長谷川博己「アンチヒーロー」強力布陣で挑む勝算 VIVANTスタッフと、日曜劇場7年ぶり主演で話題

4/16 11:32 配信

東洋経済オンライン

 4月期ドラマの注目作のひとつ、TBS日曜劇場『アンチヒーロー』が、4月14日にスタートした。

 重厚な世界観の社会派ドラマで定評がある同枠だが、本作は「殺人犯をも、無罪にしてしまう」“アンチ”な弁護士を主人公に、「正しいことが正義か、間違ったことが悪か」をテーマにする。

 公式サイトでは「新たなヒーローがあなたの常識を覆す逆転パラドックスエンターテインメント」と銘打っている一方で、第1話を見た印象は、正統派の法廷ドラマだった。

 ※以下、1話のネタバレがあります。ご注意ください。

■VIVANTの脚本家陣が手掛ける

 本作は日本の司法を舞台にするオリジナルストーリー。犯罪者である証拠が100%揃っていても無罪を勝ち取り、「殺人犯をも無罪にしてしまう」“アンチ”な弁護士・明墨 (あきずみ )正樹を、『小さな巨人』(2017年)以来7年ぶりの日曜劇場主演となる長谷川博己が演じる。

 脚本は、山本奈奈、李 正美、宮本勇人、福田哲平の4人が手掛けている。福田氏を除いた3人は日曜劇場の大ヒットドラマ『VIVANT』でも脚本に携わっており、強力な布陣が敷かれている。

 第1話は、町工場の社長を撲殺した犯人として逮捕、起訴された従業員の容疑者・緋山(岩田剛典)の弁護士・明墨が、裁判に向けた弁護の準備をするところからはじまる。

 犯行を否認し、無罪を主張する緋山に対して、検察は決め手になる証拠はない一方で、犯行時についたであろう指紋など4つの状況証拠を揃える。

 明墨はその状況証拠を切り崩し、逆に無罪の証拠にすべく動く。

 まず犯行現場に残された指紋は、犯行時以前についた指紋だと示した。さらに、犯行現場に居合わせ、社長と緋山の言い争いを証言した証人が、実は聴覚障がい者であり、検察の誘導によって偽証していたことを法廷で暴いた。

 第1話の全体像は、無罪を主張する不利な状況の容疑者を信じ、法廷で検察と対峙する弁護士が主人公となる一般的な法廷ドラマだった。

 優秀な部下たちを束ねて自身の法律事務所を仕切る明墨は、偏った信念を持つものの、聡明であり、クールに仕事で結果を残す正統派の弁護士として描かれている。一方で、その偏った信念につながるであろう、過去に影を持つ人物としての側面も見え隠れした。

■法に触れない範囲で手段を選ばない“アンチ”

 では、どこがタイトルで謳う「アンチ」なのか。それは、無罪を勝ち取るためには、法に触れない範囲で、手段を選ばない点になるようだ。

 第1話では、検察の示した状況証拠を無効にするために、いくつかの「アンチな手段」が描かれた。1つは、先ほども述べたとおり、犯行時の指紋とされた証拠だ。被害者の5歳の息子に、容疑者の緋山とよく遊んでいたことを証言させ、容疑者が犯行時の前に自宅(犯行現場)に入ったことがあり、指紋はそのときに付着したものであることを示した。

 ただし、息子と容疑者は仲良くしていたものの、法廷での証言とは異なり、犯行現場に指紋がついた状況は、別の同僚が息子と遊んだときの話だった。明墨はそれを巧みに利用し、容疑者の行為であるとして法廷で主張したのだ。

 もう1つは、犯行現場に居合わせ、隠れて言い争いを聞いていた証人である尾形仁史(一ノ瀬ワタル)の偽証の証明だ。

 明墨は、検察側の証人に立場を隠して接触し、飲食をともにするなかで尾形に聴覚障がいがあることを確信した。そして本人の同意がないまま、法廷で聴覚障がい者であることを示し、証言証拠には検察の誘導があったことを証明した。

 法廷を出た後で明墨は、隠していた障がいを許可もなくさらしたことを尾形から非難される。

 明墨は勝つために手段を選ばないとしながらも、尾形に対しては、障がいを理由に解雇された過去の職場の数々を訴えれば、1000万円は勝ち取れること、自身がその弁護を無償で引き受けることを伝えた。この展開を見ると、ただの冷酷なだけの男ではなさそうだ。

 1月期ドラマで同じくTBS系の『不適切にもほどがある!』では、令和社会の過度なコンプライアンスや社会の不寛容をおもしろおかしく風刺したことで大きな話題になった。

 本作は、同作と同様に「社会を切るドラマ」という共通点があり、そのシリアス版となることへの期待がある。

 本作のアンチヒーローを謳う弁護士は、法は犯さない。しかし、無罪を訴える依頼人を信じ、検察と対峙する裁判に向き合う過程で、手段は選ばない。第1話で示されたのは、職業倫理を問われれば、アンチになるかもしれないというヒーローの姿だった。

 アンチな弁護士が社会に立ち向かう本作には、差別やいじめ、ネットの誹謗中傷など現代の社会問題に切り込んでいく社会性が映し出されることも期待される。取り上げる事件の背景や容疑者の過去など、人間ドラマの側面としても描かれるだろう。

 殺人事件を題材にした第1話は、正統派の法廷ドラマとあまり変わらない印象を受けたが、まだ始まったばかりだ。

 第1話のラストで証人である尾形を退場させられた検察は、これまで見つからなかった凶器を証拠として出してきた。

 一方、容疑者・緋山の素性や、そもそも真犯人であるのかなど、多くは謎に包まれたままだ。明墨のアンチの真価も、これから明らかになっていくのだろう。

■ダークヒーロー描いた「ダークナイト」

 ダークヒーローが主人公の名作といえば『ダークナイト』(2008年公開)を思い浮かべる映画ファンは多いだろう。

 法で裁けない悪に対して“正義の悪”を執行するジョーカーは、あまりにも苛烈な手法で正義のあり方を問いかけ、観客を圧倒する大きなインパクトを残した。ジョーカーを演じたヒース・レジャーからは、圧倒的な狂気がにじみ出ていた。

 そんなハリウッド大作と作品規模は異なるが、根底にある社会に対する正義と悪への疑問を投げかるメッセージは、『アンチヒーロー』とも共通している。明墨のイントロダクションの打ち出しからは、ジョーカーと通底する雰囲気を感じさせる。

 明墨の過去はまだまったく語られていないが、明墨が娘のように頻繁に連絡を取る女子高生・紗耶(近藤華)は事件の被害者であり、何らかのトラウマか障がいを抱えているように垣間見えた。

 明墨のアンチヒーローとなった信念に、紗耶の過去がつながっているのは間違いないだろう。

■野村萬斎と長谷川博己はどう対峙するか

 そしてラストでは、検事正・伊達原泰輔(野村萬斎)の「罪を犯してもやり直せる。幸せになれる」という言葉と、それとは正反対である明墨の主張を重ね合わせ、2人の「考えてみてください」という投げかけの言葉で締めくくられた。

 立場と主張、信念が正反対のように見える弁護士・明墨と検事正・伊達原の過去がどうつながり、どのように2人が対峙していくのか。それは、紗耶の過去とも重なってくるのだろうか。

 まだ始まったばかりだが、明墨は既存の弁護士ドラマの役柄を超えたダークヒーローとなり、長谷川博己はそのアイコンとなるのか。第1話では、そうなる雰囲気は醸し出されており、ポテンシャルはありそうだ。この先の展開に注目していきたい。

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最終更新:4/16(火) 11:32

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