透明人間DRさんより
一方、ユニチカは蓄積した資産を売り、借金をしながらも何とか25年までもったが、繊維工場は立ちゆかなくなり、とうとうわれわれの傘下に入った。
――今回の買収は「ユニチカ側から持ちかけられた救済案件だった」と聞きます。
向こうから「引き取ってくれないか」と話があったが、初めはまったく乗り気じゃなかった。毎年10億円以上の赤字を垂れ流す工場を買ってもどうしようもない。カネボウの事業買収のときは原糸の製造機能が欲しかったが、今さらその規模を大きくするつもりもない。
ただ、ユニチカを支援している金融機関から「もう限界だ」、「セーレンに何とかしてほしい」と強い要請があった。それなら調査だけはしようと調べたら、日本の真ん中の愛知県岡崎市の主要駅まで5分で行ける好立地、さらに32万㎡(約10万坪)の敷地に広大な工場がある。
現地を見に行くと、社員がまじめで人の質もいい。うまくいっていないのは経営の問題だとわかった。土地、建物、人を総合してみると非常に魅力がある。不動産ファンドとの競争になったが、われわれは雇用をしっかり守るという条件で買収の合意ができた。
――土地と人が、なぜそんなに魅力的に映ったのでしょうか?
いまの不動産市場は異常な状況だ。人手不足が深刻で工場を建設しようと思っても、発注から竣工まで7~8年かかる。建築コストもものすごく高い。
(19年に買収した)シリコンウェハーの酸化膜加工を手がける半導体子会社では、現在43億円を投じて福井市内に新工場を建設している。これは27年に完成予定だが、需要が強く生産投資が追いつかない。まだまだスペースが足りないため、岡崎の工場を活用できるのは絶好のチャンスだ。クリーンルームを造り、増産に対応していく。主力の自動車内装材事業や新規事業の超小型人工衛星でも仕事が増えている。
ユニチカは500人の従業員をコストと言っていたが、これは大事な資産だ。人手不足が深刻な中で、新規事業をやるにも人材は必要。半導体、自動車、宇宙向けに早速どんどん仕事を転換してもらっている。
――10億円の赤字を短期間で黒字にできますか?
きちんと手を打てば、次の27年3月期で黒字にできる。これまではいわゆる不採算取引もやっていたが、今回の件を区切りとして、「これ以下の値段ならお受けできません」と決めた。それだけでも利益を出せるようになる。
05年のカネボウの事業買収のときは、社員のプライドが高く当初はたいへんな苦労をした。岡崎には毎月1回、現場に行って顔を合わせて話をするが、従業員の士気は高い。再生は難しくない。
――カネボウ買収で有名なセーレンですが、M&Aの実績は今回で3件目と意外に少ないですね。
買収の話はこれまでもあったが、積極的に動かなかった。なぜならセーレンは創業から100年間、みんな下請けの仕事しか経験しておらず人材に自信がなかったためだ。そのため規模を追い求めるのではなく、着実にやってきた。
買収の最大の狙いは規模ではなく人材だ。いまはカネもたまったし、話も2つ3つ来ている。広げられる可能性のある新規事業は、どんどん買っていくつもりだ。