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小林製薬「紅麹問題」結局、何がマズかったのか? 「添加物の神様」と言われた食品製造のプロが「3つの事故原因の可能性」と「根本原因」を解説

5/2 10:02 配信

東洋経済オンライン

70万部の大ベストセラー『食品の裏側』の著者、安部司氏が開発した8万部突破のレシピ集『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』に続き、『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん2 ベスト107レシピ』が発売され、発売7日で増刷するなど大きな反響を呼んでいる。

 『食品の裏側』発売後、全国の読者から受けた「何を食べればいいのか?」という質問に対する答えとして、安部氏が自ら15年かけて開発した膨大なレシピノートの中から、「簡単に時短に作れるレシピ」を厳選したレシピ集だ。

 いまなお食品添加物の現状や食生活の危機をメディア等で訴え続けている安部氏が小林製薬「紅麹コレステヘルプ問題」について語るシリーズ第2弾。

*このシリーズの1回目➡「紅麹問題」は“3つの基本、混同してる”人が多すぎだ

■麹は「生き物」最大限に神経をとがらせて扱うべき

今回は前回の記事(「紅麹問題」は“3つの基本、混同してる”人が多すぎだ)に続き、「紅麹コレステヘルプ」問題について「麹の管理」という観点から考えていきたいと思います。

 なぜなら、「麹」は管理を一歩間違えれば大変なことになる、大変難しい食材だからです。

 自分で言うのも恐縮ですが「麹」という観点からこの問題にアプローチできる人間は、あまりいないのではないかと思います。

 「紅麹コレステヘルプ」がなぜ死亡者まで出し、多数の健康被害を出したのか、その原因については現在検証中とのことですから、それを待つ必要があります。

 しかし、長年食品加工の現場で「衛生管理」と戦ってきた私が考える原因は3つあります。

 私が考える原因は、以下の3つです。

①製造工程にて過失もしくは故意により「未知の成分」そのものが混入した可能性

②「未知の成分」を産生する他の微生物が混入した可能性(管理の過失)

③紅麹菌が変異し、「未知の成分」を生産した可能性(不可抗力)

■麹は生き物である以上「変質のリスク」は避けられない

前回記事で、「麹菌」はカビ菌の一種だと述べましたが、カビ菌の中で「人間に有用な食品を作り出す」ものが麹として食品加工に利用されてきたわけです。

 酒をつくる酵母のために、米をブドウ糖に変えるのです。

 ところが、麹菌は「生き物(微生物)」です。生き物である以上、「変質のリスク」は避けられません。

 一歩間違えば、どんな雑菌が繁殖してしまうか、どんな変質が起こるかわかりません。「有用の微生物」と「病原性の微生物」は分類学上、近縁であることが多いからです。

 「自然界においては1万分の1の確率で微生物の変異が起こる」という論文も出ています。

 現に、今回の事故の原因として、青カビから発生することがある「プベルル酸」という物質が想定外に産生されたのではないかと疑われています。その他の未知成分も確認されているようです。

 これが、どの段階で発生したのかなど詳しいことは、今はわかっていませんが、こういうことが「起こりうる」のが麹、発酵食品の世界なのです。
過去には、実際にこういうことが起こっています。

 2003年、食品添加物として認められていた「コウジ酸」に「肝臓がんを発症させる疑いがある」と食品安全委員会が発表し、禁止されたのです(化粧品については再テストの結果、使用可能となっています)。覚えている方もいらっしゃるでしょう。

 「コウジ酸」とは、麹を培養して作られる酸化防止(変色防止)の効果を持った物質です。

 これも、最初は「麹菌が作り出すものだから安全」といわれていたものです。

■「麹の品質管理」は命がけ

 長年、発酵食品の開発に取り組んできた私には、「麹の管理」の難しさが嫌というほどわかっています。

 食品加工において、味噌や醤油メーカーが麹を自社培養するところもありますが、一般的には麹菌(種麹)の供給会社、通称「麹屋」から買います。

 私は麹屋さんとも交流があるのでよく知っているのですが、まあ「品質管理の厳しさ」といったら大変なものです。

 まず、「種麹」を育てる部屋は限られた人物しか入れません。家族も入れない。品質管理のため、「異種のカビ」に汚染されないためです。また、どこも独自のノウハウがあるから、機密事項でもあるわけです。

 この管理がちょっとでも甘いと、もうすぐに味が違ってしまいます。

 「昨年と違う」といわれたら信用問題にかかわりますから、品質保全にはどの麹屋さんも必死です。

 とくに日本酒の種麹は細心の神経を使って育てる必要があり、その大変さは味噌、醤油の比ではありません。

 食品添加物の「ベニコウジ色素」を抽出する麹の管理については、安全審査を通さなければいけないから、なおのこと「徹底した厳しい管理」が必要となります。

 翻って「紅麹コレステヘルプ」は、どのような管理がなされていたのでしょうか? 

 ここからは私の推測になってしまいますが、大量生産・効率化を優先するあまり、麹を育てる品質管理が不十分だったのではないかと思うのです。

 「麹の培養期間が50日」と長いのも、私に言わせれば不安要素です。長ければ長い分、変質の危険性が高まるからです。

 もちろん、管理はしていたのでしょう。しかし、「麹の品質管理の厳しさ」を知り、危機意識をもって対応していたのでしょうか。

 そこが疑問です。

■人間は、自分が思うほど自然をコントロールできない

 私たちは歴史の中で「発酵食品」の利点を見つけ、上手に食文化に取り入れてきました。

 発酵食品は微生物のカビ(麹菌)、酵母、細菌の働きをうまく利用して作られ、それらが複雑に絡むことによって独特の風味が醸し出されるわけです。

 しかし、人間がその存在を解明し、培養できる微生物は、全体の1%にも満たないといわれています。

 つまり、「人間は、自分が思うほど自然をコントロールできていない」のです。

 人間の英知がまだまだ及ばない世界であることを自覚し、今ある最新技術を駆使してゲノムレベルで管理していくことが、微生物(麹菌)の管理には不可欠なのだと思っています。

 そこを踏み誤って「過信」「慢心」が起きたときから、間違いが生じます。

 今回の事故の根本には、それがあるように私には思えてなりません。

 次回は「サプリメントの安全性」について、長年食品加工に関わってきた私の立場から述べてみたいと思います。

*このシリーズの1回目➡「紅麹問題」は“3つの基本、混同してる”人が多すぎだ

東洋経済オンライン

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最終更新:5/2(木) 10:02

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