何のために働くのか?「死ぬほど稼いだ」孫正義の異次元すぎる答え

4/19 11:32 配信

ダイヤモンド・オンライン

 想像を絶するスピードとスケールで10兆円企業をつくりあげた経営者から学ぶべきことは多い。孫正義ソフトバンクグループ代表の評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談し、ビジネスパーソンに学びをお届けする連載「ビジネス教養としての孫正義」の第3回。対談相手はNEXYZ.Group代表取締役社長の近藤太香巳氏。Yahoo! BBの販売代理店として、その並外れた営業力と企画力で契約件数を増やし、同事業を成功させた立役者の一人だ。本邦を代表する富豪の一人である孫正義氏は何のために仕事をしているのか。近藤氏の見解は、孫正義氏の過去の発言と重なると井上氏は指摘する。(構成/ライター 田之上 信)

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● 働くモチベーションも別次元

 井上 直近で孫さんと会ったのはいつですか。

 近藤 ずっと会ってないですね。ずいぶん前に、メールで「元気? また会いたいね」って感じでメッセージがきたんですよ。

 僕も「元気です」と返事をしましたが、「ぜひぜひ!」みたいなことは言いませんでしたね。すごくうれしかったけど、前のめりにはならなかった。それには理由があるんですけど。

 井上 何ですか、教えてください。

 近藤 また孫さんのね、すごい夢を聞いて、そっちに行ってしまいそうな予感がしたから(笑)。

 井上 ありそうですね (笑) 。

 近藤 せっかく自社完結型モデルをつくったのに、またスケールのデカい話をされて、この人の魔法にかかったら大変だと思ったんです。

 井上 いい関係ですね。孫さんも近藤さんを見て、俺の若いときに似てるなと思ったのではないかという気がします。

 近藤 いやあ、似てないですよ。スケールが違いますから。あの人は100年に1度の天才だと思いますよね。

 井上 僕もそう思います。

 近藤 10年に1度の天才っていうのはいるんですよ。でも、100年に1度の天才、もしかしたら何百年に1人の天才です。ズバ抜けてる。

 井上 いないです。

 近藤 GMO(インターネットグループ代表)の熊谷(正寿)さんや楽天の三木谷(浩史)さんとか、僕からしたらすごい尊敬する先輩がいっぱいいますけど、孫さんは別物というか、別次元の人というか。

 井上 それはすごくわかりますね。

 近藤 あの人は歴史に名を残します。本人も歴史的な偉人になりたいと思っているはずです。歴史の中で語り継がれる天下人の1人として、坂本龍馬のようになりたいんですよ。

 近藤 だから、もうお金は死ぬほどあるし、極論、ソフトバンクという会社が潰れようがなんであろうが、孫正義がこの世界においてなし遂げた功績というのは必ず残るじゃないですか。

 あの人の一番のモチベーションは、歴史に残る天下人であるということを、社会の人がそうだよなと思うこと。もう既になってると思いますが、それをより盤石なものにしていくことがあの人の一番のモチベーションだと思います。

 井上 1000%同感ですね。最近の言葉ですが、「名を残す」と明言されています。歴史に名を刻む。まさに青史に名を残す。その記録を私が記しています。

 近藤 それはすごく大事なことだと思います。歴史をきちんと記録してくれる人がいる。孫さんはすごく感謝されていると思います。

 井上 近藤さんも名を残してますよ。すごいことです。

 近藤 いえいえ、僕も10年に1人の人間くらいになれればうれしいですけど。

● 上場2週間前に取り消し 社内に並んだ胡蝶蘭

 井上 2004年に東証一部にネクシーズ(現NEXYZ.Group)を上場させ、37歳で当時最年少創業社長の記録を打ち立てましたね。

 近藤 本当はそれより前、2000年に東証マザーズに上場することが決定していたんですね。きっかけは、28歳のときにあるテレビ番組に出たことです。青年実業家というのがちょっと世間ではやり出していて、密着取材を受けたんです。

 撮影の最後に、東京タワーの明かりをバックに夢を語ってくれと言われて、僕の夢は2つあると。日本一になりたい、もう一つは上場すると言ったんです。

 井上 宣言してしまった。

 近藤 はい。だけどまだ新興市場はなかったし、上場なんかできるタイミングでもなかった。当時は社員も10人しかいなかったんですよ。

 先輩たちからは、「お前、アホか」と言われました。「できるわけないだろ」って。上場というのは、こうでこうでと説明されているうちに、本当に上場に興味を持っちゃった。

 井上 初めて知ったんですね、上場とは何かを。

 近藤 そうなんです(笑)。上場って勝手にするんじゃないのと思ってましたから。大手企業と同じように、あるとき突然、上場会社といわれるんじゃないかと思っていた。「無知こそ無敵」だったんですね(笑)

 井上 (笑)

 近藤 それで上場ってカッコいいなと思って、社員みんなに「上場させようぜ」って話をしたら、「上場って何ですか?」と。じゃあ、日本で知ってる会社の名前あげてみろとって言ったら、ソニーとかホンダとか松下とか言うじゃないすか。

 井上 はい。

 近藤 そういうことや!って(笑)。そうなることが上場やと。それでみんなで「ウォー!」ってなって、上場を目指すことになったんです。

 その後、孫さんがアメリカからナスダックを持ってきたわけです。大阪証券取引所にナスダック・ジャパンができたおかげで上場のハードルが少し低くなった。当時はネクステルいう社名だったんですが、東証マザーズに上場申請が通って、2000年4月25日に上場することが決定し、メディアでも大きく取り上げられました。

 井上 すごいですね。

 近藤 ところがITバブルが弾けて、上場の2週間前に東証からから取り消しを言われるわけですよ。もう社内には胡蝶蘭がいっぱい並んでいました。

 近藤 そのときに銀行も全部引いていった。ひどい状態で最悪です。ただ、僕が落ち込んでるときに、社員が誰も辞めなかったんですよ。社員は100人以上いましたけど、一緒に戦うと。

 井上 それはいい話ですね。

 近藤 そのときに思ったんですよね。僕はやっぱりビジネスモデルも大事だけども、それをやる人が輝いてる会社であるべきだと。この仲間とだったら僕はもう一回頑張れるんじゃないかと思って、でも金策が必要だったので、考えたのが、北尾(吉孝)さん(現SBIホールディングス会長兼社長)に会いにいくことだったんですね。

 何もしなかったら半年後に倒産レベルだったので。売り上げも利益も出てるから上場申請を通ってるんですけど。銀行が全面撤退したら、やっぱり終わるわけですよ。黒字倒産です。キャッシュがなくて。

● 北尾吉孝が放った格言 「意味がわからなかった」

 井上 北尾さんとは面識があったのですか。

 近藤 ないです。でも、15分だけ時間をくれたんですね。上場取り消しで騒がれていましたからね。

 15分間、プレゼンしたときに、北尾さんが僕に言った名台詞があって、「近藤君、君の目は輝いてる。いつまでも青きロマンチストであれ」と。ちょっと意味がわかんなかったんすけど(笑)

 井上 (笑)

 近藤 それで30億円ポンと出してくれたんですよ。そのおかげで2002年3月6日、要するに2年後にナスダック・ジャパンに上場し、そのまた2年後、これは神様がくれたご褒美だなと思うんですけど、2004年11月11日に東証一部に上場することができた。僕の誕生日は11月1日なんですね。だから、1が8つ並んだ。11月1日、11月11日1部上場と。

 井上 近藤さんは北尾会長を恩人だとおっしゃっているのは、その一番困ってたときに、手を差し伸べてくれたっていうことですね。

 近藤 そうです。義理は結果で返せると思うんです。たとえば株価が上がって、数十倍のリターンを得てもらうとか。しかし、恩というのはやっぱ一生返せないと思うんですよね。

 僕にとっては、あのとき北尾会長と会わなかったら、少なくとも今の僕はないと確信できるので、やっぱり生涯の恩師ですよね。

● 100年に1人と10年に1人 何が違うのか?

 井上 孫さんはいまもチャレンジを続けていて、AI革命に挑んでいますが、近藤さんは今後の展望をどのように描いていますか。

 近藤 孫さんと2人で車に乗ってるときに言われた言葉があるんです。会話の内容は忘れましたが、「近藤君、会社は経営者のスケール以上に大きくならんからな」とボソッと言ったんです。

 僕はそのときは、なるほどな、ぐらいしか思わなかったんですね。でも、あるときから確信に変わったんです。その通りだなと。

 井上 どういうことですか。

 近藤 やっぱりチャレンジでしか進化しないんだなと。現状維持は、退化なんだなと僕なりに解釈をして、だから常にチャレンジしようと。自分の能力内でやってることはチャレンジとは言わず、できないかもしれない、また、世間からはできるわけもないと思われることをやって、その限界突破した分が会社を大きく成長させると。経営者としての根源的な部分を孫正義さんから学ばせてもらったなと思っています。

 ただ、僕は孫さんと違うところがあるとするならば、僕は19歳から仲間と一緒にやってきて、社員は大好きなファミリーという意識です。孫さんほどドライにはなれない。

 近藤 だから自分は何のために頑張るのかって言ったら、もう本当に心から思ってることなんですけど、仲間の笑顔のためなんですよね。仲間を笑顔にするためにはどうしたらいいかといえば、まずはお客様を笑顔にすること。お客様の笑顔の数が利益であり、その利益が株主や取引先の皆様、ステークホルダーを笑顔にできると思っているんです。

 上場会社として企業価値を高めることがミッションですが、でもそのうえでこのネクシーズという国みたいなものの仲間たちが笑顔でいれたらいいなって思ってるんですよ。

 井上 やはり孫さんのやり方はドライに映るんですね。むしろ、ウエットだと私は思います。近藤さんの考え方は素晴らしいです。

 近藤 僕は企画マンだから、今までなかったサービスを世の中に普及させたい。たとえば、今やっているネクシーズZEROという省エネ設備導入サービスは、10万件以上のお客さんがいるんですね。CO2の排出削減が200万tできるんです。200万tというと、人間1人が1年間で9t~10tのCO2を排出するといわれるので、20万人のCO2排出削減に僕らは貢献しているんです。

 20万人というのは渋谷区の人口とほぼ同じなんです。渋谷区の人が全員1年間電気を消して、息を止めているぐらいの排出削減をしてる。社員みんなが誇りに思ってるんですよ。

 井上 なるほど。

 近藤 だから誇りに思ってやるっていうのはすごく大事じゃないですか。そういうサービスをつくるのが僕は好きなんですよ。もちろん売り上げをこうしたい、利益をこうしたいというのは当然経営者だからあるけども、どっちかっていうと、何か世の中の課題を解決して、たくさんの人が笑顔になること、社会にとってなくてはならない会社になりたいと思っています。

 井上 まさにサステナビリティ経営ですね。

 近藤 Yahoo! BBも、孫さんと一緒に日本のブロードバンド革命に参加できたことは、やっぱり社会に貢献してるという意味では本当に誇りに思っているし、いろんな学びもあったので感謝しかないです。

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最終更新:5/2(木) 8:32

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