TOEIC800点超の若手社員に足りない決定的要素、英語力があっても仕事ができるとは限らない

5/19 8:32 配信

東洋経済オンライン

 「豊田さんの英語ってわかりやすいですねー!」

 ちょっとニヤニヤしながら話す受講生に対して、思わず「こら! 今、ちょっとバカにしただろ」と返してしまいましたが、以前、私がシンガポールで実施した海外研修に参加した20代後半の男性から、そんなふうに言われたことを思い出します。

 もちろん言われて嫌な気持ちは何もなくて、彼が言いたかったことは、そんなシンプルで簡単な言い方でも伝わるんですね、ということ。

 その人は学生時代から英語の勉強が好きで、TOEICのスコアは900点以上。海外経験はまったくなく、当時の海外研修が初海外でした。そして研修初日に彼が宣言をした「研修で達成したいこと」は、「不安症を克服したい」というものでした。

■自分の英語は通用するのか

 彼は私よりも高いTOEICスコアを持っていましたが、外国人とうまく話せるだろうか?  自分の英語は通用するだろうか?  外国人とコミュニケーションを取りながら研修で成果を上げられるだろうか?  といった不安でいっぱいでした。

 シンガポールでの研修初日もそうでしたが、日本で実施した事前研修でも「不安しかありません」と話していました。

 でも海外研修が始まった後、私がシンガポール人と話している英語を聞いて、シンガポール人の英語は少し聞き取りにくかったけど、私の英語は全部わかったと言ってくれました。それは彼にとって安心材料にもなったようです(おそらく自分のほうが英語がうまいと思ったのでしょう)。

 以前、私のインド人のビジネスパートナーが来日したときのランチに、当時中学生だった娘を一緒に連れていったことがあります。英語を習いたてだった娘から言われたのが、「インド人の英語は全然わからなかったけど、パパの英語はちょっとわかった」ということ。

 そりゃそうです。だって、私の使う英語は「中学英語」なんですから。

 だから前述した20代後半の受講生の話は、レアケースではありません。彼に限らず、同じような話はよく聞きます。私が海外研修を提供しているほとんどの受講生が、同じだったと言ってもいいかもしれません。

 私の会社では「グローバルな環境で仕事をしてみたい」「新しい環境でチャレンジしてみたい」という意識に火をつけることを目的にした海外研修を実施していますが、主に大企業から派遣される20代半ばから30代半ばの受講生の中には、TOEICが800点以上という人も少なくありません。

 もちろん英語力は人ぞれぞれで、TOEIC300点台の人もいれば、900点台の人もいます。スコアにかかわらず多くの人が「自分はグローバルな環境で通用するのだろうか」という不安を口にします。

■英語力と仕事力は違う

 日本人だけでなく、過去の受講生には中国人や韓国人、タイ人、マレーシア人、スリランカ人、フランス人などもいましたが、彼らも同じような不安を口にするのです。英語を日常で使う人がいたにもかかわらず、です。

 1つ言えることは、英語力とコミュニケーション力は違うし、ましてや英語力と仕事力はぜんぜん違うということ。英語ができるから、グローバルな環境で仕事の成果を出せるわけでもありません。

 10年ほど前、日本マイクロソフト元社長の成毛眞さんが『日本人の9割に英語はいらない』という書籍を出しましたが、その帯にかなり刺激的な言葉が書かれていました。

 「英語ができても、バカはバカ。」

 この帯を見たときに「すごい言い方をするな」と思った一方で、確かにそれは間違いないとも思ったことがあります。

 日本において、仕事ができる日本人もいれば、仕事ができない日本人もいますが、全員日本語はペラペラです。当たり前ですが、日本語が話せることと仕事で成果を出せることは、まったく違います。

■経験がないゆえの不安

 それではTOEICで高スコアを取っているのに、なぜ英語力に対して不安を持つのか?  その理由の1つは、英語でコミュニケーションを取ったことがないという、経験ゆえの不安ということはあるでしょう。

 経験していないことに不安を覚えるのは語学に限りません。転校するときは「新しい学校で友達できるかな?」と不安を覚えるし、行ったことのない国に行くときは「治安は大丈夫なのかな?」という不安があります。

 実際に転校したら、みんな優しくて、たくさん友達ができたり、初めて訪れた国でも、渡航前に感じていた治安に対する不安はただの杞憂に終わったり、という経験あるいは近い経験は誰もが持っているのではないでしょうか。

 「英語に対するハードルは完全に消えました!」

 海外研修に参加した別の受講生の話ですが、5日間の研修の最後に「自分は英語ができないと思っていたけど、意外と通じるものですね!  英語に対するハードルは完全に消えました」という人がいました。

 20代半ばだった彼はTOEICのスコアは400点ちょっとで、行く前は「英語は全然できません」と言っていたのですが、たった5日間の研修で「完全に消えた」と言うまでになるなんて……。

 たった5日間で英語の語彙力や文法力が一気に上がったことはないでしょうし、そもそも私の研修は語学研修ではないので英語の勉強は一切しません。だとすれば「外国人と英語でコミュニケーションが取れた」という経験によるものでしょう。正直、「完全に」は言い過ぎな気もしますが、彼がそう思ったのは事実です。

 そこからわかることは、「やったらできた」という経験からくる自信こそが大切ということです。それは裏を返せば、いかに実践経験が足りないかということでもあります。

■勉強と経験、それぞれで賢くなった人の違い

 今、「ストリート・スマート」が求められていると言われていますが、その対になる言葉が「アカデミック・スマート」です。これらの言葉を聞いたことがありますか? 

 アカデミック・スマートとは「勉強をして賢くなった人」、それに対してストリート・スマートは「実践で賢くなった人」という意味です。

 ステレオタイプな説明をしてしまうと、アカデミック・スマートな人が、まだ経験したこともない困難な状況にぶち当たったとき「それはまだ学んでいないからできません」となるのに対し、実践で賢くなったストリート・スマートな人は、仮にやったことがない事態に出くわしても「以前、こんな感じでうまくいったから、今回はこうかな?」とまずやってみる。

 それでうまくいかなかったら「だったら、こうしてみようか?」と試行錯誤を繰り返し、何とか成果を出すそうです。

 がんばって英語を勉強し、TOEICで800点以上を取れたのに、「私、スコアだけは高いんですが、ぜんぜんしゃべれないんです」とか「英語でのコミュニケーションに不安がある」という人は、決してしゃべれないわけではなく、ただ単に実践経験がないだけと言ってもいいと思っています。

 私のクライアント企業の元アメリカ駐在経験者の1人は「私、TOEIC500点台ですが、アメリカで普通に仕事してきたし、できましたよ」と話していました。

 もちろん、英語をどの程度使う仕事なのか?  どの程度の高い英語力が求められるのか?  など、仕事によって異なることはわかっています。でも、その人はTOEICのスコアが高くないことを微塵も気にしていません。

 高いスコアがあるのに英語に不安がある人もいれば、決して高いわけではないのに全く気にせず仕事ができてしまう人がいる。その違いは「やったらできた」という経験があるかないかです。

 実践経験が足りないと言われても、日本において英語を使う場はなかなかないのも事実。私自身、日本にいる間はほとんど英語を使うことはありません。では、どうすればいいのか? 

■英語を使う必然をどう作るか

 1つのヒントは、10年以上前から楽天が取り組んできた「英語公用語化」でしょう。話さざるをえない環境を作るのです。あのルールも当初は賛否両論あり、日本人同士の会議でも英語を使うのはナンセンスという意見も聞いたことがあります。

 それでも「英語公用語化」で突き進んだ結果、どうなったか。先日も楽天本社に行ってきましたが、英語公用語化が常態化しているので「みんな、普通にしゃべっています」と言われました。

 もちろん、どの会社でも導入できるわけではないでしょう。全社で英語を公用語化しなくても、日本語を話せないメンバーもいる部門横断的なプロジェクトをスタートさせ、将来のグローバル人材に担当させることで、必然的に英語をしゃべらざるをえない状況を作ることはできそうです。

 あるいは、私が海外で実施しているような研修も現地の人たちとコミュニケーションを取らざるをえない状況下に置かれますから、そのような機会の作り方もありです。

 大切なのは、どうしても英語を使わざるをえない環境をどう作るか?  英語を話す必然をどう作るか?  そこにつきるのではないでしょうか。

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最終更新:5/19(日) 8:32

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