「1日1万歩」にこだわらなくてOK! 脳や血圧の健康を保つ、名医が勧める「インターバル速歩」のコツ

3/21 6:32 配信

東洋経済オンライン

世の中に溢れる予防医療や健康法、何をどう選ぶのが正解なのでしょうか? 
認知症やがんになりたくない。血圧も腸内環境も心配。病院にいくほどではない不調ともつき合いつつ、動ける身体はキープしたいという方へ。17人の医師が専門領域の最新知見を解説、医師自身の健康習慣を紹介している『名医に聞く健康法』を一部抜粋し、今日から始められるちょっとした健康の知恵をお届けします。

■体力とは、筋力の差である

 年を重ねて「体力が落ちた」と嘆いている人は多いでしょう。そんな人は、運動を習慣にして、体力を向上させる必要があります。

 そうお話しすると、「ウォーキングをしている」と答える人も多いのですが、実は、のんびり散歩程度のウォーキングを何分続けても体力をつけることはできません。

 「1日1万歩」を目標に歩いてもあまり効果がないことが、私たちの研究で明らかになっています。

 体力をつけるには、「自身の最大体力の60%程度の運動強度」が必要です。のんびり歩く運動強度は30〜40%。

 一方、「最大体力の60%程度の運動強度」とは、「ちょっときついな」と感じるくらいの、少し負荷をかけた運動のこと。動き始めて5分ほどで動悸がして、息がはずみ、20分ほどで汗ばむくらい。でも、一緒にいる人と軽い会話ができるくらいの運動強度が目安です。

 会話ができないほど息が上がりハアハアする、場合によっては吐き気までする、といった運動は最大体力の100%に近い強度といえるでしょう。そこまでの運動は必要ありませんが、体力向上には「ややきつい」と感じる運動が非常に効果的なのです。

 では、「体力」とは何だと思いますか?  特に中高年者で重要なのが、筋肉の持久力(ここでは単に筋力と呼ぶ)で、「1分間に体内でどれくらい酸素が消費できるか」が評価の基準になります。

 マラソンなど持久性競技をするオリンピック選手の場合、1分間で体重kgあたり約70〜80mLの酸素を消費するといわれている一方、要介護状態の方は10mL以下です。これは極端な例ですが、体力と酸素消費量の関係について、イメージしやすいでしょう。

 このように運動時には、その強度に合わせて酸素を利用して素早くエネルギーを生み出す必要があるのですが、その能力の指標となるのが「筋力」です。つまり、筋力が高い人は体力があり、低い人は体力がないといえるのです。

 みなさんは、階段を駆け上がったり走ったりすると、心臓がバクバクして息切れを起こしませんか。それは筋肉が運動強度に応じた酸素を利用できず、それを心臓や肺が補おうとして起こる現象です。逆に、筋力のある人は、息切れせず上り切れるはず。

■10歳年を取れば筋力は5〜10%低下

 残念ながら、筋力は20代をピークに、30歳を過ぎると徐々に減少。10歳年を取るごとに5〜10%の割合で低下するといわれています。

 この主な原因は、サルコペニアと呼ばれる加齢性の筋肉量の減少によるもので、何も対策を講じないでおくと、はてはロコモティブシンドローム(運動器の障害)に陥り、日常生活に支障をきたす場合があるのです。

 問題はそれだけではありません。人間は細胞内にあるミトコンドリアという小器官で、酸素をエネルギーに変えて活動しています。いい換えると、酸素が足りなければエネルギーが生まれないということ。

 筋力が衰えると、ミトコンドリアの機能低下が起こり、酸素の不完全燃焼によって活性酸素が過剰に発生して、細胞・組織を傷つけます。それを修復しようと、炎症性サイトカインという物質が分泌され、「慢性炎症」が引き起こされるのです。

 この炎症が、脂肪細胞で過剰に起きると糖尿病に、血管で起きると動脈硬化に。脳で起きると認知症やうつ病の原因になります。そしてこれらの病気がフレイル(加齢により心身が衰えた状態)を加速させ寝たきりの原因にも……。

 けれど、安心してください。

 筋力は何歳からでも向上させることができます。ややきつい運動をする目的は、この加齢性の筋力の低下を防ぐことにあるのです。

■ジムでの筋トレと同じ効果が得られる

 筋力を鍛えると聞くと、「きつい筋トレをしなければ」と思うかもしれません。もちろんそれも間違いではありませんが、ジムでマシンなどを使ってトレーニングをしなくても、筋力を向上させることは可能です。

 私たちが考案し、提唱している「インターバル速歩」は、3分間早歩きをし、次の3分間はゆっくり歩くことを繰り返すウォーキング。この際の早歩きは、自分の最大体力の70%程度の強度の運動で、筋力向上に非常に有効です。実験の結果でも、ジムでトレーニングを行った場合と同等の筋トレ効果があることがわかっています。

 自分の最大体力の70%というと、「ややきつい」と感じるレベル。この「きつい」と体に感じさせるものの正体は乳酸という物質です。

 乳酸はエネルギーが作られる際に糖が分解されてできる物質で、エネルギーとして再利用されますが、その時、一緒に分泌される水素イオンが息切れや筋肉痛を引き起こします。

 この乳酸が産生されるような強度の運動をして、初めて筋力が向上するのです。

 実は、インターバル速歩の「早歩き3分」は、筋肉を鍛えるのに適度な刺激となる量の乳酸を産生させます。そして、早歩きの後の「ゆっくり歩き3分」は、筋肉に溜まった乳酸を洗い出す効果がある。

 ですから、早歩きとゆっくり歩きの組み合わせは、運動中の過度な息切れや筋肉痛を引き起こさずに筋力を鍛えるための、理想的な歩行方法だといえるのです。

 インターバル速歩の早歩きの時間は、「週合計60分」が理想。具体的には、早歩き3分+ゆっくり歩き3分を5セットとすると早歩きは15分行ったことになりますから、これを週に4回行えばよいということ。もし5セットを朝晩2回行えば、週に2回でよいことになります。

■早歩きの時間を増やしてもOK

 必ず「3分+3分」ではなく、モチベーションの高い人は早歩きの時間を長くしてもかまいません。

 たとえば、早歩き5分にゆっくり歩き5分。10分ずつにしても大丈夫です。また、1日で早歩きの「週合計60分」というノルマを達成してもOK。インターバル速歩は、うれしいことに、こまめに行っても、まとめて行っても効果は同じです。

 ただし、重要なのは継続して行うこと。

 早歩き3分+ゆっくり歩き3分の繰り返しは、「3分間の早歩きはちょっときついけど、3分間ゆっくり歩き(休憩)を挟めば、またできる」と思えるちょうどいいサイクルなのです。「週1回まとめてやろう」とすると、雨が降ったり、急な用事が入ったりして、それを言い訳に結局やめてしまいがち。ですから、こまめに実施して習慣化することを推奨しています。

 インターバル速歩は、筋力アップによって体力を向上させますが、そのほかにもさまざまな恩恵があるのが特徴です。

 私たちは、これまで9700人の中高年者を対象に5カ月間のインターバル速歩の効果を検証しました。

 その結果、体力が平均10%向上(体力的に10歳若返る)。それに比例して、高血糖、高血圧、肥満などの生活習慣病の症状が平均20%、不眠、認知機能などの精神症状が30%以上、改善しました。

 さらに、腰椎、大腿骨頭の骨密度が1%増加することも確認。これらは筋力向上によってミトコンドリア機能が改善し、全身の慢性炎症が抑制され、もたらされたと考えられます。

 また、日々のインターバル速歩終了後、30分以内にコップ1〜2杯の牛乳か、それに相当する乳製品を摂取すると、これらの効果を促進できることも明らかになりました。

 そのほか、姿勢がよくなった、体つきがスッキリした、肌に張りが出てきたなど、美容面での効果を指摘する声もあります。

■腰痛、ひざ痛でも歩くほうがいい

 腰痛やひざ痛がある人は、歩くのをつい躊躇してしまいがち。けれど、腰や膝関節に痛みがある人こそ、筋肉量を増やす必要があります。筋肉量が減り、腰やひざが体重を支えられなくなったことが痛みの原因という可能性があるからです。

 痛いからといって筋肉を使わないでいると、筋肉がどんどん萎縮し、歩くのがますますつらくなる。そうなると、将来寝たきりになるリスクが高まります。

 実際、腰痛、ひざ痛がある人にインターバル速歩を行ってもらったところ、50%の方に症状の改善がみられました。

 とはいえ、「途中で痛くなったらどうしよう」という不安もあるでしょう。そこでおすすめしたいのが、歩行をサポートする2本タイプのトレッキングポールを持ってのウォーキングです。

 折りたたみ式のものを持って出て、途中で痛みを感じたら、トレッキングポールをたよりに歩いて戻るとよいでしょう。代わりに買い物用のキャリーカートを活用してもかまいません。

 「ちょっときついな」と感じる程度、たとえば、日々の散歩に、少しでいいので、早歩き、坂道や階段上りを加えることから始めてみるのもいいでしょう。

 それもつらいと感じるなら、水中インターバル速歩がおすすめです。腰やひざ関節に負担が少ないのに、高い強度の運動ができるのがメリット。その結果、陸上では約5カ月で得られる効果を、水中ならその半分の期間で得られます。

 このように、痛みがある人は自分で工夫して、それぞれ無理のない範囲で歩くことを少しずつ始めてみてください。あきらめないことが大切です。

 体力を上げることが、そんなに大変ではないとおわかりいただけたでしょうか。今の体力に合わせ、続けられるやり方を見つけて、筋力、体力アップを目指しましょう。

■私の健康法「山登りと前向きな気持ち」

 アプリに助けられて継続

 週に4日、「インターバル速歩」を続けています。「速歩」合計を週60分以上を目標にしています。そして実施した直後には、牛乳をコップ1杯から2杯。自ら実践して体感することを重視しているのです。

 とはいえ、習慣として継続するのは簡単ではないですね。「続けること」は、インターバル速歩が効果を生む最大のポイントであるのと同時に、最大の壁になっていることかもしれません。

 ですから、インターバル速歩アプリが提供する「やる気を起こさせるプログラム」を使用して、助けられています。このアプリを利用すると、

①自己比較ができる:自分の努力が見える化され、努力すれば報われるという気持ちになる。
②他者比較ができる:週60分の速歩を達成している人同士のランキングが示されるので競争心を刺激し、ライバルには負けないという気持ちが沸いてくる。

③仲間づくりができる:自分が所属するグループと他のグループ間でトレーニング実施率を競い合うことで、仲間みんなで頑張る、という意識が芽生える。
 内なる意識と他者の目を総動員して、継続を応援しようということです。

 体力と気持ちはつながっている

 これまで続けてきた効果として、体力年齢は10歳から20歳若い数値です。周囲からも認めてもらっていますよ。その甲斐あって趣味の山登りも続けることができている。高度差300mから900mほどの日帰り登山を1カ月に1度か2度、楽しみます。

 信州には好みの山がたくさんありますが、なかでも「光城山(ひかるじょうやま)」は安曇野(あづみの)で人気の里山で、頂上からの眺望がすばらしい。春は登山道沿いに桜並木が楽しめます。

 ほかにも「栂池(つがいけ)高原」の湿地帯は木道が整備されていて、そこから見る白馬岳は圧巻です。そして、白馬八方スキー場からリフトを乗り継ぎ、終着点から少し歩いた先にある「八方池」。池に映る白馬三山は、JRのポスターになる美しさです。

 「次はどの山に挑戦するか」と前向きな気持ちでいられるのは、インターバル速歩を続けているおかげだと思います。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/21(金) 6:32

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