職場の「働かないおじさん」を辞めさせるたった1つの方法

5/21 6:11 配信

ダイヤモンド・オンライン

とかくネットで話題になる職場の「働かないおじさん」。働いていないのに、なぜ会社をクビにならないのか? 弁護士に素朴な疑問をぶつけてみた。(イトモス研究所所長 小倉健一) ◇◇◇

● 「働かないおじさん」もいれば 「働かないおばさん」もいる

 働かないおじさん。どの会社の職場にもいそうな人だ。筆者の会社勤務時代の経験から考えると、たしかに働かないおじさんもいたのだが、働かないおばさんもいるし、働かない若い男女もいた。

 しかし、世の中で叩いていいのは「おじさん」のほうだけらしい。Amazonで「働かないおじさん」と検索すると、たくさんの書籍が出てくるのに対して、「働かないおばさん」と検索しても書籍は見当たらない。

 ちなみに、「おじさん」とアマゾンを検索するといろいろなコミックなどがヒットするのに対して、「おばさん」と検索するとたくさんのアダルト本やDVDがヒットしてしまった。日本の暗黒面を思い知らされた次第だ。

 いずれにしろ、企業にとって、組織にとって不必要となっている人は多い。私自身だって、数年前までいた出版社では少しは役に立っていたのかもしれないが、国会議員の秘書をしていたときなど、ひどいものだった。若気の至り、と総括することも私としては可能だが、雇う側からすれば「生産性が低い」「働かない人」だったのかもしれない。

 しかし、日本社会では、会社は労働者をなかなか解雇ができないと言われている。サッサと解雇の金銭解決を可能にしたほうが、労使にとっていいようにも思うが、とにかく組織にしがみついていたい人もいるのだろうから、話は複雑になる。

 こうした現状について、顧問先企業を中心に労務問題・セカンドキャリア支援案件を扱う城南中央法律事務所(東京都大田区)の野澤隆弁護士に話を聞いた。

● 「45歳定年制」炎上と 日本の経営者の三重苦

 「日本特有の問題として、解雇権濫用法理に基づく解雇制限、不利益変更禁止の原則に基づく減給制限などがあります。加えて、近年では少子高齢化を背景に定年延長などが進められており、経営サイドにとっては三重苦のような状況が発生しています」

 「多くの経営者が頭を悩ませているのは間違いありません。とはいえ、サントリーホールディングスの新浪剛史氏が『45歳定年制』発言をしたときの世論の反発をみる限り、現状を変えることは難しいかもしれません」

 「働かないおじさん」が自分のチームにいたら非常に迷惑に感じる半面、「明日は我が身」と彼らに同情的な世論も存在している。

 東洋経済オンラインの月間アクセスランキング1位になっていた《職場の「働かないおじさん」が隠していた凄い武器》という漫画記事には、典型的な「働かないおじさん」である乙原保(おとはら・たもつ)というキャラクターが登場する。

 同僚からは「ろくに仕事していない」「老害って感じじゃん」「だいたい午後は行方不明になる」「デスクの上に堂々と漫画置いてる」「喫茶店でばっかり見かける」などと評判が悪い。

 本人も「わたしはあんまり仕事したくないんだよ」「このまま緩く定年を迎えたい」などと言い出す始末。完全に確信犯である。

● 働かない社員は解雇できる? 弁護士の見解とは

 しかし、乙原と同じ会社の社員が取引先に大きなヘマをやらかしたときに、その取引先の重役と乙原が実はマブダチだったことが明かされ、会社はことなきを得るというストーリーだ。

 ブチ切れたけど、相手がマブダチだから許してあげる。ご都合主義といえばご都合主義だが、あくまでフィクションなのでそこはまあ良しとしよう。

 過去に会社に貢献していたのかもしれないが、自らも認めるような「働かない社員」に、なぜ会社は給料を支払わなければならないのか。乙原についても働いていない自覚があるのなら、退職して新しい人生をさっさと進みなよと言いたくもなってしまう。ある程度の解雇権はやはり必要なのではないだろうか。

 前述の野澤隆弁護士は、日本で実際に行われている解雇・退職勧奨の現状についてこう明かす。

 「大手企業と中小企業で状況はだいぶ変わります。大手企業では、労働組合・世間の監視が厳しいので、まずは退職金の大幅な増額などを前提に『キャリア支援プログラム』などが会社側から提示されることになります」

● 会社が持っている「奥の手」

 「外資系企業を中心に、『辞めるのが今なら月給15カ月分くらい増額だけれど、来月になると月給10カ月くらいになるかもよ』などといった脅し文句もよく出てきます。日本の法制度では解雇権が厳しく制限されているものの、人事異動はかなり自由にできる建て付けです。会社側のオファーを断れば、転勤や望まぬ部署への配属という流れに移ります」

 「中小企業の場合は、弁護士に委任するなど法的手続きを進める人は少ないだろうことを見越して、かなり強引な解雇や減給などが実態として広く行われています。ひどいことをしても、マスコミに取り上げられることもなく、せいぜいSNSや口コミサイトで悪評を投稿される程度で終わることは多々あります」

 「実務上、いきなり解雇を検討する経営者はさすがに少なく、『基本給は下げられない』『ボーナスはかなり自由に増減できる』『手当の削減はグレーゾーン』ということを念頭に入れつつ、税理士・社会保険労務士・弁護士らのアドバイスを踏まえた『人件費の削減』を何とか実現しているのが良くも悪くも日本の会社の実情です」

 手当については、例えば「5人の部下のいる課長」から「部下なし課長」へと異動したケースなどで、管理職手当が減給される場合があるという。裁判沙汰になることは少なく、半ば強引に会社側から同意を求められているようだ。野澤弁護士が続ける。

● 頼りになるのは労働組合だが…

 「会社の持つ『賞与査定権』と『人事権』は強大で、このパッケージに労働者が1人で対峙するのは非常に困難です。会社側と労働者側を比べると、資金力の差が圧倒的なパターンが大半です。会社側は弁護士などの専門士業や再就職あっせん業者に簡単に100万円、200万円といった単位で資金を投入できます」

 「一方、労働者側はそうはいかず、成果金・成功報酬などで採算を取ろうにも勝てる見込みが微妙なケースも多い。地上波テレビや大手新聞で派手に広告する法律事務所でも、こうした労働サイド案件は敬遠されがちです」

 「そこで労働組合の登場となりますが、組織率・組合員数いずれも長期低迷の状況が続いており、組織率が比較的高い大規模工場の組合幹部ですら、『ストライキ(団体行動)が憲法28条に定められた権利であり、刑事免責・民事免責などがある』ことを知らないといったことがよくあります」

 「今は労働者不足で多少年齢が高くても再就職しやすい環境ですから、大きな問題になっていません。しかし、近い将来、日本がより貧しくなったときに問題が顕在化していくだろうと思われます」

 「働かないおじさん」は、案外あっさり退職させることができるようだ。非常に驚いた。

ダイヤモンド・オンライン

関連ニュース

最終更新:5/21(火) 10:11

ダイヤモンド・オンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング