FX 猫板　　猫好き集まれ～（＊＾＾＊）の掲示板

風立ちぬ　　　　　　堀辰雄

　夕方、水車の道に沿った例の小さな教会の前を私が通りかかるとそこの小使いらしい男が雪泥の上に丹念に石炭がらをまいていた、私はその男の側へ行って冬でもずっとこの教会は開いているのですかと何ということもなしに聞いてみた、
「今年はもう二三日うちに閉めますそうで」とそのこずかいがちょっと石炭がらをまくのを休みながら答えた、
「去年はずっと冬中開いていましたが今年は神父様が松本の方へおいでなさいますので」
「そんな冬でもこの村に信者はあるんですか」
「ほとんどいらっしゃいませんがたいてい神父様がお一人で毎日おミサをなさいます
　私たちがそんな立ち話をしだしている処へちょうど出先からそのドイツ人だという神父が帰ってきた、人懐っこい神父につかまって何かと聞かれる番になった、そうしてしまいには何か聞き違えしたらしく明日の日曜のミサにはぜひ来いとしきりに誘われた、