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弱小投資家の隠れ家の掲示板

AIIBは巨大商機の一部 是々非々で柔軟な対応を 元仏外交官チェン・ヨ・ズン氏の視点
2015.6.30 11:00
ttp://www.sankei.com/world/news/150630/wor1506300003-n1.html

 中国の軍事力増大や海洋進出を目の当たりにする東南アジア諸国連合(ASEAN)各国が中国に経済協力するか軍事対抗するかで揺れ動く中、日本の態度が際立っている。日中雪解けの兆しが見えてきたとはいえ、安倍政権は中国の抗しがたい台頭に専ら対抗、牽制(けんせい)する方向に重きを置いているように見受けられる。その一例はAIIBへの不参加だ。

 中国の軍事的脅威への警戒は当然だとしても、世界第2位と第3位の経済大国が経済面でいがみあいを続けるのは決して建設的ではない。AIIBの裏に潜む中国の壮大な世界規模の諸事業とそれに付随する巨大ビジネスチャンスを見逃してしまい、日本の国益さえ損なう恐れはないだろうか。

 中国が進める世界規模事業でまず思い起こされるのは「一帯一路」の名で知られる新シルクロード構想だ。中国の関心事は、距離が長く、地政学的リスクも尽きない現行の南回りのシーレーンに代わり、ユーラシア大陸の地の利を生かし、資源豊かな中東や欧州連合(EU)と陸路でつながることにつきる。

 中国西部から中央アジアを貫き、中東に至り、さらにロシア、東欧を経由してEUに到達する道路、鉄道、パイプラインなどからなる輸送ネットワークを築けば、アジアの太平洋沿岸部と欧州の大西洋沿岸部の二大経済圏が海路より迅速にかつ安全に陸路で直結する。

 つい最近、この新シルクロードの幕開けを記す歴史的快挙があった。昨年末に上海南部の義烏市から出発した貨物列車が21日かけて、中国西部、中央アジア、ロシア、ポーランド、ドイツ、フランスを経由してスペイン・マドリードに到達し、史上最長の鉄道輸送を成し遂げた。

 無論、海上輸送路を諦めたわけではなく、中国が提唱した「海上シルクロード」構想に従い、シーレーン沿いの各国との関係改善や港湾整備にも力を入れている。この構想に伴う形で、中国海軍艦船はソマリア沖の対海賊国際作戦に参加してアフリカ東岸に進出したのみならず、ロシア海軍と共同演習の名目で、地中海にまで姿を現し、西欧諸国を驚かせた。

 新疆からパキスタン経由で産油地ペルシャ湾に近いグワダール港に達する「経済回廊」の構築も着々と進んでいる他、東南アジアを貫く高速鉄道網を建設して、欧州、アフリカ、中東から海路で運ばれる物資を東南アジアで陸揚げし、高速鉄道で中国国内に運ぶ計画も進行中だ。

 また、近年の地球温暖化による氷の激減で、北極海経由で北半球各大陸をつなぐ新たな航路が開発されつつある。中国はここにも砕氷船を投入し、新航路開発に並々ならぬ力を注ぐ。新航路実現に欠かせないのは、北極海沿岸のロシアを中心とする関係諸国の港湾の近代化整備だ。これらの事業に関わる莫大(ばくだい)なインフラ投資には、当然、AIIBの役割が期待される。

貿易地図に影響も

 さらに、中国の企業は数年前から中米のニカラグアで巨大新運河建設に着手している。大西洋と太平洋をつなぐ第2の運河であり、しかも、パナマ運河より幅が広く、水深も深く、大型船舶の通過が可能となれば、経済波及効果は大きいことが想像できる。この場合の資金調達は恐らく中国がブラジル、ロシア、インド、南アフリカのBRICS諸国に呼びかけて設立した、いわゆる「BRICS銀行」が担うことになる。

 こうして、一見すると相関性がなくバラバラに見えても、中国が各地で手がける大規模事業には世界貿易地図を塗り替えかねない勢いがある。
 中国が世界で行う事業はだいたい軍事的野心の疑いをもたれるが、純粋に経済面をみれば、上述の大事業は世界貿易に資するだけでなく、その構築だけでも莫大な資金需要を生み、日本のような先進国には巨大な商機をもたらすはずだ。

 そのため、日本もAIIB参加問題をはじめ、中国との付き合い方を是々非々の原則で考え直し、日本の国益にかなう場合には米国の意向に関わらず、協力もいとわないという主体性と柔軟な姿勢が必要となろう。