今年1月のCESで話題になったAIスマートグラス「Halliday」(ハリデイ)をご存じだろうか。メガネをかけると、視界にスマートフォンの通知やメール、時計などが表示される。スピーチの時のプロンプターとしても使える。AI機能を使って、目の前で外国語で話している会話の内容を翻訳してテキスト表示したり、質問の答えを調べて表示したりといったこともできるのだ。メガネを指で触らなくても、自分の声や指輪から操作できるのもスマート。そんな“未来のメガネ”が届いたので、早速使って試してみた。(テクノロジーライター 大谷和利)
● スマートフォンの次は、「スマートグラス」が来る
少し前から、スマートフォンの次に来るものとして期待されてきたスマートグラス(メガネ)が、この数カ月でにわかに現実味を帯びてきた。
いわゆるスマートグラスには、コンピュータやスマートフォンの拡張ディスプレイになるタイプの製品と、チャット系AIとのやり取りで質問に対する回答を得たり、メールやメッセージ、ナビゲーションなどの日常的な情報処理が行えたりするタイプの製品があるが、将来的にスマートフォンを置き換える可能性があるのは、後者のAIスマートグラス(あるいは、ディスプレイ機能もあるハイブリッド製品)であろう。
そんなAIスマートグラスの一つが「Halliday AIグラス」(以下、Halliday)だ。先日、筆者がクラウドファンディングで支援していた実機が届いたので、実際に使いながらその機能を紹介し、実用性を検証していこう。
現在入手できる他のAIスマートグラスとしては、Metaがサングラスで有名なRay-Banとの協業で「Ray-Ban Meta」を販売しているほか、複数のスタートアップ企業が市場への参入を表明し、主にクラウドファンディングを通じて製品化を進めている。ただし、日本国内ではRay-Ban Metaの正式な販売は行われていない。中には単体で機能する製品もあるが、基本的にはスマートフォンの周辺機器という位置付けだ。
● AIグラス「Halliday」とは?
Hallidayは一般への販売に先立って、クラウドファンディングのKickstarterやIndygogoで5.9億円相当の資金調達に成功した。現在、日本では、2026年1月頭までMakuakeでプロジェクトが公開中だ。筆者は今年の初めにKickstarterでバッカー(支援者)となり、当初予定されていた初夏の出荷開始を心待ちにしていたが、開発の遅れにより11月に製品が届いた。
たとえば、Ray-Ban Metaはカメラ機能を内蔵し、それが捉えた被写体についてAIに質問できるが、ディスプレイ機能はなくAIとのやり取りは、すべて音声で行われる。これに対してHallidayは、カメラ機能はないものの、DigiWindowと呼ばれる超小型のグリーンモニタ(後述)が組み込まれており、AIの回答やその他の情報は、必要に応じてそこに表示される仕組みだ。スピーカーも内蔵されており、音質はそこそこだが、通話やインストラクションの音声、そして音楽再生に対応する。
カメラ機能は、AIが周囲の状況を把握するうえで役立つがプライバシー上の懸念がある。また、Metaは、レンズ内の視界に映像を表示できるRay-Ban Displayと呼ばれるモデルも発表しているが、そのような機構はどうしてもメカニズムや電力消費の肥大化につながり、外寸や重量が増す要因となる。また、レンズ内の表示機構(光を導くためのウェイブガイド)が角度によって外部からうっすらと見えたり、明るい外光の下では視認性が落ちるなどの制約もある。
● レンズ込みでも40g以下の軽さで、普段使いしやすい
そのため、Hallidayはカメラを内蔵せず、レンズ内表示ではない独自のDigiWindowを開発して、プライバシー問題の回避や日常使いできるデザインにこだわったものと考えられる。そのおかげで、Hallidayの外観は一般的なメガネと区別がつかず、重量もレンズ込みで40gを切る軽量なもの(フレーム単体では28.5g)に仕上がった。レンズを入れず、いわゆる「伊達メガネ」のように使うこともできる。
拡張ディスプレイ機能がメインのスマートグラスが70〜100g、Ray-Ban Metaでも52gはあるので、かけ心地という点でも、Hallidayは普段使いできる仕様になっている(バッテリー駆動時間も公称最大12時間である)。
Hallidayに近い製品としては、やはり40gを切る「Even G2」という製品があり、こちらはレンズ内に情報をグリーン表示できるが、カメラだけでなくスピーカーも内蔵せず、AIやスマートフォンからの通知などはすべて視覚的に提示される。
● クリアな表示と許容できるレスポンス
違和感のない外観の実現に貢献しているのが、レンズフレームの内側上部に組み込まれたDigiWindowだ。メガネのレンズに投影するのではなく、右目の視界の一部に直接、緑色1色の画面が表示されている状態をイメージしてほしい。
この機構を「透明ディスプレイ」や「シースルーディスプレイ」「網膜投影技術」などと説明しているYouTuberがいるが、それらはすべて誤りである。「網膜投影技術」はMakuakeの説明でも使われているのが問題だが、Hallidayの公式サイトでは、「Invisible Display」という呼び方をしており、あくまでも周囲から見えないだけで、透明でもシースルーでもなく、その実態は超小型のディスプレイシステムだ。
DigiWindowのおかげで、Hallidayはレンズ自体に特殊な技術を導入することなく、情報表示を可能にした。そのため、ユーザーの視力が変わった場合でも、メーカーに返送することなく、また、一般的なレンズの価格のみで、メガネ店に交換を依頼できる(原稿執筆の時点では、提携店舗を選択中)。
メガネのフレームに対する目の位置には個人差があるため、DigiWindowは左右方向への移動と上下方向の角度の調整が可能であり、さらにピント合わせのメカニズムが内蔵されている。Hallidayをかけたままでは調整しにくいため、外した状態で調整しては、かけて確認するような作業が必要になるが、それが終わればクリアに見えるようになる。感覚的には、3.5インチ程度のグリーンモニタを覗き込むような感じである。
● リング(指輪)をタップ・スワイプして操作可能
操作は、テンプル部のタッチサーフェスと、リングのどちらでも行える。タップで選択(時計画面からメニューを出したり、メニュー項目を選ぶなど)、ダブルタップでメニュー階層を戻る、スワイプで選択項目のスクロールなどに対応している。
テンプル部のタッチサーフェスだけでも十分に操作可能だが、リングなら手を頭の高さまで上げずに済むため、周囲の注意をひかずに操作できるメリットがある。一方で、テンプル部には電源スイッチを兼ねたアクションボタンがあり、よく使う機能を割り当てることができる。
現状で用意されている機能としては、リアクティブ(受動的)AI、プロアクティブ(能動的)AI、翻訳、チートシート(6段階のスクロール速度と3段階の文字サイズで、プレゼン原稿などを表示できるカンペ)、音声メモ、リマインダーがあり、AIとのやり取りや翻訳結果はスマートフォンのアプリと同期する。また、チートシートとリマインダーはアプリ側で入力した情報がHalliday側に送られ、音声メモは逆にHalliday側で記録したものがアプリ側に送られて、文字起こしや要約の処理ができる。
なお、プロアクティブAI、高度なAI翻訳、音声メモに関してはポイントを購入して使う有償機能の扱いだが、クラウドファンディングでの購入者には180日間有効な9200ポイント(プロアクティブAI利用の場合、2500分に相当)が付くほか、毎月480ポイントが自動で付与される。
AIに質問して回答が表示されるまでのレスポンスタイムは、あまりストレスを感じずに利用できる印象だ(質問の複雑さにもよるが)。翻訳機能も、多少のタイムラグを生じるものの、許容範囲にある。ただし、長時間、斜め上のDigiWindowsを見つめることは現実的でなく、離れた場所の音声は内蔵のマイクで拾いにくいため、たとえばプレゼンの原稿をすべてチートシートに入れて確認したり、外国のドラマの字幕がわりに使ったりするような用途には向いていない。
本格的な利用はこれからだが、筆者は自転車で移動する機会が多いので、時刻やリマインダーなどを、少し目線を上げて確認できるだけでも重宝する(DIgiWIndowが消えるまでの時間は設定でき、スリープさせない連続表示も可能)。
● USB-Cケーブルで充電可能、今後も機能が増える予定
専用アプリは常時起動しておく必要はなく、設定を変えたり、アクションボタンの機能を選んだり、トラックパッドに似た画面でHallidayを操作したいような場合に利用するスタイルだ。
また、現時点ではナビゲーションや装着状態の検出によるDigiWindowの自動オン/オフなど、あれば便利と思われる機能が実装されていないが、それらは今後のアップデートで追加されるとのこと。そのほかにもAIの精度改善や、通知機能に対応するアプリの追加などが予定されている。
個人的な要望としては、AIの応答や翻訳結果をDigiWindowでの表示だけでなく音声でも聞けたり、AIとの対話でタイマーやリマインダーのセットができたり、学習結果からの回答だけでなくリアルタイムのネット検索などもサポートされていくとうれしい。
なお、細かいことだが、Hallidayの充電は、特殊な専用ケーブルではなくUSB-C(Type-C)ケーブルで行える。リングの充電も、キーホルダーなどにつけて持ち運べる磁力吸着式のアダプタを介して、同じくUSB-Cケーブルで行える。こうした点も、Hallidayの使い勝手の良さにつながっている。
円安のため、日本ではやや割高になるが、Kickstarterではレンズ込み399ドル(約6万3000円)だったので、価格を考えれば、割り切りも含めて、よくまとまった製品だと感じる。
この分野の製品は、今も参入メーカーが増えつつあり、来年にはApple製のスマートグラスも登場すると噂されている。Hallidayの方向性が決定打になるかどうかは、まだわからないが、AIスマートグラス普及への道筋を作ったことは確かだろう。
.article-body iframe {max-width: 100%;}
大谷和利
最終更新:11/22(土) 6:00