年末に向けて家計を見直す動きが高まる10月。老後の生活費や資金計画を考えるには、まず現実を知ることが大切です。
現役世代にとって、こうした実態を把握することは、将来の備えを考えるうえで欠かせません。
本記事では、総務省や厚生労働省の統計をもとにシニア世代の「毎月の生活費」「年金収入」「平均的な貯蓄額」を詳しく解説し、老後資金の現実を明らかにします。この秋、ライフプランを見直すきっかけにしてください。
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【65歳以上・無職世帯】年金夫婦世帯の「生活費」は月いくら?
老齢年金の受給は原則65歳から始まるため、この年齢を一つの区切りとして、退職のタイミングを考える人もいるでしょう。
総務省「家計調査報告〔家計収支編〕2024年(令和6年)平均結果の概要」では、65歳以上の無職夫婦世帯における代表的な家計収支の状況が示されています。
収入:25万2818円
■うち社会保障給付(主に年金):22万5182円
支出:28万6877円
■うち消費支出:25万6521円
・食料:7万6352円
・住居:1万6432円
・光熱・水道:2万1919円
・家具・家事用品:1万2265円
・被服及び履物:5590円
・保健医療:1万8383円
・交通・通信:2万7768円
・教育:0円
・教養娯楽:2万5377円
・その他の消費支出:5万2433円うち諸雑費:2万2125円うち交際費:2万3888円うち仕送り金:1040円
■うち非消費支出:3万356円
・直接税:1万1162円
・社会保険料:1万9171円
家計収支
・ひと月の赤字:3万4058円
・エンゲル係数(※消費支出に占める食料費の割合):29.8%
・平均消費性向(※可処分所得に対する消費支出の割合):115.3%
65歳以上の無職夫婦世帯の毎月の収入は25万2818円で、そのうち22万5182円(約9割)が公的年金などの社会保障給付から成り立っています。
一方、支出は合計28万6877円に達しており、その内訳は消費支出が25万6521円、税金や社会保険料といった非消費支出が3万356円です。
この結果、エンゲル係数は29.8%、平均消費性向は115.3%となり、毎月の収支は3万4058円の赤字となっています。
この不足分は、多くの場合、貯蓄を取り崩すことで補われています。
ただし、この収支データでは住居費が1万6432円と低めに設定されていること、さらに介護に関する支出が含まれていない点には留意が必要です。
こうした支出は世帯ごとに大きく異なるため、「自分たちの生活に当てはめるとどうか」を検討する必要があるでしょう。
【65歳以上・無職世帯】二人以上世帯の貯蓄額はいくら?
総務省が公表した「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2024年(令和6年)平均結果の概要-(二人以上の世帯)」を参考に、世帯主が65歳以上の無職世帯(二人以上世帯)の、貯蓄額の推移や資産種類の内訳を確認していきましょう。
【世帯主が65歳以上の無職世帯の貯蓄の種類別貯蓄現在高の推移(二人以上の世帯)】
・2019年:2218万円
・2020年:2292万円
・2021年:2342万円
・2022年:2359万円
・2023年:2504万円
・2024年:2560万円
2019年から2020年にかけては2200万円台で推移していた貯蓄額が、2021年には2300万円台へと増加しました。
さらに2023年と2024年には連続して2500万円台を維持しており、65歳以上の無職二人以上世帯の貯蓄が着実に積み上がっている様子が見て取れます。
この年代の世帯にとって、貯蓄は生活の安定や安心に直結する大切な支えです。
とはいえ、ここで示したのはあくまでも平均値であり、実際の貯蓄状況は退職金の有無やその金額、また相続の有無などによって大きく異なります。
また、公的年金の受給額にも差があるため、自身の将来の見込み額を「ねんきんネット」や「ねんきん定期便」で確認しておくことが、老後の資金計画を立てるうえで重要な一歩となるでしょう。
【シニアの収入事情】「国民年金・厚生年金」の平均月額はいくら?
老後の暮らしを支える柱となる老齢年金について、厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとに確認してみましょう。
65歳以上で国民年金のみを受給している人の平均額は5万円台にとどまり、厚生年金(国民年金を含む)を受け取る人では平均14万円台となっています。
ただし、実際の受給額は現役時代にどの制度へどれだけ加入していたかによって大きく変わります。
ここでは、60歳から90歳以上の受給権者全体を対象に「平均年金月額」だけでなく、受給額のばらつきや男女差といった点についてもグラフを用いて確認していきます。
●【グラフで見る】国民年金・厚生年金の「男女差×個人差」をチェック
国民年金(老齢基礎年金)
・〈全体〉平均年金月額:5万7584円
・〈男性〉平均年金月額:5万9965円
・〈女性〉平均年金月額:5万5777円
厚生年金(国民年金部分を含む)
・〈全体〉平均年金月額:14万6429円
・〈男性〉平均年金月額:16万6606円
・〈女性〉平均年金月額:10万7200円
国民年金のみを受給している人の場合、男女別・全体平均ともに月額は5万円台にとどまります。
一方で、厚生年金と国民年金をあわせて受け取る世帯では、全体平均が14万円台ですが、男性は16万円台、女性は10万円台と大きな差が見られます。
年金額は加入状況や年収によって左右されるため、個人差が大きいのはもちろん、現役時代の働き方の違いが男女差として数字に反映されているといえるでしょう。
また、2025年4月以降の年金額は前年度比で1.9%引き上げられましたが、「マクロ経済スライド」の影響により物価上昇率には届かず、実質的には目減りしており、老後の生活設計において見過ごせない課題となっています。
※マクロ経済スライドとは:「公的年金被保険者(年金保険料を払う現役世代の数)の変動」と「平均余命の伸び」に基づいて設定される「スライド調整率」を用いて、その分を賃金と物価の変動がプラスとなる場合に改定率から控除するしくみ
収入のすべてが「公的年金・恩給」である世帯は43.4%に
厚生労働省が公表した「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」から、高齢者世帯(※)の収入状況を確認してみましょう。
全体の平均的な所得構成をみると、「公的年金・恩給」が63.5%を占め、次いで仕事による「稼働所得」が25.3%、「財産所得」が4.6%となっています。
ただし、これはあくまでも全体平均です。
実際に「公的年金・恩給を受給している世帯」に限ってみると、収入のすべてが「公的年金・恩給」である世帯は43.4%となっています。
※高齢者世帯:65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の者が加わった世帯
●総所得に占める「公的年金・恩給の割合別 世帯構成」を確認
・公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯:43.4%
・公的年金・恩給の総所得に占める割合が80~100%未満の世帯:16.4%
・公的年金・恩給の総所得に占める割合が60~80%未満の世帯:15.2%
・公的年金・恩給の総所得に占める割合が40~60%未満の世帯:12.9%
・公的年金・恩給の総所得に占める割合が20~40%未満の世帯:8.2%
・公的年金・恩給の総所得に占める割合が20%未満の世帯:4.0%
シニア世帯全体を平均で見ると稼働所得も一定割合を占めていますが、年金受給世帯に限定すると、そのおよそ半数が公的年金だけに依存して暮らしている実態が明らかになります。
基本的な生活費に加えて“ゆとり資金”の確保を
ここまで、65歳以上の無職夫婦世帯の家計収支や平均的な貯蓄額、公的年金の受給額について取り上げてきました。
自分の世帯と照らし合わせたときに「このままでは足りないかも…」と不安を感じた方も多いのではないでしょうか。さらに老後は、生活費だけでなく、お子さんやお孫さんへの支援、旅行や趣味にかけたい費用など、想定以上の出費が発生する可能性もあります。
だからこそ、基本的な生活費に加えて“ゆとり資金”を確保できるよう、早めに準備を進めておくことが大切です。小さな積み立てでも長期的に続ければ大きな安心につながります。今のうちから無理のない範囲で、未来の自分のために行動していきたいですね。
参考資料
・総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2024年(令和6年)平均結果の概要」
・総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2024年(令和6年)平均結果の概要-(二人以上の世帯)」
・厚生労働省年金局「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
・厚生労働省「令和7年度の年金額改定についてお知らせします~年金額は前年度から 1.9%の引上げです~」
・厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」II 各種世帯の所得等の状況
・厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」用語の説明
松本 真奈
最終更新:10/7(火) 6:46