「かわいい犬が生まれたらラッキー」…ゲーム感覚で“雑種犬”を生み出す人間の罪深さ

4/20 16:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 犬は人間に犬種ごとに役割を担わされている家畜動物であり、持って生まれた役割を全うするには「純粋犬」であることが必須であるという。「雑種犬」も盲導犬や麻薬探知犬として活躍しているが、中には人間の興味本位で誕生させられる雑種犬もおり、問題視されている。本稿は、林 良博『日本から犬がいなくなる日』(時事通信社)の一部を抜粋・編集したものです。

● 人間によって担わされた 「純粋犬」の役割

 純粋犬と雑種犬に厳密な学術上の定義はありませんが、日本では、ジャパンケネルクラブが純粋犬について説明しています。それによると純粋犬種とは、その犬自身と、両親から祖先までがすべて同一の犬種であることが血統証明書により証明された犬を指すとしています。端的には、同一の犬種のみで交配されてきた犬が純粋犬であり、それ以外の犬が雑種犬だといえます。世界的には、純粋犬の犬種は少なくとも約200種、多く数えると約300種があります。

 血統証明書は血統書ともいいます。よく、「この犬は血統書付きだ」といった表現がなされます。「価値のあるもの」といった意味合いで捉えることが多いのではないでしょうか。実際、その犬が血統証明書で純粋犬であると認められるには、飼い主がジャパンケネルクラブに入会金2000円と会費1年分4000円を払って会員となり、一胎子、つまり同一の犬から同時に生まれた仔犬たちのうち1頭につき生後90日以内で2600円、生後91日以上経過後では6000円の登録料がかかります。純粋犬は、これほど価値づけられていると見ることができます。

 200種ないし300種にわたる多様な犬種があるのは、ひとえに人間の手によるものであり、その背景にはそれぞれの犬種が役割を担わされているということがあります。犬は犬種ごとに役割を担わされている家畜動物である以上、純粋犬の存在にも意味があるということになります。国際畜犬連盟やジャパンケネルクラブなどの畜犬団体は、犬種グループを、次の10グループに大きく分けています。

 つまり、家畜の群れを誘導・保護する「牧羊犬・牧畜犬」、番、警護、作業をする「使役犬」、穴のなかに住むキツネなどの小型獣用の猟犬としての「テリア」、地面の穴に住むアナグマやウサギ用の猟犬としての「ダックスフンド」、日本犬を含むスピッツ(尖った)系の犬を指す「原始的な犬・スピッツ」、大きな吠え声と優れた嗅覚で獲物を追う獣猟犬としての「嗅覚ハウンド」、猟において獲物を探し出してその位置を静かに示す「ポインター・セター」、ポインター・セター以外の鳥猟犬である「7グループ以外の鳥猟犬」、家庭犬、伴侶や愛玩目的の犬を指す「愛玩犬」、そして、優れた視力と走力で獲物を追跡捕獲する「視覚ハウンド」です。

● 純粋犬より体が強くなる? 雑種犬の「優性説」とは

 人間の目的意識がもたれるなかで、さまざまな犬種が生じ、純粋種が保たれてきました。飼育されている犬の9割近くは純粋犬とされ、その比率は高まる傾向にあります。その一方で、異なる犬種の両親から生まれた雑種犬もれっきとした犬であることはいうまでもありません。

 雑種犬、とりわけ純粋犬の父親と、別種の純粋犬の母親から生まれた雑種第一代ないしF1とよばれる世代については、純粋犬よりも体が強くなるなど生活力が高まる傾向にあります。これは「雑種強勢」、または「ヘテロシス」とよばれる特性で、犬にかぎらず、父と母の交配で次世代が生まれる動物、さらに植物にも認められる特性です。

 雑種強勢の確固たる理由は定まっていませんが、こういった理由ではないかという説はあります。

 一つは、「優性説」とよばれる説です。品種の異なる父親と母親が交配すると、その仔は父親・母親それぞれ由来の生存に有利な遺伝子も不利な遺伝子も入り混じって受け継ぐことになります。これは、品種のおなじ父親・母親から交配された場合よりも、生存に不利な遺伝子のみを受け継ぐ確率が低いことを指します。

 さらに、父親または母親のどちらかからは生存に不利な遺伝子を受け継ぐことも十分にありえますが、生存に不利な遺伝子と生存に有利な遺伝子がペアになったときは、生存に不利な遺伝子のほうのはたらきが覆い隠されます。

 このようなことで、異なる品種の父親・母親から生まれた仔のほうが、純粋種の父親・母親から生まれた仔よりも、生存に不利な遺伝子のはたらきが現れる確率は低いと考えられるのです。これが「優性説」です。

 もう一つ、「超優性説」とよばれる説もあります。父親・母親のどちらかから生存に有利な遺伝子を受け継ぐとともに、どちらかから不利な遺伝子を受け継いだ仔がいるとします。この仔は「生存に有利な遺伝子と不利な遺伝子のペア」のもち主です。この遺伝子のペアは、「生存に有利な遺伝子どうしのペア」や「生存に不利な遺伝子どうしのペア」のもち主よりも、そもそも体の強さなどにおいて優るといわれています。雑種のほうが「生存に有利な遺伝子と不利な遺伝子のペア」がたくさん起きやすいため、これが雑種強勢に結びついていると考えられます。これが「超優性説」です。

 雑種強勢は、雑種第一代(F1)で強く見られる特性ですが、第二代(F2)以降では多くの生きものでは、雑種強勢が弱まるか失われるかされます。作物用の植物や畜産用の動物では、収量を増やしたり病害耐性を強めたりする目的で、さかんに雑種第一代が使われています。

● 交配のさせ方がまずいと 母子共に命の危機に陥る

 犬についても異なる犬種の父親・母親が交配すれば、必然的に雑種の仔が生まれてくるわけで、とくに第一代は雑種強勢の特性をもつこととなります。その犬のことを考えれば、健康に長生きできる可能性は高まるので、決して悪いことではありません。また、役割の近い別種の犬どうしの交配を通して生まれた雑種が、雑種強勢の特性をもちながらその役割を発揮するといった事例もあります。たとえば、ゴールデン・レトリバーとラブラドール・レトリバーの交配を通して生まれた雑種犬が、盲導犬、聴導犬、介助犬、災害救助犬、麻薬探知犬、セラピー犬などとして活躍しています。

 その一方で、「犬種をミックスさせたらどんな犬が生まれるか見てみたい」とか、「かわいい犬が生まれてきたらラッキー」とか、人間の興味本位で誕生させられる雑種犬もいます。こうした犬は、人間から「ミックス犬」とよばれています。いま、「ミックス犬」でニュース検索をすると、非常に多くの記事が見つかります。ただ単に「雑種の犬」という表現を「ミックス犬」と表記している記事もありますが、「長毛でフワフワとした毛並み」などと、「ミックス犬であること」をバリューとしている記事も見られます。

 こうした人間の興味本位の考えによって雑種犬が生まれてくることについて、私は異を唱えざるをえません。コンピュータゲームの世界では、生命の交配のしくみをモデルにして、特徴だったキャラクターを運次第でつくり出せるようなしかけがあると聞きます。

 もし、ゲーム感覚の人間たちによって雑種犬が生まれているのだとしたら、これは犬にとって決して幸せなこととはいえません。人間の思い描いていたとおりの性格や特徴とは異なる犬が生まれてきたら、その犬は人間から愛されるでしょうか。「運次第」「かわいかったらラッキー」といった考えの人間から愛を受けるとは思えません。犬と人間が長い歳月のなかで築いてきた関係性の道理にも背きます。使命感をもって繁殖に取り組んでいるブリーダーのみなさんは、まずもってこうしたミックス犬をつくり出そうとはしません。

 ミックス犬がよくないというのは精神的な話だけではありません。人間の手による交配のさせ方がまずいと、犬の体にも負担がかかります。犬の品種は、人間の手により多様となっており、小型犬から大型犬まで体長や体重も幅広くあります。人間による飼育環境と離れた、野生の世界で生きる犬たちのあいだで、5キログラムにも満たない小型犬と、数十キログラムもの体重のある大型犬が出会って交配をするというのは、あまりに不釣り合いで、犬たちの本来の行為として考えづらいことです。

 ところが、人間によって、そうした不釣り合いな交配が成り立ってしまいます。雌の小型犬と雄の大型犬が、人の手によって交配するとします。雌のおなかのなかで、胎児たちは、大型犬の遺伝子も受け継ぎ大きくなっていきます。人間の手による帝王切開のタイミングが間にあわないと、小さな体の母親の子宮のなかで成長するには不自然なくらい大きくなってしまい、母子ともに命が危ぶまれます。

 猫や牛などほかの飼育動物では、こうした交配相手の体格の差が問題になることはあまりありません。なぜなら、犬ほど体格の差がつかないからです。人間の手による行きすぎた交配や繁殖、また品種改変は、オーバーブリーディングとよばれます。不自然さをともなう妊娠や交配は、生命の健全性を脅かされるものであり、犬たちのためになりません。

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最終更新:4/20(土) 16:02

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