プロフィール

外資系投資銀行を経てファイナンシャル・プランナーとして独立。『夫婦で貯める1億円』(ダイヤモンド社)など著作多数。日本テレビ「有吉ゼミ」、フジテレビ「ホンマでっか!?TV」などテレビ出演多数。
老後資金作りは早く始めるに越したことはありませんが、いくつになってからでも遅くはありません。非課税で運用ができるNISAを活用すれば、老後資金作り、及び、運用したお金を取り崩す際にも税金が有利になる可能性があります。(ファイナンシャル・プランナー 花輪陽子)
「FIRE(Financial Independence, Retire Early=経済的に独立して早期退職)」ムーブメントがアメリカだけではなく、日本でも流行っています。早期リタイアを計画している方だけではなく、老後資金の参考になる考え方です。FIREを考える上で、次の2つがポイントになります。
FIREの支持者は、退職後の資産の取り崩し率に関して、「4%ルール」を提案しています 。取り崩し額を投資元本の4%以内に抑えることができれば、資産を目減りさせることなく生活が可能という前提です。米国ではインフレ率が高く、預金やMMFなどでも5%の利回りは見込むことができるという経済状況もあります。
仮に資産が1億円あり、毎年の運用益が4%だと仮定すると、毎年400万円を取り崩しても資産が減らないことになります。
FIREでは、25倍の想定支出額(1年間)を準備する必要があります。年間の支出額が400万円なら、その25倍の1億円を捻出するということです。米国では、米国株式(S&P500)を中心に運用していれば、この10年前後で資産が2〜3倍程度に増えているということも現実的にありました。
引用元:Yahoo!ファイナンス
しかし、元本1億円を作ることは日本で生活をしている多くの方にとっては非常に困難かもしれません。特に、50代で本格的に老後資金を作りたいという方にとっては、定年退職までに残された時間は10年程度かもしれません。そこで、折衷案として、年金や他の所得と合わせて老後の収支を考える方法が現実的です。
家計調査(2022年)によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の場合、可処分所得(手取り)は214,426円、消費支出は236,696円と、月22,270円の赤字で、65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)の場合、可処分所得(手取り)は122,559円、消費支出は143,139円と、月20,580円の赤字です。このデータから分かることは、現在の日本では、年間50万円前後を資産運用から取り崩すことができればなんとか生活ができるということです。将来のインフレに備えてもう少し余裕を持って生活費を確保できると理想的です。
例えば、資産が2,000万円あり、毎年の運用益が4%だと仮定すると、毎年80万円を取り崩しても資産が減らないことになります。「老後2,000万円問題」がメディアで話題となったこともありましたが、2,000万円は多くの方にとって、参考になる目標額です。また、退職金も含めると、多くの方にとって、実現可能な数字でしょう。
低金利の日本で毎年4%リターンを確保することは難しいかもしれません。運用が3%リターンで引き出す金額の方が多くなったとしても、お金が減るスピードをかなり遅らせることができます。
2,000万円を3%で運用すると、運用からの収益が60万円出ます。ここから80万円を取り崩すと、元本は1,980万円に減ります。しかし、取り崩しを定率の4%に維持することによって、お金が減るスピードを抑制できるのです。
例えば、65歳で金融資産2,000万円ある方が運用利回り3%で、毎年4%ずつ取り崩す場合、35年後の100歳になってもお金は底をつきません。100歳時点の取崩累積額は2,372万円と、当初の元本2,000万円よりも使えるお金が増えることになります。
全く運用をせずに(0%リターン)の場合も4%の定率で取り崩すことにより、100歳までお金の寿命をもたせることができます。しかし、3%で運用をして増やしている時と比べると、取り崩すことができる金額に差が出ます。100歳時点の取崩累積額は1,520万円と、3%で運用をして増やしている場合と比べると取り崩しができるお金が少なくなります。
次に運用利回りがゼロで毎年80万円を取り崩す場合を見ると、90歳で資産が底をつくことが分かります。人生100年時代と言われており、人生の後半で医療費や介護費など思わぬ支出が出る可能性があります。そのため、途中でお金が枯渇するシチュエーションは避けたいところです。
このシミュレーションによって、老後資金は定率で取り崩し、かつ運用をしてできる限り利回りを高める努力が豊かな老後生活を送る上で重要ということが分かります。
老後の資金収支のコントロールは収支を整えるのが肝だと分かります。せっかくお金を貯めても、無計画に定額でどんどん資金を使っていけば、老後資金はすぐに枯渇してしまうでしょう。そのために、50代になったら、現役中から生活費をダウンサイジングする工夫も始めましょう。いきなり生活を変えることは多くの方にとって難しいからです。もしくは、副業を始めるなど、他に収入源を確保する努力をしましょう。
資産運用に関しては確実ではありません。そんな中、苦ではない働き方で収入を得るのは非常に確実な方法です。4%の取り崩し分で足りないお金はアルバイトなどで 埋めるのは合理的でしょう。例えば、夫婦で年間50万円ずつ働くなども考えられます。全く働きたくない、という場合は貯めるお金を増やしたり、節約を工夫するのも 一つです。
生活費を見直すということも確実にできることです。一代で築き上げた資産家の多くは倹約家の方たちです。住まい、資産価値の残る物(貴金属、アート)、教育などには惜しみなく注ぎ込みますが、価値が残らない物で無駄遣いをしたくないという考え方の方が多いです。
見直すべきところはまずは固定費です。通信費(格安プランにスマホの契約を変えるなど)、保険料(保険会社やプランの見直し)、住居費(住宅ローンの借り換えや家賃交渉)など大きな固定費からどんどん行うとよいでしょう。
また、外食費、交際費、娯楽費なども計画を立てて、肥大化しないように気をつけましょう。特に老後の生活を圧迫し得る支出なので、年間の予算を立てて予算から飛び出さないように気をつけましょう。
50代から生活の収支を整えて、浮いた資金はNISAなどに回して老後資金作りに当てるようにしましょう。なぜなら、定年が60歳の企業が多く、再雇用後の収入は定年時よりも下がるのが一般的だからです。
2021年4月に改正高年齢者雇用安定法が施工され、65歳までの雇用確保(義務)に加え、70歳までの就業確保(努力義務)が追加されました。実際に企業の雇用はどうなっているのでしょうか。
厚生労働省「就労条件総合調査結果の概況」(2022年)によると、定年制を定めている企業は94.4%、定めていない企業は5.6%です。定年制がある企業のうち一律に定年制を定めている企業は96.9%で、そのうち定年を60歳とする企業は72.3%、65歳とする企業は21.1%です。
一律に定年制を定めている企業のうち、勤務延長制度や再雇用制度がある企業は全体で94.2%ですが、そのうち「再雇用制度のみ」が63.9%、「勤務延長制度のみ」が10.5%、「両制度併用」が19.8%です。
再雇用後の給与水準は定年時の給与相場の7〜8割となる場合が多いようですが、企業によってまちまちです。そのため、50代から生活を見直し、収入の3割は貯蓄にまわす等、定年後の生活に備えた準備を始める方がよいのです。
50代はライフプラン的に子どもの独立などで教育費の負担が軽減される家庭も出てきます。そうした方は、年間数十万円〜数百万円の余裕資金が出る場合もあるでしょう。また、子どもの独立に合わせて、保険の見直しなども合わせて計画できます。なぜなら、扶養家族が減ることにより、一般に必要な保障を減らすことができるからです。子どもが大きくなると、住まいや車などのダウンサイジングも考えられます。
① 毎月の余ったお金で定年退職に備えたい
〈Aさんプロフィール〉
・男性、52歳、妻と二人暮らし、25歳子ども(別生計)
・職業:会社員
・住んでいる地域:東京都
・手取りの世帯月収:40~50万円
・毎月の支出の目安:30万円程度
例えば、定年退職に備えたいAさん(52歳)の場合。Aさんの勤務先は定年が60歳で、その後は再雇用制度があります。再雇用後は収入が8割程度に下がるために、今から生活を整えて老後に備えたいと考えています。
Aさんは子どもが独立し、毎月10万円程度の余裕資金があります。NISAでは、つみたてNISAを引き継ぐ形のつみたて投資枠での年間投資上限額は120万円で、新たに設けられた「生涯非課税限度額」は買付金額ベースで合計1,800万円です。生涯非課税限度額はつみたて投資枠だけで1,800万円を使うこともできます。
Aさんの場合、定年までの残り8年間で年間120万円のつみたて投資枠を使うことが考えられます。960万円分の枠を活用できることになります。こちらに加えて、これまでの貯金や退職金を活用して、成長投資枠を使うことも考えられます。
成長投資枠(一般NISAを引き継ぐ形の制度)の年間投資上限額は240万円で、生涯非課税限度額のうち成長投資枠は1,200万円まで利用可能です。
運用をしながら、資金を取り崩す場合も運用益が非課税だと有利です。そのため、期待リターンが高い株式投資に関してはNISAを活用し、NISA対象ではない預貯金や債券などは別に分けて管理することが考えられます。
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全体のまとめとして、リタイアをする上でキーとなる係数は次の4つです。元本の額(1.元手)、取り崩す割合(2.生活費、3.収入)、運用リターン(4.運用)です。定年までにできるだけ多くの元本を確保し、取り崩す割合を定率にする、運用リターンを無理のない範囲で維持することが重要です。その際に非課税の恩恵を受けられると手取りが増えるのでNISAを活用したいものです。できれば100歳まで資産残高が底をつくことなく、それまでに蓄えた資金を取り崩していけるプランを立てたいところです。
NISAの活用方法についてもっと知りたい方は、以下の記事をチェックしてみましょう。
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本記事に掲載されている情報は2023年9月30日時点のものです。NISA制度に関する最新の情報は、金融庁ホームページ(外部サイト)をご確認ください。