怪しいカルトや陰謀論に取込まれる人「納得の訳」 米国人の40%「キリストは40年以内に再臨する」

5/17 7:02 配信

東洋経済オンライン

人の記憶ほどいいかげんなものはない。私たちの誰もが他人の発言や外界に影響を受けて、勝手に記憶を加工しているものだ。事実ではないことを真実だと思い込む、起こってもいないことを「起こった」というのは、日常茶飯事だ。
一方で、思い込みが疑似科学や陰謀論に結びつくと、やっかいなことになる。詐欺師やカルト宗教の教祖などは、思い込みを利用して相手を取り込もうとするからだ。心理学者のダニエル・シモンズ、クリストファー・チャブリス両氏は、ベストセラー『全員“カモ”』で思い込みが持つ危険性を指摘し、まわりを搾取する人の餌食にならないように警告している。

■記憶ほど不正確であいまいなものはない

 多くの人は、記憶というのは、動画の録画やパソコンのハードドライブのように、重要だと考える出来事を完璧に写し取って保管していると思っている。そうした出来事が鮮明によみがえったり、すぐに思い出せたりすると、自分の記憶は確かだと思う。

 実際には、150年前の科学研究によって、記憶はよみがえるだけでなく、再構成されることが明らかになっている。人は、記憶を引き出しているときに、出所の異なる情報を組み合わせて過去の出来事を再構築していることがあるのだ。

 一見、つじつまの合った1つの記憶のように思えても、別の時や場所で起きた、似て非なる体験の記憶が交ざっているということもある。

 私たちの記憶は、人から聞いた話の細部を取り入れることすらできる。記憶の細部は「起こってほしいこと」や「起こるのではないかと思うこと」で埋められていくことが多い。

 さらに、人の記憶というものは、他人の発言や外界の影響を受けやすく、自分の中だけで完結することはめったにない。私たちが自分の経験を友人や家族に話すとき、記憶は思い出すたびに変化するため、そうした会話が原因で記憶のゆがみが共有されることがある。

■詐欺や犯罪の片棒を担がされる危険性

 最近では、インターネットやソーシャルメディアの発達によって、自分と同じ考えを持つ人を見つけやすくなり、こうしたゆがみが助長されている。たとえば、ピーナッツバターの名前を間違って覚えていることなどは、たいした問題がないように思われる。だが、疑似科学や陰謀論のために広く支持されている真実の科学的説明を否定するとなると、話は別だ。

 地理上の一部の地域がまるまる存在しないとか、歴史が数世紀にわたって捏造されているなどと信じる人がいれば、重大な問題である。そして、権力者が征服や大量虐殺を正当化するために異なる解釈の歴史を推し進めようとすれば、それは生死にかかわる問題になる。

 私たちが抱いている過去についての共通の認識は、共通の想定や考えにもとづいている。想定は、思考や推論の重要な要素である。

 人は、つねに何かを想定しているが、それが危険なものになることがある。何かを想定していることに無自覚だったり、想定を裏づけるはずの証拠がいつのまにか不十分になっていたり(または、そもそも最初から裏づけになっていないことに気づいていない)、想定がある一線を越えて引くに引けなくなったときなどだ。想定に固執するあまり、疑うことさえ思いつかなくなるのだ。

 思い入れがあまりに強くなると、疑問を抱く必要を感じなくなり、その問題についてこれ以上学ぼうとせず、自分の見解と相反する新たな証拠を示されても、軽視するか、見て見ぬふりをするようになる場合がある。

 これは「故意の盲目」と呼ばれる。多くの法的場面では、入手できる証拠に気づかなかったことは、詐欺を「見逃した」り、知らぬ間に犯罪に関与したりしていることの抗弁にはならない。

 2010年にピュー研究所が行った調査では、アメリカ人の40%が「イエス・キリストは今後40年以内に再臨して地上に戻ってくる」と信じていた。

■マジックを見破れない人の頭は悪くない

 作家ダニエル・コーエンによると、「現代の天変地異説論者を、詐欺師だとかバカげているとか、頭がおかしいとけなすのは間違っている。そうした人たちは、普段は正直で、知的で、極めてまともだが、正しくない考えを信じ込んでいるだけなのである」。

 つまり彼らは、同じ思い込みをしていない人にとっては意味をなさないとしても、「結論」そのものにこだわっているのだ。

 すべての思い込みに、カルトの信念ほどの強さがあるわけではない。カルトとは、主流ではない宗教、陰謀説、カリスマ的なリーダーなど、社会の本流から大きく外れた価値観を共有していると思われる人々の集団である。

 なかには私たちが思うよりずっと一時的で、思いのほか簡単に打ち勝てるものもある。それどころか、実験によって、思い込みはたちどころに変えられることがわかった。

 2005年に科学学術雑誌『サイエンス』に掲載された論文で、ペター・ヨハンソン、ラーズ・ホール、スヴェルケル・シークストロームらの4人は、ある実験の結果を報告した。実験ではまず、120人の被験者に2人の人物の写真を見せ、魅力的だと思うほうを選ばせた。

 次に、被験者に選んだ写真を手渡し、その理由を説明するよう求めた。被験者はなぜその人物が魅力的だと思ったかを説明した(「目が素敵だから」「茶色い髪が好みだから」など)。

 何度かこれをくり返したあと、次はマジックのような早業を使い、被験者が選んだのではないほうの顔写真を与えて、選んだ理由の説明を求めた。すると驚いたことに、全体の4分の3の被験者は写真が差し替えられたことに気づかなかったばかりか、自分が選んでいなかったほうの人物がいかに魅力的かを、とうとうと語ったのである。

 このような「選択盲」の研究は私たちが自分では「確固たる証拠にもとづいた、合理的で揺るぎない考え」だと思っているものが、いかに変わりやすいかをよく示している。

■思い込みが強いほど意思決定をゆがめる

 選択盲の実験では、思い込みや想定が移ろいやすいことを明らかにするために、マジックの早業に頼った。相手の想定をくつがえすことで生計を立てているマジシャンは、人間の思い込みの本質をよく知っている。

 選択盲という現象が興味深いのは、それが、私たちが他人の考えには雄弁に異議を唱えるのに、自分の考えはほとんど疑問視しないことを如実に示しているからだ。

 私たちの思い込みがもっとも危険をはらむのは、「思い込んでいると気づいていないとき」だ。そうした思い込みによって、意思決定力がゆがんでしまうことがある。

 2022年2月24日、ロシアはウクライナに対して戦争をしかけた。それまでロシアは軍備を増強し、軍事演習を行い、侵攻を示唆する政治的措置を取っており、アメリカ政府は何カ月も前から侵攻が起きることを公然と予測していた。にもかかわらず、世界中の人々や政府は侵攻のニュースを知ると衝撃を覚えた。ロシアとウクライナでさえ、国民の大半はウラジーミル・プーチンがそのような命令を下すとは思っていなかった。

 実際、2月24日以前には誰も避難しなかったが、侵攻後100日間で650万人が国外に避難した。起きている出来事を最初は誰も信じなかったという事実は、人々が無意識のうちに「ロシアは威嚇することはあっても実際に武力行使することはない」と思い込んでいたことを示している。

 高い買い物、契約、投資に踏み切る前や、結論を出す前に、「自分はどう思っているか」と自問しよう。当てはまる思い込みを明らかにして、一時的な想定としてとらえ直すことが、自分の判断がもろい基盤の上にあるかどうかを適切に判断する、唯一の方法である。

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最終更新:5/17(金) 7:02

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