罹患者数でみる「前立腺がん」都道府県ランキング 最新版「全国がん登録」データからわかること

4/1 9:41 配信

東洋経済オンライン

 前立腺がんは近年、男性が最もかかりやすいがんの1つだ。特に50歳以上の男性に多く見られるが、“生存率の高いがん”であるのも大きな特徴だ。

■前立腺がんの罹患者数と地域差

 そして、その罹患者数には地域差があることがわかっている。

 本稿では、3月22日に発表されたばかりの『全国がん登録2020』(厚生労働省)から、前立腺がんの罹患者数が多い順にランキングを作成した。

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 がんは年齢が高いほどかかりやすいため、高齢者が多い地域ほどがん患者は増える。そうした地域差を排除するため、今回紹介するランキングは、年齢調整罹患率(人口10万人対)を用いている。これによって、年齢構成の異なる地域も正しく比較できる。

 最新の罹患者数では鹿児島県が最も高く、香川県、島根県と続く。その一方で、ランキングにはないが死亡者数で見ると、鹿児島県は2位だが、香川県は37位、島根県も43位と全国的にみても低くなっている。

 つまり、“罹患率が高い地域が必ずしも死亡率も高いとは限らない”ことがわかる。

■罹患者数が多い背景に「PSA検査」

 罹患率が高い地域について、国立がん研究センターがん対策研究所の松田智大さんは、「PSA検査に積極的な自治体で、罹患率が高くなっている可能性がある」と推察する。

 PSA検査とは、前立腺がんの可能性がある人を見つける検査だ。血液中にある前立腺に特異的なタンパク質PSAの値を測定する。

 実は、国が推奨しているがん検診には前立腺のPSA検査は含まれていない。だが、厚労省の調査によると、PSA検査を実施している自治体は49.4%にものぼる。

 香川県では高松市などでPSA検査を実施している。罹患率の高さについて、香川県健康福祉総務課がん対策グループの担当者は、「専門家による十分な分析ができておらず、原因はわかりかねる」と回答する。

■前立腺がん罹患者数11位以降と全国平均

 前立腺のPSA検査を国が推奨していないのは、前立腺がんは比較的進行が遅いうえ、進行度にかかわらず生存率が高く、検診受診のメリットがデメリットを上回らないからだ。

 実際、国立がん研究センターによると、遠隔転移があるステージⅣまでを平均した5年生存率も99.1%で、早期発見だった場合はさらに高くなる。

 早期発見にはPSA検査のほかに直腸診も行われているが、早期に見つけても治療せず、定期的な検査で経過観察するケースも少なくない。

 「むしろ、PSA検査の過剰診断や過剰治療によって、進行が遅いがんや、生涯にわたって何の問題も引き起こさないがんまで発見してしまう可能性がある。また、患者に不必要な不安をもたらしたり、治療に伴う勃起不全や尿失禁などのリスクが生じたりすることの問題もある」(松田さん)

 ただ、50歳以上の男性や、家族歴がある場合などリスクが高い人は、主治医との相談のもとPSA検査を含めた検診が必要な場合もあるという。

■前立腺がんの発症リスクは? 

 前立腺がんの発症リスクに関しては、わかっていない部分が多い。現時点で予防として可能性があるとされるのは、大豆(イソフラボン)の摂取だ。豆腐や納豆、みそ汁などの大豆食品を積極的に摂ることは予防に有効に働く可能性がある。

国立がん研究センターがん対策研究所国際政策研究部長
松田智大さん
1996年、神戸大学法学部(医事法専攻)卒業後、東京大学大学院医学系研究科修士課程修了、同博士課程単位取得退学、トゥールーズ第3大学医学部博士課程修了。2006年より国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報・統計部研究員、2011年より同センターがん統計研究部室長、同センターがん登録センター全国がん登録室室長などを経て、2021年より現職。専門は疫学、公衆衛生学。著書に『がんで死ぬ県、死なない県 なぜ格差が生まれるのか』(NHK出版新書)。

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最終更新:4/1(月) 9:41

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