【市場規模「6万人」が「39人」に激減する冷徹な引き算】
企業の掲げる「国内患者6万人」という数字は、単に過去に頭部外傷を負ったすべての人を足し上げた「砂漠の砂の量」に過ぎません。ここから、アクーゴが国に認められた極めて狭いターゲットへと絞り込んでいくと、市場は恐ろしい勢いで溶けていきます。
まず、本人の意思に関係なく、医学的な適応ルール(選択・除外基準)だけで全体の約95%が容赦なく脱落します。
「18歳〜75歳」という年齢や慢性期という時期のフィルターでまず50%に半減し、そこから「自立歩行できる軽症者」や「寝たきりの最重症者」を省く重症度のフィルターでさらにその30%へと削られます。
そして何より最大の壁となるのが、「損傷部位とサイズのフィルター」です。アクーゴは脳の「傷ついた空洞」に直接細胞を植え付けるため、MRIで明瞭な局所病変が確認でき、かつ器具で狙えるサイズでなければなりません。頭部外傷に最も多い、脳全体に無数の細かい傷が散らばる「びまん性軸索損傷」などはすべて対象外となり、ここで残るのはそのわずか40%です。さらに関節の拘縮やてんかん発作などの合併症フィルター(80%)を通すと、ドクターから「あなたはアクーゴを打つ条件を満たしています」と言われる患者は、この時点で全体のわずか4.8%(約3,000人)にまで縮小します。
しかし、本当の「死の谷」はここからです。医学的に適応とされた3,000人のうち、実際に「脳手術を受けます」と同意する患者は、20人に1人(わずか5%)程度にすぎないのが臨床現場のリアルです。
なぜなら、アクーゴがもたらす効果は「麻痺の改善」であり「完治」ではないからです。すでに何年もその状態で生活スタイルが固定されている慢性期の患者や家族にとって、「手が少し動くようになるかもしれない」という期待に対し、「頭蓋骨を開け、脳の深部に直接針を刺すリスク(脳出血、感染症、さらなる麻痺の悪化)」という恐怖はあまりにも割に合わないと判断されるためです。
さらに、この特殊な手術ができるのは国が指定した一握りの高度な大病院(インフラの壁:その25%)に限られます。
これら「医学的適応の壁」と「患者心理・インフラの壁」をすべて掛け合わせると、最終的に残る確率は全体のわずか0.06%。
「6万人 × 0.06% = 約36人」
この冷徹な引き算の結果こそが、中医協が弾き出した「ピーク時:年間39人」という数字の動かぬ正体です。
外傷性TBI市場はビジネスとして捉えるならば「超希少疾患(ウルトラ・オーファン)」の規模であり、だからこそサンバイオは市場が100万人を超える「脳梗塞」への適応拡大へと必死に舵を切らざるを得ないのです。