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【オピニオン】ピケティ氏が方向転換、「格差」論者に冷や水
By ROBERT ROSENKRANZ
原文(英語)
2015 年 3 月 10 日 19:16 JST

フランスの経済学者トマ・ピケティ氏が著した分厚い経済書「21世紀の資本」は、2014年春に米ハーバード大学出版会が英語版を刊行してから一大旋風を巻き起こした。またたく間にベストセラー・ランキングのトップに上り詰め、現在は複数の言語に翻訳されて150万部以上が発行されている。

 この本の中核となる論点は資本社会における格差拡大は避けられないというもので、単純な不等式「r(資本収益率)>g(経済成長率)」にまとめられるだろう。つまり、時間がたつにつれて資本収益率の拡大ペースが経済成長率を上回るようになり、いや応なく相続財産の優越につながるというものだ。米プリンストン大学のクルーグマン教授のような進歩的な経済学者はピケティ氏の理論に飛びつき、かねてから求められていた富裕層への大幅増税という政策を正当化している。

【オピニオン】「21世紀の資本論」ピケティ氏は急進的なのか
 ところがピケティ氏は最近、驚くべき方向転換に踏み切り、同氏の結論を基に多くの人々が練り上げた政策の処方箋を台無しにしている。5月にアメリカン・エコノミック・レビュー誌に掲載される予定の論文「21世紀の資本について」で、自身の著作が深読みされ過ぎていると述べた。論文はオンライン上ではすでに閲覧できる。

 ピケティ氏は新たな論文で、第1次世界大戦前の極端で根強い貧富の格差を説明するのに自身の理論的枠組みを適用しただけで、過去100年については多くを語っていないと主張。「20世紀の所得と富の変遷を考える上で『r>g』(という不等式)が唯一のツールではなく、主要なツールでさえないと見ている」と述べた上で、「21世紀に起こる不平等の過程を予想するものでもない」と付け加えている。

 ピケティ氏はまた、政治的ショックや制度変更、経済発展などが過去の不平等の中で主要な役割を果たしており、将来も同じようになるだろうと主張している。

「r>gは主要ツールではない」

 さらに、自身が「労働所得の不平等」――前線に立つ労働者と最高経営責任者(CEO)との報酬の違い――と呼ぶ問題に至っては、「r>g」という有名な不等式は重要でないと切り捨てた。「付け加えると、私が労働所得の不平等拡大という議論で『r>g』が有効なツールになると信じていないことは確かだ。例えばスキルや教育の需給など別のメカニズムや政策の方がはるかに関連性が高い」。ピケティ氏は正確に所得と富を区別し、長期にわたる歴史的視点で「現在の富の不平等は1世紀前ほど極端ではない」と書いている。

 こうしたピケティ氏の主張は、有頂天になった進歩派による「21世紀の資本」の解釈に再考を迫っている。進歩派は「r>g」という不等式が米議会での議論と関係があると見なしている。例えば、クルーグマン氏は昨年5月、ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス誌で同書を「不平等についての壮大かつ包括的な思索だ」と称賛した上で、ピケティ氏が「われわれの所得格差は19世紀の水準に逆戻りしただけでなく、経済の管制高地(全体を統制できる頂点)が、才能豊かな個人ではなく一族王朝によって支配される『世襲制資本主義』に戻りつつある」ことを証明したと述べた。

ピケティ理論、日本は例外? 所得格差が縮小傾向
 私は「r>g」という不等式を常に疑ってきた。まず、ピケティ氏は「r」を「利益、配当、利子、賃料、その他の資本収入」と定義しているが、ここでは実際の事業活動による収入(利益)と金融資産がもたらす収入(配当や利子)が一緒になっている。

 次に、この不等式では、資本の供給が需要を上回るペースで進むと資本収益が低下するという経済の基本原則が無視されている。例えば大恐慌以来、マネーサプライは実体経済をはるかに上回るペースで成長し、金利を押し下げてきた。最もリスクの低い資産である国債の利回りは、現在はインフレの影響を含む名目でゼロ近辺、インフレの影響を除いた実質ではマイナス1%から2%だ。現在は低金利環境に所得税や遺産税の逆風も加わり、世代を超えて富を蓄えたり相続したりするのは途方もなく困難になっている。

 主流経済学者の多くは、ピケティ氏が方向転換を始める前から懐疑的だった。全米経済研究所が2014年12月に発行した報告書を見てみよう。マサチューセッツ工科大学のダロン・アセモグル教授とハーバード大学のジェームス・A・ロビンソン教授は、ピケティ氏の理論が過度に単純化されていると指摘した。報告書の概要には「われわれは過去を理解するのにも未来を予測するのにも、一般的な経済法則が役に立たないと主張する」「それら(一般的な経済法則)は社会資源配分の形成に政治制度や経済制度、内的な技術進歩が中心的役割を果たしていることを見逃しているからだ」と書かれている。

 シカゴ大学ビジネススクールの「イニシアチブ・オン・グローバル・マーケッツ」は昨年10月、エコノミストたちに対し、「1970年代以降の米国で富の格差拡大を最も強力に後押ししたのは、税引き後の資本収益と経済成長率の格差だ」という説明に賛成か反対かを尋ねた。回答した36人のエコノミストのうち、賛成すると答えたのは1人にとどまった。

根本的には「歴史書」

 ピケティ氏を批判する別の専門家らは、米国、英国、フランス、スウェーデンにおける過去1世紀の所得と富の推移を図示するためにピケティ氏が収集した統計データに疑問を呈した。これほど多岐にわたるデータが比較可能なのか。ピケティ氏が比較を可能にするために加えた調整が最終的な概念をゆがめていないか――。

 英紙フィナンシャル・タイムズの経済担当エディター、クリス・ジャイルズ氏はピケティ氏の著書を入念に吟味した後、昨年5月にこう結論付けた。「過去30年間に貧富の格差が拡大し、富の不平等な分配は欧州より米国の方が顕著だという『21世紀の資本』の2つの主な主張は、もはや成り立たないように見える」

 ピケティ氏はこうした批判に対し、著書で使われた材料はすべての事例を裏付けるわけではないと述べたほか、「21世紀の資本」は根本的には歴史書だと反論している。これは確かに称賛に価する。さて次は、ピケティ氏に追随して新たな富裕層の時代に向かっていると声高に主張した人々が反論する番だ。

 (著者のロバート・ローゼンクランツ氏は資本家、エコノミスト。ディベートを主催する「インテリジェンス・スクエアードUS」の創設者として市民討論を後押ししている)