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話題! 仮想通貨 ドージコインの掲示板

イーロン・マスクが推す暗号通貨、高騰直前に全財産投資した男の「覚悟」

時価総額でゼネラル・モーターズ(GM)を抜く注目の暗号通貨、「ドージコイン」に全財産プラス借り入れ金総計25万ドル(2500万円)を投資、計算上では243万ドル(2億5000万円)を手にし、「アプリ上のミリオネア」になった男がいる。ブラジル移民のアメリカ人、ロサンゼルスの音楽会社で働く33歳のグローバー・コンテッソートだ。

ドージコインは「夢の通貨」?

世界最大級のプロ投資家対象暗号通貨取引所、コインベースは6月1日、ドージコインを上場したと発表した。

この新通貨がブレイクした裏にあのイーロン・マスクがいることはよく知られている。彼は「ドージの父」を自称し、熱烈支持。煽るようなツイートをしながら自ら投資、生後9カ月の息子にも購入し、「息子にもドージコインを買った。これで彼も『トドラー・ホドラー(乳幼児の仮想通貨長期保有者)』だ」とツイートするなどしてその価格を高騰させてきた。

さらに彼が代表を務める航空宇宙メーカー「スペースX」が、2022年前半に予定される月探査ミッションの支払いをドージコインで受け付けると明らかにしたことも話題になった。またさきごろは「ドージの開発者と協力してシステムの取引効率を向上させる」と発表もした。

ドージコインは5月単月で800%上昇、6月10日時点の時価総額は約4.4兆円で、暗号通貨の中で7位につけている。

だがそんな中で、すでに一般投資家から「ドージコイン・ミリオネア」が誕生し、アメリカン・ドリームを体現していたことはあまり知られていない。先に挙げたアメリカ人、ロサンゼルスの会社員、グローバー・コンテッソート、33歳だ。彼はアプリ上でではあるが、実に700%の「勝ち」を獲得したのだ。

現在0.36ドルのドージコインの価格が1ドルになったとき、彼の(アプリ上の)資産は一体いくらになるのか?

そもそも「ドージコイン」とは?

では、「ドージコイン」とは何か。まず「ドージ」とは「柴犬」の意。日本人ユーザーがアメリカの人気ソーシャルネットワーク・プラットフォーム「Reddit」に写真を投稿したのがきっかけで、この日本犬は爆発的なインターネット・ミーム(ネットを通じて爆発的に拡散される一種の「ネタ」)となった。

このミームの名と柴犬ロゴを冠した「ドージコイン」はビットコインやイーサリアムと同じ暗号通貨の一種で、インターネット上で通貨を送ったり受け取ったりする方法のひとつである。

ドージコインは2013年、2人のプログラマーがいわば「冗談」で作った暗号通貨だ。だがその価格は今年に入って急騰し、前出のとおり、時価総額でGMを抜くまでになった。2021年に入ってからの各暗号通貨の上げ幅でいうと、ビットコインは+113%、イーサリアムは+324%であるのに比して、ドージコインはなんと+7555%だ(5月6日「Newsweekオンライン」)。

コンテッソートはこの新通貨がネット上でわずか話題になった頃から、この通貨についてむさぼるように情報をあさり始めた。そして2月、ドージコインが4.5セント(0.045ドル)の時点で全貯蓄をつぎ込み、さらには株取引アプリの「Robinhood」から借金さえして総額25万ドル(約2500万円)を投資したのだ。

マスクのツイートで「ワンナイト・ミリオネア」に
そしてついに「その時」は到来した。4月15日の午後6時、イーロン・マスクが、あのエポックメーキングなツイート「月に吠える犬(“Doge Barking at the Moon.”)」をしたのだ。

コンテッソートは振り返る。

「僕はいつものように携帯でドージをチェックしていた。そして画面を見ていたら、ドージコインは上がり始め、上がって、上がって、上がり続けたんだ」(New York Timesがポッドキャスト配信する「The Daily」5月14日「A Conversation With a Dogecoin Millionaire」中で、記者のインタビューに答えて) 。

そして、彼の資産はみるみるうちに100万ドル(約1億円)の敷居を超える。そして、12時間後、翌16日の早朝6時40分には、資産は180万ドル(約2億円)になっていた。

火付け役はネット素人投資家たちの「革命」だった

だがプロの投資家でもないコンテッソートはなぜ、当時まだそれほど注目されていなかったこの新通貨にハイリスクな投資を決断したのか──。

そこには「WallStreetBets」というネット上のコミュニティと、大赤字だった「GameStop」の株が高騰したことが深く関係している。

「WallStreetBets」は、ソーシャルネットワーク・プラットフォーム「Reddit」に今年に入ってから形成された「サブレディット」(2ちゃんねるなどの「板」に相当するコミュニティ)で、会員は実に240万人にふくれあがっている。そして世界最大のコンピュータゲーム小売チェーン「GameStop」の株は、ゲームがCDで売買されなくなった2000年代初頭から暴落していた。

この銘柄に関してヘッジファンドが「空売り」を当然とする中、WallStreetBetsの会員たちが同社の株価を押し上げる目的で買いまくり始める。個人小口投資家にパワーを取り戻せ、とばかりにネット上で結束し、なんと5日間で3倍と急騰させたのだ。いわば組織的なプロ・ヘッジファンド勢に対向したネット素人投資家たちの「革命」だった。

WallStreetBetsの動向を注視していたコンテッソートもGameStopに投資したが、株取引アプリのRobinhoodが、急騰したこの銘柄の取引を制限したことで、彼は投資額のすべてを失う。会員たちの「結束」に乗り遅れ、投資タイミングが遅かったことによる失敗だった。

「暗号通貨こそが未来通貨になる」
「『売る』だって? そんな発想はありえない」

だがコンテッソートはこれに懲りなかった。それどころか、逆にこの体験からアグレッシブな学びを得て、「次のGameStop」さえ見つければミリオネアも夢ではない、と考えたのだ。

6歳で両親と姉とともにブラジルから移住し、小学校時代は日々のランチ代にも事欠く貧しい少年時代を経験したコンテッソート。今、まさにアメリカン・ドリームを「アプリ上で」体現したが、今だ「勝ち」を確定していない。彼は前出の「The Daily」5月14日配信の番組中、次のように語っている。

「ドージコインを売らないか、だって? そんな発想は、一瞬たりともよぎらない。売るどころか、価格が下がっても買い続けるよ。たとえばアマゾンの株を持っていたらどうする? ちょっとくらい下がったからって、売ったりしないだろう? 暗号通貨こそが未来通貨になることを、僕は信じてるからね」

そもそもはソフトウェアエンジニア2人組の「ジョーク」から始まったこの通貨、「柴犬」のインターネット・ミームをイメージに冠しているだけあって、ネット上の風説や軽いコミュニケーションの内容に、とりわけ影響されやすいともいわれる。事実、5月9日に「サタデーナイトライブ」に出演したマスクが口にした冗談めいたコメントをきっかけに多くの投資家が「売り」に走り、この通貨の価格は下落している。

たとえばマスクが今週、「ドージ? ああ、そんなジョークコインもあったっけ、ぼくの冗談も真に受けないでくれよ」などとツイートしたら? 虎の子の貯蓄すべてを注ぎ込んだコンテッソートの強気は報われるのか?

投資家ならずとも、気になるところではある。

石井 節子