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企業の内部留保が過去最高の550兆円を突破…法人税が高い「昭和の経済システム」こそが最強だった!法人税を増税したほうが「賃上げに繋がる」意外なワケ

5/14 11:17 配信

マネー現代

(文 本多 慎一) もともと、日本の労働者、及び労働組合は、欧米と違い、賃上げより雇用の確保を重視してきた。失業率は低い反面、賃金アップのための転職や、賃上げ交渉のために、ストまで行うことは稀だ。そのため、欧米と比べて賃金は上がりにくいとされる。

 それでもバブル崩壊にもかかわらず、1990年代半ばまで右肩上がりだった実質賃金は96年をピークに、なぜ下がる一方になってしまったのか。

賃金は理由があって上がらなくなった

 経済ジャーナリストが言う。

 「大きなきっかけは、バブル崩壊や1990年代半ばの金融危機による不良債権処理に際し、株主構成の主役が企業間の持ち合いから外資など機関投資家に変わり、株主至上主義が色濃くなったことです。企業に配当圧力が強まり、最終利益をいかに多く出せるかに、経営の主眼が置かれるようになったのです。

 これにより経費がシビアになって、仕入れコストと人件費が抑制的になり、経営が苦しくなった中小企業では、賃上げ原資の捻出すら苦労するようになりました。

 そして、こうした企業側の事情に配慮してなのか、1999年の小渕政権や2004年の小泉政権下では労働者側に有利だった労働者派遣法が大幅に緩和され、企業は非正規雇用を利用しやすくなり、労働者にとっては正規雇用の就業先が減って不安定な働き方を余儀なくされることが増えたのです。

 しかも企業にとって、正規雇用と同じコストを税込みで派遣や外注に置き換えれば消費税の『課税仕入れ』扱いとなり、消費税率が上がるほど、税額控除が大きくなって“手残り”が増えるという大きなメリットができてしまったのです。

 さらに、1997年には独禁法改正により、いわゆる持株会社の設立が解禁されました。これにより、儲かっている企業でも、部門ごとに子会社化して賃金水準を抑制することもできるようになりました。

 このように、企業にとっては、景気後退時の負担回避と好景気時の利益の最大化のため、人件費を抑える選択肢が格段に増えたのです」

法人税の減税トレンドで消失した「節税賃上げ」

 それと同時に、企業が賃上げを抑制し、利益を貯める動機に繋がった大きな要因が、法人税の引き下げトレンドだ。法人税率が下がったことで、賃金抑制がダイレクトに純利益に結びつきやすくなったのだ。

 元静岡大学教授で税理士の湖東京至氏がいう。

 「法人税率は諸外国との引き下げ競争や、消費税という大きな財源を得たこともあって、バブル期以降、段階的に引き下げられたのです。1980年代末に地方税分を含んだ実効税率は約50%でしたが、今では30%を切ったほどです。

 しかも大企業に多い製造業では、研究開発費の一定割合が税額控除になる特例などがあり、実効税率が20%以下に収まるケースも少なくありません。企業は法人税の減税政策のおかげで、格段にお金を貯めやすい環境になったのです。その結果が、過去最高に貯まった550兆円以上にのぼる企業の内部留保と言えます」

 法人税が高かった時代は、儲かった企業が節税目的により、経費化できる賃上げが副次的にもたらされていたという、労働者にとっては恩恵の大きい側面もあった。利益を税金で持っていかれるなら、従業員に還元する方がマシと考える経営者も少なくなかったからだ。しかし、その動きが法人税減税により大きく転換してしまった、というのだ。

 実際、賃金の上昇トレンドがピークアウトを始めた97年とほぼ同じタイミングである1998~99年には法人税の基本税率が37.5%→30%と大幅に引き下げられている。その一方で、97年には消費税が3→5%と引き上げられた。

税制の変更でお金の流れが「人から企業」へ

 湖東税理士が続ける

 「労働者を取り巻く制度や、税制の変更というキッカケもあって、国内のお金の流れが『人から企業』に移ったのだと思われます。

 法人税は儲けにかかる税金で、消費税は物を買うときなどに負担する税金です。同じ一般会計に入る税金でも、どちらの税金が経済や生活にダメージを与えやすいかは明白です」

 消費者が使ったお金は、最終的に企業間取引の強者である大企業の内部留保に吸い込まれる一方になる。そこから再投資や賃金として支出される割合の方が低いと、市場にお金が回らずデフレ経済が常態化してしまう。

 内部留保は設備投資に回っているという指摘があるが、問題はその割合だ。法人企業統計によると、内部留保の増加に関係なく、減価償却費は横ばいが続いており、国内で新たな設備投資が行われていないことを物語っている。

 賃金を絞った結果、消費は伸びるわけがないので、企業が新たな設備投資をするわけがない。内部留保は近年、企業買収の資金にも使われているが、結局は、個人にお金が巡ってこないことに変わりはない。

 そして慢性的に冷え込んだ消費の需要不足を補うため、今度は国が巨額の補正予算を組んで、「経済対策」をすることになる。支援を受ける企業は儲かる一方、その借金のツケは賃金が上がらない国民にまたまた増税としてのしかかる。家計部門は常に苦しく、これが「失われた30年の正体」ともいえるだろう。

法人税を増税すれば賃金が上がると言えるワケ

 では、仮に法人税を増税すれば賃金は上がるのか──。一見、無茶にも思えるが、もしバブル期並みの実行税率50%程度になった場合を考えてみたい。

 「仮に1億円の売上に対し、人件費率が20%(2000万円)、税引き前の利益が10%(1000万円)だった場合、法人税の実効税率が現行の30%では、最終的に700万円の純利益が会社に残ります。

 これが実効税率50%だった場合の純利益は500万円です。しかしこのケースで、仮に利益(1000万円)の半分の500万円を人件費にあらたに回すと、25%の賃上げ(2000万円→2500万円)が可能で、残りの利益500万円のうち50%分を納税し、250万円が純利益として会社に残る。

 つまり、法人税が50%になれば、250万円の純利益を犠牲にして500万円分の賃上げを行う、という経営的な選択肢が生まれることになるのです」(経済ジャーナリスト)

 もちろん、税金を多く払ってでも1円でも会社に多く残しておきたいと思う経営者も多いだろうが、すでに十分な内部留保があり、税金で多く持っていかれるくらいなら、賃金を上げて良質な人材を確保して、社員のモチベーションを上げた方が、結果的に成長に繋がると考える経営者も少なくないはずだ。

 そうなれば、人材市場の流動性が増して、賃上げを渋っていた他の会社も雇用確保の観点から賃上げに向かい、多くの企業が賃上げに向かう可能性がある。

 前出の湖東税理士が言う。

法人税を上げることの利点

 「つまり、法人税が高いと、労働組合が要求しなくても、節税の動機から、会社の利益成長と、従業員の賃金上昇が直接的に結びつきやすくなるのです。

 税金は税率の高さや、支払う場合の負担額に注目がいきがちですが、実は税率が変化すると、それに影響された個人や企業の『支出行動の変化』が社会や経済に与える影響の方がとてつもなく大きいのです。

 例えば個人は課税所得に対して、所得税、住民税と合わせ最大55%です。しかし、実際にこの税率を支払っている個人は少なく、多くは節税目的の資産管理会社を設立していて、その会社の経費で贅沢をするし、高級車を買ったり、役員報酬を渡すなどして、“消費”をすることで節税を目指すのです。となると、結果的にマクロ経済にもプラスの作用があるのです」

法人税は「貯蓄の罰」、消費税は「消費の罰」

 つまり、利益にかかる法人税率が引き上げられれば、「貯蓄の罰」として機能して“消費性向”が高まることで、利益分が投資や経費、人件費に回りやすくなる。反対に、消費税率が高くなれば「消費の罰」として、消費が抑制的になり、経済に悪影響を与えてしまうのは言うまでもない。

 「もし、法人税の実効税率が50%まで上がれば、株は一時的に大きく下がり、経営層や株主へのダメージも大きいでしょうが、節税目的による賃上げ期待に加え、財源が増えることで、消費税は5%程度の引き下げが可能になる。となると、景気が良くなり、長期的には会社の成長も期待でき、やがて株価も上がっていく可能性はあるでしょう」(経済ジャーナリスト)

 一見、暴論のようでいて一理はある法人税の増税議論だが、実は自民党の税制調査会のメンバーにも「法人税の増税を考える議員は少なくない」(自民党関係者)という。

 湖東税理士は法人税率が高かった昭和時代を回顧してこう話す。

 「当時は、利益の半分が税金に取られていたので、業績が良いと経営者は『決算賞与を弾んでやるぞ』といって従業員に還元していたものでした。節税の観点から経費や福利厚生に回した方が良いと考える経営者が多く、会社の発展と従業員には一体感がありました。

 同時に、どうせ税金で取られてしまうため、純利益に神経質になる必要がなく、コスト意識が今ほどシビアではなかった。仕入れ先や外注を買い叩く必要もなかったため、下請け企業も価格転嫁がしやすかったのです。結果、中小企業やそこで働く従業員など隅々まで利益が行き渡る経済サイクルがあり、当時はリストラという言葉すらなかったほどです。

 実際、昭和時代の売上高に占める純利益率は今と比べ物にならないほど低かったのですが、その分は中小零細に行き渡っており、大企業の売上を社会全体で分かち合う経済構造があったのです」

昭和の経済システムが「最強」だった

 会社の価値は売上高の成長性で評価され、設備投資は銀行からの融資で賄うものだった。貸出金利は今より格段に高く、売上を上げる努力は今より必要だった一方、金利も経費にでき、利益を多く残す必要性も低かったのでそれでもよかった。

 また、接待交際費などもたくさん使え、街中の経済を回すと同時に、従業員にとっても賃金以外の“ご褒美”があり、好況感を肌で感じることができた。

 経費となる福利厚生が充実していたことも、経済をよく回した。社員寮があれば、家賃負担が軽く済み、可処分所得が多く残る。社員旅行も多く、国内の温泉地や観光地が賑わい、都心部で稼がれたお金が地方の経済を回す循環もあった。

 そして、国民はハイリスクの株に投資しなくても、定期預金に預けることで、企業が生み出した利益を銀行経由で、間接的に受け取ることができた。

 こういった不労所得が消費に向かうサイクルで、国内経済は力強く、物価も少しずつ上がっていったので、現金で利益を残しておくという動機より、個人は消費に、企業は経費や設備投資に使った方が合理的となり、結果的に高度経済成長のサイクルに貢献したとも言えるだろう。

「海外流出」が進むのは企業ではなく国民

 このような環境だったからこそ労働者も安心して結婚し、子供を作れたからこそ今より高い出生率だったのかもしれない。

 「昭和時代は発展途上だったから成長したように見えるのは、あくまで結果であって、その要因には、企業は高い税負担や高金利に嫌がりながらも、経済循環しやすい制度的な環境が背景にあったことも大きいはずです。従業員を大事にしているように見えたというのも、これは当時の経営に情があったからではなく、あくまで当時の税制度や経営環境において、そうした経営に合理性があったからです。

 それを政治が企業側の言い分だけを聞いたが為に、1990年代後半以降は賃上げしなくていい制度が次々と整備され、結果的に消費が弱まり、日本経済は低迷したままなのです。

 また、よく、法人税が高いと海外流出が起きると言いますが、実際には法人税が高かった時代から、現在でも各国との比較では高いのに、海外に本社を移転した上場会社は1社もありません。それ以前に、逃げられない国民から増税すべきという発想がおかしく、むしろ、国民の方が、低賃金と高い公的負担に耐えかねて、若年層を中心に海外移住が増えているほどです」(経済ジャーナリスト)

 もちろん、昭和時代の経営環境も良い面だけではなかった。税負担が大きくて利益が貯まらず、事業資金の多くを銀行からの融資で賄っていたため、ひとたび不況になれば一気に債務超過となり、倒産の危機に陥りやすかった。労働者をとりまく環境面もハラスメントや長時間労働など見習いたくない面は多い。

 また、経営者が大きく稼ぎにくく、配当性向が低かったことは、株主にとっても面白くない時代だったことも確かだろう。

 つづく記事『岸田政権「地獄の日本人搾取システム」がヤバすぎる…! 大企業に「絶対有利な税と制度」を築き上げ、国民生活に負担を押し付ける「自民党の大罪」』では、日本人が大企業の「捨て駒」にされている実態について、詳しく解説します。

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最終更新:5/14(火) 11:17

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