少し古いAIだからいい…「AI投資」達人が指南する"儲かる5大鉄則"と驚きの運用実績シミュレーション公開

4/25 7:17 配信

プレジデントオンライン

■「ロボットの着ぐるみを着た人間」が運用⁉

 AIを活用した投資といえば、現在のところ「ロボアドバイザー(以下ロボアド)」が、その中心的存在になっています。ロボアドとは、AIが投資家のリスク許容度(どれくらいの損失なら受け入れられるかという度合い)や投資目標に基づいて最適な投資を提案したり、運用したりするサービスのことを指します。

 国内では2016年にロボアド専門の事業者「ウェルスナビ」が登場したのを皮切りに、現在10~15社でロボアドを利用することができます。ちなみに同社は、20年に上場。今年1月には預かり資産1兆円を超えたこともニュースになりました。

 ロボアドは、「ファンドラップ」という投資アドバイスサービスの進化版といわれます。ファンド(投資信託)とは、複数の投資家から集めた資金を用いて、プロのファンドマネージャーが株式や債券などの金融商品に投資し、その運用結果を投資家に還元する仕組み。ファンドラップは、本来投資家が行うファンドの選択や管理などを、専門のファンドマネージャーが行うサービスです。

 投資家の投資目標やリスク許容度に基づいて、ファンドマネージャーは最適な投資ポートフォリオを提案作成し、その運用を継続的に監視したり調整したりします。これにより、投資家は専門的な知識や時間を必要とせずに投資を行うことができるのです。ただし、このサービスは通常、資産1億円程度以上の資産家に、2~3%という高額な手数料で提供されていました。

 しかし、ロボアドの登場により、これらの運用作業の大半がAIによって自動化され、手数料が大幅に削減されました。AIが投資家の代わりに最適なファンドの組み合わせを提案し、市場の動向に応じてポートフォリオのバランスを自動的に調整してくれるようになったのです。数百円程度から投資を始めることができ、手数料も無料~1%程度と大幅に安くなりました。

 ユーザーはロボアドの口座を作るのと同時に、投資の目的やリスク許容度などに関するいくつかの質問に答えるだけで、運用がスタート。お抱えのファンドマネージャーというと言い過ぎですが、それぞれのユーザーに合った“セミオーダー”のポートフォリオ運用をしてくれるのが、ロボアドです。

 ただ一つ、注意していただきたい点があります。ロボアドが活用しているAIは1980年代に始まった第2次AIブーム時に生まれたエキスパートシステムの一種です。これは、人間が考え出した理論や知識をコンピューターに教え込み、それに基づいて専門家のようなアドバイスを提供するシステムです。その後、2000年代に入ると、ディープラーニングが誕生して第3次AIブームが始まります。ロボアドに使われているAIは、その流れの中から出てきた今話題の生成AIと呼ばれる高度なAIとは異なります。

 そこでロボアドは「ロボットの着ぐるみを着た人間」といわれることがあります。中身の一部は人間のため、客観的で優れた投資パフォーマンスを過大に期待するのは早計なのです。

■NISAにも対応しているかどうかを確認

 では、どうつき合えばロボアドを味方に付けることができるのでしょうか。5つのポイントを見ていきます。

 1つ目のポイントは、どこの会社のロボアドを選ぶかです。日本におけるロボアドの歴史はまだ浅く、そのサービスを提供している事業者は増えつつあります。しかし、国内でもすでに撤退した事業者があるほか、ロボアド先進国のアメリカでは、ロボアド事業者が運用成果を偽装するなどの詐欺事件も起こっています。

 とはいえ証券会社は会社の資金と顧客の資金は分別して管理することが義務づけられており、また、万一それに反しても日本投資者保護基金に加入していれば顧客1人当たり1000万円までが補償されます。ロボアド事業者が、そもそもこれに加入しているかを、公式サイトなどで事前に確認しておくのがおすすめです。

 2つ目のポイントは、NISA(少額投資非課税制度)への適応性です。NISAは個人投資家に税制上の特典を提供する国の制度です。この制度を利用すれば、投資信託にかかる通常約20%の税金が免除されます。例えば一般の口座を利用した場合、100万円の利益から約20万円の税金が引かれ、実際に受け取ることができるのは80万円程度となります。一方、これにNISA口座を利用すれば税金が免除され、全額の100万円を受け取ることができます。複利効果の恩恵を最大限に受けるためには、NISAに対応している事業者を選ぶことが得策です。

 ただしロボアド専業会社では、個別株投資や自分の好きな投資信託の選択はできません。また、NISA口座は1つしか持つことができないため、ロボアド専業会社でNISA口座を利用すると、他の証券会社でNISA口座を作って個別株投資などを行うことができなくなる点には注意が必要です。

 3つ目のポイントは、ロボアドの運用手法を確認することです。そもそもロボアドは、平均株価などの指標に連動するインデックス型の投資信託などを組み合わせて、それぞれの人に合った最適なポートフォリオを構築するのが一般的でした。しかし、最近ではハイリスクハイリターンのアクティブ型の運用を行うロボアドも出てきています。そこで自分が利用しようとしているロボアドがどのような運用手法を採用しているかを確認する必要が出てきました。投資信託を選ぶ際、「目論見書」と呼ばれる説明書を確認するのと同様に、ロボアドを選択する際には、ホワイトペーパー(説明書)やホームページで提供される情報をチェックして、どんな手法か確認することをおすすめします。

 次は4つ目のポイント。ロボアドに適した投資期間です。表をご覧ください。見慣れない言葉が並んでいるかもしれません。簡単に説明すると、「シャープレシオ」は、このポートフォリオの投資の効率性、「時間加重利回り(TWR)」はファンドマネージャーの腕を比較する利回り、「金額加重利回り(MWR)」は、その資産をいかに上手に運用できたかということを評価します。また「損益率(ROR)」は投資した元本がどれだけ増えたかという単純な数字をあらわしています。表内のTWR、MWR、RORは、記載の投資期間に私が行ったキャッシュフローの実績です。

 その下のグラフは、私自身が研究のために使っているロボアドのうち、あるひとつのロボアドを使って、2018年5月から今年2月まで、毎月1万円ずつの投資をロボアドに任せたときの、実際のポートフォリオに基づくシミュレーションです(手数料などは含まない)。

 紫の折れ線は、米国の代表的な株価指数であるS&P500に連動する上場投資信託(ETF)で運用した場合の資産額、ピンクの折れ線はロボアドのポートフォリオで運用した場合の資産評価額をあらわしています。2つの線はほぼ重なり合って動いていて、投資せずに毎月1万円ずつ積み立てた場合の元本額より、はるかに多くのリターンを得られていることがわかるでしょう。またオレンジの折れ線であらわした全世界の株式に投資ができるETFと比べても、この期間のリターンは上回っていました。

 ちなみに私の場合は、このロボアドが提供するいくつかのコースのうち、もっともハイリスクハイリターンのものを選んでいます。そのため、投資信託のポートフォリオは債券などを加えない株だけの構成となっています。

■ロボアド投資は人間に勝てるのか

 グラフでもわかるように、ロボアドと投資信託の折れ線は、最初は元本を割ることもあったものの、ほぼ同じような動きを見せています。

 とはいえロボアドのほうは、世界の株に分散して投資しているところが強みです。国内株の指標に連動した投資信託は、国内で何かがあった場合、総倒れになる可能性がありますが、ロボアドは世界の株に分散させることで、何かあったときのリスクをヘッジすることもあるからです。もし自分の手で、同じように世界に分散した十何本もの投資をしようとすると、管理にはかなりの手間がかかります。一方これを任せられるのが、ロボアドのいいところといえるでしょう。

 ここでグラフに目を戻すと、ロボアドの運用したポートフォリオ(分配金を再投資しない場合)と、普通に購入してほったらかしにした投資信託は、分配金や手数料を考慮しないで比較した場合、6年間で同じ成績という結果になっています。ロボアドの手数料は、通常の投資信託の手数料と比べると高いことも多いので、長期になればなるほどロボアドに任せずに、投資信託を普通に持っていたほうがおトクになる可能性が高そうです。

 最後の5つ目のポイントは、ロボアドの手数料についてです。ロボアドで使われるものと同等の投資信託のコストは0.1~0.5%程度が一般的です。一方、ロボアドに運用のすべてを任せた場合の手数料は1%程度かかります。例えば、100万円の投資を考えた場合、1%の手数料は1万円に相当します。しかし、この手数料を支払うことで、日々の運用を自分で考える必要がなくなります。手数料よりも、自分で運用する手間を省くことで得られる利便性のほうが大きいと感じる人にとっては、ロボアドの利用は価値があるといえるでしょう。

 このようにロボアド投資は、投資に時間と手間をかけたくない方や、比較的短期間(5~10年程度)の間に使う予定があるが少しでもお金を増やしたいと考える方に向いています。反対に、自身で投資に時間と手間をかけられる方や、老後の資金など長期にわたる投資をしたい方、手数料などのコストを少しでも抑えたい方に向いている投資とはいえません。さらには、損を出さないことを第1の目的としたコツコツ型の投資に飽き足らず、ある程度のリスクをとりながら期待リターンの高い投資を楽しみたい方などにも向いていません。ロボアド投資は基本、リスクを抑えた運用であるため、ハイリスクハイリターンの投資のような、ワクワク感もスリルも少ないためです。

 気になるのは、AI投資の今後です。投機的な短期の売買の場合には、すでにアルゴリズム取引(有利な価格を大きく変動させないために、コンピューターが自動的に株式売買注文のタイミングや数量を決めて注文を繰り返す取引のこと)などに、最先端の生成AIなどの技術を活かす研究が進められているようです。これが進めば、高価な高性能AIサービスを利用できる一握りの富裕層が、富を独占するようなことが起きるかもしれません。

 これに対して長期投資の場合には、AI技術が実用的なレベルで普及するのにはまだまだ時間がかかりそうです。これは生成AIは計算や論理的思考に弱いという構造的な弱点があるためです。しかし、その弱点もいつかは解決されるでしょう。

■バフェット氏が街頭で物乞いをする日が?

 投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェット氏は「市場が効率的なら、私はいま街頭で物乞いをしているだろう」と語っています。いつか誰もが高性能AIを使って最適な投資をするようになれば、多くの投資家が平均的なリターンしか手に入れることができなくなる。バフェット氏が物乞いをする日が、本当にくるかもしれません。

 投資手法のレクチャーや個別相談を行う中で、投資で失敗する人の共通点は相場を気にしすぎることだということがわかってきました。株価の変動に一喜一憂し、下落後に少し戻ったところで売ってしまう「やれやれ売り」は、多くの失敗者に見られる典型的な行動です。

 私は2020年3月にコロナショックで株価が大暴落した際、ある真面目なロボアド事業者から以下のようなメールを受け取りました。

 「先行きの見えない相場でこそ、持ち続けて『積立』を」

 株を持ち続けると手数料が発生しないため、普通はこうしたアドバイスを証券会社から受け取ることはありません。でもロボアドは、積み立てて持ち続けることがメインのコンセプト。売るべきか持つべきか迷う心を、ロボアドが「持っていていいですよ」と優しく諭してくれたような気がした投資家は、少なくなかったと思います。

 AIを駆使した最先端技術の塊のように見えるロボアドですが、その正体は少し古いAIのエキスパートシステムです。意外にもロボアドの真価が発揮されるのは、アナログ的で人間的なぬくもりを感じさせてくれる寄り添いの言葉で相場下落時の恐怖から救い出してもらうときかもしれません。

 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月3日号)の特集「AI時代の生き方大全」の一部を再編集したものです。



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青山 創星(あおやま・そうせい)
ファイナンシャルプランナー
大手銀行で銀行の資産運用に関連する幅広い部門を経験したのち、バフェット投資などを広めるセミナーやコンサルを企画・実施。「FP相談ねっと」でロボアド研究会を主宰する。
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最終更新:4/25(木) 7:17

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