なぜ若者は結婚しないのか?「金がないから」説を裏付ける明確な根拠
昨今の少子化は若者の婚姻減によるもの。そして、若者の婚姻減は決して「若者の恋愛離れ」などという価値観も問題ではないことも明白です。
若者の「恋人のいる割合」というのは、出生動向基本調査の長期推移を見ても明らかなように、令和の今も40年前の昭和もほぼ3割程度で変化はありません。「高校生のデート未経験率4割」などが話題になったことがありましたが、それも40年前の高校生とほぼ一緒です(参照→景気によって「若者の恋愛観変わる?」意外な事実)。
「若者が結婚する意欲を失ったからだ」などという論も間違いです。これも出生動向基本調査で1992年から2021年まで20〜30代の独身男女の「結婚前向き率」は、男4割、女5割でまったくといっていいほど変化はありません(参照→日本の若者「本当は結婚したい」のにできない真因)。
つまり、婚姻が減ったのは若者の恋愛力の低下や結婚意欲の減退などではないということです。
■若者の婚姻数がここ10年間で急激に減った理由
では、なぜ若者の婚姻数が減ったかといえば、それは20〜30代の中間層年収帯の婚姻が減ったことがすべてです。それも、ここ10年間で急激に。
内閣府の国民生活基礎調査より、20〜30代世帯主の児童のいる世帯の数は、2003年から2013年の10年間ではほぼ減ってはいません。が、2013年から2023年の10年間で約50%減です。
しかも、世帯年収別に増減を見ると、年収300万円未満では55%減、年収300〜500万円の中間層帯では66%減です。500万円以上では38%減にとどまっていることから、人口ボリュームの多い中間層の若者の結婚と出産が特に減っていることを示しています。
ちなみに、世帯年収900万円以上では逆に14%も増えています。要するに、これだけ婚姻や出生が減っているとはいえ、経済上位層はまったく減っていないわけです。
企業規模別の未婚率の増減も確認しておきましょう。就業構造基本調査より企業規模別の男性35〜39歳の未婚率増減を2012年と2022年で比較すると、中小企業6%ポイント増であるのに対し、大企業はわずか1%ポイント増、官公庁はむしろ▲3%ポイント減という状況です。
基本的に、大企業と官公庁の年収中央値はほぼ同額です。当然、中小企業はそれより低いのですが、これも経済上位層である大企業と官公庁の未婚率は増えてはおらず、未婚率が上昇しているのは中小企業の男性だけです。
このように、婚姻数が激減しているとは言っても、経済上位層の婚姻数はまったく減ってはおらず、経済中間層以下だけが未婚化しているというのが、婚姻減の真相です。
■どの層が結婚できなくなっているのか
さらに、経済力だけではなく、恋愛力とのクロス集計によって、どの層が結婚できなくなっているのかについて明らかにしたいと思います。わかりやすくするために、弱者・中間・強者という3分類にします。
私のラボで調査した結果を基に、経済力は、年収300万円未満を経済弱者、300〜500万円を経済中間、500万円以上を経済強者として分類、恋愛力は、今までの恋愛経験人数1人以下(0人も含む)を恋愛弱者、2〜4人を恋愛中間、5人以上を恋愛強者として分類し、それぞれの分類ごとに20〜30代男女の未婚と既婚の構成をマトリクスにしたものが下記の図表です。
まず、20〜30代男性ですが、経済強者群はその恋愛力の強弱にかかわらず、未婚人数より既婚人数が上回ります。つまり、既婚率が高いということです。経済中間も唯一恋愛強者だけはほぼ未既婚同数ですが、だからといって、恋愛強者なら結婚できるかといえば、「経済弱者×恋愛強者」の男性は結婚できていません。
それどころか、経済弱者群は、恋愛力の強弱関係なく、すべて未婚が多くなっています。つまり、男性の結婚決定要因は、恋愛力などではなく経済力であることがわかります。
人口ボリュームがもっとも多いのは中間層ですが、この「経済中間×恋愛中間」「経済中間×恋愛弱者」の未婚数が多いことが全体の未婚率を押し上げ、結果として中間層の婚姻減を引き起こしていることになります。
■女性で未婚が多いのは?
一方、女性のほうはどうでしょう。
男性同様、女性も経済強者の既婚率は高いですが、男性と比べて、経済中間も経済弱者も恋愛中間以上であれば既婚率は高く、未婚が大幅に多いのは「経済弱者×恋愛弱者」と「経済中間×恋愛弱者」のふたつだけになります。
もちろん、女性の場合は結婚や出産を機に離職する場合もあるので、厳密にはこれは結婚当初の年収を示すものではありませんが、少なくとも、男性ほど女性は経済力の影響を受けるものではないとわかります。
これらを男女未婚率の形にしてマトリクスで図表化したものが以下になります。
男性でもっとも未婚率が低いのは「経済強者×恋愛強者」で未婚率28%、未婚率がもっとも高いのが「経済弱者×恋愛弱者」で未婚率97%です。端的に言えば、経済力が下がれば下がるほど未婚率はあがります。
恋愛力の差が未婚に関係するかを見てみると、経済中間においてのみ、恋愛力が高いほうが未婚率は低くなりますが、その未婚率52%は、「経済強者×恋愛弱者」の48%を上回ってしまいます。つまり「稼ぎが中程度のモテ男」より「500万円以上の年収のある恋愛弱者男」のほうが結婚相手として選ばれているということです。
未婚男性が「金がないから結婚できない」ということを頑なに「そんなことはない」と認めようとしない界隈がありますが、明らかに男性の場合「結婚できるかどうかは金次第」なのです。むしろ、「男の結婚に恋愛力はあまり意味を発揮しない」と見てもいいかもしれません。
女性の場合、もっとも未婚率が低いのは、「経済弱者×恋愛強者」の39.7%で、もっとも高いのは「経済弱者×恋愛弱者」の77.5%です。男女ともに「経済弱者×恋愛弱者」の未婚率が一番高いですが、男性と違って、女性の場合は必ずしも経済強者であればあるほど結婚しているというわけではないことです。
経済強者の男女間で比較すると、恋愛力にかかわらず女性の未婚率のほうが男性を上回ります。「経済強者×恋愛強者」の未婚率は男性より女性のほうが20%ポイントも高い。つまり、女性にとって経済強者であることは結婚に必ずしもプラスに作用するものではないのです。
■女性の希望は経済強者男性に集中
さて、こうしてみた時に、男女のマッチングという点で、なぜ中間層の結婚が激減しているかの答えが見つかります。
女性は、結婚相手として自分より年収が上か、少なくとも同程度の相手を選好するという「経済上方婚志向」があります。結婚生活は経済生活ですからその志向は当然でしょう。実際、結婚した夫婦において、年収が夫>妻は7割、夫=妻は2割、夫<妻は1割です(参照→結婚できる高所得層・できない中間層の残酷格差)。
しかし、そうなると、女性の希望は経済強者男性に集中します。この分類では、年収500万円以上を経済強者としましたが、マッチングアプリや結婚相談所での条件として「男性の年収500万円以上」というものがよくネット記事でもいわれています。
そういう条件で絞り込みをすればするほど、対象の男性の数は少なくなり、男性は経済強者なら恋愛弱者でも結婚できる反面、経済強者を希望する女性が全員その希望をかなえることはできなくなります。
年収条件を下げれば相手はいますが、当の女性は条件を下げることをよしとはしません。同時にそれは、条件検索にもならない経済中間の男性が大量に余ることになります。結果、中間層以下の未婚率だけが上昇します。それが冒頭に申し上げた、児童のいる世帯年収300万〜500万円の中間層帯で10年間で66%減という大幅激減につながっているのです。
そんな羽目になるくらいなら年収300万円同士で世帯年収600万円として結婚生活を運営すればいいじゃないという意見もあります。まさにその通りなのですが、結婚とはきわめて個人的な案件です。個人が個人の最適化を図ろうとすればするほど、全体最適化とかけ離れたものになります。
かくして、経済力も恋愛力も中間な層は、男は「金がないから結婚できない」と言い、女は「適当な相手(年収条件)との出会いがないから結婚できない」と愚痴を言うばかりになります。
■的はずれな少子化対策
日本の婚姻減は中間層の婚姻減に尽きます。この際、経済強者は放っておいても構いません。恋愛力があろうとなかろうと結婚していくでしょう。しかし、今やられている少子化対策は、すでに結婚できている経済強者夫婦に対する厚い支援ばかりで、豊かな者はより豊かになるという内容です。これでは出生数は絶対に増えません。
政府は賃上げばかり口にしますが、賃上げの恩恵もまた経済上位層に集中します。つまり、上位層と中間層の格差がより広がるだけです。すでに、結婚も出産も贅沢な消費化していますが、このままでは、結婚も子育ても「貴族の特権」と化してしまうでしょう。
東洋経済オンライン
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最終更新:5/10(土) 9:32