富士通は、国内を代表するシステムインテグレーター(SIer)として、長年日本のIT業界を牽引してきました。
株式市場においても、2019年頃からTOPIX(東証株価指数)を大きく上回るパフォーマンスを見せ、機関投資家からも高く評価されてきた銘柄です。
しかし、そんな長期上昇トレンドを描いてきた同社の株価が、直近の決算発表前後で大きく急落する局面を迎えました。
第3四半期決算では、営業利益が前年同期比で約2倍となる大幅増益を達成しているにもかかわらず、一体なぜ市場は同社の先行きを警戒して株価を売り叩いたのでしょうか。
この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏がYouTubeチャンネル「イズミダイズム」にて富士通の最新決算を読み解き、株価の動きと会社からのメッセージを解説します。
この記事のポイント
・富士通の株価急落の背景には、AI進化による「SIerビジネス崩壊」への懸念がある
・しかし最新決算の実態は、AI活用による生産性向上で営業利益が前年比約2倍の大幅増益
・開発現場では「3人月が3~4時間」になるなど、生産性が100倍に向上するケースも発生
・株価が織り込んだ懸念と決算実態のギャップは、投資家にとっての「投資機会」になり得る
・ラピダス出資などのニュースは、最終製品の強さや市場の拡張性を見極めることが重要
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好調だった富士通の株価、なぜ急落したのか?
富士通の株価は、2019年頃からTOPIXを大きくアウトパフォームしており、コロナ禍を経て近年まで非常に力強い上昇を見せていました。
これは、事業そのものが好調であったことに加え、グループ会社の再編など、機関投資家が評価するような経営アクションをしっかりと実行してきた結果だと泉田氏は分析します。
しかし、直近のチャートを見ると、その好調だった株価が大きく下落する局面がありました。
泉田氏は過去の動画で解説した、人材サービス大手・リクルートの株価下落と同じ構造が起きていると指摘します。
「SaaSの死」という言葉に代表されるように、近年、AI(人工知能)の劇的な進化によって、既存のビジネスモデルが崩壊するのではないかという懸念が株式市場に広がっています。
富士通が主力とするSIer(システムインテグレーター)事業も、まさにその脅威に直面していると見なされたのです。
SIerのビジネスは、伝統的に「1人月(1人のエンジニアが1ヶ月で行う作業量)いくら」という単価が設定され、プロジェクトに何人のエンジニアがどれだけの期間関わるかで費用が見積もられます。
しかし、生成AIが自動でプログラミングのコードを書くようになれば、これまで必要だったエンジニアの数(人工)が劇的に減少し、結果としてSIerが受け取るフィーも大きく目減りしてしまう…
これが、市場が富士通の株価を売り叩いた「AIによるSIerビジネス崩壊」の懸念です。
しかし、泉田氏はこの市場の心理に対して、プロの投資家ならではの冷静な視点を提示します。
「株式市場はそういう風に思ってるんだけど、実は決算書を読み解くと、単純にアンソロピックのAIでここのビジネスが崩れるっていう話でもない。いいこともあります。」
果たして、市場の懸念は現実のものとなっているのでしょうか。
決算が浮き彫りにした「市場の懸念」と「実態」のギャップ
市場の懸念が正しいのかどうかを確認するため、泉田氏は富士通の2026年3月期 第3四半期(9ヶ月累計)の決算短信を読み解いていきます。
そこには、株価の動きからは想像もつかないような驚異的な数字が並んでいました。
まず売上収益は2兆4511億円で、前年同期比1.8%の微増にとどまりました。しかし、本業の儲けを示す営業利益は前年同期の1058億円から2110億円になり、前年比99.4%増とほぼ倍増しています。
さらに、最終的な儲けである親会社所有者帰属当期利益に至っては、880億円から3436億円へと、前年比290.3%増(約4倍)という爆発的な伸びを記録しているのです。
売上がほとんど変わっていないのに、なぜ利益だけがこれほどまでに増えるのでしょうか。
通常、売上が増えれば、それに伴って製品を作るための「売上原価」や、販売・管理にかかる「販管費」も増えるのが一般的です。
しかし富士通の場合、売上が増えているにもかかわらず、売上原価は1兆6332億円から1兆5987億円へ減少し、販管費も6551億円から6441億円へと減少していました。
泉田氏は、この原価と経費の劇的な削減こそが、利益倍増の最大の要因であると分析します。そして、その背後にある「テクノロジーの関与」の正体こそが、皮肉にも市場が恐れていた「AI」だったのです。
富士通、利益倍増のカラクリは「AIによる生産性100倍」
決算説明会資料をさらに深掘りすると、富士通がどのようにして利益水準(採算性)を改善させているのかが明確になります。
富士通のグロスマージン(売上総利益率=粗利率)は、2023年度の32.0%から、2024年度は35.9%、そして直近の2025年度第3四半期累計では37.8%と、年々目覚ましい改善を見せています。
この採算性改善の最大の原動力として会社側が挙げているのが、「生成AIの適用によるスピード向上・品質安定化」です。
富士通は、国内のシステムエンジニア約3万人や協力会社に対して生成AIツールの利用環境を提供しており、国内プロジェクトにおける生成AIの利用率は、第2四半期末の3割から第3四半期末には6割へと急速に拡大しています。
インタビュワーがAI活用の効果について驚きを見せると、泉田氏は富士通のCFO(最高財務責任者)が決算説明会で語った衝撃的なコメントを紹介します。
「実際に全工程でAIを適用してうまくいってるケースも出てきているそう。最善のケースでは、従来3人月かかっていた開発が3~4時間で完了するなど、生産性が100倍近くに向上する結果も出ていますと」
「3人月」とは、1人のエンジニアが3ヶ月間つきっきりで作業するボリュームを意味します。それがわずか「3~4時間」で終わってしまうというのです。
SIerの業界は、元請けから下請け、孫請けへと開発業務が委託されていくゼネコンのような多重下請け構造を持っています。
人間同士のコミュニケーションを挟めば挟むほど、認識のズレや手戻りが発生しやすくなります。しかし、富士通は末端の開発現場にまでAIを利用させ、自社のフォーマットを厳格に守らせることで、劇的な効率化と原価低減を実現しているのです。
市場は「AIが普及すればSIerの仕事がなくなる」と懸念して株を売りましたが、実態は「富士通自身がAIを徹底的に使いこなし、圧倒的な生産性向上によって利益を倍増させている」という全く逆の構図だったわけです。
株価見直しの可能性と投資家としての視点
では、この「株価が織り込んだネガティブな懸念」と「決算が示すポジティブな実態」のギャップを、投資家はどのように捉えるべきでしょうか。
泉田氏は、現在の株式市場の評価について次のように分析します。
「株価が先にAIのインパクトをネガティブな側面だけ織り込んだ。ただ実態的には利益が増えてくるってなると、売りすぎだっていう風に思って買い戻す可能性も全然ある」
もちろん、長期的な視点に立てば、顧客企業自身がAIを使いこなすようになり、SIerへの発注自体が減少していくというシナリオ(真のSIerの死)が訪れる可能性はゼロではありません。
AIによるプロジェクト単価の下落スピードと、AI活用による利益率向上のスピード、どちらが勝つのかは今後の重要なウォッチポイントになります。
しかし、泉田氏はこのように見方が分かれる「過渡期」こそが、投資家にとってのチャンスであると語ります。
「課題にネガティブになってるんだったら買いのチャンスだし、課題にポジティブになってなったら売りのチャンスだから。株価が動いてる方が投資機会多いっていうのは一般的に言えますね」
ニュースや市場のムードだけで判断するのではなく、決算書という「事実」に基づいて企業の実態を正確に把握することで、市場の過剰反応(売りすぎ・買いすぎ)を見抜き、有利な投資判断を下すことができるのです。
ラピダス出資から読み解く「ニュースの見極め方」
動画の後半では、富士通のAI戦略に関連して、国産の最先端半導体メーカー「ラピダス」への出資というニュースにも触れられました。
ラピダスは、台湾のTSMCなどに依存している半導体製造を国内に回帰させるための「国策」とも言えるプロジェクトです。
インタビュワーが「国策に売りなしという格言もあるし、富士通にとって大きな追い風になるのでは」と期待を寄せると、泉田氏は機関投資家としての冷静な視点を提供します。
泉田氏は、かつて日本の電機メーカー(東芝・ソニー)とIBMが共同開発した高性能CPU「Cell」の歴史を引き合いに出します。
Cellは非常に優れたチップでしたが、最終的に搭載されたのは数万円のゲーム機(プレイステーション)でした。一方、ライバルのインテルは10万円以上するパソコン向けにチップを供給し続けました。
結果として、最終製品の単価が高く、裾野が広いビジネスを展開したインテル陣営が市場を制することになりました。
この歴史的教訓から、泉田氏は半導体ビジネスの本質を次のように総括します。
「ちゃんとその最終製品が強いと、その関連する部品メーカーも強くなると構造がある。その構造を理解しないで『このチップすごいから勝てる!』みたいな発想はちょっと安直かな」
富士通がラピダスに最先端のAIチップを発注したとしても、そのチップを使って「どのようなサービスや最終製品を生み出すのか」、そして「その製品は世界市場で戦えるだけの強さと拡張性を持っているのか」が見えなければ、業績への本当のインパクトは測れません。
「国策だから」「AIの最先端だから」というニュースの表面的な響きに踊らされるのではなく、ビジネスの構造やサプライチェーン全体を見渡して評価することが、投資家には求められているのです。
まとめ
富士通の直近の株価急落は、AIの進化によってSIerのビジネスモデルが崩壊するという市場の懸念が先行した結果でした。
しかし、最新の決算が示した実態は、富士通自身がAIを強力な武器として使いこなし、驚異的な生産性向上と利益倍増を実現しているという逞しい姿でした。
株式投資においては、市場のセンチメント(心理)と企業の実態との間にしばしば大きなギャップが生まれます。
今回泉田氏が解説したように、決算書から数字の裏にあるストーリーを読み解くことで、そのギャップを「投資機会」として捉えることができるようになります。
富士通が今後、AIという諸刃の剣をどのようにコントロールし、さらなる成長へと繋げていくのか。投資家として引き続き注視していく必要がありそうです。
参考資料
・富士通株式会社「2026年3月期 第3四半期 決算短信」(2026年1月29日)
・富士通株式会社「2026年3月期 第3四半期 決算説明会資料」(2026年1月29日)
・富士通株式会社「2026年3月期 第3四半期 決算説明会 質疑応答」(2026年1月29日)
・Youtubeチャンネル「イズミダイズム」
※リンクは記事作成時点のものです。
イズミダイズム
最終更新:4/12(日) 20:25