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徒然草の掲示板

「完全に匿名」で地球に優しい暗号通貨、Zcash創始者が掲げる理念
8/29(日) 12:00配信

Forbes JAPAN

暗号通貨Zcash(ジーキャッシュ)の知名度は、ビットコインと比べるとはるかに低いのが実情だ。しかし、Zcashの創始者であるズーコ・ウィルコックス(Zooko Wilcox)は、ビットコインの掲示板に早くから参加し、ビットコインの生みの親のサトシ・ナカモトと頻繁に連絡を取り合っていたことで知られている。

実際、彼はビットコインに関する最初のブログ記事を執筆し、ナカモトはその記事をオリジナルのBitcoin.orgウェブサイトにリンクしていた。つまり暗号通貨分野で、ウィルコックスは究極のお墨付きを得た人物と言えるのだ。

しかし、先日のフォーブスの取材で、ウィルコックスは、ビットコインが完全なプロジェクトには程遠いものだと明言した。まず最初に言えるのは、ビットコインのブロックチェーンの匿名性が、そもそもナカモトたちが最初に望んだほど完璧なものではないことだ。

ビットコインが開発過程にあった2010年当時、ナカモトらは「zk-SNARK(ゼットケー・スナーク)」と呼ばれる匿名化技術をブロックチェーンに組み込もうとしていた。ZKは、ゼロ知識証明(Zero Knowledge)を意味し、SNARKはSuccinct Non-Interactive Argument of Knowledgeを短縮したものだ。この技術を導入することで、高いセキュリティを保ちつつ、送金者や受取人、送金額などの情報を外部から確認不可能にできる。

しかし、ナカモトが開発から手を引いた2011年当時の技術では、ビットコインの処理スピードを落とさずに、zk-SNARKをブロックチェーンに導入することは不可能だった。

ウィルコックスは2012年に、zk-SNARKをビットコインに統合すべきだと提案したが、中核となる開発者たちは、まず他のブロックチェーンでその技術を検証すべきだと主張したという。そして、その2年後にウィルコックスは自身が開発した暗号通貨Zcashにzk-SNARKを組み込み、ビットコインよりも高度なセキュリティを実現した。

もう一つのビットコインの欠点は、環境への負荷の問題だが、ナカモト自身もこの件に気づいていたのは明らかだという。ビットコインのマイニング(採掘)は、膨大な電力消費を引き起こし、環境破壊につながることが広く懸念されている。

■「プルーフ・オブ・ワーク」の限界

ウィルコックスは、この問題に関しても、ビットコインより一歩進んだ仕組みを導入しようとしている。彼が開発したZcashは、これまでビットコインと同じ「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」というコンセンサスメカニズムを採用していたが、今後は電力消費が少なく環境に優しい「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)」に移行しようとしている。

「監視資本主義」に抵抗する暗号資産
この移行は非常に大きな意味を持つことになる。Zcashのコードは、ビットコインをベースに作成されており、この試みが成功すれば、ビットコインもマイニングを放棄する道に進めるかもしれない。

ビットコインが用いるPoWは、マイナー(採掘者)が競い合って計算を行い、その報酬として暗号資産を得る仕組みで、巨大なマシンパワーを持つコンピュータが必要になる。

これに対し、PoSは、特定の暗号資産の保有量が多いほど、承認を得やすいシステムで、強力なマシンパワーの必要がなく、環境に負荷をかけない点がメリットだ。ウィルコックスは「プルーフ・オブ・ステークは、プルーフ・オブ・ワークよりも軽く、速く、そしてセキュリティも強固だ」と述べている。

また、PoWの場合、ネットワークが攻撃された際にユーザーを守ることができないが、PoSのネットワークでは、悪事を働く者を特定してトークンを無効化し、残りのネットワークで運営を続けられる。イーサリアムの生みの親であるヴィタリック・ブテリンも、同じ理由からイーサリアムを、PoWからPoSに移行させようとしている。

■「監視資本主義」に抵抗する暗号資産

ウィルコックスによると、プルーフ・オブ・ステークは「実証済み」の技術であり、その証拠として、カルダノ(Cardano)やアルゴランド(Algorand)、コスモス(Cosmos)、テゾス(Tezos)などのネットワークの立ち上げが成功していることを挙げている。

「省エネコイン」として知られるカルダノはここ最近、ビットコインやイーサリアムに次ぐ、時価総額が第3位の暗号資産として広く知られるようになった。

ウィルコックスによると、PoSへの移行は、環境に優しいだけでなく、誰にとってもメリットをもたらすものになるという。

しかし、ZcashがPoSへの移行に成功したとしても、ビットコインが同じ道を歩むとは限らない。ビットコインのコミュニティは、歴史的に大きな変化に抵抗を示しており、彼らにとってプルーフ・オブ・ワークは、そのイデオロギーの一部とも言える。

それでもなお、ウィルコックスがZcashを進化させようとしている最大の理由は、政府や企業から個人のプライバシーを守る上で、私たちは今、転換点に差し掛かっているからだという。「企業や政府は、以前よりもさらに個人のプライバシーを支配するようになっている。プライバシーの重要性に気づき、人間同士のつながりや自治権をもっと大事にしようと考える人がますます増えている」と、ウィルコックスは指摘する。

世界の中央銀行がデジタル通貨の導入を進める中で、「監視資本主義」と呼ばれる恐ろしい社会システムの到来も懸念されている。「私たちのミッションは、世界のすべての人に力を与え、自由な社会を実現することだ」と、ウィルコックスは語った。

Steven Ehrlich