子育てにイライラ「叱らずに」済むテクニック 石田勝紀×天野ひかり「子育て」対談ー後編ー

5/23 14:02 配信

東洋経済オンライン

子どもの自己肯定感を育むためには「声かけ」が大事だとわかっていても、実際は「ついついイライラして叱ってしまう」保護者が多いのではないでしょうか。また、パートナーや祖父母の子どもへの接し方が気になる、ということもよくあります。このようなときどうすればいいのでしょうか? 
全国各地で母親対象のカフェスタイル勉強会「Mama Café」を年間130回以上主催し、1万人以上から相談を受けてきた石田勝紀さんと、NHK「すくすく子育て」元キャスターで、親子コミュニケーションアドバイザーとして講演や企業セミナー講師を務める天野ひかりさんの対談から、そのヒントを探ります(本記事は、教育ニュースレター「Discover Edu!」のイベントでの対談内容から一部を抜粋し、再編集したものです)。

前編:子の自己肯定感育む「親の言葉かけ」誤解なき方法

■子どものやる気を引き出す「声かけ」とは

 石田:お悩みを1つご紹介します。「ついついイライラしてしまい、叱ってしまいます」という内容ですね。

 「日々の生活の中でイライラして叱ってしまい、後で自己嫌悪に陥ることがあるそうです。天野さんの著書を参考にした声かけをしたいのですが、とっさに出てこないことが多い。どのようにしたらもっとうまく子どもと関われるようになるでしょうか?」

 確かに、自分の中に言葉が入っていないと、とっさの時に出てこないというのはありますね。

 天野:こうしたご質問はよくいただくのですが、2つのアプローチ方法があると思います。

 1つ目は、お母さん・お父さんがイライラしてしまう本当の原因を探ってそれを解消すること。子どもに対して普段と違う言動をしてしまうのは、子どもが原因ではなく、別のところにイライラがあるからです。

 仕事上のストレスやママ友とのトラブル、パートナーへの不満など、みなさんありますよね。子どもはたまたま、そのイライラのはけ口になってしまっているんです。

 いくら言葉かけをがんばろうとしても、根本的な問題を解決しないと難しい。自分ががんばりすぎていないか、イライラの原因と向き合って解消し、フラットな状態で子どもと向き合えるようにすることが大切ですね。

 2つ目は、子どもの視点に立つこと。

 具体的には、オウム返しと実況中継です。オウム返しは、子どもが「やだ」と言ったら、「やだね」と同じ言葉を返す。

 「もうあの子のこと無視するんだ」と言われたら、「そんなことやめなさい!」とか言いそうになるけれど「無視するんだね」とだけ返す。そうすると子どもはピンポンの壁打ちのように自分の言葉を客観的に聞いて冷静になれます。

 もう1つは、子どもの行動を実況中継すること。ゲームをしていたらイライラするけれども、まずは「ゲームしてるんだね」とだけ言います。そう言われると子どもって、あ、今自分はゲームしてるんだって思うんですよ。

 ゲームばかりしてて、親としてはもうやめなさいって言いたい。で、1時間たつとイライラして「いつまでゲームやってるの!」って叱ってしまう。でも実は、子どもは「ゲームしてるね」って言われていないので、突然お母さんに怒られたと思うんです。

 だけど最初に「今日はゲームしてるんだね」って言っておくと、子どもは自分の行動を意識するようになります。30分後、1時間後と声かけをすることで、子どもは自発的に行動を変えていくようになるんです。ぜひ黙認せずに「実況中継」してみてください。

■まずは親自身のイライラをなくす

 石田:なるほど。これは実は1つ目の「イライラしてしまう本当の原因を探る」が重要ですね。イライラの原因を解消できれば、優しく「ゲームやってるんだね」と言えるはず。

 イライラしているとつい「ゲームやってるんだね!」と厳しく言ってしまいそう。机をトントン叩いたり。

 天野:怖い。自分がされてもイヤですもんね。

 石田:優しく言うためにも、まずは親自身のイライラをなくすことが大切ですね。親としては「しょっちゅう言っている」つもりでも、子どもからすれば違うんですよね。

 天野:そうですね。ゲームそのもので子どもの頭が悪くなるわけではないことはアメリカの研究でも結果が出ていますので、ゲームをすること自体を悪いと決めつけないことからスタートしたいですね。

 実はイライラの原因は「ゲームをやめさせて、本当はこれをやらせたい、でもやってくれない」という親の不満にあるかもしれません。そうではなく、本当にこの子にとって正解かな、という視点で見られたらいいと思うんです。

 むしろ子どもがゲームに夢中なら、ゲームを通して子どもの才能を見つけられるかもしれません。

 一緒にゲームを見て、子どもの工夫する力や集中力、努力する姿を褒めてあげる。そうすると子どもも本当にやりたいことが見えてくる。親が歩み寄ることで、子どもも本音を話してくれるようになるんです。

 石田:ゲームやYouTubeに関するご相談は本当に多いですね。

 でも、全部のゲームやYouTubeが悪いわけではないので、決めつけるのではなく、上手に付き合っていく必要がありますね。

 時代によって子どもの遊びは変わるもの。大切なのは、子どもとしっかり向き合うことですね。

 天野:そうですね。今の子どもたちがゲーム世代として親になったとき、どうなるんでしょうか。きっと同じように悩むのでしょうね。

■親が変われば子どもも変わる

 石田:自己肯定感を育むためには、家庭での取り組みはとても大切ですが、本当は子どもたちの滞在時間が長い学校でそれができるといいですよね。天野さんはどう思われますか? 

 天野:自己肯定感を阻む言葉の代表に、「何々しなさい」という指示の言葉と、「何々しないで」という禁止の言葉があると思っています。この2つは子どもの思考力を停止させる言葉なんです。

 そうではなくて、子どもが自分で考えられるように問いを立てていく、そういう教育に変わらないといけない時代に入っていると勉強しているお母さん・お父さんは感じていると思います。

 一部の気概のある先生たちは改革に取り組んでいますが、その歩みは遅いのかなと思います。一部の先生だけの努力では変わらないですよね。

 石田:そうなんですよね。私も塾をやっていて、その子どもたちは変わりましたが、日本全国にはまだまだ困っている子がいるはずです。

 学校経営にも携わり改革をしましたが、そこの学校は良くなったものの、他にもまだいっぱいあるはずだと。

 結局、学校が変わるのはすぐには無理だと結論づけました。そこで着目したのが家庭。子どもと接している時間が長いのはママさんですからね。もちろんパパさんの場合もあります。

 それでママカフェを始めて、親が変われば子どもも変わるということがわかったんです。

 子育ては試行錯誤の連続で、絶対的な解はありません。だから、基本的なことを共有して、ハウツーを学べる場があればいいと思ってやってきました。

 そしたら、皆さん変わっていく現実がわかり、これが未来につながると思ったんです。

 天野:おっしゃる通りですね。私も最初は子どもを変えようと思ったのですが、子どもを変えるよりも、親の言葉かけが変わることが大切だと気づきました。

 参加者の方々は、「育てにくい子どもだと思って悩んでいたけれど、言葉かけを間違えていただけだった」とおっしゃるんです。

 みなさん、子どもへの声かけを学ばないうちに親になってしまって、目の前に泣いている子どもがいて困っている。

 声かけのコツや思いは同じなので、そのあたりを理解するだけでずいぶん子育ても、そして世の中も変わっていくんじゃないかと希望を持っています。

■パートナーや祖父母とどう付き合うか

 石田:質問をご紹介します。「パートナーや祖父母が厳しい声かけや指示命令ばかり」というテーマですね。

 ママはポジティブな声かけをしていても、パートナーや祖父母が厳しい声かけや指示命令ばかりの場合、どうやって周りと折り合いをつけたらいいでしょうか?  何かいいコツや捉え方があれば教えていただきたいです。

 これは結構よくあるケースですよね。ママは勉強して子どもとの関わりを学んでいるけれど、パートナーや他の家族は学んでいないから、ギャップがどんどん開いていく。天野さん、いかがでしょうか? 

 天野:よくご相談いただきます。私がお孫育てでおじいちゃま・おばあちゃま向けにお話しすると、皆さん「今日はいいお話を聞いた。褒めたり叱ったりせずに子どもを認める言葉かけがんばります。急いで家に帰って、子育てしている娘や息子にも伝えなくちゃ」とおっしゃるんです。

 でも、それ自体が「○○しなくちゃダメだよ」という子どもへの押し付けになってしまっていますよね。

 だから、まずはパートナーや祖父母のやり方を認めることからスタートするのがいいと思います。

 嫌だなと思うネガティブな言葉かけをしているときも、「子どものことを一生懸命見てくださってるんですね」と、その行動自体は認める。

 そして自分はポジティブな言葉かけを続けてお手本を見せる。そうすると、認められた人は認めてくれた人のやり方を学んでいくものです。

 さりげなく子育ての本を食卓に置いておくのもいいですね。自主的に手に取って読んでもらえるかもしれません。

 石田:確かに、本って「これ読みなよ」って勧められても積極的に読まないですからね。でも置いてあると気になって読んだりする。

 Mama Caféでも、同居している祖父母が、内緒で子どもに甘いお菓子与えるという相談がよくあります。でも、それで家庭が和やかなら、それはそれでいいのかなとも思います。

 ただ、作用反作用の法則と言いますか、「やるな」と言われるとやりたくなるのが人情ですからね。だから、間接的に伝えていくのがいいでしょう。

 逆に、ネガティブな言葉かけをする人にこそ、ポジティブな言葉をかけていくと、その人の気持ちも変わっていく可能性があります。

■家庭は「社会の縮図」と考える

 天野:そうですね。その人のやり方を認めつつ、ポジティブな言葉をかけていく。そうすると全体が変わっていくかもしれません。

 それに、おじいちゃんおばあちゃんはそういうものだと子どもがわかって育つのも悪いことではないと思うんです。

 世の中には常にポジティブな言葉をかけてくれる人ばかりではありませんから。家庭の中で、いろんな人との折り合いのつけ方を学べるのはいいことかもしれません。

 石田:なるほど。家庭は社会の縮図と考えるわけですね。

 天野:今は小さな子どもたちも30年後、5歳の子は35歳、10歳の子は40歳です。

 今私たちが優しくて強くて賢い子どもたちを育てているということは、私たちの未来を育んでいるということだと思うと、子育ても楽しくなりますね。

 石田:私はいつも「ママさん自身が自分の人生を楽しみましょう。すると子どもが変わり未来が変わります」と言っています。

 仕事でも人生でも学びでも「楽しむ」というキーワードを入れていくことが大切ですね。子どもたちもそれを見ています。

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最終更新:5/23(木) 14:02

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