習近平バズーカで沸騰する中国経済、停滞継続とバブル再燃の分かれ道へ《楽待新聞》

11/2 19:00 配信

不動産投資の楽待

中国株がジェットコースターのような激しい値動きを見せている。

上海総合指数は9月24日から一気に上昇、10月8日には3489点と、約2週間で3割近く上げた。

突然の株高は熱狂を生んだ。証券会社には新規口座開設の申込みが殺到、ネットには「僧侶まで証券会社にならんでいた」という画像も出回っている。手持ち資金がない若者の間では、消費者金融で金を借りて株に突っ込む人が続出する、といった危なすぎる話も。

中国の知人とやりとりしているSNSやグループチャットでも、「ここ数年の損失が一気に取り戻せた」「とりあえず預金は全部株に突っ込んだ」といった、浮かれた話が飛び交っている。

きっかけとなったのは中国政府の「大型景気対策」だ。

■習近平バズーカの威力

9月24日、中国人民銀行と証券監督管理委員会、国家金融監督管理総局による合同の記者会見が開催された。

政府系ファンドによる上場投資信託拡大、証券・ファンド・保険会社への流動性支援といった株式支援から、預金準備率引き下げなどの金融緩和、そして住宅ローン金利引き下げ、住宅在庫の政府買い上げ支援の拡大が盛り込まれた。

9月26日には中国共産党政治局会議が開催された。毎月開催される政治局会議で、慣習的には経済問題が議論されるのは4月、7月、10月だったが、9月に前倒しで議論された。

「経済運行に新たな状況と問題が出現している」

「不動産市場の下落と安定回復を促進しなければならない」

中国経済が苦境に陥っている文言が並ぶ。また、従来の対策は金融に偏重し財政が伴っていないことが批判されてきたが、「超長期特別国債と地方政府専項債を発行、活用し、政府投資の(景気)牽引機能をさらに発揮する」と、待望されてきた積極財政を示唆する文言も盛り込まれた。

いわば「習近平バズーカ」によってムードが一気にひっくり返ったのだ。

■住宅ローン残高も減少、統計から見る悲観論

中国の不動産市場の悪化が始まったのは2022年、中国経済全体の低迷が表面化したのが2023年。この間、中国政府はさまざまな対策をとってきたが、マーケットの反応は「それじゃ足りない」という冷淡なものだった。

このまま中国経済はずるずると悪化を続け、日本と同じく失われた30年に突入するのではないか、という見立ても広まっていた。

こうした悲観論の拡大は統計からも読み取れる。いくつか代表的な指標を紹介しよう。

<中国の消費者物価指数(CPI)>
食品、特に豚肉価格に大きく左右される。「中国のCPIはチャイナ・ピッグ・インデックスの略だ」というジョークもあるほどだ。よって、一般的に取りあげられるCPIよりも食品、エネルギーを除外した、いわゆるコアコアCPIで見たほうがトレンドをつかみやすい。

政府目標では、今年のCPIを3%前後にすることと定められていたが、大きく下回っているのが現状だ。

特に今年7月からはまっしぐらに下がり、マイナス物価が目前となっていた。経済低迷が消費低迷に結びつき、値下げ競争が続いていることの反映だ。

<住宅ローン残高>
不動産業界においては、住宅ローン残高という形で悲観論は現れている。

中国経済と不動産市場の拡大に伴い、住宅ローン残高は一貫して増加し続けていた。それが2022年9月をピークに減少が始まっている。

一般庶民にとって、レバレッジをかけて投資できるチャンスはそう多くない。不動産投資は手持ち資金以上に大きなポジションを取れるという絶好の投資機会だ。借りられるだけ借りてより良い不動産を購入できれば、「必ず」値上がりする間違いのない投資となる。

それだけに住宅ローン残高が増える一方だったのも当然だ。それが減少するのはかつてない異常事態と言える。

不動産の買い控えが広がっただけではなく、資金に余裕のある人が積極的に繰り上げ返済を行っていることが要因となった。

ネットを見ると、繰り上げ返済指南のサイトが多数出現している。借金してでも投資しようというモードから、好条件の投資なんてないのだから借金は返したもの勝ちというモードへと切り替わっていた。

<民間固定投資成長率>
企業レベルで見ても悲観論は広がっている。固定投資成長率は全体ではプラスだが、それは国有企業が牽引している数字だ。民間企業の投資だけを見るとすでにマイナス成長に陥っている。中国経済の先行きは厳しいとして、投資をひかえる動きが広がった。

■停滞継続か、バブル再燃か

巨大景気対策によって、長らく続いてきた中国景気の低迷が大きな分岐点を迎えたことは間違いない。

ただ、このまま景気が上向き続けるかどうかはまだ不透明だ。というのも、財政政策の規模と具体案はまだ発表されていない。

10月8日の発展改革委員会記者会見、12日の財政部記者会見で発表されるかと期待されていたが、いずれも肩透かしに終わった。これにより株価上昇はストップしている。

中国経済誌『財新』は「3年で6億元の超長期国債発行」とのリーク情報を伝えているが、確認はとれていない。今月内に開催される全人代常務委員会の承認を経ての発表になると見られる。

今の株高、熱狂はいわゆるFOMO相場だといわれている。FOMOとは「Fear Of Missing Out」の略語で、相場の上昇に乗り遅れてはならないとパニックになることを指す。中国政府の景気対策は本気だ、今後は爆発的な官制相場がくるに違いない、この儲け時を逃してはならない、というわけだ。

この高い期待をあまり失望させないような対策を打ちつつ、なおかつバブルを引き起こさないような具体的な対策を打ち出すという難しいタスクが残されている。

この原稿を執筆している10月17日午前に、住宅建設部の記者会見が行われた。ちなみに五月雨式に省庁の記者会見が行われているのは9月26日の政治局会議を受けてのもので、トップの指示に対して各省庁が自分たちで出せる対策を次々と公表していくという中国式政治スキームのあらわれだろう。

この住宅建設部の記者会見では、不動産ホワイトリスト(一定の基準を満たした不動産建設プロジェクトに、金融機関の融資を確約することで、資金難による建設中止が起きないようにするもの)の融資額を年内に4兆元(約84兆円)に引き上げることが発表された。

10月16日時点での融資認可額は2兆2300億元(約47兆円)だったため、あと2カ月半で1兆7700億元(約37兆円)の融資枠が設定される計算となる。

また、100万世帯の旧市街地改造プロジェクトも発表された。古い住宅を取り壊し再開発する。

住民には補償金を与えるというものだが、持ち家を失って新たな家を必要としている住民、しかも補償金という手持ち資金を持っているという人々という、強力な不動産需要を生み出す施策だ。



全人代常務委員会での発表が予想されている国債増発しかり、今後も五月雨式に景気対策が出てくるだろう。今後1~2カ月が、中国経済の停滞が続くのか、それとも持ち直すのか、あるいは熱狂の官制バブルへとなだれ込むのかの分岐点となる。

高口康太/楽待新聞編集部

不動産投資の楽待

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最終更新:11/2(土) 19:00

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