日経平均が再び4万1000円を超えたらどうするか

3/29 18:32 配信

東洋経済オンライン

 まず、ここ1カ月の株価動向を確認しよう。日経平均株価(断りのない限り終値)は、2024年2月22日に3万9098円となり、平成バブル真っただ中の1989年12月29日につけた史上最高値3万8915円を、34年ぶりに上抜けた。

■日経平均4万1000円以上では積極的に買いたくない

 その後は3月4日に4万0109円と初めて4万円台に乗せていったんピークをつけ、13日に3万8695円まで1414円幅で急落(ザラ場ベースでは2201円幅)した。だが18日からは再び急上昇して、再度21日に4万円台を回復(4万0815円)。22日には4万0888円(ザラ場ベースでは4万1087円)をつけて史上最高値を更新中だ。

 一方、TOPIX(東証株価指数)は6日に2730.67でいったんピークをつけた。その後13日に2648.51まで82.16ポイント幅で急落(ザラ場ベースでは137.34幅)した後、14日から急上昇。再度19日に2750.97の高値をつけ、3月22日に2813.22をつけて年初来最高値を更新中だ。

 ただ、TOPIXは、日経平均株価とは違い、1989年12月18日につけた史上最高値2884.80(ザラ場は同日の2886.50)をまだ超えていない。3月22日の高値との差は71.58ポイント幅、率では2.54%の差がある。

今後、TOPIXも史上最高値を更新するとして、日経平均株価も3月22日の終値から同じ上昇率(2.54%)で上昇すれば、4万0888円×1.0254=4万1926円となる。これは私の前回のコラム「日経平均は年前半4万2000円まで上昇の可能性」(3月8日配信)での予想株価に接近することになる。だが、最初に今後の投資戦略から話すと、日経平均株価が4万2000円に迫る水準(4万1000円以上)では積極的に買いたくない。

 その理由を説明しながら見ていこう。この間、日本銀行は歴史的な金融政策の転換に踏み切った。日銀は3月18~19日の金融政策決定会合で金融政策の枠組みを見直した。植田和男総裁は「最近のデータやヒアリング情報から、賃金と物価の好循環の強まりが確認されてきており、2%の『物価安定の目標』が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断したため」と説明した。

 今回の会合で金融政策の枠組みをどのように見直したのか。同会合で決定した金融政策の枠組みの見直し項目と主な変更点の内容は以下の5つだ。改めて確認したい。

(1)マイナス金利解除と金融市場調整方針
従来はマイナス0.1%(当座預金の「政策金利残高」)だったものを、マイナス金利を解除して、0~0.1%程度(無担保コール翌日物金利)に変更。当座預金を1構造に集約して金利を0.1%に。
(2)YCC(イールドカーブ・コントロール)の撤廃
従来はYCC(イールドカーブ・コントロール)で1.0%を長期金利上限のめどとしていたが、廃止。急激な金利上昇には国債買い入れで対応。

(3)国債買い入れ継続
従来は「大規模な国債買い入れを継続」だったものを、「これまでとおおむね同程度の金額(月間買い入れ額約6兆円)で長期国債の買い入れを継続」と変更。
(4)リスク資産の買い入れ終了
ETF(上場投資信託)とJ-REIT(不動産投資信託)は、新規買い入れを終了。社債とCP(コマーシャルペーパー)などは、段階的に減額し1年後をめどに終了。
(5)声明文(フォワードガイダンス)
従来は「必要があれば、躊躇(ちゅうちょ)なく追加的な金融緩和措置を講じる」としていたが、「当面、緩和的な金融環境が継続する」と変更。

■市場は日銀が「想定以上のハト派」と受け取った

 植田総裁は「マイナス金利政策やイールドカーブ・コントロールなどの大規模な金融緩和は、その役割を果たした」と述べ、短期金利の操作を主たる政策手段として、経済・物価・金融情勢に応じて適切に「普通の」金融政策を運営すると強調した。

 ただ、市場が特に注目したのは(5)だ。日銀が想定以上のハト派(緩和的な政策を選好)だと受け取られ、円相場は1ドル=151円台までの円安となり、日経平均株価は22日に史上最高値を更新した。

 今回、日銀の3月会合でのマイナス金利解消の決め手になったとみられるのが、「春闘」の結果だった。日本労働組合総連合会(連合)は15日、2024年の春季生活闘争(春闘)の第1回回答の集計結果を公表した(第2回集計は3月22日公表済、第3回は4月4日公表予定)。基本給を底上げするベースアップ(ベア)と定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ率は平均5.28%となった。

 これは前年の同時点(3.80%)から1.48ポイントも上昇した(第2回の結果は同賃上げ率は平均5.25%。やはり前年の同時点(3.76%)から1.49%ポイント上昇)。過去の最終集計と比較すると、 5%を超えたのは、5.66%となった1991年以来33年ぶりだ。人手不足を背景に中小企業の賃上げ率も4.42%に達している。

■日銀の追加利上げはいつか

 今後の重要ポイントは、日銀の追加利上げのタイミングがいつになるかだ。もし追加利上げの時期がみえてくると、円高が進行すると見ている。個人的には6~9月のどこかで0.25%の利上げを予想している。利上げのたびに出てくる雑音を排除するためにも利上げ回数は少ないほうがいいとの考えから、年内は1回にするとの見方だ。ちなみに私が在籍しているピクテでは7月0.1%、12月0.15%を予想している。

 4月から9月までの追加利上げの可能性を見ていこう。次回の金融政策決定会合(4月25~26日)は、可能性は低いとみる。6月会合(13~14日)では恐らく他国が利下げを開始する中で、利上げはやりにくいはずだ。 ただし、日銀も「データ次第」と言っている以上、現時点では、データが思ったよりも改善(物価指数が上昇かつ持続性も認められる)した場合という、想定外の事態に至ったときのみ、可能性が高まる程度ではないか。

 その後の7月から9月には可能性が高くなると見ている。なぜなら①実質賃金のプラスが明確となる、 ②現在マイナスの需給ギャップが恐らくプラスに転じる(これは利上げのリスクシナリオ)、 ③上記①と②によってデフレ脱却宣言が7月から9月の間に行われる、 ④インフレ率は2%前後で推移、 ⑤サービス価格は現在の前年比+2.2%程度で推移、などの前提条件が発現することが考えられるからだ。

 なお、衆議院解散に伴う総選挙は、極端に言えば、岸田文雄首相の訪米(4月10日)終了後、9月30日の自民党総裁任期満了までなら、いつでも解散の可能性があるようだ。すでにマイナス金利は解除されているので、政府が利上げを「デフレ脱却の成果」と宣伝できるなら、追加利上げの日程については比較的自由度が高くなるのではないだろうか。

 一方、この間はアメリカでも3月19~20日に連邦公開市場委員会(FOMC)が開催された。FRB(連邦準備制度理事会)は予想どおり、政策金利にあたるフェデラルファンド(FF)金利を据え置いた。FOMC参加者の政策金利水準の見通し(ドットチャート)では、2024年の利下げ回数見通し(1回の利下げ幅を0.25%と仮定)が3回で維持されたため、FOMCの内容は全般にハト派寄りの評価となったようだ。

■FRBの「追加利下げが緩やかになる可能性」に注意

 ただ、気がかりなのは、FOMC参加者19名の2024年末の政策金利予想の中央値が約4.6%と、年内3回の利下げをかろうじて示唆していることだ。この背景には最近の同国の指標、特に1月と2月の消費者物価指数(CPI)で、構成指数の一部が市場予想を上回るなどの強い結果となったことがあると考える。

 もっとも、FOMC後の記者会見でジェローム・パウエルFRB議長は最近のインフレ率の上昇は一時的な変動の可能性があることを示唆している。

 また、FOMC参加者の経済成長率見通しは上方修正され、失業率見通しがおおむね下方修正(改善)された一方で、インフレ鈍化を見込むことから、FRBがハードランディングを回避しながらの利下げに自信を深めつつあるように思われるその中で、パウエル議長が利下げ開始時期について「年内のある時点」になる可能性が高いという従来の発言を繰り返したことも、ハト派寄りと見られる。

 ただし、追加利下げのペースは緩やかとなる可能性には注意が必要だ。FOMC参加者のFF金利見通しを見ると、2025年末、2026年末は前回から上方修正されており、2025年以降の利下げペースはこれまでの想定より緩やかとなることが示唆されている。パウエル議長の会見でも、インフレ動向については「インフレ率は依然として高く、低下するかは不確実」「長期的なインフレ期待は依然として定まっていない」と述べている。仮に利下げを開始したとしても、インフレ低下を確認しながらの、慎重かつ緩やかな利下げペースとなることが想定される。

 なお、景気をふかしも、冷ましもしない金利(中立金利)の代替と見られている長期のFF金利は、今回の見通しで2.6%と小幅ながら上方修正された。目先の利下げ開始時期議論にはほぼ影響はないと思われるが、利下げ終了時の金利水準を押し上げる可能性もあり、今後も注意を払う必要はありそうだ。利下げ開始後の緩やかな追加利下げペース見通しと、年内3回の利下げ見通し維持の組み合わせには違和感も残る。

 日本株についての予測に戻ろう。高値圏での短期的な調整局面も想定されるため、今後の株価の値動きには一層注意したい。前回の配信時には、「年前半にもう一段の高値の可能性、年後半は波乱も想定」としていたが、この見方は不変だ。

 一方、日経平均の今年の高値安値については微修正したい。高値予想については前回は「4万円超~4万2000円(3~6月)」、安値も「3万5000円程度(10月)」と予想していた。今回配信分では、高値については「4万0888円~4万2500円(3~5月)」、安値「3万5500円~3万7500円(8~10月)」としたい。

■今後の日本株の物色対象は? 

 今までの説明のように、私は短期的(4~5月)にみると日米金利差は縮小しないものの、中期的(6~12月)にみると日米金利差は縮小するとみる。その意味で、そろそろ6月以降から年末をにらんだ運用戦略を考えてみたい。

 今後の日本株の物色対象は、米国株の上昇局面では引き続き半導体・AI関連株が主導になるとみている。だが、景気に左右されずに収益を稼ぐことができる「ディフェンシブ系高配当株」にも引き続き注目したい。

 また、年後半からの物色対象として、円高・金利上昇に強い業種や銘柄に注目が集まるとみている。そのためには、今後のFOMC(4月30日~5月1日、6月11~12日、7月30~31日)や、日銀金融政策決定会合(4月25~26日、6月13~14日、7月30~31日)での植田総裁発言や追加利上げのタイミング、3月春闘後の中小企業を含めた賃上げ動向も見極めたいところだ。

 最後に、投資先企業の業績予想をしっかり見極めることが最重要なことは当然として、2024年は災害(地震などの天変地異)や地政学リスクにも引き続き注意したい。

 特にアメリカでは11月5日に大統領選挙が控えており、年後半に向けては波乱も予想される。同国経済はソフトランディング(軟着陸)の可能性があるいっぽうで、景気後退リスクもなおくすぶっている。

 仮に、同国企業の業績が極度に悪化するというリスクシナリオが実現すれば、影響を受けやすい日本株は「日経平均で3万5500円を下回る場面もある」と、頭の片隅に入れておきたい。年後半からは時間と資金に余裕をもたせた、意味のある分散投資と押し目買い(急落時の底値買い)が有効になるかもしれない。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

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最終更新:3/31(日) 4:52

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