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会社四季報の達人が大胆予測! 2025年の株式市場と注目銘柄
1936年の創刊以来、株式投資家のバイブルとして愛読されてきた「会社四季報」(東洋経済新報社)。2024年12月に発売された「新春号」では、全上場企業3,928社の"通信簿"が掲載されています。2,100ページ超の分厚い会社四季報を全て読み込む「四季報徹底読破」を28年間続けている渡部清二氏(複眼経済塾・塾長)が、四季報攻略のテクニックと最新号から浮上した2025年の投資のヒントを指南します。
情報提供元:All About編集部
最も変化が見られるのが夏号。玄人投資家は秋号に注目
「会社四季報」は、年間4回発行の季刊誌ですが、それぞれ特徴や注目ポイントが異なります。年4回の内訳は、新春号(12月)、春号(3月)、夏号(6月)、秋号(9月)です。それぞれ表紙の色が決まっていて、新春号は縁起のよい色とされる赤、春号は新緑の緑、夏号は海や空を表す青、秋号は紅葉のオレンジとなっています。
そして、4冊の中でも最も大きな変化が見られるのが夏号です。日本の上場企業の約7割が3月もしくは2月に本決算を迎えますが、これらの決算が反映され、新しい期の業績予想やコメントが掲載されることになるからです。本来であれば、4冊とも読むべきだと思いますが、どれか1冊に絞るというのであれば、夏号がいいでしょう。

四季報徹底読破を28年間続けている複眼経済塾・塾長の渡部清二さん
一方、玄人投資家に評価されているのが、3月期決算企業の第1四半期の決算が反映されている秋号(9月)です。競馬に例えるなら、第1四半期は第1コーナーを回ったところ。第1四半期ではまだ、決算説明会を行なっていない企業もあり、公になっている情報量が少ないシーズンです。そんな中で、会社四季報の記者は個別に全ての上場会社の取材を行なって記事を書いていますので、非常に価値が高いと評価されています。
なかには、早くも「上振れ」という見出しが躍る企業もあります。「上振れ」は、通期業績が期初の予想を上回って着地しそうなケースで使われる見出しです。前述したように、第1四半期決算は競馬でいうところの第1コーナーですので、この時点でゴールである通期業績の上振れを予想するのは、よほどの自信の表れと言っていいでしょう。ちなみに、会社四季報の元編集長で、「伝説の編集長」と呼ばれる山本隆行氏は、この秋号に最も注目しているそうです。
一方、12月に発売される新春号ですが、この号では、今期に加えて、来期を見据えたコメントが掲載されることになります。株式市場は常に会社の将来性を反映して動きますので要注目です。3月に発売される春号は、数週間後に本決算が発表されることもあり、来期の数字に注目するといいでしょう。
「最高益」の見出しは、お宝株発掘のサイン!?
さて、会社四季報の中身ですが、銘柄コード順に1社につき1ページで掲載されています。1ページは14ブロックに分けることができ(下図)、それぞれに重要な情報が詰まっています。ただ、投資初心者が全企業の全ての項目に目を通すのは時間も根気も必要です。ですので、まずはブロックAで企業名を確認した後、ブロックBの最初の見出しに注目してください。

四季報を14のブロックに分けて読み解く(出典:『そろそろ投資をはじめたい。(サンマーク出版)』)
私が集計したところ、過去3カ月間で最もよいパフォーマンスを示した見出しが「最高益」の7.9%。続いて「連続増配」(6.4%)、「増額」(5.1%)という結果になりました(下図)。

過去3カ月間の見出し別パフォーマンス(渡部氏のデータをもとに作成)
この間、主要株価指数のTOPIX(東証株価指数)のパフォーマンスは5.8%でした。「最高益」の見出しがついた銘柄は113銘柄ありましたが、それらの平均がTOPIXの5.8%を2%超も上回ったことになります。
3カ月間でTOPIXを2%以上上回るというのは、運用の世界ではスゴイこと。それが実際に起こっているわけですから、「最高益」という見出しが投資の大きなヒントになっていることは間違いありません。ちなみに、過去1年間で集計しても、「最高益」の見出しが付けられた銘柄のパフォーマンスが最も優れていました。
社名とともにブロックAに記載されている【特色】欄の事業内容も要チェックです。身近なところで起こっているブームや変化に関連する企業を見つけることができれば、株価の大化けが期待できるかもしれません。
2024年はアサイーというフルーツが大ブームとなりました。アサイーの輸入販売を行なっているフルッタフルッタ<2586>という会社の株価は、昨年8月から11月にかけて急騰し、わずか3カ月で10倍高を達成しました。当時、若い女性の間では、すでにアサイーブームは周知されていましたので、同社がアサイーを扱っていることに気がつけば、株価の上昇を先取りすることができたはずです。もちろん、ブームというのは一過性のもので、乗り遅れるとリスクもありますが、投資の大きなヒントになることは間違いありません。

2024年8月から6カ月の株価チャート(出典:Yahoo!ファイナンス)
企業業績が落ち込んでいるのに上昇している日経平均株価
ここからは、昨年12月に発売された「新春号」で私が発見したことについて、紹介していきましょう。会社四季報には、個別企業のデータ以外にも全体の見出しランキングや市場別の業績予想の増減率などが集計されています。これを見ると、前号の秋号に比べて直近の新春号では、「下振れ」「反落」「一転減益」といったネガティブな見出しをつける企業が増えています。
さらに業種別の「業績展望」を見ると、3カ月前は今期増益予想だった輸送用機器、ゴム製品、その他製品が減益予想に転じています。特に輸送用機器は、日本の最大の産業でもあり、これが増益から減益に転じているというのは、日本経済にとってはかなりネガティブなことです。

昨年12月に発売された「新春号」をもとに2025年の株式市場の動向を読み解く
非製造業でも小売りの業績悪化が顕著です。ところが、全体のトータルで見ると企業業績は決して悪くありません。これは、ソフトバンクグループ<9984>の投資ファンドによる含み益が莫大に増えているためです。新春号で同社の25年3月期の予想営業利益は3兆円5,000億円に達しており、全体(全産業)の営業利益の約5%を占めています。この1社が全体の数字を押し上げているだけで、日本経済の実態は決してよくないということが分かります。
にもかかわらず、足元では日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)といった主要株価指数が上昇しており、ここに違和感を覚えます。今年は、どこかのタイミングで株価と実態経済のギャップを埋めるために、一時的な調整があるかもしれません。
一方、中小型株が中心の「東証グロース市場指数」(前身は東証マザーズ指数)は昨年までで4年連続下落しています。これは過去に経験がないことで、個人的には「そんなに悪いか?」と疑問符がつきます。
ただ、米国株が一強で指数が上昇している中では、どうしても機関投資家の資金は大型株に向かいがちです。足元の日本株市場は、上がる株とそうでない株の二極化が起こっており、この状況はしばらく続きそうです。中小型株の水準訂正があるとすれば、全体相場が大きく崩れたときかもしれません。
株価10倍高のヒントは時価総額の低い成長企業
とはいえ、過去の例でも分かるように、テンバガー銘柄(株価10倍高)の多くは時価総額の小さな中小型株が中心です。そこで、テンバガー銘柄の発掘方法をご紹介しましょう。私自身、テンバガーを達成した銘柄について、過去の会社四季報をさかのぼって何度も検証してみました。そこで共通点として浮上したのが、以下の3つのポイントです。
まず1つ目は、時価総額300億円以下の中小型株であること。2つ目は、成長企業であること。具体的には、年間で売り上げの伸びが20%以上であること。そして最後は、社長が筆頭株主のオーナー企業であることです。過去にテンバガーとなったソフトバンクグループ<9984>、ユニクロを展開するファーストリテイリング<9983>、インテリアや家具を手がけるニトリホールディングス<9843>にも共通する項目です。
ただし、2024年は時価総額が1,000億円以上の銘柄の中にも、株価が大きく上昇したものがありました。例えば、電線のフジクラ<5803>は1年で株価が6倍、IHI<7013>や古河電気工業<5801>が3倍になっています。これらに共通しているのは、1年前の新春号で見て、今期が減収減益、来期が増収増益に転じていること。いわゆる「業績回復株」です。

2024年1集新春号から1年間で上昇した銘柄ベスト5(渡部氏のデータをもとに作成)
※条件:1年前時価総額1,000億円以上/会社四季報発売日終値比較
四季報の達人が選ぶ 2025年の注目銘柄
今回の新春号で、2025年の上昇株を発掘するのであれば、中小型の成長株、もしくは業績回復株に注目するのが近道となりそうです。ちなみに、2024年は1年間で株価が2倍以上になった銘柄は104銘柄ありました。
そのほか、株式市場には常に注目のキーワードやテーマが存在しています。例えば、2024年は、半導体やAI(人工知能)、ビットコイン関連の銘柄がそろって上昇しました。株式市場のキーワードやテーマも会社四季報のコメント欄から感じ取ることができます。
今年、私が注目する目新しいキーワードとしては、トランプ大統領、累進配当、宇宙、利ザヤ(主に銀行の貸出金利と預金金利の差)、ドローン、チップレット(最先端の半導体チップ)など。一方、テーマとして注目しているのが、大阪万博、マイクロソフトの「Windows 10」のサポート終了、最先端の次世代半導体などです。特に大阪万博では、「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマとなっており、再生医療を手掛ける企業には注目が集まりそうです。
具体的な注目銘柄を挙げるとすれば、JFEホールディングス<5411>、TDK<6762>など。
半導体関連では、半導体の素材や関連製品を取り扱っている企業にも注目しています。例えば、信越化学工業<4063>やサムコ<6387>、東京応化工業<4186>、トクヤマ<4043>、トリケミカル研究所<4369>などでしょうか。また、中小型株では、洗車機の製造をしているエムケー精工<5906>や仮想デスクトップのソリューションを提供するアセンテック<3565>に注目しています。

四季報の達人が2025年に注目する銘柄一覧(※2025年1月14日時点の終値をもとに作成)
下1桁が「5」の年は、過去約150年間で勝率100%
最後に、過去の経験則による日経平均株価の習性をご紹介しましょう。今年は2025年で下1桁が「5」の年です。実は、5の年は戦前も戦後も勝率は100%となっています。

西暦下1桁の勝率と騰落率一覧(渡部氏のデータをもとに作成)
※戦前は「東株(東京株式取引所)」の修正株価を用いデータがあるものだけで計算
つまり、日経平均株価は、年初よりも年末ほうが高くなっているということです。このデータからも今年の株式市場には期待しているのですが、仮にこの経験則が崩れた場合には、足元で何か変化が起こっていると捉えるべきです。
変化は株式市場にとっても大きなチャンスですので、長い目で見れば前向きに捉えていいと思います。一方、2025年の干支は巳(み)です。株式市場には「辰巳天井」という縁起のよい格言もあります。
過去のデータを分析すると、2025年末の日経平均株価は70%の確率で4万1,333~4万6,067円の範囲で収まると考えられます。もっと幅を広げるなら97%の確率で3万8,966~4万8,434円の幅に収まるはずです。なお、下値のメドは3万5,698円となりました。

日経平均の過去データを使用した2025年12月末の日経平均株価の予想。テクニカル分析のボリンジャーバンドで検証(渡部氏作成)
昨年からNISAを始めた投資初心者は、米国株に興味を抱いていると聞きますが、私はもっと日本株に目を向けるべきだと思います。よく分からない米国企業に投資するのではなく、身近な発見などをヒントに日本株に投資すべきです。そうすれば、日本株市場はもちろん、日本経済にとっても底上げの機運が高まるはずです。
記事で紹介した16銘柄
銘柄名<コード> | 業種 |
---|---|
フルッタフルッタ<2586> | 食料品 |
ソフトバンクグループ<9984> | 情報・通信 |
ファーストリテイリング<9983> | 小売業 |
ニトリホールディングス<9843> | 小売業 |
フジクラ<5803> | 非鉄金属 |
IHI<7013> | 機械 |
古河電気工業<5801> | 非鉄金属 |
JFEホールディングス<5411> | 鉄鋼 |
TDK<6762> | 電気機器 |
信越化学工業<4063> | 化学 |
サムコ<6387> | 機械 |
東京応化工業<4186> | 化学 |
トクヤマ<4043> | 化学 |
トリケミカル研究所<4369> | 化学 |
エムケー精工<5906> | 金属製品 |
アセンテック<3565> | 卸売業 |
文:三枝 裕介/写真:佐坂 和也
渡部清二
四季リサーチ株式会社代表取締役、複眼経済塾・塾長
1967年生まれ。筑波大学卒業後、野村證券に入社。野村証券在籍時より、『会社四季報』を1ページ目から最後のページまで読む「四季報読破」を開始。28年以上の継続中で、2024年12月発売の新春号をもって、計109冊を読破。2013年に野村証券を退社し、四季リサーチ株式会社を設立、代表取締役に。2016年に複眼経済観測所(現・複眼経済塾)を設立。「会社四季報オンライン」では、コラム「四季報読破邁進中」を連載。『インベスターZ』の作者、三田紀房氏の公式サイトでは「世界一『四季報』を愛する男」と紹介された。