プロフィール

総合保険代理店で個人を対象とした家計相談やライフプランニングを約10年経験。2021年以降は金融専門ライターとして複数メディアで活動しており、大手証券会社・保険会社や大手金融メディアでの豊富な執筆実績をもつ。 暗号資産や投資信託、国内株式などによる資産運用も積極的に行っている。
「円高」や「円安」といった言葉をニュースなどで耳にする機会は多いですが、外国為替について詳しく知っているという方は少ないのではないでしょうか。本記事では、円高・円安の定義や為替レートがどのように決まるのか、日常生活にどのような影響を与えるのかなど、外国為替の基礎知識を初心者の方にもわかりやすく、図や表を交えて解説します。ぜひ最後までチェックしてみてください。
最初に為替や円高・円安といった、外国為替にかかわる言葉の意味から見ていきましょう。

「外国為替」とは、異なる国の通貨を交換する仕組みです。日本では円、アメリカではドルというように、国ごとに使える通貨は異なります。そのため、違う国同士で取引を行う前に、互いの通貨を交換しなければいけません。
通貨の交換時には「通貨ペア(『米ドル/円』といった交換する通貨の組み合わせ)」ごとに設定された「為替レート(各通貨の交換比率)」を使用します。
上図では「米ドル/円」の通貨ペアは1ドル=約143円であるため、1ドルを交換するために143円が必要です。
為替レートは固定されておらず、通貨の需要と供給によって常に変動しています。特に、円の価値が上がる「円高」と、価値が下がる「円安」は、私たちの生活にも大きな影響を与える重要な要素です。
次の章では「円高」と「円安」がどのようなメカニズムで発生し、経済にどう作用するのかを、詳しく見ていきましょう。
円高・円安という文字だけを見ると「円の値段」をイメージしがちですが、正しくは「円の価値」を指す言葉です。
例えば、ある時点で「米ドル/円」の為替レートが1ドル=100円、翌日に1ドル=200円となった場合は円安が進んだといえます。下図を見てみましょう。
もともと100円で交換できたものに対して、より多くの円が必要になった、つまり「円の価値が下がった」ために「円安」と表現されます。反対に、翌日に1ドル50円になった場合は100円でより多くのドルを交換できるため「円の価値が上がった(円高)」といえるのです。
円高・円安は円の値段ではなく「外貨に対する円の価値」であることを踏まえ、次に外国為替が日常生活に与える影響を解説していきます。
外国為替は、私たちの日常生活だけでなく、個人資産にも大きな影響を与えます。
例えば、円安が進むと日本円の価値が下がるため、預貯金の価値も合わせて目減りします。一方で、円高傾向になれば預貯金の価値は上がりますが、海外通貨の価値は下がるため、海外投資に用いた資産が減少する可能性も出てくるでしょう。
こうした為替リスクを抑えるには、以下のような方法があります。
・複数の海外通貨に投資してリスクを分散させる(多通貨分散投資)
・未来の為替レートを設定し、為替の変動による損失を防ぐ方法で取引する(為替ヘッジ)
・金や不動産など、為替の影響を受けにくい資産に投資する
投資にはリスクが伴うことを意識し、自分の資産状況や許容できるリスクに応じて、慎重に判断しながら行うようにしましょう。
外国為替が日常生活に与える影響として顕著なのは、ガソリンや食料品といった輸入品の値段です。輸入品の値段は取引を行う通貨の価値に左右されるため、円高や円安の影響を強く受けます。
例えば、1ドル=100円から1ドル=120円に変動(円安)すると、同じ輸入品を購入するために必要な円が増えるため、価格が上昇します。反対に1ドル=120円から1ドル=100円に変動(円高)した場合は輸入品の購入に必要な円が減少するため、食料品やガソリンの価格も低下します。
特に、日本は食料品の約6割、ガソリンを含めたエネルギーの約9割を輸入に頼っているため、外国為替の変動を受けやすい国といえるでしょう。
(参考)
・農林水産省 日本の食料自給率
・一般財団法人 日本原子力文化財団 1章 日本のエネルギー事情と原子力政策
また、外国為替が円高・円安どちらかの状況が続くことで、物価が上がり続けたり(インフレ/インフレーション)、物価が下がり続けたり(デフレ/デフレーション)といった現象が起こります。
さらに、過剰なインフレやデフレは経済にとってはマイナスです。
例えば、インフレにより物価が上昇し続ける状況となった場合、物価が安いうちに買っておこうという心理が働きやすく、結果として需要過多を招き、物価上昇が加速します。しかし、給与は変わりづらいため、生活を圧迫する状況となってしまいます。
一方、デフレにより物価が下落し続ける状況となった場合は、物価がもっと安くなってから買おうという心理が働きやすいです。結果として企業は在庫処分のために物価を下げ、物価下落が加速します。すると企業の業績が悪化、ひいては給与の減額につながり、生活を圧迫する状況となってしまいます。
このように、インフレやデフレは日常生活や経済活動への影響が大きいため、ニュースや新聞などから為替の動きを注視するよう心がけましょう。
為替レートの変動をチェックしておけば、現在の景気が円高なのか、円安なのかといった傾向を把握しやすくなります。続いては、為替レートの定義や、レートが変動する理由について詳しく見ていきましょう。

前述したとおり、為替レートとは「違う国の通貨を交換する際に用いられる比率」です。チェックした時点での為替レートが1ドル=140円だった場合「1ドルを買うのに140円が必要」になります。
為替レートの変動によって円の価値がどのように変化するのか、ケーキに例えて考えてみましょう。
在庫が100個のケーキに対して購入希望者が200人いた場合、供給よりも需要が上回っているため、ケーキの価値は上がります。逆に50人しか購入希望者がいなかった場合、供給よりも需要が少ないため、ケーキの価値は下がります。
このように、為替レートは通貨に対する需要と供給の度合いにより、常に変動しています。では、通貨への需要と供給以外で為替レートに影響を与える要因は何でしょうか。
通貨への需要と供給以外で為替レートが変動する要因は、大きく分けて下表の5つです。
上記の中でも特に、新型コロナウイルスの世界的な流行は、為替市場に大きな影響を与えました。
政府による経済活動の強制停止(ロックダウン)を始めとした世界経済の停滞により、投資家たちはリスクを回避しようと安全資産である円を買い集めました。その結果、2020年3月から同年12月にかけて徐々に円高が進行していったのです。
しかし、2021年以降は2つの要因により円安が加速します。
1つ目は、日本と米国における金融政策の違いです。米国が金融緩和政策(中央銀行が市場に資金を供給することで、金利を下げ、経済活動を活性化させる政策)を縮小し、金利を引き上げ始めた一方で、日本は金融緩和政策を継続したため、両国の金利差が拡大しました。結果、高金利のドルを求める動きが活発化し、ドル高・円安が進行しました。
2つ目は経済回復への期待向上です。新型コロナウイルスワクチンの普及に伴い、世界経済の回復期待が向上し、投資家たちは、成長が見込まれる資産に資金を投入し、円を売る動きが活発化しました。
このように、為替レートはさまざまな要因が複雑に絡み合って変動しています。そのため、専門家であっても、その動きを正確に予測することは容易ではありません。
しかし、日々の世界で起きている事象と為替レートを関連させながらチェックすることは、投資の精度を高めるうえで非常に重要です。

専門知識がなくとも、円高や円安といった外国為替の動きをチェックするだけで得られる3つのメリットがあります。早速、チェックしていきましょう。
為替の動きが理解できると、日常生活や家計管理に役立ちます。例えば、円安傾向が続くと輸入品の価格が上がりやすくなるため、ガソリンや食料品などの値上がりを予測しやすくなるでしょう。
反対に、円高傾向が見込まれる時期は、海外旅行を計画したり、外国製品の購入を検討したりといったことも可能です。円高と円安の影響を受けやすい日本では、為替の動きを把握することで得られるメリットも大きいといえるでしょう。
為替の知識は、投資の世界でも大きな武器となります。外国株式や外貨預金に投資する際、為替の動きを理解していれば、より適切なタイミングで投資できるでしょう。
例えば、今後の経済成長が期待される国がある場合、その国の通貨に投資することで、高い利益(リターン)を得られる可能性があります。
一方で、日本やアメリカといった先進国の通貨に比べると変動幅が大きいため、相場によっては損失を出す可能性も高くなります。為替の知識があれば、こうした傾向を察知し、投資を継続するか否かを判断しやすくなるでしょう。
為替変動へのリスク対策には「分散投資(異なる国の通貨に対して複数投資を行うこと)」のほかに「為替ヘッジ」があります。
為替ヘッジには「先物取引」と「オプション取引」という2種類の方法があり、それぞれの特徴は以下のとおりです。
先物取引:未来の為替レートを設定し、そのレートでの取引を「予約」する方法
・メリット:為替レートの変動が予測できる場合、狙って利益を出しやすい
・デメリット:為替レートが悪化した場合でも、必ず取引しなければならない
オプション取引:未来の為替レートを設定し、そのレートで取引する権利を買う方法
・メリット:当日のレートを確認してから取引するか選べるので、不利になると判断した場合は取引する権利を放棄できる
・デメリット:購入権を買うために別途費用が必要(払い戻しもない)
注意点としては、為替ヘッジを実施してもリスクを100%回避できないことです。また、為替ヘッジを行うには専門知識が必要となるため、安易に実施すると損失が大きくなる可能性もあります。
まずは少額から投資を始め、為替市場の動きをじっくりと観察することから始めてみましょう。その上で、より積極的にリスク対策を行いたい場合は、先物取引やオプション取引といった方法を検討してみてください。
外国為替を学ぶことは、単に経済ニュースを理解するだけでなく、私たちの日常生活にも大きな影響を与えます。為替の動きを把握することで、海外旅行の計画や投資の判断など、さまざまな場面で役立てることができるでしょう。
ぜひ、本記事で紹介した知識を活かして、生活に役立つヒントを見付けてみてください。