NHK「1000億円削減」とコンテンツ拡充の無理ゲー 「6つのニュースサイト、突然こっそり閉鎖」の背景

4/5 10:11 配信

東洋経済オンライン

NHKのテキストニュース縮小についてこれまで書いてきたが(NHKが「テキストニュース」を次々に閉鎖する懸念、新聞業界が難癖「NHKテキストニュース」の行方)、3月29日についに「政治マガジン」「国際ニュースナビ」など6つのサイトがなくなった。

 「更新を終了し、『NHK NEWS WEB』に統合しました」と各サイトに表示されている。BSチャンネルの統合や春の番組改編は丁寧に告知するのに、ニュースサイト停止は悪いことでもしたかのようにこっそり行われ、正式なアナウンスもなしだ。日本新聞協会の圧力を受け入れた結果なので、バツが悪いのかもしれない。

■3年間で1000億円支出削減の見通し

 テキストニュース縮小の背景となる放送法改正案はこれからの審議だが、先に3月半ばから末にかけて、NHKの今年度予算を審議する衆参両院の総務委員会が開催された。NHKはこれを深夜に放送する習わしで、私は眠気と戦いながら視聴した。その中でも一部の議員がテキストニュース縮小の問題をとりあげていた。

 総務委員会で質問に立つ議員はさすがによく勉強していて、さまざまな角度から予算案に鋭くチェックを入れ、稲葉会長らNHK側がたじたじとなる場面もあった。

 何人かの議員が指摘していたのが、支出額の大幅縮小だ。予算と共にまな板に上がった2024年度から3年間の経営計画に中期的な支出の推移見通しが書かれている。

 なんと、2023年度の支出金額6720億円を2027年度には5770億円へ1000億円近く減らすというのだ。これは誰でも大丈夫かと指摘したくなる規模だ。

 受信料収入がみるみる減少するため、支出を大幅に抑えないわけにはいかないのだ。

 NHK側の説明では、2024年度から2026年度は補填が必要になるものの、2027年度には収支均衡させるとのことだ。

■「コンテンツ戦略6つの柱」は“無理ゲー”? 

 だが一方で、今度の経営計画では、コンテンツ戦略6つの柱として、いままでよりさらにさまざまな部分で放送を充実させていくという。

 1000億円も支出を減らすのに6つも充実させる柱があるというのは、“無理ゲー”にもほどがある。

■支出14%削減は可能なのか

 6720億円から5770億円に減らすと、14%の減少になる。放送業界で14%減と聞いて思い出すのはリーマンショックの時の民放だ。電通発表の「日本の広告費」によると、2007年に1兆9981億円あった地上波テレビの広告費は2年後の2009年には1兆7139億円に急減し、減少幅は約14%だった。

 民放業界の空気がはっきり変わったときだった。大手広告代理店も含めて180度の勢いで物事の考え方が変わった。余計な出費は避け、やたらとあった接待はなくなり、会社によっては給与体系が変わった。深夜のタクシー帰宅に数名での同乗を推奨するようになった会社もある。その後、テレビ局がネット活用に舵を切るきっかけにもなった。14%の減少はそれくらいのインパクトをもたらす。

 今回の経営計画は3年間なので2027年度はその先だ。そこでやっと収支均衡というが、2027年度への1年で425億円下げることになっている。その前は128億円、257億円、139億円ずつの減少なのに、計画の後の1年に残りを強引に負わせている。大丈夫なのかと心配になってくる。

 ただし、NHKには「実績」がある。事業支出は2019年度に7279億円とピークを迎えたが、その後2021年度までに615億円減らして6664億円になった。「やればできる」ということだろうか。

 だが2019年度以降の実績値と、今後の予算を並べてみるとやはり心配になる。

 まず2022年度までは収入が減りつつもそれに合わせて支出を減らし、赤字にはなっていない。ところが2023年度はまだ見通しだが赤字。さらにその後も2026年度まで毎年赤字が続いて、2027年度に突然トントンになるのだ。どこか都合が良すぎる予算だ。しかも稲葉会長の任期は2026年の1月まで。このところ何代もの外部から来た会長が3年ごとに代わっている。2027年度にトントンになるかどうかについて、稲葉会長は責任を取れない可能性が高い。

 さらに、2019年度以降2027年度までの8年で見ると、1500億円以上支出が減ることになる。20%もの減少は、現実的だろうかと言いたくなる。

■長期的視点で運営する人材の欠如

 NHKはよくガバナンスに問題があると言われる。それは子会社が多いなど外形的なことについてだが、もっと大元に問題があるのではないか。

 何しろ会長が外から来て3年ごとに交代する。そして会長が変わると理事たち執行部も一新される。3年ごとに組織の頭脳がすげ替えられるのだ。前田前会長から稲葉現会長に代わった時は、前田氏が旗を振った改革派が一掃され、反改革派が権力を握った。人事や組織、そしてネット戦略まで何もかもが180度変わってしまう。

 普通の会社でもトップが変わると体制も変わるものではあるが、変化が極端すぎる。長期的な視点で運営する人がいないのだ。そんなことも踏まえてさっきのグラフを見つめると、不安しか湧いてこない。少なくとも「2027年度に収支均衡」の予算に責任を取るべき人物は、現執行部にはいないだろう。

 現場はしっかりしているし、人材の質は高い。だが上層部がこんなに不安定で、公共メディアとして大丈夫なのだろうか。それもこれも、受信料がこの先ぐんぐん減少するのをどうするかに尽きると思う。ネットの時代になっても「テレビ放送を受信できる装置を設置したら契約する」という受信料制度を続けることに、軋みが生じてきたのだ。2027年度に収支均衡になったとしても、その先もさっきのグラフは右肩下がりが続くはずだ。また支出の大幅ダウンを繰り返すことになり、いたちごっこが延々続くだろう。

 いますぐ、でなくてもいい。203X年にNHKをこうする、というグランドデザインの議論が今必要だ。NHKの内部文書によると、未来を示せという組合側の要望に、稲葉会長は「この時点で未来図を示すことが重要なことではない」と回答した。未来を示すのがトップの最大の役割だ。示せないなら会長の資格がないと自ら認めたようなものだ。

 選択肢は数えるほどしかない。1つ目は、いまのまま放送に依拠した受信料制度で規模縮小を続けていく。今より限りなく小さくなって生き残るだろう。2つ目は、「スマホを持ったら受信料」は到底ありえないので、ネット受信料が納得できる形で取れるよう方向を探る。この場合、放送ほどは収入が確保できず、寄付制度も併用するべきだろう。3つ目は、税金でやっていく。この場合、政府直轄は問題があるので第三者機関を間に置くべきだと私は思う。丁寧な制度設計が必須だ。そして最後の選択肢は、何年後かにNHKをなくす。

 これをいきなり決めろとは言わない。だがまず、NHKとしてどうしたいかを明確にすべきだ。そして2つくらいの選択肢に絞る。そのうえで、何らかのルールで国民として決断してもらう。私は、この問題のために特別な国民投票をやってもいいと思う。法的なハードルは横に置いておくが、「国民が選ぶ」ことが重要だ。

■NHKがやるべきこと

 それも見据えて、NHKが絶対にやるべきことがある。自分たちはどうあればいいか、国民と共に議論することだ。新聞協会と内輪で相談している場合ではない。国民と話し、国民同士で話してもらい、国民にどうしたいかを主張する。それくらい議論を巻き起こしていかないと、NHKはなくなるか税金運営になって与党の言いなりになるか、どちらかしかなくなるだろう。

 国民と向き合い、国民の意見に耳を傾け、同時に自分たちの価値を国民に訴えかけ、どうすればいいかを国民と共に考える。そこまでやってはじめて、国民のために存在する「新しい公共メディア」として存続する可能性が出てくる。

 政治家や総務省や新聞協会にしか耳を傾けないのなら、いっそなくなってもらってかまわない。それくらいの瀬戸際に差しかかっていることを、NHKが認識すべきときが来ている。

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最終更新:4/5(金) 10:11

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