プロフィール

総合保険代理店で個人を対象とした家計相談やライフプランニングを約10年経験。2021年以降は金融専門ライターとして複数メディアで活動しており、大手証券会社・保険会社や大手金融メディアでの豊富な執筆実績をもつ。 暗号資産や投資信託、国内株式などによる資産運用も積極的に行っている。
投資を検討している企業が「自己株式の取得と消却」を行っている場合、投資していいのか判断に迷う方もいるのではないでしょうか。実は自己株式の取得と消却は、一般的には株価の上昇が期待され、また、株主還元や企業の財務状況の健全性に影響を与えるなど、株主にとって多くのメリットがあります。本記事では、自己株式の取得と消却とは何か、株価に与える影響やメリット・デメリットと併せて解説します。

投資を行う際に、企業が発行している自社の株式である「自己株式」の取得と消却はひとつの重要な指標になります。まずは、自己株式の取得と消却とは何か、見ていきましょう。
自己株式の取得とは、自社で発行した株式を企業自ら買い戻すことです。これは、すでに市場に流通している株式数を減少させる効果があります。株式数が減少すると、株式の需給バランスに影響を与え、価格変動をもたらします。
自己株式の保有は、数や期間に制限がありません。そのため、取締役会の決議で承認された場合は、新たに株式を発行して市場に放出したり、消却したりすることが可能です。
自己株式の消却とは、企業が市場または個人から買い戻した株式を消滅し、株式を無効にすることです。「株式消却」や「自社株消却」とも呼ばれています。
自己株式の消却は、消却を行った分、企業の発行済株式総数を減らすことが可能です。その結果、株式の希少性が高まり、株式の価値向上につながりやすくなります。
また、消却された株式は、二度と市場に出回ることはありません。
「自己株式の消却」と「処分」は似ていますが、目的や得られる成果が違います。自己株式の消却は、株式を市場から完全に消滅させ、株式数の安定化や株主への利益還元などが目的です。
一方、処分は保有している自己株式を第三者に売却することを指します。売却によって得た利益は、資金調達や企業再編などに活用されます。
もうひとつ異なるのが、企業が発行した株式の総数である「発行済株式総数」です。自己株式の消却の場合は完全に消滅させるため発行済株式総数は減少しますが、処分の場合は株式を売却するので発行済株式総数は変化しません。
自己株式の取得と消却を行うと、一般的には株価の上昇が期待されます。以下で、株価上昇の背景を詳しく説明します。

株価は供給が需要を上回ると下がり、需要が供給を上回ると上がる仕組みです。自己株式の取得と消却によって、市場に流通している株式の供給量が減少するため、株価の上昇につながりやすくなります。
、1株当たり純利益(EPS)が増加します。これにより、収益力や成長性に対する期待が高まり、株価が上昇する傾向があります。
自己株式の取得と消却を行うことによって、重要な指標である株価収益率(PER)・自己資本利益率(ROE)・株価純資産倍率(PBR)の数値が改善されます。この3つの指標は、企業の収益性や財務状況を示すものです。指標の数値が改善することで企業の評価が高まり、投資家の買い動向が強まるため、株価上昇につながります。
次に、それぞれの指標と株価の関係性を見ていきましょう。
1. 株価収益率(PER)の低下
株価収益率(PER)は、株価が1株当たり純利益(EPS)の何倍まで買われているかを表す指標です。企業の利益に対して、株価が割高か割安かを判断する材料となります。株価収益率(PER)の計算方法は「株価 ÷ 1株当たり純利益(EPS)」です。
株価収益率(PER)が低い(15倍が目安)株は、投資家から「割安な株」として注目が集まり、結果として株価が上昇しやすくなります。
2. 自己資本利益率(ROE)の向上
自己資本利益率(ROE)は、株主からの出資額に対し、企業がどれだけ利益を上げているかを数値化した指標です。「当期純利益(最終的な利益) ÷ 自己資本(返済の必要がない自社が保有する資金)」で計算します。
自己資本利益率(ROE)の数値が高い(8〜10%程度が目安)ほど「資本を効率よく使って稼いでいる企業」として、投資価値があるとみなされるため、株価上昇に期待できます。
3. 株価純資産倍率(PBR)の低下
株価純資産倍率(PBR)は、株価が、企業の安定性を示す尺度である1株当たり純資産(純資産÷発行済株式数)の何倍まで買われているかを見る指標です。企業の資産価値に対して、株価が割高か割安かを判断できます。株価純資産倍率(PBR)の計算方法は「株価 ÷ 1株当たり純資産(BPS)」です。
株価純資産倍率(PBR)が低い(1倍が目安)場合、企業の資産価値に対して株価が割安な銘柄として投資家からの注目が集まり、株価の上昇につながることがあります。
自己株式の取得と消却は株主に多くのメリットをもたらします。ここでは3つのメリットを紹介します。
自己株式の消却は、株主へ利益還元ができます。自己株式の取得と消却によって、企業の利益総額が変わらなければ、1株当たりの純利益(EPS)は向上します。
つまり、1株当たりの利益配分が増えることで、株主の資産が増加するのです。株主への利益還元は、株式の価値の向上につながります。
また、1株当たりの利益が増えることは、当然ながら投資家にとってプラス要素です。そのため、買い動向が強まり、株価の上昇が期待できるといった好循環を生むこともあります。
発行済株式総数が安定することは、自己株式の消却の大切なメリットです。発行済株式総数が多くなると株主の数も増えるため、経営に関する意思決定に時間を要し、株主の管理にかかるコストが増大するという問題が生じます。発行済株式総数が安定すれば、会社の管理体制が強化されて、意思決定が円滑に行われるようになるでしょう。
また、発行済株式総数の減少により、株主の管理が容易になるため、コスト削減にもつながります。
自己株式の消却は、相手の同意を得ずに株式を多く買い占める「敵対的買収」の防止策にもなります。前述のように、自己株式の消却は株価の上昇をもたらします。
市場から株式を買い戻し、自己株式の比率を高めれば、市場に出回る株数を減らすことが可能です。株式数が限定されることから、敵対する会社は株式を取得する際に多額の購入資金が必要となり、購入するハードルが上がるでしょう。
自己株式の消却は多くのメリットがありますが、デメリットも存在します。想定される2つのデメリットを、押さえておきましょう。
自己株式の消却を行うと、企業の自己資金が減少し、自己資本比率(資本のうち返済する必要のない純資産の占める割合)が低下します。
自己資本比率が低下すると財務面に問題があるとみなされ、株価が伸び悩んだり、金融機関からの信用を失ったりする可能性があります。
自己株式の消却は、資金繰りの悪化を招く恐れがあります。自己株式の消却は会社の資本金を用いて行いますが、その際に取得した自己株式は、原則として市場での売却や第三者への譲渡ができません。
そのため、資金繰りが悪化して、新たな設備投資や事業の立ち上げを妨げ、経営悪化につながる可能性があります。
投資を検討している企業が自己株式の取得と消却を行っている場合、不安になるかもしれません。しかし、目的やルールなどを明確にした上で実施されるのであれば、デメリットは限定的であり、株主にとってメリットの大きいものです。
投資を行う際には、企業の業績や資産状況、今後の予想など、さまざまな情報収集をした上で投資判断を行ってください。
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