建物がないのに利回り7%、「みんなで大家さん」高配当の謎《楽待新聞》

3/29 19:00 配信

不動産投資の楽待

不動産を小口化して販売する「不動産小口化商品」(以下、小口化商品)が増えている。事業者が資金を集めて不動産を取得し、賃料収入などを分配金として還元する仕組みだ。

2017年以降、「不動産特定共同事業法(不特法)」が改正されて事業者の参入ハードルが下がったことから、ここ数年、さまざまな商品が登場するようになった。

そうした中、現在16年目を迎えている老舗商品が、「みんなで大家さん」シリーズだ。テレビCMやWeb広告などで目にしたことがある人もいるだろう。

最近、この「みんなで大家さん」シリーズについて、YouTubeやインターネット掲示板などで、運営状況を危ぶむ声が上がっている。なぜ、このような声が上がっているのか? 実際の運営状況はどうなっているのか? 調査を進めていくと、いくつかの疑問点が浮かび上がってきた。

■2000億円以上を集めた「みんなで大家さん」

「みんなで大家さん」は、2007年9月にスタートした不動産小口化商品。1口100万円から出資でき、想定利回りは7%ほどだ。

2カ月に1度分配金の支払いがあり、運用が終わる3~5年後には元本が償還される仕組み。商品紹介のパンフレットには、過去16年間一度も元本評価割れを起こしたことがなく、想定利回りも下回ったことがない、などと謳われている。

現在まで、ホテルやテナントビル、集合住宅のほか、テーマパークや、バナナの加工流通施設などを対象とした商品を展開してきた。のべ3万7000人の出資者から、累計で2000億円を超える資金を集めている。

みんなで大家さんシリーズを展開しているのは、「共生バンク株式会社」およびそのグループ会社。ファンドの組成や不動産の取得、運営、管理などの核となる事業は、共生バンクのグループ会社「都市綜研インベストファンド」が担っている。

親会社である共生バンクの代表を務めるのは、創業者の栁瀨健一氏。「共生主義・ともいき主義」を掲げ、「精神、心、魂の価値追求を第一とする『共生』の実践」を経営理念としている(栁瀨氏については後述)。

■主力の「シリーズ成田」はどんな商品?

2024年3月現在、同社で販売しているのは「シリーズ成田」というファンドの「みんなで大家さん 成田18号」(以下、成田18号)という商品だ。

千葉県成田市の山林などが投資対象で、2021年からこれまで複数回に分けて販売、今回が18回目(18号)ということになる。そして現在、冒頭で触れたネット掲示板やYouTube上で問題点が指摘されているのは、ほとんどこのシリーズ成田についてである。

現在募集中の「成田18号」の募集総口数は、1万5368口。1口100万円なので、完売すれば単純計算で約153億6800万円の資金が集まることになる。

■「成田に2兆円の街をつくる」という触れ込み

「シリーズ成田」がネット上で問題視されている理由の1つが、投資対象の土地で行われる開発プロジェクトの内容と進捗の遅れである。

シリーズ成田は、共生バンクグループの栁瀨会長肝いりのプロジェクト、「共生(ともいき)日本ゲートウェイ成田」(以下、ゲートウェイ成田)に基づく商品だ。

成田空港の周辺にある土地を開発し、ショッピングモールや劇場、スタジアム、ホテル、国際展示場、レストランやバーを整備し、資産評価2兆円を超える「街」を目指す、としてスタートした。

栁瀨氏は同プロジェクトに並々ならぬ思い入れを持っている。2021年に出版した自身の著書『成田空港の隣に世界一の街を造る男』では、同プロジェクトについてこう記している。

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"私がこの成田の土地を購入し、また設計費や造成工事費などに使った経費は、約100億円。しかし、世界的な評価会社によって、すでにこの土地の資産評価額は約2兆円と算定されようとしている。

つまり、何もなかった土地に「街」を造ることで、200倍近くの資産価値を持つことになったのである。

「そんなことができるのか」と思われるかもしれないが、不動産の世界では珍しいことではない。たとえばアメリカのシリコンバレーは、何もない鄙びた街だった。しかし、多くのIT企業が集積することで、不動産などの資産価値が急上昇した。そのシリコンバレーが好例である。"

引用:『成田空港の隣に世界一の街を造る男』
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開発対象の土地は、成田空港周辺に広がる約45.5万平米の土地だ。広さは東京ドーム約10個分に相当する。

この土地を造成して開発することで、これまで成田空港を素通りしてきたインバウンド客を呼び込み、「街」をつくることで資産価値を高める、というのが栁瀨氏の考えだ。ただし、現在はその計画も縮小、コンセプトも「フードイノベーション施設」などがメインとなっており、当初から大きく変わってしまっている。

■ゲートウェイ成田、造成工事の進捗

現在、工事の進捗状況はどうなっているのだろうか。

当初は2024年中の開業が予定されていたが、コロナ禍などを経て、工事完了予定時期は度々延期されてきた。現時点で発表されている計画では、2026年度末の開業が予定されている。

開発プロジェクトが動き始めてから4年近くが経過した現在の現場の状況を確認すべく、2月下旬、現地に足を運んだ。

現場は成田駅から車で10~15分程度の場所で、すぐ隣には「ヒルトン成田」や「ホテルマイステイズプレミア成田」がある。

開発予定地には、中央を二分するように市道が通っている。全体像を把握するにはこの市道に進みたいところだが、この市道は工事のために長らく封鎖されて通行ができない。

仕方なくぐるりと外側を迂回しながら全景を確認する。

当日は平日の昼過ぎだったが、工事の休止期間だったこともあってか、迂回路の途中で車や人と出会うことはほとんどなかった。周辺にもほとんど建物はない。

迂回路を歩くこと約30分、通行止めになっていた市道の終端にたどり着き、ようやく開発エリアの一部を見通すことができた。

このように、今のところ建物は1つも建っていない状況だ。

ゲートウェイ成田の公式Webサイトでは、工事の進捗状況が写真や動画で定期的に公開されている。投資を考えている人は、どのような場所で、どのような工事が行われているのかぜひ確認しておいてほしい。

■建物がないのに、なぜ分配金が支払えるのか?

上記の写真からも分かるように、現場にはまだ何も建っていない。建物がなければ賃料を得ることはできないはずだが、年間100億円を超える投資家への分配金はどこから支払われているのだろうか。

この点に、みんなで大家さん「シリーズ成田」という商品の特殊性があるのだが、シリーズ成田で投資の対象となっているのは「土地」であり、その借主は、実は共生バンクのグループ会社である。

グループ会社間で土地が売買され、その土地に対して賃料が支払われているのである。ビルを借りるテナントや部屋を借りる入居者がいない代わりに、グループ会社が土地に賃料を支払っており、その賃料が分配金に変わっているのだ。

ここからは少々複雑なので「シリーズ成田」のスキームについて、図解しながら整理していく。

みんなで大家さんの関連会社を束ねているのは、栁瀨氏率いる共生バンクグループ。シリーズ成田に関わる会社は複数あるが、主要な会社は以下の2つ。どちらも共生バンクグループのグループ会社である(※1)。

(外部配信先では図表、グラフなどの画像を全て閲覧できない場合があります。その際は楽待新聞内でお読みください)

以下は、みんなで大家さんへの出資金の流れと、共生バンクのグループ会社の関わりをごく簡略的に示したものだ。ここではそれぞれグループ会社A、Bとしている。

まず、出資する投資家は契約の後、グループ会社A(都市綜研インベストファンド)に出資金を支払う(※2)。成田18号の場合は1口100万円で約1万5000口の募集なので、完売すれば約150億円が集まる計算だ。

(外部配信先では図表、グラフなどの画像を全て閲覧できない場合があります。その際は楽待新聞内でお読みください)

続いては、運用対象となる不動産の取得を行う。通常の小口化商品であれば、ここでビルやマンションなどを購入してテナントを募集し、賃料を得て分配金に回すことになるが、みんなで大家さんのシリーズ成田の場合、建物ではなく土地を購入する点が特殊だ。

この土地の売主は、グループ会社B(成田ゲートウェイプロジェクト1号~6号株式会社)だ。実際にはリースバックの形での取引となるため、グループ会社Bはこの土地をグループ会社Aから賃貸し、賃料を支払う。成田18号の重要事項説明書の記載によれば、成田18号の場合、賃料は合計で月額、およそ1億1300万円である。

つまりグループ会社Bが支払う賃料が、出資者への分配金の原資となっているということだ。

仕組みがややこしいが、グループ会社Aはグループ会社Bからリースバックで土地を買い、グループ会社Bから賃料を得て分配金を支払っていることになる。

※1 この他にも、販売代理の窓口となる「みんなで大家さん販売」、不動産の仲介などを行う「都市綜研インベストバンク」などのグループ会社が関わっている
※2 実際には、「匿名組合契約」(複数人で匿名の組合をつくり、出資して分配金を得るための契約で、小口化商品の前提となる)を結んだうえで出資を行う

■その土地に「190億円の価値」はあるのか

ここで、いくつか気になる点が出てくる。

1点目は「このスキームのわかりにくさ」だ。前述のとおり、不動産小口化商品は通常、事業者がビルやマンションなどの建物を取得し、運用で得た利益を出資者に分配する。

一方、みんなで大家さんの場合、グループ会社から土地を買い、グループ会社に土地を貸して賃料を得ている。しかもその賃料には、物件を売却した費用が充てられている。

このような特殊なスキームについて、商品パンフレットなどには説明がない。法令に基づき、「重要事項説明書」には具体的な金額とグループ会社の名前が記載されているが、出資者がこの仕組みを十分に理解しているかは疑問だ。

2点目は、「土地の価値と販売価格」だ。成田18号で対象となっている土地(千葉県成田市小菅字ドウメキ199番1 ほか7筆)の合計面積は、1万1229平米。国土交通省が発表している取引価格情報によれば、同エリアの土地の価格は1万円/平米程度が相場だ。

一方、みんなで大家さんでは、この土地を相場よりもかなり高い水準で購入していることになる。

成田18号で集まる資金は約150億円。ここに事業者の「劣後出資分」(投資家保護の目的で事業者が出資する資金)を加えると、資金は約190億円で、この190億円を使って土地を購入することになる。

190億円を土地の合計面積1万1229平米で割ると、平米あたり約169万円。「成田18号」に投資した投資家は、約170倍の値段でこの土地を購入していることになる。

みんなで大家さん(シリーズ成田)への投資は、成田のこの土地に170倍の金額を支払う行為である、ということを、出資するタイミングで理解している人はどれほどいるのだろうか。

加えて、グループ会社に渡った出資者の出資金について、投資家は把握することができない点にも懸念がある。先の図におけるグループ会社Bには、一時的に多額の資金が集まる形になるが、グループ会社Bにプールされた資金のその後については、投資家が知る術はない。

投資家が出資した土地の「テナント」であるグループ会社Bについては、公式Webサイトなどもなく実態はよく分からない。

これらについて編集部が事業者側に問い合わせを行ったところ、代理人の弁護士から「出資者への説明は、十分かつ適切に行っております。また、監督官庁には法に従い報告しており、問題の指摘はございません」

「ゲートウェイ成田の工事の進捗については、ゲートウェイ成田のホームページでも開示されているとおり順調に推移している旨、開発業者より伺っております。なお、同ホームページのお知らせに記載されている通り、開業予定については、調整が整い次第随時公開される予定と認識しております」との回答があった。

■3000万円出資も、「みんなで大家さん」投資家の声

「みんなで大家さん」に出資した経験のある投資家にも話を聞いた。

シリーズ成田など、複数のプロジェクトに出資する富沢晴彦さん(仮名)。以前から株や投資信託で余剰資金を長期運用しており、Web広告で知った「みんなで大家さん」を分散投資先として選んだ。

小口化商品への投資はこのときが初めて。投資信託より短期で取り組めて、利回りが7%とやや高い点に魅力を感じたという。2~3年ほど検討した後、過去十数年で一度も分配金の支払い遅延がないという信頼性を評価して出資を決めた。初めて購入した成田7号以降、さまざまな案件に合計3000万円ほど出資しているという。

「投資には非常に満足しています。これまでにもらった分配金は100万円ほどで、支払い遅延や減額は一度もありませんでした。出資特典として数万円分の商品券もいただけます。追加出資したいときは担当の方に連絡するのですが、レスポンスはとても早いです」

シリーズ成田の進捗状況は「把握している」と富沢さん。インターネット上で不安が囁かれていることも認識しているものの、「言われているほど悪く感じたことは今のところないです。投資は自己責任と言いますし、外野の意見はあまり気にしていないです」と述べた。

「賛否両論分かれる商品だろうな、とは思います。ただ、心配しすぎてもどこにも投資できなくなるだけというか...。そもそも投資は損するリスクを承知の上で、企業を信じて行うものです。この点は『みんなで大家さん』も株も同じだと思っています」

7%の分配金の出どころについては、「資料を見て、開発で生じる収益を分配するもの、という認識をしていました。仮に誤っているのであれば、僕の確認不足かもしれません」と話す。

直近で追加出資の予定はないものの、これまでの出資分を解約するつもりもないそうだ。

■不安募り、解約に踏み切った投資家も

不安の声が大きくなっていることを受け、出資を解消する投資家も出てきている。これまでに複数の不動産小口化商品に投資してきた世良蓮司さん(仮名)もその1人だ。

2022年後半、Web広告でシリーズ成田を知った世良さん。当初は利回りと配当回数の多さに驚いたという。「利回りが4~5%で配当は年に1度、のような商品が多い中、利回り7%で配当が年6回もあるのは魅力的でした。今でこそ高利回り案件も増えましたが、以前はこんな商品は他になかったです」

すぐに出資したいと問い合わせたものの、当時はあいにく新規募集中の案件がなかった。「途中で解約した方がいて空きがある」と担当者に勧められ、2021年発売の「成田4号」に投資することとなった。

最初は1口分のみの出資から始め、もっとも多いときで1500万円まで追加出資した。分配金は遅延なく満額支払われ、投資に満足していたという。

一時期は家族にも出資を勧めるほどのめり込んだ世良さんだったが、だんだんと不信感を抱くようになったと話す。

「他の小口化商品であれば、物件運用の進捗状況をメールなどで知らせてくれます。でも、シリーズ成田は何も連絡がなくて...。自分で情報を取りに行こうとネットで検索したら、悪い情報がたくさん出てきたんです」

工事の遅れに加え、出資前には気に留めていなかったビジネスの実態に不安を覚えた世良さん。会社の決算状況や分配金の出どころに疑問を抱き、「ポンジスキームなのでは」との思いが募るようになったという。

結果、「今はいいが、このまま出資し続けるのは危険だ」と判断し、2024年1月に解約に踏み切った。

「解約手続きはスムーズでした。出資額の3%の違約金を支払う必要があったものの、それ以上の分配金をもらったので結果的にはプラスの投資です。満足している方もいると思いますが、僕はあと何年も持つのは怖いなと思いました」

みんなで大家さんの途中解約を希望する場合は、事業者である都市綜研インベストファンド、もしくはそれ以外の第三者に譲渡する形になる。1~3%の手数料が差し引かれたうえで、60営業日以内に元本が口座に振り込まれる、という流れだ。

ただし、契約の解除が多発した場合は、出資金の返還を受けられない可能性もある。少なくとも、いつでも自由に解約できるものではない、ということは理解しておかなければならない。



不特法の改正をきっかけに、不動産小口化商品はバリエーションが増えており、最近では1口1万円から投資できる商品も登場している。

現物不動産と比較すると少額の投資とはいえ、元本割れを起こしたり、想定利回りを下回る可能性もある。少なくとも、「自分が何に投資をしているのか」ということはしっかりと把握したうえで判断する必要がある。

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最終更新:3/29(金) 19:00

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