日本企業の株価が海外より上がらない「根本理由」 モノ言う株主(アクティビスト)丸木氏、経営陣に苦言を呈する

5/14 17:02 配信

東洋経済オンライン

新NISAが始まり、株価はバブル期の最高値を超え、投資への関心の裾野が広がっています。しかし、世界と比べたとき日本企業は多くの課題を抱えています。例えば、過剰な内部留保、研究開発や新規事業への消極姿勢、はたまた親方日の丸からの天下りなどのガバナンス問題などなど。
そんな内向きな経営者に向けて、「社長はおやめになったほうがいい」と直言し続けるのは、ストラテジックキャピタル代表の丸木強氏。国内アクティビスト(モノ言う株主)の代表格として、株式市場と企業経営の本質を喝破する言動が注目を集めています。

そんな同氏が自らの投資哲学を明かした初めての著書『「モノ言う株主」の株式市場原論』より、一部抜粋・編集してお届けします。

■日本の経営者は株式市場を知らない? 

 これまで、我々は多くの上場企業経営者や幹部の方々とお会いしてきました。そのたびに、つくづく思うことがあります。

 もしかすると日本では、そもそも企業が何のために存在するのかが理解されていないのではないか、ひいては資本主義や株式市場に対する基礎知識すら浸透していないのではないか、ということです。

 そこで、ここであらためて企業とは何かを考えてみたいと思います。

 といっても、けっして難しい理屈を説くつもりはありません。資本主義であれば世界中のどんな経済や経営、あるいは会社法の教科書にも書いてある、ごく一般的な原理原則を確認するだけです。

 最初に大原則をいえば、株式会社の目的は株主の利益の最大化です。それ以上でも以下でもありません。

 ところが日本では、「公益資本主義」もしくは「ステークホルダー経営」を信奉する経営者が少なくありません。要は、株主より株主以外のステークホルダーを重要視するということです。

 ちなみに、岸田文雄総理も就任当初は「新しい資本主義」と称して「ステークホルダー経営」的な考えを表明しておられましたが、各方面から批判されたのか、いつの間にか立ち消えとなったようです。

■経営者の「従業員が大事」はおかしい

 経営者の中には、上場企業であっても「まず従業員が大事」と公言される方が少なからずいます。ここには雇用を守るとか、株主の理不尽な要求には屈しないといった意味が込められているのでしょう。

 一見するとたいへん美しく、頼もしいようにも感じますが、少し冷静に考えていただきたいと思います。

 従業員であれ、顧客であれ取引先であれ、企業との間には企業が債務を履行する義務を負う契約関係が存在します。

 労働の対価として給料を支払ったり、財やサービスの授受を通じて代金のやりとりをしたりしているわけです。仮に経営が赤字になっても、ただちに支払いが止まることはないでしょう。

 一方、株主と企業の間にこうした契約関係はありません。

 株を買っても、会社が利益を出して株価が上がらなければ報われません。利益がなければ配当も期待できません。逆に株価が下がって損が出ても、当然ながら自己責任です。そういうリスクを背負うからこそ、会社法では株主総会での議決権のみならず、株主にある程度の特別な権利を認めているのだと思います。

 そもそも株式会社は、こういうリスクマネーを集めて資本とすることで初めて成り立ちます。上場企業であれば、なおさら不特定多数から株主を募ることになります。

 以前、よく「会社は誰のものか」という議論がありましたが、お金の出どころ、オーナーという意味では明らかに「株主のもの」で議論の余地はありません。そして経営者は、主権者でもあるその株主によって選ばれ、利益を上げるように働くことを期待されたエージェントなのです。

 その意味では、経営者の仕事は我々のようなファンドマネージャーと同じともいえます。

 ファンドは出資者である投資家のためにリターンを出すのが仕事。経営者も株主のためにリターンを出し続けることが最大の仕事です。いかに効率良く、より大きなリターンを株主にもたらすかが目的であり、その手段としてステークホルダーを上手に使いこなすことが求められるのです。

 そして、ファンドマネージャーが出資者に運用状況を説明することと同様、株主への説明は経営者の仕事の一部でもあるのです。

 それが嫌なら、非上場企業になればいい。実際、昨今はシダックス、ベネッセホールディングスや大正製薬をはじめ、さまざまな理由でMBO(マネジメント・バイアウト:経営陣による自社買収)を行う企業が少なくありません。

 なお、東芝の非公開化はMBOではありませんでしたが、不特定多数の株主やうるさいアクティビストに経営を左右されないためには、これも選択肢の1つでしょう。

 繰り返しますが、これは株式会社の構造の基本です。ところが日本では、この基本があまり認識されていない気がします。経営者でさえよく知らないか、もしくは意図的に曲解していることが多いのではないでしょうか。

■「黒字経営だからいい会社」は違う

 私がこういう言い方をすると、しばしば経営者の方から反論されます。

 「いや丸木さん、株主偏重はよくないよ」

 「2019年には、米国でもビジネス・ラウンドテーブル(主要大企業のトップによって構成された財界ロビー団体)でさえ、株主偏重を止めてステークホルダーを大切にしようと言い始めたじゃないか」

 そのとき、私が返す言葉は決まっています。

 「少なくともバブル崩壊以降、日本で株主が偏重されたことなんて一度もないですよ」

 たしかに、2011年にはウォールストリートでデモが起きるなど、米国では株価の上昇の恩恵を受ける株主、巨額の株価連動報酬を受け取る経営者だけが豊かになり、経済格差が拡大したとして問題になっていました。

 一方日本では、やっと株主を大事にしようとする機運が生まれつつあるとは思いますが、株主が「偏重」されるにはほど遠い状態です。

 その何よりの証拠が、ここ30年にわたる株価の低迷です。

 例えば米国のダウ平均株価は、1990年時点で3000ドル弱。それが今や3万ドルをはるかに上回っているので、ざっと10倍以上も伸びています。配当込みだと約30倍です。

 それに対して日経平均は、ようやく1989年末のピーク(3万8915円)を超えたとはいえ、配当込みでも1.4倍程度であり、中長期で見れば米国をはじめ欧州やその他新興国の高騰ぶりに比べれば微々たるものです。

■日本だけが取り残されていた

 これは日経平均ではなく、各国の時価総額で比較しても、あるいはGDP成長率で比較しても同様です。成長を続ける世界経済の中で、2023年までは日本だけが取り残されたわけです。

 もちろん、バブル崩壊の後遺症、金融・財政政策や円高など経済環境の影響もあったでしょうが、上場企業の経営者による株主偏重どころか株主軽視も大きな要因だったと思います。

 もし株主がもう少し重視されていれば、日本企業はもっと利益を上げ、資本効率も良く、株価指標のみならず、日本経済も成長していたはずです。

 株主以外のステークホルダーを満足させるだけでいいなら、とりあえず会社を潰さなければ十分です。現状維持の経営で、わずかでも黒字を計上できれば、給料や代金の支払いが滞ることはありません。これなら経営者も楽なはずです。

 実際、「うちはずっと黒字だからいい会社なんです。存続させることが第一です。何がいけないんですか」と堂々とおっしゃる経営者の方もいました。

 こういう意識だから、株主に報いようとも思わない。未来に向けた投資や研究開発にも消極的か、投資していてもその投資リターンをよく考えていない。代わりに現金や有価証券や不動産を貯め込もうとする。

 その当然の帰結として、PBR(株価純資産倍率)は1倍以下で放置されるわけです。

 以前、私はある別の経営者の方に「どうして現金をたくさん持っているんですか」と伺ったことがあります。その経営者は正直な方だったのでしょう、「だって楽じゃないですか」と即答。「もし本業が傾いても、現金をたくさん持っていれば安心でしょ」とのことでした。

 また、アパレル事業のある経営者の方は、株主総会で「本業が不安定なので、賃貸用不動産を保有しているとPL(損益計算書)とキャッシュフローの面で事業継続性の向上にプラス」と堂々と答えていました。本業の経営に自信がないから、賃貸用不動産を保有していれば安心、ということらしいです。

■「失敗に備え資産を保有」する日本の経営者

 株主が経営者に期待するのは、そういうことではありません。将来、経営に失敗することを予定し、それに備えて余計な資産を保有しておくのはプロの経営者のすることではありません。

 余計な資産を保有せず、本業に必要な資産だけを保有して有効に活用し、つまり資本の効率性を高めて、会社の業績を上げること、そして株価を引き上げることです。

 「本業が不安定だから」と言う前に、どうやってその本業を成長させられるのか経営方針を検討、改革を実行し、今まで以上のリターンを追求するのがプロの経営者というものでしょう。

 「それができないなら、できる方に代わってください」と、経営者の方に直接申し上げたこともあります。

 投資家として言えば、ローリスクでローリターンを求めるなら、国債を買えば済む話です。リスクを取って企業の株を買う以上、相応に高いリターンを求めているわけです。

 経営者にそれに応える気がないとすれば、誰がその会社の株を買おうと思うでしょうか。日本企業の株価がなかなか上がらなかった根本理由は、ここにあると思います。

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最終更新:5/14(火) 17:02

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