11月21日に閣議決定された経済対策では、電気・ガス代の補助や子ども世帯への給付金などが予定されています。電気・ガス補助については来年1月から開始予定とのことで、暖房が欠かせない冬季中の支援はありがたいものとなりそうです。
一方で、補助がある場合でも家計の負担を感じる方もいます。そうしたときに暮らしを守るセーフティネットの役割を担う制度の一つが「生活保護」です。適用には一定の要件があり、まずは福祉窓口での相談や審査が必要になります。
生活保護は、近年申請件数が増加傾向にあります。保護を受けている方々は、どのような年代に多いのでしょうか。また、生活保護受給率にはどれくらいの地域差があるのでしょうか。この記事では、生活保護の申請件数や都道府県ごとの生活保護受給率について解説します。
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【生活保護】8つの扶助「医療費の自己負担はない?」
生活保護は、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、自立を助長する制度です。病気やケガなどで働けなくなった場合や、収入が極端に減少した場合など、日々の暮らしに負担が生じる場合は誰もが申請できる権利となっています。
生活保護で支給される保護費は、地域ごとに定められた「最低生活費」から、収入を差し引いた金額です。
生活保護で受けられる扶助は、以下のとおりです。
・生活扶助:日常生活に必要な費用(食費・被服費・光熱費等)
・住宅扶助:アパート等の家賃
・教育扶助:義務教育を受けるために必要な学用品費
・医療扶助:医療サービスの費用
・介護扶助:介護サービスの費用
・出産扶助:出産費用
・生業扶助:就労に必要な技能の修得等にかかる費用
・葬祭扶助:葬祭費用
また、保護を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。下記を満たしてもなお収入が最低生活費に満たないのであれば、生活保護の対象になります。
・資産の活用:預貯金や生活に利用されていない土地・家屋などがあれば売却して生活費に充てること。
・能力の活用:働ける場合は、能力に応じて労働すること。
・あらゆるものの活用:年金や手当など他の制度で給付を受けられる際は、それらを優先して活用すること。
・扶養義務者の扶養:親族などから援助を受けられる際は、援助を受けること。※それでもなお収入が最低生活費に満たない場合は、保護を適用する。
次章では、生活保護受給率の高い都道府県を見てみましょう。
【生活保護】都道府県で見る「生活保護受給率の高い地域はどこ?」
東日本(北海道・東北・中部)と西日本(関西・中国・四国・九州)で、生活保護受給率の高い都道府県を見てみましょう。
東日本
・北海道:2.14%
・青森県:2.19%
・岩手県:0.89%
・宮城県:1.03%
・秋田県:1.21%
・山形県:0.70%
・福島県:0.77%
・茨城県:0.94%
・栃木県:0.85%
・群馬県:0.67%
・埼玉県:1.27%
・千葉県:1.30%
・東京都:1.94%
・神奈川県:1.31%
・新潟県:0.66%
・富山県:0.26%
・石川県:0.43%
・福井県:0.34%
・山梨県:0.70%
・長野県:0.42%
・岐阜県:0.40%
・静岡県:0.77%
・愛知県:0.56%
・三重県:0.90%
東日本では、青森県と北海道が2%を上回っています。このほか、東京都や神奈川県、千葉県などの首都圏が1%台中盤~後半の割合となっています。
これ以外の都道府県は1%台前半や1%以下の生活保護受給率です。もっとも低いのは富山県の0.26%となっており、全国でも1番低い数字です。
生活保護受給率(被保護率)というのは「人口に対する受給者の割合」を示す指標であり、地域ごとの背景(年齢構成や雇用状況、住宅事情など)を踏まえて読み解く必要があります。
西日本
・滋賀県:0.68%
・京都府:1.16%
・大阪府:1.92%
・兵庫県:0.86%
・奈良県:1.16%
・和歌山県:1.04%
・鳥取県:1.04%
・島根県:0.59%
・岡山県:0.56%
・広島県:0.80%
・山口県:0.94%
・徳島県:1.74%
・香川県:0.73%
・愛媛県:1.04%
・高知県:1.81%
・福岡県:2.09%
・佐賀県:0.91%
・長崎県:1.41%
・熊本県:0.94%
・大分県:1.61%
・宮崎県:1.32%
・鹿児島県:1.42%
・沖縄県:2.28%
西日本では、沖縄県が2.28%ともっとも高くなっており、全国でも1番生活保護受給率が高くなっています。また、福岡県も2%台、大阪府もほぼ2%台と比較的高い生活保護受給率です。
一方、もっとも低いのは岡山県の0.56%です。中国地方は、全体的に生活保護受給率が低い傾向にあります。
最後に、全国平均を見ておきましょう。
・全国平均:1.62%
全国平均は1.62%となっています。平均より高い都道府県は8つ、残り39府県は平均よりも低い生活保護受給率です。
次章では、生活保護申請の件数・傾向を見ていきましょう。
【生活保護】増加する申請件数「どんな世代で申請が多い?」
生活保護の申請件数は、増加傾向にあるようです。2023年・2024年の申請件数を比較してみましょう。
2023年申請件数
・1月:2万95件
・2月:1万9318件
・3月:2万4493件
・4月:1万9633件
・5月:2万2680件
・6月:2万1681件
・7月:2万2627件
・8月:2万1341件
・9月:2万1644件
・10月:2万900件
・11月:2万1972件
・12月:1万8695件
・合計:25万5079件
2024年申請件数
・1月:2万154件
・2月:1万8427件
・3月:2万1610件
・4月:2万796件
・5月:2万3952件
・6月:2万100件
・7月:2万5235件
・8月:2万1359件
・9月:2万1832件
・10月:2万1561件
・11月:2万2320件
・12月:1万8551件
・合計:25万5897件
2024年の申請件数は25万5897件です。2023年は25万5079件ですから、818件、約0.3%ほど増加しています。
増加の理由は、受給世帯に高齢者世帯が増えている点が考えられるでしょう。昨年12月時点の保護世帯数164万3111世帯のうち、高齢者世帯は90万2810世帯で、割合にすると54.9%を占めています。
また、単身世帯の高齢者は51.1%と半数以上を占めており、身寄りのない人の保護件数が増えているのです。
注目すべきは、年金受給額と保護費の逆転現象です。国民年金(老齢基礎年金)の満額は、2025年度で月額6万9308円の一方、東京都の保護費の目安は月額13万円程度です。生活保護費のほうが大きな金額をもらえる現状から、貯蓄のない高齢者世代は生活保護の申請をせざるを得ない状況となっています。
日本の高齢者人口は2025年6月1日現在で3620万4000人で、総人口1億2337万1000人の約30%を占めています。今後も、年金だけでは暮らせない高齢者による申請は、増加が見込まれるでしょう。
次章では、保護申請のハードルとなっているものを解説します。
【生活保護】「家族に知られたくない…」扶養照会が申請をためらう要因?
生活保護は誰でも申請できますが、日々の暮らしに負担が生じる場合でもなお申請をためらう人がいます。その理由のひとつが「扶養照会」の仕組みです。
扶養照会とは、生活保護を申請した際に、福祉事務所が親族に「申請者の経済的支援ができるか」を問い合わせることです。
親族は扶養を断ってもよいことになっていますが、申請者自身は「家族には迷惑をかけたくない」「生活に困っていることを知られたくない」といった理由で、照会を拒否するケースがあるようです。
ただし、近年では「しばらく連絡を取っていない」「縁を切られている」といったケースでは、扶養照会を例外的に行わなくてもよいことになっています。
福祉事務所や自治体で、扶養照会に関する相談をしてみると、柔軟に対応してもらえる可能性があります。
まとめにかえて
生活保護の件数は増加傾向にあり、とくに高齢者世帯は保護世帯数の50%以上を占めている状況です。また、生活保護受給率は全国平均1.62%で、平均より高い都道府県は8つありました。なお、生活保護費には、冬季の暖房費などに充てるための「冬季加算」が地域や期間に応じて支給されるしくみもあります。
生活保護は私たちのセーフティネットとして重要な制度ですが、一方で年金よりも高い保護費や扶養照会のしくみなど、課題もあります。
生活受給率が増える今後の見込みも含め、時代とともにどう制度が変わっていくか、注視していく必要があるでしょう。
参考資料
・厚生労働省「生活保護制度」
・厚生労働省「令和6年度被保護者調査 閲覧表」
・厚生労働省「令和6年度被保護者調査 結果の概要」
・厚生労働省「生活保護制度における生活扶助基準額の算出方法(令和5年10月)」
・厚生労働省「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」
・総務省「人口推計-2025年(令和7年)11月報-」
石上 ユウキ
最終更新:12/4(木) 18:05