床や富良野などへ案内したかったのだが明日の朝、新婚旅行に行かなくちゃならないで」
    「あーお前冷たいな。新妻と親友とどっちが大事なんだぁ」
    「そりゃあ嫁さんに決まってべさぁ。ハッハハ悪いな」
    「オーストラリアだったよな。土産忘れんなよ」
    そんな友人同士らしい会話で盛り上がり、部屋に戻ったのは午前二時を過ぎていた。 

    つづく

    雑談と文学(小説)  そんな話をしながら彼女の運転で網走市内を抜け、やがて釧綱本線と平行して走る線路を隔ててオホーツク海が広がっている。流石は北海道と思わせる景色を見ながら披露宴会場を目指していた。 時おり名所に差し掛かると、まるでバスガイドみたいに丁寧に説明してくれた。車を運転する風子がいろんな事を話してくれる。風子は今ハングライダーに凝っているそうだ。大空に舞うと気分が爽快で風になれるとか、確かにスポーツが得意そうには見える風子だった。  そんな話を聞いているうちに目的地の斜里町に到着した。 斜里町の中にあるのがウトロで、漢字では〔宇登呂〕と書く。知名度は知床、ウトロの方が圧倒的で実際には斜里町宇登呂温泉街を知床温泉と名乗っているそうだ。  だが肝心の知床半島の羅臼はここから百キロ以上先にあるとか。レンタカー借りても一日掛かるらしい。北の大地と言われるだけあり本当に広いようだ。   「本当にありがとう御座いました。披露宴は夕方六時なので、まだ三時間以上もあります。お蔭さまで、ゆっくり風呂に入りくつろげそうです」  「いいえ、どうぞごゆっくり次は式場でお会いしましょう」  今日はここに宿泊するが結婚式も披露宴も此処で行われる。チェックインして早速、露天風呂に入った。 目の前には海が見えるが海の色は黒く波は荒々しく関東の海とは違う北海道らしさを感じた。 今夜の披露宴も楽しみだが北海道の旅も楽しみだ。披露宴の前に斎藤に挨拶と思ったが、忙しそうで会えそうにもない。 数ヶ月ぶりに会ったのは披露宴会場となった。  やがて披露宴は盛大に行われ、嬉しそうな斉藤の顔が独身の俺には羨ましい。  結婚式に付きものの友人のスピーチの時間になった。地元の同級生達は斎藤の幼い頃の失態を暴き、招待客の笑いを誘っていた。だが俺は東京の職場で知り合ったから、それ以前の事は知らない。 何か扱き下ろして笑わせようと思ったが、思いとは裏腹に持ち上げてしまった。  「ではわざわざ東京から起こしで新郎様の大の親友であらせられる氷室正人様 宜しくお願いします」 大の親友と持ち上げられてしまった。斎藤がそう司会者に伝えたのなら悪い気はしない。俺はマイクを取って会場を見渡した。場慣れてと言う訳ではないが上がる事はなかった。  「本日はおめでとう御座います。僕は斎藤くんとは東京の会社に同期入社で氷室正人と申します。どう云うわけか斎藤とは気が合うというか、仕事そっちのけで毎日のように飲み歩いておりました。まぁライバルでもあり、どっちが先に出世するか競い合っておりましたが、処が彼はサッサと会社を辞めて帰ってしまいました。僕に負けて尻尾を巻いて逃げたと思いましたが僕を出し抜いて結婚すると云うじゃありませんか。これってルール違反じゃありませんか? 仮にも僕は彼を親友と思っております。それなら僕に結婚しても良いか許可をとるべきではありませんか? しかも勝手に僕を招待してこんな美人の奥さんを見せつけるなんて残酷ですよ。毎年GWには一緒に山に登っていたのに今年から行く気になりません。そんな親友を取られた奥様を恨み……いやいや美人を悔しいですが恨める筈がありません。ここは潔く降参し、おめでとうと言わせて貰います。僕は、北海道は初めてですが改めて思いました。空港から車に乗って景色を眺め空気が上手いし自然が綺麗で斎藤から何度も聞かされましたが改めて本当に良い所だと思いました。もう斎藤の居ない山登りには興味は失せましたが、今度からは北海道に旅しようと思います。その時は斎藤、会社を休んでも案内してくれよな。(だが感情が込みあげ言葉に詰まってこう締めくくった)以上、嫉妬満載の悪友でした」  言いたいた事をあまり言えなかったが予想以上に受けて拍手喝采だった。感情が込みあげ言葉詰まったのが受けたようだ。皮肉なものだ。そんな俺のスピーチに斎藤は涙ぐんでいた。なんかこっちが照れくさい。  会場は大いに盛り上がっているが、風子の姿を探しと空港で合った時のカジュアルな恰好から清楚な洋服が似合う、お嬢様に変身していた。まるで別人のようだ。 思わずオーと声を出そうなった。  風子もさぞ喜んで祝福しているだろうと挨拶に行こうと思ったが、風子が涙ぐんでいた。 目元にハンカチを当てて目を真っ赤にしている。お兄ちゃんと呼んだ男の晴れ姿を、妹としての喜びが感動となっての涙なのだろうか。これでは挨拶に行けない。披露宴が終わって二次会に担ぎ出されたが何故か風子の姿はなかった。 二次会の最中に斎藤から声が掛かった。 「今日は有難うな。こんな遠い所まで本来なら知床や富良野などへ案内したかったのだが明日の朝、新婚旅行に行かなくちゃならないで」 「あーお前冷たいな。新妻と親友とどっちが大事なんだぁ」 「そりゃあ嫁さんに決まってべさぁ。ハッハハ悪いな」 「オーストラリアだったよな。土産忘れんなよ」 そんな友人同士らしい会話で盛り上がり、部屋に戻ったのは午前二時を過ぎていた。   つづく

  • 風の風子(ふうこ) 
     
     まもなく五月に入ろうとしていた。
     先月いっぱいで退職して行った斎藤は同期であり親友ともいうべき存在である。
     彼とは毎年のようにゴールテンウィークには山登りに行くのが恒例となっていたが、もはやそれも今年から出来なくなった。斎藤は長男で親の会社の後をいずれ継ぐそうだ。せっかく東京に就職したのだから最低も十五年は勤めるつもりだったが、父が体調を崩し仕方なく八年で退社する事になった。親友だが彼は華々しい未来が待っている。
     職場ではライバル関係にあったが、本当に気さくでいい奴だ。
     だが彼は突然、会社を辞めて故郷(北海道)に帰ると言う。親の後を継ぐ前に結婚すると言うのだ。
     まったく彼には驚かされる。斎藤が居なくなり、なんだかポッカリ心に穴があいたような気分だ。

     それから暫くして斎藤から結婚披露宴の招待状が届いた。彼の結婚は目出度い事だが北海道に行くのは初めてでそれも楽しみのひとつだ。招待状の中に新妻となる人とツーショットの写真と北海道に来るには備えてとして洋服について語っていた。まったく人に気持ちも考えないでデレデレとした写真を送りつけてくる無神経さ。いやお前も早く嫁さんを貰えよとの催促と受け止めて置こう。
    夏だというのに北海道出身の斎藤は、知床に行くなら長袖と上着を用意した方がいいとアドバイスを受けていた。
    ネットで北海道の気温を見ても参考にならないと言う。知床は札幌より七度から十℃気温が低いそうだ。
    俺は冗談いうなよと笑ったが、あいつの言う通りになった。
    八月も終わる頃、俺は北海道へ旅立った。
     気温は二十五度と湿気も少なく最高の気候だが、夜になると気温が十五度以下になるという。
     それでも今日は今年一番の暑さと云うから驚きを隠せない。
    昼は良いが夜になると長袖どころか厚手の上着が必要だ。東京育ちの俺には信じられない。
    東京は残暑で三十三℃を越す日が続いていると言うのに、北海道はもう秋が訪れようとしている。

      斎藤の結婚式出席の為に、東京から一週間の休暇を取って来たのだ。
     勿論こんな長い休暇は初めてだ。独身の俺は彼女が居る訳でもなく有給なんて入社以来一度も取った事がない。
    その貢献度? まぁその貢献度が認められたかどうか疑問だが課長はすんなりと許可してくれた。
    本来なら、こんな遠い地まで斉藤の為とは言え来ることはなかったが、だが斉藤とは入社時から親しくしていて言わば大の親友だ。俺達は共に三十歳、だがあいつは結婚すると云う。昔ならともかく三十歳の独身は社内でも多数を埋めるが、それでも友人が結婚すると聞けば、羨ましくもあり少し焦りも出てくる。
    ともあれ一度は行ってみたかった北海道に興味があった。

     その結婚式当日の朝一番に羽田から直行便で女満別空港に着陸態勢に入ると眼下は黄色で一色だった。なんと四十六万本もの向日葵が咲き乱れている。いきなり驚かされた。これが北海道かなと思った。
    向日葵に向かえられ到着した。着いたのは良いが初めての土地、右も左も分からない俺の為に斎藤が誰か迎えをやると言っていた。当の斎藤は式で忙しいから披露宴まで会えない。女満別空港は札幌と違い田舎の空港だが、まだ観光シーズンとあって機内は満席だった。
    俺はゲートを出てキョロキョロと見渡しロビーに出た。
    すると(氷室正人さま)と書かれた厚紙で作ったカードだけが人混みの上に見えた。なんだか照れくさい気分だったが初対面だし一番良い方法である。国際空港では良く見かける光景だが、まさかこんな所でお目にかかるとは思わなかった。
     俺はそのカードを掲げている人の方に向かって手を上げた。
     なんとそれは若い女性だった。斎藤の友人だからてっきり男だと思って居たが違ったようだ。その若い女性は俺に気づくとにっこり笑って。
     「遠い所を、お疲れ様でした。あの……氷室さんですか」
     「はい氷室です。わざわざ有難う御座います」
     「いいえ、寒くて驚いたでしょう。ではどうぞ車までご案内します」
     彼女は終始笑顔で駐車場まで連れていってくれた。
     顔は面長で目がパッチリとして、いかにも健康そうな若い女性だ。年の頃は二十七歳前後と云った処だろうか。まぁ余計な詮索はよそう。
     「すみません。忙しいでしょうに」
     「いいえ、私……清水風子と申します。風の子と書いてふうこ、です。斉藤さんとは近所で幼い頃から兄妹のように仲が良かったんですよ。だから今日は嬉しくって」

     なんと明るい子なのだろう。初対面なのにわざわざ漢字の読み方まで教えてくれた。風の子、まさにそんな雰囲気が似合う女性だ。
     「そうなんですか。あいつの故郷には一度来てみたいと思っていました。目出度い結婚式もですが、知床を見るのが楽しみなんです」
     「では北海道も初めてですか」
     「はい、そうです。せっかくなので一週間も休みを取ってしまいしまた」
     「実はお兄ちゃん……あっすいません。いつもそう呼んでいるので、お兄ちゃんから頼まれているんですよ。式が終わったら観光案内してやれと」
     「それは有り難い。あいつは職場でよく知床の自慢話を聞かされていました。そんなに自慢するなら、よほど良い所だろうと僕もいつの間にか知床に来るのが夢になっていました」

    つづく

    雑談と文学(小説) 風の風子(ふうこ)     まもなく五月に入ろうとしていた。  先月いっぱいで退職して行った斎藤は同期であり親友ともいうべき存在である。  彼とは毎年のようにゴールテンウィークには山登りに行くのが恒例となっていたが、もはやそれも今年から出来なくなった。斎藤は長男で親の会社の後をいずれ継ぐそうだ。せっかく東京に就職したのだから最低も十五年は勤めるつもりだったが、父が体調を崩し仕方なく八年で退社する事になった。親友だが彼は華々しい未来が待っている。  職場ではライバル関係にあったが、本当に気さくでいい奴だ。  だが彼は突然、会社を辞めて故郷(北海道)に帰ると言う。親の後を継ぐ前に結婚すると言うのだ。  まったく彼には驚かされる。斎藤が居なくなり、なんだかポッカリ心に穴があいたような気分だ。   それから暫くして斎藤から結婚披露宴の招待状が届いた。彼の結婚は目出度い事だが北海道に行くのは初めてでそれも楽しみのひとつだ。招待状の中に新妻となる人とツーショットの写真と北海道に来るには備えてとして洋服について語っていた。まったく人に気持ちも考えないでデレデレとした写真を送りつけてくる無神経さ。いやお前も早く嫁さんを貰えよとの催促と受け止めて置こう。 夏だというのに北海道出身の斎藤は、知床に行くなら長袖と上着を用意した方がいいとアドバイスを受けていた。 ネットで北海道の気温を見ても参考にならないと言う。知床は札幌より七度から十℃気温が低いそうだ。 俺は冗談いうなよと笑ったが、あいつの言う通りになった。 八月も終わる頃、俺は北海道へ旅立った。  気温は二十五度と湿気も少なく最高の気候だが、夜になると気温が十五度以下になるという。  それでも今日は今年一番の暑さと云うから驚きを隠せない。 昼は良いが夜になると長袖どころか厚手の上着が必要だ。東京育ちの俺には信じられない。 東京は残暑で三十三℃を越す日が続いていると言うのに、北海道はもう秋が訪れようとしている。    斎藤の結婚式出席の為に、東京から一週間の休暇を取って来たのだ。  勿論こんな長い休暇は初めてだ。独身の俺は彼女が居る訳でもなく有給なんて入社以来一度も取った事がない。 その貢献度? まぁその貢献度が認められたかどうか疑問だが課長はすんなりと許可してくれた。 本来なら、こんな遠い地まで斉藤の為とは言え来ることはなかったが、だが斉藤とは入社時から親しくしていて言わば大の親友だ。俺達は共に三十歳、だがあいつは結婚すると云う。昔ならともかく三十歳の独身は社内でも多数を埋めるが、それでも友人が結婚すると聞けば、羨ましくもあり少し焦りも出てくる。 ともあれ一度は行ってみたかった北海道に興味があった。   その結婚式当日の朝一番に羽田から直行便で女満別空港に着陸態勢に入ると眼下は黄色で一色だった。なんと四十六万本もの向日葵が咲き乱れている。いきなり驚かされた。これが北海道かなと思った。 向日葵に向かえられ到着した。着いたのは良いが初めての土地、右も左も分からない俺の為に斎藤が誰か迎えをやると言っていた。当の斎藤は式で忙しいから披露宴まで会えない。女満別空港は札幌と違い田舎の空港だが、まだ観光シーズンとあって機内は満席だった。 俺はゲートを出てキョロキョロと見渡しロビーに出た。 すると(氷室正人さま)と書かれた厚紙で作ったカードだけが人混みの上に見えた。なんだか照れくさい気分だったが初対面だし一番良い方法である。国際空港では良く見かける光景だが、まさかこんな所でお目にかかるとは思わなかった。  俺はそのカードを掲げている人の方に向かって手を上げた。  なんとそれは若い女性だった。斎藤の友人だからてっきり男だと思って居たが違ったようだ。その若い女性は俺に気づくとにっこり笑って。  「遠い所を、お疲れ様でした。あの……氷室さんですか」  「はい氷室です。わざわざ有難う御座います」  「いいえ、寒くて驚いたでしょう。ではどうぞ車までご案内します」  彼女は終始笑顔で駐車場まで連れていってくれた。  顔は面長で目がパッチリとして、いかにも健康そうな若い女性だ。年の頃は二十七歳前後と云った処だろうか。まぁ余計な詮索はよそう。  「すみません。忙しいでしょうに」  「いいえ、私……清水風子と申します。風の子と書いてふうこ、です。斉藤さんとは近所で幼い頃から兄妹のように仲が良かったんですよ。だから今日は嬉しくって」   なんと明るい子なのだろう。初対面なのにわざわざ漢字の読み方まで教えてくれた。風の子、まさにそんな雰囲気が似合う女性だ。  「そうなんですか。あいつの故郷には一度来てみたいと思っていました。目出度い結婚式もですが、知床を見るのが楽しみなんです」  「では北海道も初めてですか」  「はい、そうです。せっかくなので一週間も休みを取ってしまいしまた」  「実はお兄ちゃん……あっすいません。いつもそう呼んでいるので、お兄ちゃんから頼まれているんですよ。式が終わったら観光案内してやれと」  「それは有り難い。あいつは職場でよく知床の自慢話を聞かされていました。そんなに自慢するなら、よほど良い所だろうと僕もいつの間にか知床に来るのが夢になっていました」  つづく

  • >>4

    なんとなく作ってしまいまた。

    他所スレッドに時おりお邪魔して挨拶代わりに掌編小説を披露した事があるんですよ。
    ただ株を中心に雑談のスレッドですからそう長いのは悪いと思い遠慮しています。
    普通の掲示板なら小説好きの人も居るのでしょうが間違えたかな(笑)

    こう言った掲示板は少なくなりくしたからね。
    後は作家でごはん でアドレスを教えて来てもらうしかないかな。

  •  こちらでしたか?

     こんばんわ。

     こちらにしても、あちらにしても、参加者を増やす工夫をしないといけませんね。
     何か秘策を考えていらっしゃるのでしょうか?

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