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上場後1年足らずでテンバガーを達成! キオクシアHDが押し目買いの好機到来|注目企業の決算レポート
2024年12月に東証プライム市場に上場したキオクシアホールディングス<285A>。公募価格が仮条件の上限を下回って決定したうえに、初値が公募価格割れという冴えないスタートを切った同社ですが、上場後1年足らずでテンバガー(株価10倍高)を達成! 直近の決算発表では、ネガティブサプライズと捉えられ、現在、株価は調整中です。そんなキオクシアホールディングスについて、個人投資家に銘柄情報を発信しているカブ知恵の藤井英敏氏にお話を伺いました。
情報提供元:All About編集部
取材日:2025年11月20日
公募価格割れの銘柄が、わずか1年足らずで株価10倍増に!
キオクシアホールディングス<285A>は、2024年12月18日に東証プライム市場に上場したばかりの半導体メモリ専業の世界大手企業です。もともとは、東芝のメモリ事業を担う会社で、2019年に東芝メモリからキオクシアへと社名変更しました。社名のキオクシアとは、日本語の「記憶(KIOKU)」とギリシャ語の「価値(AXIA)」に由来し、同社では、「『記憶』で世界をおもしろくする」というミッションを掲げています。
同社が得意とするのは、「NAND型フラッシュメモリ」と呼ばれる記憶媒体。NAND型フラッシュメモリは、大容量のデータ保存を可能にする記憶用デバイスで、スマートフォンなどの身近な電子機器やデータセンターに欠かすことができない基幹部品です。また、2027年をめどに、データ読み出し速度を従来比100倍近くに高めたSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)の製品化を米国のエヌビディアと共同開発で進めています。
株価は、2024年12月18日の初値1,440円から2025年11月14日には、1万4,405円まで上昇し、わずか1年足らずでテンバガー(株価10倍高)を達成しました。今でこそ、半導体関連の中核銘柄として位置付けられていますが、IPO(株式の新規上場)当初は、公募価格が仮条件の上限を下回って決定したうえに、初値が公募価格割れで寄り付くといった冴えないスタートとなりました。ちなみに、この年の国内のIPOは86社で、公募価格が仮条件の上限を下回って決定したのは、同社を含めてわずか2社でした。
同社の上場時の想定時価総額は7,500億円と、東証プライム上場の超大型案件でした。にもかかわらず人気が出なかったのは、当時のNAND型フラッシュメモリの需給の先行きが不透明だったことに加え、過去の赤字実績に不安を感じた投資家が多かったことも一因にあるようです。さらに、仮条件の上限で決まらなかったことで、初値の公募割れリスクも指摘されていました。実際、公募価格1,455円に対し、初値は1,440円という公募価格割れのスタートとなりました。
「キオクシアホールディングス<285A>の上場当時も、AI(人工知能)や半導体は株式市場の大きなテーマではありましたが、機関投資家をはじめ、株のプロたちも同社のNAND型フラッシュメモリの将来性には懐疑的だったのでしょう。ただ、その後は、モノやサービス、株式や不動産価格がどんどん上がり続けるインフレが続き、同社の株価が見直されてきました。加えて、AIという産業革命級のインノベーションによって世界的な電力不足が心配され、データセンターに世界中の巨大IT企業が巨額の投資を発表するようになりました。そこで、データセンター関連の割安株として同社に注目が集まったわけです。
似たようなことは、過去のインターネットバブルでもありました。その時と同じようなことが足元で起こっているのだと思います。19世紀の米国のゴールドラッシュの際に、ツルハシを売る業者が儲かったように、AIに必要なインフラやツールを提供する企業の株価が急騰しているわけです」(藤井氏)
中間決算の発表は失望売りを誘い、翌日の株価はストップ安に!
わずか1年足らずでマーケットの評価がガラリと変化し、株価も10倍高を達成した同社は、2025年11月13日に2026年3月期の中間期決算を発表しました。同社の決算短信によると、第2四半期累計(4~9月期)の連結最終利益は前年同期比66.5%減の589億4,600万円に落ち込みました。データセンター向けを中心にメモリ需要は堅調だったものの、NAND型フラッシュメモリの価格が高騰していた前年同期の反動が響いたとのことでした。この決算発表を受け、翌日(14日)の株価は幅制限一杯のストップ安まで売られ、その後も上値の重い展開が続いています。
「決算発表を受けて利益確定売りが殺到したわけですが、それまでの株価の値動きを見ても分かるように、マーケットでは決算発表に向けて期待感が膨れ上がり、株価が急騰していましたよね。こうなると、決算が悪ければ当然、失望売り、仮に決算が良かったとしても『材料出尽くし』で売られてしまうことは容易に予想できました。
ただ、個人的には、今回の決算は申し分ない内容と捉えています。というのも、第2四半期はガイダンスの上限を超えていましたし、第3四半期に関しても増収増益で過去最高益を見込んでいるのですから。一時的にバブル化していた株価が、ちょっとしゅんとなってしまっただけだと思います。
実際、同社をウオッチしているアナリストたちも今回の決算発表を受けて、続々と目標株価の引き上げに動いています。例えば、国内の中堅証券では、目標株価を従来の1万2,700円から1万6,200円に引き上げたところもありますし、外資系証券の中には目標株価を2万3,000円に設定しているところもあるほどです」(藤井氏)
過去3年間の3月期の実績と2026年3月期の業績予想(出典:同社の決算短信より作成)
決算発表と同時に、同社がホームページ上にアップした「決算説明会資料」によると、総括として、①第2四半期はAI需要の強さと当社収益力を再確認、②第3四半期は販売単価上昇とAI需要を中心に過去最高の売上高と利益拡大を見込む、③当面需給はタイトとあります。
さらに、「この傾向は当面続くと考え、需要が供給を上回る状況のもと、売上拡大基調が継続する見込みです。また、来年度は期初の2026年4月から弊社BiCSの第8世代が主力商品となり、収益に貢献する見込みです」とつづられています。つまり、マーケットは失望売りとなった一方で、会社側やアナリストは今回の決算内容を高く評価していると言っていいでしょう。
一方、懸念材料がないわけではありません。例えば、同社が扱うNAND型フラッシュメモリですが、メモリ市場は周期的に需給サイクルが繰り返される傾向があります。また、サムスン電子などの競合他社も存在しており、価格競争も心配されます。加えて、大規模な設備投資を続けているため、供給が過剰になった場合には収益性が圧迫される懸念もあります。
「当面の需給に関しては、会社側の見解通り、需給タイトと考えていいでしょう。競合他社については、NAND型フラッシュメモリの世界シェアで同社は約17%を握っており、サムスン電子、SKハイニックスに次いで第3位に位置しています。今後はシェアの拡大も見込めるはずです。実際、エヌビディアと協力して生成AIサーバー向けに超高速SSD(ソリッドステートドライブ)を共同開発していますので、将来的な期待も高まっています。過剰投資への心配に関しても、世界のデータセンターへの投資は始まったばかり。そもそも、データセンターをつくるという計画だけで、ほとんどできていないというのが現状です。
また、株価の需給に関しては、2025年11月5日にはMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)の主要株価指数である『グローバルスタンダード指数』に新規採用されることが発表されましたので、世界中の機関投資家の買いに加え、指数への連動を目指す投資信託などによる買いも期待できます。目先は、一時的に調整する可能性もありますが、今後は業績の拡大に比例するかたちで株価も上を目指すのではないかと考えています」(藤井氏)
押し目買いからのバイ&ホールドで上昇幅を狙う
なお、藤井氏によると、「この手の銘柄は押し目買いが有効ですが、買った後は、バイ&ホールドで持ち続けることで大きなリターンが狙える」とのこと。常に株価を気にしていると、含み益を減らしたくないという気持ちから、すぐに利益を確定させてしまいがちです。世界的なAIイノベーションはまだ始まったばかりですので、目先の株価の上昇に一喜一憂するのではなく、長期間にわたってじっくりと含み益を増やしていく戦略が有効とのことです。
最後に、キオクシアホールディングス<285A>の株価は、2025年12月上旬現在では8,000円台後半を推移しています。最低投資金額は90万円弱と、一般の個人投資家にとってはややハードルが高いのですが、今後は分割も期待できるかもしれません。
「東証では、望ましい投資単位の水準として、50万円未満という水準を明示しています。同社の株価は一時1万5,000円台にトライする場面もありましたので、株式分割を求める声が出ても不思議ではありません。ただ、株価の上昇だけを考えると、分割はしないほうがいいというのが一般的ですし、会社側もそう考えているのではないでしょうか。
それは、ユニクロを展開するファーストリテイリング<9983>や東京エレクトロン<8035>などを見ても明らかです。幸い、一時よりも株価はだいぶ安くなっていますので、長い目で見れば、ここは押し目買いのチャンスと捉えてもいいのではないでしょうか? 少なくとも週足チャートで13週移動平均線を株価が上回っているうちは、上昇トレンド継続中と考えていいと思いますよ」(藤井氏)
藤井英敏
カブ知恵 代表取締役
1989年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。日興証券(現SMBC日興証券)、独立系投資顧問会社を経て、1997年4月に金融情報会社フィスコに入社。フィスコでは、執行役員リサーチ部長として活躍後、2005年10月末に退職。2005年11月に株式情報会社カブ知恵を設立、代表取締役に就任。歯に衣着せぬ語り口が魅力の人気アナリスト。
取材・文:三枝 裕介
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2025/12/18更新




