現在のアメリカは巨額の財政赤字を抱えており、米国債の発行残高も増え続けている。本来なら発行量が増えれば金利が上がり、国債価格は下がりやすくなる。
しかし市場が不安定になると金融システム全体に影響するため、FRBや金融機関はさまざまな形で国債市場を支えてきた。実際、FRBのバランスシートはコロナ危機後に約9兆ドルまで膨らみ、その後QT(量的引き締め)で約6兆ドル台まで縮小したが、最近は再び増加傾向も見られ、完全な縮小は難しい状況にある。
一方、現在の米国株市場はAI関連銘柄を中心に非常に高い評価を受けている。企業業績の伸びもあるが、一部には過熱感があり、将来何らかのきっかけで大きな調整や金融危機が起こる可能性もある。歴史的に見ても、1987年のブラックマンデー、2000年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショックなど、相場が楽観に傾いた後には大きな下落が起きている。
もし大きな危機が発生すると、投資家は株やリスク資産を売り、安全資産へ逃避する。これをリスクオフという。過去の例では、危機の震源地がアメリカであっても、世界中の資金はドルと米国債へ向かった。リーマンショックではドル高・米国債高・円高が同時に起きた。つまり、危機は米国債に対して巨大な買い需要を生み出す。
そこで考えられる仮説がある。もし政府の支援を受けた主体や金融機関が大量の米国債を抱えているなら、いつまでも保有し続けるのは難しい。しかし平時では売れば価格が下がってしまう。ところが危機時には世界中から米国債を買いたい人が現れる。そのため、危機時の需要を利用して保有していた国債を市場へ戻すことは理論上可能である。
重要なのは、ここで言っているのは「儲ける」という話ではなく、「抱え込んだ資産を処分する機会になる」という話である。危機によって発生した需要が出口になるという考え方だ。
「株式市場にはバブル的要素があり将来危機が起こる可能性がある。危機になればドルと米国債に資金が集まる。その時、大量の米国債を抱えている主体にとっては保有分を市場へ戻す好機になるかもしれない」
金融危機は必ずしも誰かが意図的に起こすとは限らない。しかし歴史を振り返ると、危険な兆候が見えていたにもかかわらず十分な対策が取られず、結果として危機が発生した例は少なくない。リーマンショック前には住宅バブルや過剰融資、複雑な金融商品の拡大が警告されていたが、景気や利益を優先して対応が先送りされ、最終的に大規模な金融危機へ発展した。同様に、ITバブル崩壊の前も株価の過熱は広く認識されていたが、上昇相場が続く間は誰も積極的に止めようとしなかった。
現在も米国株市場にはAI関連銘柄を中心に過熱感を指摘する声があり、将来大きな調整や金融危機が起こる可能性は否定できない。もし危機が起これば投資家は安全資産を求め、ドルや米国債へ資金を移す傾向がある。過去の危機でもドル高・米国債高が起きており、危機は米国債に対する大きな需要を生み出してきた。
そのため、もし政府の支援を受けた主体や金融機関が大量の米国債を抱えているなら、危機時の需要は保有資産を市場へ戻す好機になるという考え方は理論上成り立つ。ただし、それは「危機を起こした」という意味ではなく、「危機が起こりそうな状況を容認し、その結果として発生した危機を利用した」という見方である。つまり、意図的な陰謀というよりも、危険を認識しながら成長や市場維持を優先し、結果として危機が起きたという歴史上よく見られる構図として理解することができる。
アメリカが戦争や国際的緊張を生み出していると断定するつもりはない。しかし、国家の政策は安全保障だけでなく、経済や金融、市場への影響も含めて総合的に判断される。その観点から見ると、戦争や国際的緊張が高まった際に起こるリスクオフによって、世界の資金がドルや米国債へ流入するという事実は無視できない。実際に過去の金融危機や国際紛争では、投資家は安全資産を求めてドルや米国債を買い、結果としてアメリカの資金調達環境が改善することがあった。現在のアメリカは巨額の財政赤字と国債発行残高を抱えており、米国債市場の安定は極めて重要な課題となっている。そのため、戦争や国際的緊張がもたらすドル高や米国債需要の増加は、政策決定者にとって一定のプラス要因として認識されている可能性はある。もちろん、それが戦争を行う主な理由であるとは言えないが、多くの要素の中の一つとして考慮されていても不思議ではない。つまり、戦争や国際危機は安全保障上の問題であると同時に、結果としてドル体制や米国債市場を支える効果を持つため、その金融的側面にも注目する価値があるという考え方である。