高齢化する世界、資産運用者に迫る変化と決断-課題は先送りできず

5/22 2:58 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): ニューヨーク連銀で15年間、ソブリン債危機の歴史を分析してきたイダンナ・アッピオ氏は、一つの結論に達した。米国債は保有するにはリスクが高過ぎるというものだ。同氏は現在、1380億ドル(約21兆5000億円)の資産を運用するファースト・イーグル・インベストメンツでファンドマネジャーを務める。

アッピオ氏が下した結論の背景にはインフレの加速、政府が負担する医療費の増加、財政赤字の拡大がある。世界が急速に高齢化しているという事実に合わせてポートフォリオを準備する時期が到来している。

同氏は株式とクレジットの保有バランスを取るため、世界で最も安全な資産とされる米国債ではなく、金の保有を増やしている。米国の政府債務が急増して数年以内に債務危機が起きるのではないかと多くの人が懸念する点を指摘し、米長期債の利回りでは十分な埋め合わせが得られないと考えている。

アッピオ氏の戦略は長期債を避けることだ。高齢化に伴う国家支出の急増によって公的債務の状況が悪化した場合、長期債は最も大きな打撃を受ける可能性がある。ブラックロックやロイヤル・ロンドン・アセット・マネジメント、DWSグループなど大手運用会社も、このような環境下で顧客の資金を運用し、保護する方法を模索している。

金融市場への影響は資産クラスや地域によって異なり、万能な解決策はない。しかし世界の高齢化を念頭に置いて取引する戦略の多くは、インフレ懸念を反映している。債券を減らして株式と商品を増やすなどだ。これらが先送りできない課題であることも明らかだ。

「私たちは人口動態をゆっくりと動く列車のように考えているが、そうではない」と、MFSインベストメント・マネジメントのチーフエコノミスト兼ポートフォリオマネジャー、エリック・ワイズマン氏は語る。「それはわれわれに向かって突進してくる列車だ。よけなければ、ひかれてしまう」と述べた。

同氏は出生率が低下して人口が高齢化するのに伴い、企業は労働者の争奪戦を余儀なくされ、賃金が上昇するとみている。

緊急性を求める声は、最近の証拠からも裏付けられる。韓国の出生率は記録的な低水準にあり、イタリアもドイツも出生数の減少を報告している。ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)や資産家スタンレー・ドラッケンミラー氏は退職危機の到来を警告している。

米国の「退職危機」と公的債務膨張、ブラックロックCEOが危惧

格付け会社フィッチ・レーティングスは昨年に米国を格下げした際、その理由の一つに高齢化によるコストを挙げた。

アッピオ氏は米国の「債務は非常に高い水準にあり、高齢化に関しては資金が不足している多くの課題を突きつけられている」と語った。

インフレ懸念

消費する高齢者が増え、生産年齢の若者が減るという単純な考えが、インフレ懸念の一部を成している。普遍的ではないものの広く受け入れられているこうした見方を背景に、特定の資産クラスがとりわけ注目されている。

ロイヤル・ロンドン・アセット・マネジメントは債券よりも株式や商品に傾斜している。同社のマルチアセット責任者トレバー・グリーサム氏は、高齢化とインフレが進む世界でポートフォリオを守るため、商品や商業用不動産のほか資源セクターの比重が相対的に高い英国株を選好しているという。

「われわれは戦略的資産配分において、人口動態によるインフレの影響について真剣に考えている」と同氏は語った。

こうしたインフレ懸念は、世界で最も高齢化が進み、かつ低成長とデフレの時代を経験した日本のケースとは相容れないように見える。

しかしマノジ・プラダン氏とチャールズ・グッドハート氏の共著「人口大逆転」によれば、日本の経験は恐らく特殊であり、今世紀に入ってからは安価な中国製品がディスインフレ圧力を加えた影響もあったとみられる。現在、中国発ディスインフレの力は人口減少や欧米との貿易摩擦で弱まりつつある。

株式にシフト

2050年までに人口の6人に1人が65歳以上になると、国連は予測している。世界全体で約50兆ドルを運用する年金基金にとって、そうした環境下で適切な投資を行うことは特に重要だ。

9410億ユーロ(約156兆円)の資産を監督するDWSにとって、それは年金基金の資産を債券から株式にシフトすることを意味するという。DWSで西欧地域の最高投資責任者(CIO)を務めるべラベ・フェーリング氏は「長期的なインフレ期待が以前よりも高い水準にある環境では、その影響の緩和に寄与する資産へと、年金ポートフォリオのエクスポージャーを増やしたいところだ」と述べた。

通常は退職年齢が近づくにつれ、株式市場の変動からポートフォリオを守るために債券を多く保有することを年金運用者は好む。マニュライフ・インベストメント・マネジメントのマルチアセット・ソリューション担当CIO、ネイサン・スーフト氏はこれを変える必要があると語る。

日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2014年に株式の比率を高めるよう運用見直しを決定したように、各国政府も準備を整える必要がある。ユライゾンSLJキャピタルのスティーブン・ジェン氏は、GPIFよりもさらに大胆になるよう米国と欧州に促している。

原題:The Investment Implications of a World That’s Fast Getting Older(抜粋)

--取材協力:Naomi Tajitsu.

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最終更新:5/22(水) 2:58

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