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米は衰退期、混乱の瀬戸際 レイ・ダリオ氏 米ブリッジウォーター創業者(直言)
2024/05/26 日本経済新聞 朝刊 2ページ 2974文字

 世界の金融市場が緊張感を高めている。インフレはなお世界で根強い。米中対立など世界の分断も強まるばかりだ。世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツ創業者のレイ・ダリオ氏に、経済の変化にお金を賭ける投資家の目でみた先行きを聞いた。
 歴史に学ぶ投資家として知られる。リーマン・ショック時には、過去の債務危機を分析して危機を予測し、プラスの運用成績を確保した。
 ――歴史は大きなサイクルで動くと主張し、国家の盛衰についても詳細に調査した。分析からみえるものとは。
 「オランダや大英帝国などかつての覇権国は、興隆期から絶頂期に至り、衰退期に入るというサイクルを繰り返してきた。国家のサイクルは全体では6つのステージに分類できる。新たな秩序が始まって政府の官僚制が整うステージ1と2、平和と繁栄を迎え、支出と債務が過剰になるのが3と4、財政状況が悪化し内戦・革命に向かうのが5と6だ」
 ――米国は今、どのステージにあるのか。
 「米国は衰退期に属するステージ5の典型例だ。貧富の差や価値観の相違が拡大し、左派と右派が妥協せずに何が何でも勝とうと争うポピュリズムを特徴とする」
 「過剰債務や大国間の紛争、大きな技術革新、パンデミック(世界的大流行)、干ばつや洪水といった破壊的な自然現象などによって、国際秩序が脅かされることもステージ5の特徴だ。ステージ6では内戦や革命がおこる。米国は大混乱に陥る瀬戸際にいる。ギリギリの線を越えるかどうかは指導者次第だ」
 ――内戦は言い過ぎに思える。
 「最も可能性の高い内戦は、市民が銃を撃ち合うようなものではない。州政府や地方自治体が連邦政府の指示に従おうとせず、機能不全に陥るようなものだ」
 「2024年の最大の懸念材料は米国の政治リスクだ。民主党のバイデン氏、共和党のトランプ氏のどちらが大統領になっても、米国内の分断による政治的な紛争と、世界の地政学がもたらす紛争のリスクを抱える」

  • >>72946

    つづき・・
    「高齢のバイデン大統領が任期をまっとうできなければ、誰が引き継ぐのかという問題に発展する。民主党は穏健左派よりも極左の影響が強い点が心配だ。共和党は極右に支配され、米国ではおそらく大きな政治対立が起こるだろう」
     ――米国が混乱に陥れば基軸通貨の米ドルの行方が問題になる。
     「米国や日本、ユーロ圏と、世界の3大基軸通貨すべてで債務が過剰な状態にある。債務増加が通貨の価値低下につながっている。1つの通貨が他の通貨に対して相対的に下落するというよりは、通貨の購買力が落ちるインフレ圧力や、金(ゴールド)の価格上昇という形で表れる。こうした状況は今後、数年間にわたって起こるとみる」
     「もしトランプ氏が大統領に選ばれれば、米国は保護主義に傾き、関税を大幅に引き上げ、インフレにつながるだろう。バイデン大統領が再選されても財政拡張が続く。どちらが大統領になっても、米国は大幅な財政赤字になるとみる」
     「インフレ圧力が高まり、米連邦準備理事会(FRB)が目標とする2%まで物価上昇率が下がるとは思えない。財政赤字や国債増発は各国に共通、世界のほとんどの中央銀行にいえることだ」
     ――リーマン危機の原因は住宅ローンなど民間の借金だった。今は政府債務が問題なのか。
     「米政府の財政は、新型コロナウイルス禍に対応した支出などで悪化した。赤字の穴埋めに国債発行を増やすだろう。米国債など債券は最も魅力がない市場だ。金利が高くても債務の量が多すぎる。発行の多さとインフレ圧力によって債券利回りは上昇しやすい」
     ダリオ氏は中国経済に対して、楽観派から悲観派に転じた。
     ――債務問題は、不動産不況に陥った中国でこそ大きいように思える。
     「そのとおりだ。私が開発したバブル測定システムは、5年ほど前に中国の不動産市場と地方債市場でバブルが発生していることを示していた。この2つの市場はまもなく崩壊した」
     「1980年代に始まった中国経済ブームの間に債務が膨張し、貧富の差が広がった。一人っ子政策による人口減も国の債務拡大につながった。債務再編が必要だが、そのプロセスは政治的にも経済的にも痛みを伴い、きわめて困難なものになるだろう」