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>>3196

 さて昆布だしのことは、東京では一流の料理屋以外はあまり知らないようだ。これは、東京には昆布を使うという習慣が昔からなかったからだろう。昆布のだしは実に結構なものであって、魚の料理には昆布だしにかぎる。かつおぶしのだしでは魚の味が二つ重なるので、どうしても具合の悪いものが出来る。味のダブルということはくどいのである。昆布をだしに使う方法は、古来京都で考えられた。周知のごとく、京都は千年も続いた都であったから、実際上の必要に迫られて、北海道で産出される昆布を、はるかな京都という山の中で、昆布だしを取るまでに発達させたのである。
 昆布のだしを取るには、まず昆布を水でぬらしただけで一、二分ほど間をおき、表面がほとびた感じが出た時、水道の水でジャーッとやらずに、トロトロと出るくらいに昆布に受けながら、指先で器用にいたわって、だましだまし表面の砂やゴミを落とし、その昆布を熱湯の中へサッと通す。それでいいのだ。これではだしが出たかどうか、心配なさるかも知れない。出たか出ないかはちょっと汁を吸ってみれば、無色透明でも、うま味が出ているのがわかる。量はどのくらい入れるかは実習すれば、すぐにわかる。このだしはたいのうしおなどの時はぜひなくてはならない。
 こぶを湯にさっと通したきりで上げてしまうのは、なにか惜しいように考え、長くいつまでも煮るのは愚の骨頂、昆布の底の甘味が出て、決して気の利いただしはできない。京都辺では引出し昆布といって、鍋の一方から長い昆布を入れ、底をくぐらして一方から引き上げるというやり方もあるが、こういうきびしいやり方だと、どんなやかましい食通たちでも、文句のいいようがないということになっている。