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「自分では真っすぐ立てているつもりでいたんですけど、まったくそれはちゃんと立てているとはいえなくて。『これ、真っすぐ立てていないんだ』というところから始まりました」
なぜ、「正しく立つこと」が重要なのだろうか。矢田の解説には以下のように書かれている。
〈正しく立てない者は、正しく歩くことはできない
正しく歩くことができない者は、正しく走ることはできない
正しく走ることができない者は、正しく投げることはできない
正しく立つには、正しい呼吸と集中が大切〉
「身体知」
正しく走ることの重要性は、球界でも広がりつつある。例えば阪神や西武は春季キャンプなどで走りの専門家を招き、走り方から指導してもらっている。
子どもの頃から野球をしてプロになるような選手は、基本的に身体能力に優れ、周囲より速く走れる者が多い。反面、その道のスペシャリストに言わせると、「野球選手は『正しい走り方』を身に付けていない場合が少なくない」。
実際、西武が昨年10月の入団テストで10mや20m走でアジリティテストを行った際、視察した専門家は「ほぼすべての選手が正しい動き方をできていない」と評した。野球選手の多くは自分の感覚だけでプレーして、体をどう使えば効果的に力を発揮できるかを学んでいないのだ。
以上を踏まえると、山本が矢田の下で行っているアプローチの方向性をイメージしやすいかもしれない。「身体知」、つまり自分の身体の声に耳を傾け、どうすればより良く動けるようになるかを探っていくのだ。
矢田が考案したBCエクササイズは、「5B」と言われるメニューが根幹を成す。ブレス(Breath)、バー(Bar)、ボウル(Bowl)、ボード(Board)、ブリッジ(Bridge)で、その頭文字からきている。5Bの組み合わせや派生を含めると、300種類以上になるという。
矢田が主宰する「キネティックフォーラム」の信奉者は全国にいて、「奥深い世界」と口をそろえる。SNSやYouTubeが浸透した現在、いかに“分かりやすく”伝えるかがPVや再生回数につながる傾向にある一方、矢田の立場は対照的だ。
「“分かりやすく”ほど大きな落とし穴はない。例えば誤解を招くとか、違う解釈をされることがありますよね。言葉尻だけを捉えると、指導者の意図とは違う形になったとか」
矢田は初対面の山本にあえて「フルモデルチェンジが必要やね」と刺激的な言葉で伝えるなど、その「奥深い世界」を知るにはある程度の字数をかけて順に見ていく必要がある。筆者が一部を切り取るように“分かりやすく”説明して“落とし穴”に導くことは不本意なので、興味がある人は、2023年2月17日に発売された拙著『山本由伸 常識を変える投球術』を参照してほしい。
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