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アメリカ ドル / 日本 円【usdjpy】の掲示板 2020/05/16〜2020/05/18

●日経新聞のエース記者で日銀ウォッチャーで有名な清水功哉氏の記事。月曜日の話題となるでしょう●

日銀の資金供給に異変アリ 円高示唆か
編集委員 清水功哉
2020/5/17 2:00
日本経済新聞 電子版
日銀の動きを長年取材してきたが、こんな現象を見るのは初めてだ。コインの表と裏のような関係にあるはずの日銀の総資産と資金供給量(マネタリーベース)が、大きく乖離(かいり)した動きをしているのだ。新型コロナウイルスの感染拡大による混乱に対処する追加金融緩和を受けて総資産は膨張しているのに、実は世の中に供給された円の資金量はたいして増えていない。緩和策が空回りしている印象を与えかねないだけに、気になる話だ。

論より証拠、具体的な数字を見てみよう。まず日銀の総資産。国債はじめ様々な資産の購入や資金の貸し付けなどで積み上がったものだ。3月末時点の年間増加額(前年同月比の増加額)は47兆円、4月末が57兆円で、2月末時点(23兆円)と比べれば倍以上だ。3月に決まった金融緩和強化の結果が数字に出たと受け止められている。
一方のマネタリーベース。資産買い入れなどで供給されたお金の残高が計上されたものだ。日銀のバランスシートでは総資産とは反対の負債側になるが、両者は基本的に似た動きをするはずだ。ところが今はそうなっていない。年間増加幅は2月末に19兆円だったものが、3月末(4兆円)、4月末(15兆円)とむしろ縮小している。
総資産が大きく膨らんでいるのに資金供給量の伸びは小さい。いったい、なぜこんな異変が起きているのか。
日銀関係者に聞くと、最大の理由は総資産の伸びを引っ張っているのが主にドル資金供給の増加である点だという。ドル供給は3月に決まった緩和強化策の柱のひとつ。コロナ危機で外貨の資金繰りが苦しくなった金融機関を支援する狙いがある。日銀が米連邦準備理事会(FRB)からドルを借り、それを金融機関に貸す仕組みだ。
確かに、総資産のうちドル資金供給を反映する外貨資産(外国為替)の増え方は顕著だ。年間増加額は2月末時点でほぼゼロだったのに、3月末時点で18兆円、4月末では24兆円。長期国債などの保有残高の増加幅より大きい。ただ重要なことは、ドルをいくら銀行に提供しても円の資金供給量にはカウントされない点である。
話はそれだけではない。実は金融機関が日銀からドルを借りる際に必要な担保(国債)が不足している。異次元緩和策により巨額の国債が買われてしまったからだ。そこで日銀は、一定期間後に買い戻す条件付きで銀行に国債を売り、担保として使ってもらっている。国債を売る際に円を吸い上げるから、マネタリーベースはむしろ減る。
以上のように、活発なドル供給で日銀の資産は膨らんだが、それは資金供給量の増加に結びついていない。むしろ担保用の国債の売却がマネタリーベースの減少要因になる。これが、総資産が大きく拡大しているのに資金供給量はたいして増えないメカニズムだ。

こうした事実は為替相場を見るうえで一定の重みを持つ。為替市場では中央銀行による自国通貨の供給量に注目が集まりがちだからだ。日米のマネタリーベース比率(日本の数値を米国のそれで割った倍率)とドル・円相場は似た動きをするという「法則」を重視する人が市場にいる。米国に比べて日本側の供給量が見劣りして倍率が下がると円高になるというものだ。著名投資家のジョージ・ソロス氏が着目したとされソロス・チャートと呼ばれる。
問題はFRBが大胆な金融緩和でドル供給を増やしているため、日米のマネタリーベース比率が急低下している点だ(グラフ参照)。円高サインの点灯といえる。過去法則通りの動きをしなかった局面もあり、ソロス・チャート論を重視しすぎるのは適当でないが、米利下げを受けて日米の金利差が大幅に縮小し、市場は金利差以外の材料を探し始めている。「法則」に関心が集まりやすい状況との見方もある。
日銀は4月下旬、FRBと同様に国債の無制限購入を決め、円の供給拡大に努める姿勢を強調した。今後FRBと比べて見劣りした印象を払拭できるか。円相場の先行きを占う際のポイントのひとつだろう。

[日経ヴェリタス2020年5月17日号]