• トップ
  • ニュース
  • 雑誌・コラム
  • 映画「あぶない刑事」“前期高齢者”が大活躍の背景 なぜドラマや映画で中年・シニアの主人公が増えているのか

映画「あぶない刑事」“前期高齢者”が大活躍の背景 なぜドラマや映画で中年・シニアの主人公が増えているのか

5/24 17:02 配信

東洋経済オンライン

 5月24日、映画『帰ってきた あぶない刑事』が公開された。

 オリジナルドラマ(『もっとあぶない刑事』含め)が放送されたのは、1986年から1989年。劇場版もコンスタントに制作され、2016年、『さらば あぶない刑事』でついに、タカとユージの定年退職による警察官人生最後の活躍が描かれた。これで本当に「さらば」になるのかと思っていたが、まさかの8年後、2人は探偵になって戻ってきた――。

■「かっこいい…」と思わず漏れる感嘆の声

 サイコー!  そうカタカナで書きたくなるような興奮が残る。ユーモアとアクション、そしてロマンス、気障な台詞。昭和、平成と愛された「あぶ刑事」の、愛すべきすべての世界観を抱きしめながら、タカとユージが2024年に降臨し、横浜を疾走する――そんな映画だった。

 鳴ってほしいところで柴田恭兵による挿入歌『RUNNING SHOT』が鳴る。笑いたいところで2人のユーモラスな掛け合いがある。 走ってほしいところでユージ(柴田恭兵)が走り、撃ってほしいところでタカ(舘ひろし)が撃つ(しかもバイクに乗りながら! )。

 エンディングも「最高!」と拍手したくなる嬉しいシーンで終わる。 軽快でテンポの良いストーリー展開は、期待を一切裏切らず、劇場は笑い声や「うぉっ」「かっこいい……」という感嘆の声が漏れ聞こえていた。

 2人が登場するだけで、大きなスクリーンにぶわりと広がる色気と華。「老いるってこういうことか」とぼやきながらも、敵に向かっていくのだ。

 地面に叩きつけられ、投げ飛ばされ、激しいアクションシーンにはハラハラしっぱなしである。しかし、若者に負けじと俊敏に動き、守るべき人を守る彼ら。その“ショータイム”は素晴らしい。

 タカの天敵である銀星会との関係も継続。今回の敵は、彼らが撃ち殺した銀星会会長・前尾源次郎(柄本明)の息子、海堂巧。これを演じる早乙女太一の、まさにトカゲのような不気味なクレイジーさが見事だった。

 舘ひろしと対峙するシーンは、「もしかして“ポスト舘ひろし”はこの人かも」と思うような底光りと迫力があった。 これまでの「あぶ刑事」シリーズの名シーン映像が、ストーリーとリンクする形で登場し、2人の若かりし姿と今が絶妙に交差する。

 スマートフォンやTikTokなど、ジェネレーションギャップを感じるアイテムも登場するが、さほどそこに重きを置いていない。令和という時代に合わせアップロードするというより、年を取ったことを認めつつ、若者と比べず、自分たちが持つ「衰えない才能、個性」を前に出し、タカとユージはお茶目に走り回っていた。

 非常にニュートラルな目線で、2人がいい年の取り方をしていることに感動できたのである。

■バイクを乗り回す“前期高齢者”

 しかし改めて驚く。舘ひろしは1950年3月生まれの74歳、柴田恭兵が1951年8月生まれの72歳。どちらも芸能界デビューは1975年。来年で芸能活動50周年である。

 いわゆる“前期高齢者”。そんな彼らがバイクを乗り回し、子ども世代どころか、孫世代とともに走り回るのだ。どんなポーズも粋で色気があり、「こんなふうになれるなら」と70歳になることに希望まで感じてしまう。

 昭和・平成・令和とコンプリートし、公開前から話題沸騰。『あぶない刑事』はなぜここまで熱く注目を浴び続けるのだろう。

 ドラマ放送開始は1986年。「キザな台詞、イカしたジョーク、スタイリッシュなセンス」――。もはや刑事ドラマとは思えない言葉が並んだこのキャッチフレーズの通り、『あぶない刑事』はバブルの空気を反映した、オシャレで粋がテーマという前代未聞のトレンディ刑事ドラマとして大人気を博したのである。

 当時ユージ役の柴田恭兵35歳、タカ役の舘ひろしは36歳であった。『太陽にほえろ!』で石原裕次郎がボスをしていたのが38歳だったことを考えると、若手どころか、かなりの中堅。タカとユージは初回からすでに血の気が多い若手ではなく、力の抜き加減を知っている、憧れの大人だったのだ。

 回を追うごとにチャラく派手になっていくタカとユージ、そして浅野温子演じる薫。ブランドのスーツを着こなし、犯人を追い、「OKベイビー?」「夜遊びはおねしょのもとだぜ、坊やたち」など、セリフもどんどんキザになっていった。

 さらに、聞くだけでテンションが上がるオープニングは、タカ役の舘ひろしが作曲しているというのも驚く。

 挿入歌のエキサイティングな『RUNNING SHOT』も、疾走感の中にどこか昭和歌謡みがある絶妙な名曲。「行くぜ!」と視聴者を煽ってくる。

 そしてドラマが終われば、舘ひろしによるダンディの極みのようなエンディング『冷たい太陽』が「アイラヴュウ……」と心を撫でる。まさに隙の無いダンディ&セクシー包囲網。

 当時人気を博していたアメリカのドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス』を意識し、それまでの刑事ドラマに漂っていた暗さ、悲壮感は排除することを狙ったというが、見事狙い通り。平均視聴率は20%を超え、舞台となる横浜にまで特別な輝きを持たせたのである。

 1986年から2024年、つまり彼らは30代から70代にかけて、憧れで居続けているのだ。足腰は丈夫で姿勢もシュッとしたまま、白髪やシワをアクセサリーに、ダンディかつセクシーに年を取る。書くのは簡単だが、実現するのは気が遠くなるほど大変だろう。

 しかも2人とも、同じくらいダンディ&セクシー。2人が並んだシーンのバランスの良さを見ると、このバディは、奇跡と言っていいのかもしれないと思う。

■“不適切”なおじさんたちが大活躍

 『帰ってきた あぶない刑事』のすごさは、シニアのタカとユージが司令塔に回らず、“現役”であるところだ。ヒーローは、若者ではなく“おじさん”。昨年あたりから、エンタメ作品でこのパターンが増えている。

 今年の作品でも、おじさんが大活躍だ。ドラマ『不適切にもほどがある!』の小川市郎(阿部サダヲ)、スペシャルドラマ『GTOリバイバル』の鬼塚英吉(反町隆史)、そしてNetflixで世界的な人気を誇っている『シティーハンター』の冴羽獠(鈴木亮平)。鈴木亮平は前2人と比べると若めではあるが、原作は1980年代に連載された漫画だ。

 彼らの共通点は、そのものずばり、“不適切”。炎上やSNSの批判を気にしない、セクハラ上等、エロスに積極的、言いたいことをはっきり言い、問題を解決するためならときにモノを破壊するのも平気。そんなやりたい放題の機動力が大きな武器となり、問題が収束していくのである。

 コンプライアンス(コンプラ)でガチガチになり、言いたいことも言えない現代において、50代以上が持つ、さもすれば嫌われる性質でもある「遠慮のなさ、デリカシーのなさ」や「強引な行動」が、パワーの使い道によっては、閉塞感の風穴を空けるリーサル・ウェポンとなるのかもしれない、と考えさせられる。

 「貫禄のあるボスが指示し、若手が行動」という図式も逆になってきている。いまや“あぶない”ことをするのは年上で、制御するのが若くして権力を持った年下なのだ。

 『帰ってきた あぶない刑事』でも、自分の地位を活用し、2人をバックアップするのは、彼らの後輩で、現在は横浜港署の3代目捜査課長になっている町田(仲村トオル)だ。

■コンプライアンスを乗り越えるための“妙案”

 コンプラを気にせずコンテンツを作るには、それが緩かった時代のブームや当時のコンテンツを活用して、当時を生きた世代を主人公にし、「時代のせい」にするのがいちばん、という事情もあるのだろう。

 そうすれば、オリジナルを知っている世代は懐かしみ、後の世代はツッコみながら、現代では成立NGなやり方にドラマとロマンを感じることができる。ノスタルジーというオブラートもあり、視聴者に前向きに届く。

 そういった意味で、リバイバル作品は制作側、視聴者側両方のニーズを叶える、今後の重要なコンテンツといえる。『あぶない刑事』の舘・柴田コンビ、『GTO』の反町のように、主役を演じた俳優がカッコいい年の取り方をしている作品はなおさらだ。人生100年時代、「こんなふうになりたい」という目標となる。

今秋には、人気シリーズ『踊る大捜査線』の12年ぶりの新作も公開予定だという。主人公は、柳葉敏郎演じる室井慎次。あの岩のような信念を持つ「室井さん」が、この時代にどう風穴を空けるのだろう。柳葉の熱演が楽しみである。

 5月3日、『帰ってきた あぶない刑事』の完成披露イベントとして「ザよこはまパレード(国際仮装行列)」が開催された際、こんなことがあった。

 ハイヒールを履いて足が痛くなってしまった浅野温子を、舘ひろしがひょいとお姫様抱っこしたのである。私も動画を見たが、あまりのさりげなさに唸ってしまった。「気障(キザ)」を刷り込まれた昭和の大スター特有のテクニック。シニアだからこそ許される“粋”があった。

 浅野温子はインタビューで、「あぶ刑事」が愛され続ける理由を、「やっぱりたっちゃん(舘ひろし)と恭平ちゃん(柴田恭兵)がいつまでもカッコいいところを見たいんですよね。ストーリーとか犯人探しを超越して、見どころはあのふたり」(『素敵なあの人』7月号、宝島社)と語っている。

 まさに「カッコよく年を取っている人が、イキイキと活躍する姿を見ることができる」というのは、それだけで映画やドラマを成り立たせるほど眩しく、重要な要素なのだと思う。

■「何でもリセット」の令和ドラマ

 現在のコンプライアンス社会のもとをたどれば、ネットの進化によるコミュニケーションツールの影響は避けて通れない。ただでさえ大人になると社会的なルールに縛られ萎縮するのに、SNSという“検閲官”の登場で、不特定多数の人につねにジャッジされているような状態となった。

 スペシャルドラマ『GTO』では、何か騒ぎが起これば、目の前にいるにもかかわらずスマホを通して観察し、撮影した動画を拡散。逆に自分の秘密の動画やコメントが流出すると「人生詰んだ」と絶望する若者たちが描かれ、それをガラケーユーザーの鬼塚が解決する、というのも印象的だった。

 何かをする前に、見知らぬ誰かの批判が頭に浮かぶ。そして、行動の前に炎上を想像して震える。問題が起こったとき、やり直しを図ろうとも、見知らぬ誰かの中傷がそれを邪魔する。

 そのためか、令和のドラマやマンガでは転生系、タイムスリップ系が多い。ちなみに今期、2024年春クールドラマでは「記憶喪失ドラマ」が4つ登場。一度なかったことにする強制リセット、リスタートに、希望を持つのかもしれない。これはもう、SNSという逃れられない検閲の壁が日常にあるせいだろう。

 ちなみに、バラエティー番組『しゃべくり007』に舘ひろしと柴田恭兵が登場した際、舘は、スマホは持っているがSNSはやっておらず、柴田に至っては、携帯すら持っていない、という話で盛り上がっていた。

 若年層ほどにはSNSに縛られず、「炎上」を気にしないシニア層の、向こう見ずな行動力とのびやかさは、一歩間違えれば大きなトラブルのもととなるのも確か。しかし、それゆえのパワーを持っており、いま強く求められているのも確かなのである。

 明るくポジティブな行動力は、素晴らしい人生の再生エネルギー。『帰ってきた あぶない刑事』の予告の最後には、まさに、それを示す名キャッチコピーが映し出される。

 「無茶しないと滅びるぜ――」

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:5/27(月) 14:14

東洋経済オンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング