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トヨタ自動車は今後も有望な投資先か? 注目企業の決算レポート特集

トヨタ自動車は今後も有望な投資先か? 注目企業の決算レポート特集

2月5日、トヨタ自動車<7203>が2025年3月期の第3四半期決算を発表。通期業績の上方修正を伴う好決算で、株式市場では一時、トヨタ自動車の株価が急伸しました。トヨタ自動車といえば、日本を代表する国際的な企業。会社の規模を示す時価総額でトップ企業としても知られています。投資家目線で見て、同社は今後も有望な投資先と考えられるのでしょうか。株式投資の専門家として活躍する経済ジャーナリストの和島英樹さんにお話を伺いました。

情報提供元:All About編集部
取材日:2025年2月12日

【注目ポイント】
日本を代表する優良企業として知られるトヨタ自動車が好決算を発表。来期は飛躍の年としてますます期待が高まっています。そんなトヨタ自動車ですが、株価指標で決めればまだ割安度が顕著。海外投資家がトヨタ自動車の割安度に気付いて買いにくる前に、仕込んでおくのも一手。NISA(少額投資非課税制度)などを活用した長期の資産形成にも向いています。

「世界のトヨタ」、販売台数は5年連続世界一

2月5日、トヨタ自動車<7203>が2025年3月期の第3四半期決算(4〜12月期)を発表しました。多くの企業が株式市場の引け後に発表するのに対し、同社は株式市場が稼働している13時25分に発表を行いました。決算内容は通期業績の上方修正を伴うサプライズ決算で、当日はマイナス圏で推移していた同社株には買い注文が殺到、株価はみるみる上昇していきました。

ただ、決算発表翌日から株価はやや調整気味。将来的にトヨタ自動車には投資妙味があるのでしょうか? トヨタ自動車の今後の戦略や将来性を考える前に、まずは現状と同社を取り巻く環境について検証していきましょう。

ご存じの通り、トヨタ自動車は日本が誇る世界的な自動車メーカーで、自動車の販売台数は5年連続世界一(2024年現在)。収益の約9割を占める自動車事業に加えて、金融事業なども展開しています。設立は1937年で、従業員数は2024年3月末現在で7万224人(連結では38万793人)を擁しています。

代表取締役会長は創業家第4世代の豊田章男氏で、トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎氏の孫にあたります。慶応大学を卒業した章男氏ですが、現首相の石破茂氏は高校・大学の同級生にあたります。現在の代表取締役社長は、同社のエンジニア出身の佐藤恒治氏で、2023年6月に豊田章男氏からバトンを受け継ぎました。

トヨタ自動車の世界販売・生産台数はグループ企業のダイハツと日野自動車を含めて1,082万1,480台(2024年累計)、そのうち国内は185万263台で、残り約90%の897万1,217台を海外で販売しています。累計販売台数は、5年連続で世界トップとなりました。なお、2024年はグループ全体で前年に比べて3.7%減となっています。これは、国内で認証試験不正問題やリコールにより一部車種の生産が停止し、国内販売が20%近く減ったことが要因です。

トヨタ自動車の世界販売台数の推移グラフ

トヨタ自動車の世界販売台数の推移(出典:トヨタ自動車「2024年 年間(1月〜12月)販売・生産・輸出実績」より抜粋し、作成)

※販売台数は、ダイハツおよび日野自動車を含めたグループ全体のもの

1円の円安で営業収益は約500億円上乗せに

2月5日に発表した2025年3月期の第3四半期決算(4〜12月)では、売上高に当たる営業収益は前年同期比4.9%増、本業の儲けを示す営業利益は同13.2%減での着地となりました。

同社では、この決算発表と同時に2025年3月期通期の業績予想を上方修正。営業収益を過去最高となる47兆円に、営業利益を前回予想よりも4,000億円多い4兆7,000億円に、純利益を4兆5,200億円にそれぞれ引き上げました。欧米を中心にハイブリッド車の販売が伸びていることや為替の円安推移が主な要因です。

トヨタ自動車の連結決算見通し

トヨタ自動車の連結決算見通し要約(引用:トヨタ自動車『第3四半期決算情報(2025年2月5日)決算報告プレゼンテーション資料』P12「連結決算見通し要約」

「トヨタ自動車は、1円の円安で営業収益を約500億円押し上げる効果があるとされています。同社の期初予想では、2025年3月期(2024年4月1日から2025年3月31日)の平均為替レートを1米ドル=145円と想定していましたが、直近では1米ドル=152円に修正。予想を上回る円安により、利益を大幅に押し上げることになりました」と話す、経済ジャーナリストの和島英樹さん。

ただ、投資家としては、今回の過去最高益が為替による一時的なものと考えてしまうかもしれません。その点について、和島さんはこう考えます。

「昨年5月、同社の決算説明会では、佐藤恒治社長が『意志ある踊り場』として、成長を加速させることを強調していました。今期は『意志ある踊り場』としてコスト増などをある程度見込み、来期(2026年3月期)を飛躍の年と考えていたわけですが、今期も為替の円安推移などにより結果的には過去最高益としての着地が見えてきました。

過去、何度も同社のアナリスト説明会に参加してきましたが、同社が考えていることはいつも正しいというのが私の印象です。例えば、2011年に為替が1米ドル=79円台になった際には、アナリスト説明会で「海外で生産したらどうか」と指摘されましたが、技術開発や雇用を守るためにも300万台は国内で生産すると返答しました。結果、それが今に生きているわけです。

また直近では、世界の自動車メーカーがEV(電気自動車)シフトした際にも、ハイブリッドや燃料電池車を含めた"全方位で行く"と宣言しました。実際、EV環境が整っていない国もたくさんあるわけで、昨年あたりから米国のテスラや中国のBYD(比亜迪)など大手EVメーカーの販売が失速しはじめています。

今になって海外メーカーは、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)への転換など、戦略の見直しを余儀なくされていますが、この例を見てもトヨタの全方位が正しかったことが証明されています。このトヨタ自動車の意思を曲げない経営姿勢が結果として同社の成長を支えているのだと思います。そういった意味では、今秋スタートする『Woven City』(ウーブン・シティ)は要注目です」

未来の生活を見据えた『Toyota Woven City』が今秋スタート

『Toyota Woven City』は、未来の当たり前となるようなプロダクトやサービスを生み出し、実証するモビリティのテストコース。静岡県裾野市で稼働していた東富士工場の跡地を利用して、トヨタの従業員と家族、リタイアメント世代、小売店舗、実証に参加する科学者や各業界のパートナー企業、研究者などが当初の住民として参加する予定です。ここでは、ヒト・モビリティ・社会インフラが連携する街の形をしたテストコースで、生活をしながらさまざまなプロダクトやサービスを実証していきます。

実験都市『Toyota Woven City』の写真

静岡県裾野市に建設中の実験都市『Toyota Woven City』(画像引用元:Woven by Toyota 公式サイト

「『Woven City』には、夜間に安全に帰宅をエスコートしてくれるドローンや、高齢者に寄り添って支援してくれるペットロボット、さらには空飛ぶクルマなども実験される予定です。トヨタ自動車の『意志ある踊り場』という言葉には、この『Woven City』による同社の将来的なポテンシャルも加味されているのではないでしょうか。そう考えると、同社の現在の時価総額は約45兆円ですが、将来的に100兆円になっても何ら不思議はありません。先の決算発表では、『ROE20%』という具体的な数値に触れられたようですが、ROE20%を掲げる自動車メーカーなんて世界中にはありませんからね」

ROE(自己資本利益率)とは、企業の自己資本(株主資本)に対する純利益の割合のこと。企業がどれくらい効率よく稼いでいるかを示す財務指標で、近年の株式市場でも注目されている指標です。東証プライム市場に上場する企業のROEは平均で8~9%前後ですので、同社が目標とする20%は驚異的な数値です。

「ROEを向上させるためには、売り上げを増やしたり、コストを下げたりする方法のほかにも自社株買いや配当の増額といった株価に好影響を与える施策もあります。足元で、トヨタ自動車はデンソーやアイシンといったグループ各社の政策保有株(持ち合い株)の見直しを加速させていますので、ここで得たキャッシュで目先は自社株買いや増配などを進めていくのではないでしょうか。ただし、ROE20%というのはあくまでも将来的な目標数値ですので、今後のトヨタ自動車に期待したいところです。

特に、来年5月に予定されている2025年3月期の実績と2026年3月期の会社予想には要注目です。『意志ある踊り場』の次の年に当たるわけですから、投資家の期待値も必然的に高まります。もっとも、トヨタ自動車の株価がすぐに2倍になるかというと、時価総額も大きいだけに簡単ではありません。

例えば、現在開発中の全固体電池が量産化され、走行性能が格段に上がるなど、技術的な革新を伴う必要があります。これはここ数年で結果が出ることになりそうですが、これ以外にも自動車業界で話題になっているSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)についても『Woven City』での実証次第では、トヨタ自動車が世界をリードすることになるかもしれないと期待しています」

SDVとは、「ソフトウェアによって定義されるクルマ」のこと。クルマと外部との双方向通信機能によってクルマをソフトウェアで制御し、運転機能や事故防止機能が自動的に更新されるという。

「極端な話、SDVでは運転席も必要ありません。インパネで好きな動画などを楽しみながら、目的地に着けることになるでしょう。そうなると自動車メーカーはクルマをつくるだけではなく、ソフトウェアの品質が重要になってきます。それをできるのは世界のトヨタ自動車だけではないかと考えています」

割安な株価指標で、お買い得のトヨタ自動車株

最後に、欧米の株式市場に比べて、日経平均株価の上値が重くなっている理由について、和島さんの見解を伺ってみました。

「直近では為替の円安推移に加えて、トランプ政権による関税引き上げなど、日本株にとっての新たな不安要素が出てきています。そのため、日本株市場の約7割を占める海外投資家が買いを見送っていることが大きな原因です。ただ、上場企業のROEは年々上昇していますので、これがグローバルなスタンダード基準である10%以上に到達するような見通しが出てくれば、おのずと割安な日本株に物色の矛先が向かうはずです。その際にも、国内で時価総額トップのトヨタ自動車はポートフォリオから外すことはできませんので、同社の株価上昇が見込めるというわけです。

現状のトヨタ自動車の株価指標は、PBR(株価純資産倍率)で1倍程度、配当利回りも3%超と割安です。日本を代表する優良企業で、今後も増配が期待できるのですから、NISA(少額投資非課税制度)などを活用した長期の資産形成にも向いていると思います。海外投資家がトヨタ自動車の割安度に気付いて買いにくる前に、仕込んでおいてもいいのではないでしょうか」

文:三枝 裕介

和島 英樹

経済ジャーナリスト

現みずほ証券、株式新聞社(現ウエルスアドバイザー)記者を経て、2000年にラジオNIKKEIに入社。解説委員などを務め、20年6月に独立。国際認定テクニカルアナリスト(CFTe)、日本テクニカルアナリスト協会評議委員。

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