「新卒採⽤初任給40万円への引き上げを実施」
セレクトショップ「STUDIOUS」、完全国産ブランド「UNITED TOKYO」などを展開するアパレル企業のTOKYO BASEは3月12日、賃上げを発表した。新卒採用の初任給を従前の30万円から一律40万円に引き上げ、既存の従業員を対象としたベースアップも実施する。
初任給40万円という額は、「ユニクロ」のファーストリテイリングの初任給30万円を超える業界トップクラスの水準だ。ただ、固定残業代80時間分が含まれていることが議論の的にもなっている。今回の賃上げの狙いは何か、縮小する国内アパレル市場でどんな成長曲線を描いていくのか。TOKYO BASEの谷正人社長を直撃した。
■日本一のファッション企業を目指す
――ファーストリテイリングを超える「初任給40万円」は業界内外で話題になりました。
初任給の数字だけが独り歩きしているが、給与のミニマムラインとして初任給30万円から40万円になったというだけ。既存社員に対してもベースアップしている。
今期で17期目、上場10年目を迎える中で、会社の理念やビジョンに合った人材を採用していくために、手段の1つとして初任給を上げた。
当社は「日本一のファッション企業」を目指している。「日本一」というのは具体的に、(日用品アパレルのユニクロや無印良品を除く)中価格帯以上のファッション企業の間で日本一になりたい、ということだ。日本一の企業になるためには、日本一の給与形態でなければいけないと考えた。
もう1つの理由は、当社は香港・中国でも店舗を直営展開している。5月にはニューヨーク初出店を控えているが、グローバル基準で初任給40万円が高いかといったら、決してそうではない。ニューヨークで初任給40万円と言ったら、もしかすると低い部類に入るかもしれない。初任給40万円というのも、この先さらに上げてグローバル基準に合わせたい。
――初任給40万円のうち、17万2000円は80時間の固定残業代となっています。そのくらい業務量が多いということですか。
残業80時間ってやったことありますか? 経験した人ならわかるだろうが、残業80時間は100%無理。続けると1カ月くらいで疲弊してしまう。
なぜ固定残業80時間にしたかというと、むしろ残業をもっと減らすため。月に10時間残業しても70時間残業しても給料は同じだから、当然効率のいい方を選ぶだろうと。
そもそも、うちは時間でお金を稼ぐという概念がない。すべては成果、つまりお客様の評価で決まる。一部の若いスタッフや、デザイナー・制作などのクリエイティブ職は長時間労働になりがちだが、「時間を使ったからえらいね」といった評価軸はない。
月の平均残業時間は、販売スタッフが10~20時間、本社スタッフも多い人で40時間だ。僕も社内で残業時間が長い人をたまに見かけるが、そういう人ほど成果が出ていない。
■働く時間は短くなっている
――「80時間」という数字はどう決めたのですか。
実は、80時間にあまり深い意味はない。他社で、同じく固定残業80時間でやっているところがあった。月80時間の残業を前提としたような給与だったら違法だが、(待遇条件に固定残業80時間を明記すること自体は)違法ではないと認識している。社員を見ると、最近とくに働く時間が短くなったと思っているくらい。それで成果がしっかり上がれば、それはいいことだ。
――今や人手不足は、どの業界でも顕在化しています。アパレル業界に優秀な人材が集まりにくくなっているのでしょうか。
いい人材は確実にいる。以前、初任給を25万円から30万円に上げたときに「アパレルは好きだけど、従来の給与だったら商社やメーカーを選んだだろう」といった人たちが当社に来てくれて、それが今の会社の軸になっている。
――今回の賃上げによる人件費の増加額は約3億円と見ることができます。経営へ大きなインパクトがあると思われますが、吸収できますか。
3億円近くはいくが、人件費の総額が増えるのは当然織り込み済みだ。うちは1人当たり売上高が、おそらく他社と比べて圧倒的に高い。スーパースターセールスという制度があり、年間1億円を売った人は年収1000万円くらいになる。顧客様売上高という指標もあり、それぞれの販売員当てに来ていただけるお客様がどれぐらいいるかを判断軸にしている。
だから保険や自動車、不動産の営業マンが「やっぱり洋服が好きです」と転職してくると普通に働いてくれるが、大手チェーンストア型のオペレーションでザ・販売員として働いてきた人は、慣れるまで大変に感じることもあるようだ。
■応募は新卒が3倍、中途が7倍増えた
――今回の初任給引き上げ発表後の反響は。
賃上げの発表前に比べ、新卒の応募は3倍くらい、中途も7倍ほどに増えた(3月25日時点)。ただ、賃上げを機に応募している人はそれだけが理由の場合もあるため、志望動機をしっかり見極めないといけない。
――縮小する国内アパレルで、どう成長路線を描きますか?
アパレル業界は、この20年で市場規模が縮小した。一方で在庫量は3倍、店舗数やブランド数も3倍になったとされる。必要以上に店やブランドが増え、売れ残った在庫をセールにしているという現状だ。その中で、われわれは出店を東名阪(東京・名古屋・大阪)の主要都市に絞っている。
従来のアパレルは、各社のメインブランドを都心部の路面店や「ルミネ」などのファッションビルに出店し、(普及価格帯の)セカンドブランドを「ららぽーと」などの郊外ショッピングモールや、全国の都市に出していくのがセオリーだった。対して当社は(消費が伸びている)東名阪に絞って様々な業態を打ち出していく。
地方郊外への出店モデルだったら、今回のような賃上げは現実的ではなかったかもしれない。低価格業態をやめて中価格帯以上の業態に集中することで、目指していたビジネスモデルが整ってきた。単価が少し張っても、商品やサービスの価値が伝わる顧客にアプローチしていきたい。
■ECやAIから顧客感動は生まれない
――EC(ネット通販)も主流になっていますが、出店は続けますか?
時代を問わず、僕が会社をやるうえでは実店舗は大事にしたい。アパレルは流行や景気によるアップダウンがある業界だが、だからこそ定性的な状態を見られる店舗は必須だ。ECで売れる商品は結局安いものに絞られていく。実店舗を持っている強みは、もちろん定量情報も見るが、定性的な情報・どんな人が買っているか、がわかることにある。
当社が目指す「顧客感動」の体験を生み出せるのも実店舗ならではだ。単純な商品比較ならECやAI(人工知能)でもできるかもしれない。一方で販売員はお客様が想定していなかったような商品を提案することもできる。そうした攻めた提案には当然リスクを伴うが、積極的なサービスをしていかなければ人の存在意義は残っていかないし、顧客感動も生まれない。
店舗は今後、省人化を徹底的に追求した店舗と、販売員による付加価値のあるサービスを追求していく店舗の形に二極化していくのではないか。僕らは後者を目指していくつもりだ。
東洋経済オンライン
最終更新:3/27(水) 5:02
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