今、目の前にある1989年のデジャヴ~上り調子の市場で損をする人々の生態とは

3/18 5:02 配信

マネー現代

バフェットは火災報知器が鳴るはるか前に売る

(文 大原 浩) バフェットの金言はたくさんあるが、その中の一つに「劇場から逃げるには、椅子から立ち上がるだけでよい。しかし、市場から逃げるにはそれまで自分が座っていた椅子を誰かに売る必要がある」というものがある。

 例えば、劇場の舞台から火の手が上がれば観客は席を立って、出口に一目散に走るだけでよい。もちろん、多くの観客が殺到して出口は大混雑するが、やるべきことは単純だ。

 だが、証券市場で火の手が上がった(株式暴落)時には、自分が座っていた椅子(株式)を、目の前で炎が燃え上がる中で、別の誰かに売らなければ逃げることができない。

 その結果どうなるかは、株式市場の暴落を経験したことがある読者ならよくわかるであろう。

 だからバフェットは、だれかが「火事だぞ!」と叫ぶはるか前に、「どこかから煙が漂ってこないか」を注意深く観察し、大多数の観客が火事に気付くはるか前に劇場を出て、ゆったりと自宅で大好きなコカ・コーラを飲んでいるのだ。

 もちろん、「投資の神様」と称されるバフェットだが、2019年9月19日公開「投資予測に『当たり屋』はいないのになぜ『はずれ屋』は存在するのか」冒頭「未来は予測できない」で述べたように、「ピンポイントの未来予測」などできない。できるのは「(早めに)準備」することだけである。

 だから、株式を購入するときには「自分自身が設定した価格」まで株価が下がるのを忍耐強く待つバフェットだが、売るときには危険な兆候を感じたらすぐに売り払う。まるで脱兎のようだ。

 例えば、2007年にペトロチャイナを売却した直後株価が急騰したが、そのようなことはそれほど気にしない。すでに株価が何倍にもなっていて大きな利益を得ていたこともあるが、「(長期的に)危険を回避」=「火事から逃げる」ことの方が、目先の利益よりも大事だからである。

 そして、2年前の2022年3月3日公開「『投資の神様』バフェットが、いま『手元の現金』を増やしている理由」で述べた「現金準備」が、2月29日公開「バフェットからの手紙2024年~米国市場暴落は不可避か? だから日本市場へ」2ページ目「『ブラック・スワン』の足音が聞こえる」で触れたように「過去最高水準」に達している。

「見えていない」だけ……

 確かに、「投資先が見つからない理由」はバークシャーが「池の中のクジラ」とでも呼べるような巨大な存在になったことが大きいが、バフェットの主たる投資先の米国企業の株価が「割高」すぎるということも見逃せない。

 2年以上前から煙がくすぶっていたのが米国(市場)だが、いよいよ(一部の)観客が「異変」に気づき始めている。

 2021年4月20日公開「『ドルが紙屑になるかもしれない』時代に考えるべき、これからの金の価値」で触れたアルケゴスやグリーンシルの問題から始まって、昨年4月15日公開「SVB、クレディ・スイス破綻劇から考えると固定資産税はこれから急上昇する」冒頭「『世界金融危機』はまだ序章」のSVB(シリコンバレーバンク)危機に至った。

 SVB危機は「禁じ手」の資金供給で先送りすることができたが、ロイター 3月12日「焦点:地銀危機対応の緊急融資制度終了、FRB窓口貸し出しに注目移る」のように、緊急貸出制度「バンク・ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)」が3月11日で正式に終了した。

 だが、Bloomberg 2月2日「あおぞら銀ショック、米不動産リスクが顕在化-外資手法で異色の邦銀」と同じ商業用不動産ローン問題を抱えるNYCB(ニューヨーク・コミュニティー・バンコープ)は、ロイター 3月8日「米NYCBが1カ月で7%の預金流出、今年2回目の減配も発表」という状況だ。

 今後も避けられないであろう「危機」の際に、FRBがどのように対応するのかが注目されている。

 結局、米国政府(FRB)のこれらの問題への対策は、まるでモグラたたきだ。いつかはモグラが出現するスピードに負けてしまうのではないかと思われる。

1989年のデジャヴ

 3月1日公開「日米ともに株価史上最高値、でも日経平均がダウ平均を上回ったことの方が重要」2ページ目「米国株はバブルだ!」で述べたように、現在の米国市場は1989年の日本のバブルピーク時の状況に酷似している。

 かつて日本のバブル崩壊がそうであったように、世界時価総額ランキングの上位を独占する米国企業の大半は、30年後には50位までのランキング圏外となるであろう。もっとも、(バフェットが率いていなくても)バークシャー・ハサウェイは別格である。

 しかし、バフェットが繰り返すように、「ピンポイントで未来を予測する」ことは不可能だから、「いつバブル崩壊がやってくるのかを明示」出来ない。それでも、最大限の警戒をすべき時期にあることは明らかだ。

 かつて日本のバブル・ピークに至る過程では、債券市場から始まって、「新人類相場」という言葉がしばしば使われた。つまりそれまでの常識では到底考えられない相場形成が行われ、経験を積み重ねた「旧人類」が(恐怖を感じて)その相場の波にうまく乗れないのに対して、経験が浅く先入観を持たない「新人類」が「恐れを知らない取引」で大儲けをした。「『旧人類』はお呼びじゃないよ!」という意味である。

 だが、1989年のバブル崩壊で「真実」が明らかになった。

 また、1990年代のIT(ドットコム)バブル華やかりし頃、当時IT企業に対して一切投資を行わないバフェットを、多くのメディアやIT関係者が「ITのわからない時代遅れのポンコツ」と揶揄した。

 だが、2001年頃のITバブル崩壊によってこちらでも「真実」が明らかになった。

 チューリップ・バブル以来の歴史を振り返っても、バブルは必ず崩壊する。問題は、その「時期」なのである。

 現在では、8月31日公開「中国は崩壊か? それとも『失われる50年』か? いずれにせよ日本のバブル崩壊以上の惨劇が待っている」との状況が広く認識されている中国について、2008年9月に「韓国企業はなぜ中国から夜逃げするのか」という書籍を出版した。

 さらに、今から5年以上前の2019年1月9日公開「客家・鄧小平の遺産を失った中国共産党の『悲しき運命』を読む」という記事も執筆した。

 だが、かなり最近まで新聞、テレビ、さらには評論家などが、「素晴らしい成長」を喧伝し、「間もなく中国が米国のGDPを抜く」と豪語していたことを思い返すべきである。

 「いつ」かは定かではないが、「いずれ」バブルが崩壊するのは歴史が示すところである。

 その点で、前記「日米ともに株価史上最高値、でも日経平均がダウ平均を上回ったことの方が重要」で述べたように、(ポイント数で)日経平均がダウ平均を上回ったのは重要な事実である。

それでは日本市場は?

 前記、「韓国企業はなぜ中国から夜逃げするのか」の中で、2007年にそれまで保有していた中国・韓国の株式をすべて売却した事を述べた。

 そしてその資金はすべて「日本市場」に投入した。

 確かに2008年北京オリンピック以降もしばらくの間、中国経済は好調であった。しかし注目すべきは日本市場の推移である。

 2003年4月28日に7607円88銭(終値)とバブル後の最安値をつけた日経平均は、その後回復した。しかし、2008年10月27日に7162円90銭(終値)と1982年10月以来、約26年ぶりの安値水準まで落ち込んだ。

 だが、今から振り返れば、チャート的には2003年と2008年の安値がいわゆる「ダブルボトム」を構成し、すでに2008年に「バブル後の大底」をつけていたのである。そして、その後現在の4万円近辺まで、日経平均は何と6倍近くに急騰しているのだ! 

 2012年末のアベノミクススタート前の1万円前後から考えても約4倍である。

 現在4万円超えが騒がれているが、すでに約15年前から日経平均は「爆騰」トレンドにあると言える。

 ちなみに、バフェットが総合商社に投資を始めたのは、2月29日公開「バフェットからの手紙2024年~米国市場暴落は不可避か? だから日本市場へ」4ページ目「5大総合商社、アメックス、コカ・コーラは手放さない」で述べたように、今から4年半以上前の2019年7月である。

 2020年9月4日公開「バフェットが認めた『日本の強さ』の正体…5大商社株式取得に動いたワケ」2ページ目「中国企業に投資したが中国には投資をしなかった」で述べたように、ペトロチャイナへの投資と5大総合商社への投資は根本的に意味合いが異なる。

 バフェットも5年近く前から「日本市場」の可能性に気が付いていたといえよう。

 現在の日本における株価上昇は、バブル当時と違って合理的根拠がある。現在の米国株と違って、むしろ過小評価されているとも思える。

 また、日本株の時価総額が増えれば、世界中の投資家がポートフォリオの中の日本株の比率を高めなければならなくなる。過去、日本株の時価総額の世界に占める割合が減るごとに、売り浴びせられていたのとまったく逆の現象が起こるはずだ。

 現在の日本の株式市場の状況は、2001年に中国がWTOに加盟した後の中国株の活況と似ているかもしれない。当時の中国株市場も信じられないほどの「割安株」がごろごろしていた。

昇り調子の市場で損をする悲しさ

 5年半ほど前の2018年10月6日公開「今後4半世紀の間に日経平均株価は10万円に達することができる」や、昨年11月29日公開「日米株価逆転は近い、日経平均株価は『10万円』を目指す可能性がある」で述べた意見は、今現在も変わりが無い。

 むしろ、3月1日公開「日米ともに株価史上最高値、でも日経平均がダウ平均を上回ったことの方が重要」4ページ目「現在の米国は『バブル期の日本』」で述たように、1989年に日経平均がバブル期高値をつけた日のダウ平均の終値が2753ドルであったのに、現在では4万ドル近辺まで上昇した。したがって、現在4万円前後の日経平均が30年程度で十数倍、すなわち50万円を上回ってもおかしくはない(バブルの要素が無ければ20万~30万円程度? )と考える。

 ただし、基本的に「大原浩の逆説チャンネル<第56回>『日本以外全部沈没』。危機に強い1400年の日本の歴史の真価が発揮される」と考えてはいるが、「世界が沈没」する中で日本だけがまったく無傷というわけではない。

 日本市場が長期的に上昇基調でも踊り場や下落局面はよくある。市場は「山あり谷あり」という言葉どおりだ。

 また、これまで述べたような「ブラック・スワン」や米国市場の危機の他、現在製造業を中心とした日本企業の追い風となっている「円安」の行方も、少なくとも短期的には不明だ。

 バフェット同様、我々も(危機に)常に備えるべきなのである。上昇相場でも、短期的な市場の振れに翻弄されて損をする投資家がたくさん存在することには充分注意すべきだ。

 なお、実際の投資は、「大原浩の逆説チャンネル<第15回>バフェット流の真髄は『安く買って高く売る』これがわからない人がほとんどだ。(バフェット流の真髄その1)」などを参照の上、自己責任で行っていただきたい。

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最終更新:3/18(月) 5:02

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