翻訳でも生成AI台頭?「DeepL」が見いだす勝ち筋 勃興する生成AIサービスとどう戦うか

5/25 5:41 配信

東洋経済オンライン

 ChatGPTを手がけるアメリカのオープンAIが5月13日(現地時間)に生配信で発表した、最新AIモデル「GPT-4o」。次々に披露された最新機能の中でも、英語で話した内容をリアルタイムでイタリア語に翻訳するデモンストレーションは大きな話題を呼んだ。

 AI技術によって言語の壁がますます低くなっている今、企業から多くの支持を集める翻訳ツールがある。DeepLだ。

 現在は32言語、700の組み合わせでの翻訳に対応しており、独自のアルゴリズムで作られた翻訳精度の高さから、日本国内でも広く使われている。

■海外支社とのやりとりなどで多く活用

 ドイツに本社を置くDeepLは、2016年から機械翻訳システムの開発に着手し、2017年8月にDeepL翻訳をリリースした。今では翻訳テキストの文字数に上限がある無料版から、セキュリティ対策を施した有料版、文章作成サポートツール、機械翻訳をプロダクトなどに直接組み込めるAPIまで提供している。

 収益の多くは、法人向けサービスが占める。翻訳の正確性やセキュリティの高さから、ビジネスシーンでの需要が大きいという。有料版では、翻訳完了後にDeepLが運用するサーバーからテキストが削除され、データが第三者に渡ったりAIの学習に使われたりする懸念もない。とくに日本においては、大手企業が本社で行われているコミュニケーションを海外支社に伝える際に使われるケースが多い。

 2024年4月には、文章作成サポートツールの「DeepL Write」に同社サービスとして初めてLLM(大規模言語モデル)を搭載した「DeepL Write Pro」を発表。一般的な生成AIツールや、特定の入力に対して決まった内容を返答するようなルールベースの文章校正ツールとは異なり、DeepLの精度と独自のLLMを組み合わせることで、適切な言葉や言い回しなどの提案をリアルタイムで行い、下書きの作成段階から執筆者を支援する。

 これにより執筆者の言語の習熟度に関係なく、どんな読み手に対しても完成度の高い文章を作ることが可能となる。現在は英語とドイツ語のみとなっている対応言語も、順次拡大していく予定だ。

 AIモデルの詳細は公開していないが、DeepLの創業者であるヤロスワフ・クテロフスキーCEOは、翻訳において「技術とモデルと学習トレーニングの間のバランス」こそもっとも重要だと話す。

 DeepL翻訳では、元のソース言語(入力する言語)の中身を正確に理解し、それを翻訳して別の言語に置き換える際に、翻訳そのものの技術と、翻訳された文章をより自然なものにするための技術双方のトレーニングを行う。学習トレーニングでは、出てきた言葉1つひとつを人の目で評価するなど、多大な時間とお金を投資している。この人を介した作業によって高い精度を担保しているのだ。

 ただ機械翻訳のビジネスも競争が激化していることは否めない。最新のAIモデルを発表したChatGPTだけでなく、Googleの「Gemini」などの生成AIサービスも、翻訳精度を高めてきているように映る。

 勃興する生成AIサービスにどう対抗していくのか。クテロフスキーCEOは、とくにビジネスシーンの機械翻訳において大切なのは「一貫性だ」と強調する。

■いつ打っても一字一句、同じ訳語に

 一貫性とは、何をいつ打っても、必ず正確な答えが返ってくるということ。例えば、ある英文を入力し日本語に翻訳する際、DeepLではその英文をいつ打っても、一字一句同じ翻訳結果が返ってくる(オプションとして、訳文を数種類提示し、そこから選択することも可能)。

 一方でChatGPTなど他社のLLMによる翻訳は、毎回ニュアンスは近いものの、一字一句同じ訳語が出てくるわけではない。

 「われわれがAIに期待しているのは、大きな間違いをせず、(打つタイミングによって)全然違う回答をしないこと。AIも人も100%正確ではないし、間違えることもあるが、その偏差がある程度狭くないとビジネスシーンでの活用は難しい」(クテロフスキーCEO)

 このような観点から、日本でも生成AIツールとDeepLを用途により使い分けている企業が多いという。

 今後DeepLが注力するのは、顧客のユースケースをより見極めたサービスの展開だ。

 AIツール全般にも言えることだが、ビジネスシーンにおける翻訳ツールの用途はさまざまだ。DeepLも、メールのやり取りの翻訳に使われることもあれば、法務の契約書などフォーマルな文書の作成に活用されることもある。

 2023年7月にアジア初の拠点として活動を始めた日本法人の役割は、顧客である日本企業から実際にどのような用途があるかを聞き出し、それをDeepLとしてどう具体的に解決できるかを考える点にあるという。

■音声をかけ合わせたサービスの研究も

 例えばカスタマーサポートであれば、APIでシステムの中にDeepLの機能をダイレクトに組み込んだほうがいいケースもある。一方で論文を大量に読む研究員などは、自身のパソコン上でDeepLのアプリを立ち上げてpdfを翻訳するほうが使いやすいという人もいる。こうした個々の顧客のユースケースに沿って、サービスの提案・拡充を進めていく方針だ。

 AI技術を駆使したサービスの投入が相次ぐ翻訳市場についてクテロフスキーCEOは、「われわれが市場に出たときからGoogle翻訳が存在していたように、すでに競争環境はあった。競争があり続けているという点では今も変わらないし、だからこそ市場が前進する」と淡々と話す。

 将来的には、DeepLの品質に音声機能を掛け合わせ、ビデオ通話などでリアルタイムに翻訳するサービスの研究・開発にも力を注ぐ。群雄割拠の機械翻訳ビジネスにおいて、独自のポジション確立を狙うDeepLの挑戦は今後も続きそうだ。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:5/27(月) 11:32

東洋経済オンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング