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FX 記録の掲示板

アップルと中国、すれ違う思惑(1)

 米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は今週、同社にとって2番目に大きな市場である中国を訪
れ、アプリの開発者や政府当局者、顧客を驚かせた。アップルは、スマートフォンを使った中国の配車サービス
会社「滴滴出行」に10億ドル(約1090億円)を出資したと先に発表したばかりだ。今回の訪中から、クック氏が
中国政府とのぎくしゃくした関係を改善し、同国での「iPhone(アイフォーン)」販売増を狙っているらしいこ
とがうかがえる。

 滴滴出行に投資したのは、表向きには中国市場について「さらに学ぶ」ためだ。あるアナリストによると、そ
の背後にはアップルが「より中国化しつつあり」、「中国との関係改善に対する手付金」を支払っているのだと
伝える意図がある。

 アップルにとっては不幸なことだが、企業が少しお金を出せば中国政府の共感を買えるとの考えは、同国の経
済政策に対する危険な誤解だ。

 正しくは、中国は自国企業が国内外の両方で外国企業に取って代わることを目標にしている。つまり中国が望
んでいるのは、米国人が中国製部品と中国製基本ソフト(OS)を使った中国製スマホを買うことだ。アップルの
巨額の投資をもってさえ中国政府に考えを変えるよう説得できないだろう。

 中国企業は政府の奨励を受けて、自前のスマホ用システムを設計している。成功すれば、米グーグルなど西側
企業の技術に対する依存度を低下させるのに使われるかもしれない。中国政府は昨年発表した「メード・イン・
チャイナ 2025」計画を高々と掲げ、医療機器や電気自動車の国内製造を増やすことを目指している。対象業界
の企業は何の問題もなく融資にアクセスできる。政府は半導体業界を発展させるための国家基金も創設した。ボ
ーイングやエアバスと並ぶべく旅客ジェット機を製造する国営企業もある。

 そうした野心は真剣にとらえられるべきだ。豊富な資源を利用でき、巨大な国内市場を持つ中国は、外国勢と
競合し、それに代わることのできる優れたテクノロジー企業を既に育成している。通信機器大手の華為技術(フ
ァーウェイ)は政策の助けを借りて、中国国内で国際企業を脇役に押しのけてから、国際市場での競争に打って
出た。政府の強力な後押しは、中国の太陽光パネル部門と風力タービン部門を国際市場のトップに押し上げる一
助にもなった。

 中国が既に力強い存在感を放っている業界で、政府は国内企業を宣伝する計画を練っている。鉄道や港、その
他のインフラを建設してアジアに陸上交易ルート「シルクロード」を復活させる構想により、中国の産業・金融
・通貨の影響力は拡大するだろう。同国の当局者は、鉄鋼などの余剰能力の解決に向けた国際協調についても協
議している。これについては、他国を犠牲にして国内工場を維持する意向が透けて見える。

 アップルの新たな提携先である滴滴出行までもが、政府の計画を物語っている。ウーバーと競合する同社は、
中国の政府系投資ファンドから出資を受けているのだ。

 最近の出来事も、外国企業にとって中国市場がいかに厳しいかを示している。アウディ、ミード・ジョンソン
・ニュートリション、クアルコムといった企業は疑わしい「独占禁止法違反」調査の対象になった。在中国の米
国商工会議所が行った最新の調査では、以前に比べて外国企業が歓迎されていないとの回答が77%に上った。特
にテクノロジー企業は中国の不透明な規制環境に悲観的だ。調査によると、「政府は優先課題として中国での革
新を支援すると言明しているが、海外企業はまだそれを感じていないこと」がうかがえる。

 中国国内経済に対するアップルの貢献度は高い。同社は同国でのガジェット製造により、約440万人の雇用を
支えているとしている。それでも先月、当局により「iTunes Movies(アイチューンズ・ムービーズ)」と「iBo
oks(アイブックス)」のサービス停止を余儀なくされた。クック氏の10億ドル出資と訪中を経た今も、これら
のサービスは停止したままだ。

 フェイスブックは同様の戦略を進めている。ザッカーバーグCEOは最近、大気汚染のなか天安門広場でジョギ
ングをした。それでも、悪名高いインターネット検閲システム「防火長城(Great Firewall)」を築いた中国政
府が、フェイスブックを受け入れることはなかった。中国のネットユーザーでさえ、ザッカーバーグ氏のスタン
ドブレーが失敗に終わることはお見通しで、アクセス可能なソーシャルメディア(当然ながら中国のものだ)で
あからさまにザッカーバーグ氏をあざ笑った。(続く)

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