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Achilles Last Standの掲示板

「中国は一刻も早く(ロシア大統領の)プーチンと手を切れ」。中国政府の政策アドバイザーといえる立場の学者が、ウクライナ情勢を巡って中国最高指導層に方針転換を迫る大胆な提言をしていたことが、中国の外交・安全保障関係者らの間で話題になっている。提言内容の公開が、ローマで14日開かれた7時間にわたる米中高官会談の直前だった点も注目される。

提言者の胡偉は、首相の李克強(リー・クォーチャン)がトップである国務院(政府)の調査研究・献策部門である参事室公共政策研究センターの副理事長だ。このほか、上海市公共政策研究会会長などの地位も提言末尾に明記した事実が目を引く。冒頭では個人の見解としているが、要人が執務する北京・中南海に出入りできる肩書からみて、背後に多数の支持者がいるのは明らかだ。
提言の論旨は明快である。仮にロシアがウクライナ占領後、同国に傀儡(かいらい)政権を樹立しても、西側の制裁と現地での反乱でプーチンが所期の目的を達成するのは難しく、数年もへずにロシア経済は持続困難になる。中国は中立政策を放棄し、世界で主流となっている方の立場を選んで世界大戦と核戦争を阻止すべきだ。そうすれば米欧との緊張関係が緩和され、孤立から抜け出せる。そんな内容の献策だ。
プーチンが狙った短期間で全てを決着させる電撃戦の失敗で、想定以上のロシア包囲網ができあがった以上、早々に中ロ結託から抜け出して「勝ち馬」に乗るのが常道だ、と勧めているのだ。それは何より「利」をとる選択である。

提言は全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開幕した5日付で、最高意思決定層の参考に供すると明記して内部で発出された。当然、その層には中国共産党トップの総書記で国家主席の習近平(シー・ジンピン)も含まれる。12日には元米大統領のカーターが設立にかかわった米中関係を扱う非政府組織のサイト上で提言が公開され、一気に流布した。

提言が発出された5日は、ロシアによるウクライナ侵攻開始から10日目。短期間でウクライナのゼレンスキー政権を倒すロシア側の作戦の失敗が明らかになった時期だ。

  • >>108

    この提言は既に中国の主要なインターネットのサイト上から削除された。だが、それは内部で1週間も閲覧された後のことだ。現在の政治情勢から考えて、率直な分析を一般公開しても処分されないという自信があったとみてよい。
    胡偉は、上海市党委員会党校マルクス主義学院の教授で、「上海市習近平新時代中国特色社会主義思想研究センター」の研究員でもある。上海を中心とする政治グループとのつながりもうかがわれる。一方、2月に冬季五輪が開かれた河北省張家口に拠点がある独立色の強いシンクタンク「チャハル学会」のメンバーであるのも興味深い。

    胡偉は提言の冒頭で、ロシアによるウクライナへの「特別軍事行動」は「中国内で極度に大きな対立を引き起こした」と記し、中国の中での深刻な分断について率直に触れた。それを証明するように、論文が流布された直後、党内左派から激しい反論が出た。
    「この人(胡偉)は、(政府)参謀機構の公務員で、親米反ロの旗を公然と振れば問題が大きい」「表向き個人の見解だが、肩書からして背後に(有力な)指導者がいる」。毛沢東左派(毛左)と呼ばれる極左の有力者らの反応からも党内世論の分裂がみてとれる。胡錦濤(フー・ジンタオ)政権の時代までは日陰の存在だった「毛左」はいま、プーチンを支持する中ロ結託の中心にいる。

    ときに意見がぶつかる雰囲気は、中国最高指導部メンバー7人の議論にもある。北京冬季五輪が開幕した2月4日、北京で習近平がプーチンと会談した。その後、五輪期間中からウクライナを巡る共産党政治局常務委員会の集中討議があり、断続的にあらゆる角度から情勢を議論してきた。
    各メンバーの考え方には差があり、行き過ぎたロシア傾斜に一部から疑義が出ていたという経緯は、前々週のこのコラムで触れた通りである。プーチンがウクライナ侵攻に打って出た後、同国の多くの市民が犠牲になる悲劇を受け、議論が一段と白熱したのは想像に難くない。それでも中国指導部として方針を転換することはなかった。