退職金は「新NISA」に突っ込むな!「20年積立で収益」なんて金融庁の希望的観測
「退職金で投資信託を」と勧める金融機関の甘言に踊らされてはいけない。65歳から「つみたてNISA」を始めたところで、株価の大暴落があればお金が戻ってこないこともあるし、20年後の85歳はお金を使える健康体ではないかもしれない。そんな老後とNISAについて、経済ジャーナリストの荻原博子氏が解説する。本稿は、荻原博子『65歳からは、お金の心配をやめなさい 老後の資金に悩まない生き方・考え方』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。文中の記述は、2024年12月末時点の情報を元にしています。
● 老後資金の命綱の退職金を 投資信託につぎ込むリスク
投資信託は、金融機関にとっては「うまみ」が大きな金融商品です。なぜなら、投資した人が手放さない限り、「信託報酬」という手数料が定期的に入ってくるからです。
なかには、「ファンド・オブ・ファンズ」といって、投資信託を複数組み合わせることで、信託報酬が二重に入ってくるものもあります。
皆さんにとっては「割れるかもしれない卵」ですが、売り手にとっては、「絶対に割れない金の卵」なので、「1本でリスク分散ができますよ」などと勧めてくるのでしょう。
これに老後資金の命綱とも言える退職金をつぎ込んでしまったら、老後の人生を不安なまま過ごすことになりかねません。世界的規模の経済危機が起きたら、それだけで寿命が縮まってしまうでしょう。
「リーマン・ショックのようなことはめったに起きないだろう」と言われても、ファンドマネージャーですら予想できないことが起きるのが投資の世界です。
それなのに、なぜ「分散投資なら大丈夫」「投資信託ならリスクが少ない」と言い切れるのでしょうか。
● 「積立投資」は 「貯金」とは違う!
金融機関の窓口に行くと、「長期投資」「分散投資」と並んで勧められるのが「積立投資」です。これもまた、「リスクの低さ」を強調されます。
しかし、積立投資についても、私は、もろ手を挙げて勧めることができません。
その大きな理由は、積立といっても、貯金ではなく「投資商品」の積立なので、必ずリスクが伴うからです。
日本人は、「貯金好き」と言われます。毎月少しずつ貯金しながら、金額が増えるごとに、明るい未来が開けていくような気がするからでしょう。
毎月1万円とか2万円という少額の資金で買い足していく積立投資にも、そういったイメージを抱いているではないでしょうか。
けれど、貯金と投資は、まったく別物です。貯金はノーリスクですが、投資には必ずリスクが伴います。
「積立投資なら、長期的には必ず右肩上がりになる」などということはありません。
2024年8月5日、日経平均株価が大暴落しました。1987年10月のアメリカの大暴落「ブラックマンデー」の翌日の3836円をも超える4451円の下落に、多くの人が天を仰ぎました。
この大暴落が起きるまでは、金融機関は「つみたてNISAの運用益は非課税」「つみたてNISAはコツコツと投資信託を買っていくので安心」「安定した老後資金を準備するのに最適なので、高齢者もすぐに始めるべき!」と言って、新NISAを勧めていました。
私のように「つみたてNISAだって目減りするリスクがある」と述べると、「変な人」扱いされるほどでした。
● 20年以上も積立を 継続できる人は限られている
ところが、株価の大暴落を機に、「つみたてNISA」を勧めるプロの勧誘文句が変わりました。
手のひらを返すように、「つみたてNISAにもリスクがある。ただし、目先は乱高下しても、20年後にはプラスになる確率が高い」と説明を変えたのです。
なぜ、いっせいにこのようなことを言い始めたのでしょう。
じつは、金融庁のHPからダウンロードできる『つみたてNISA早わかりガイドブック』には、資産・地域を分散した積立投資を5年保有した場合と、20年保有した場合の運用成果の実績を比べると、後者の場合には元本割れしていないという結果を公表しています。
金融庁に問い合わせると、「1989年から5年間投資した場合はたしかに元本割れもあるが、20年間投資した場合には2%から6%くらいの収益を上げている」そうです。
ただし、「これは過去の実績をもとにした算出結果であり、将来の投資成果を予測・保証するものではありません」と書かれています。しかも、ここで取り上げられているのは、約6000ある投資信託のうちの「たった1本」。
金融庁は、つみたてNISAの対象となる投資信託として、信託報酬が低く、ノーロード(販売手数料が0円)の低コスト商品のみに限定し、「これらを長期投資すれば大丈夫」と説得したかったのでしょうが、それにしてもあまりに無理があります。
そもそも、「長期投資なら大丈夫」と言われたところで、たとえば20年以上も積立を継続できる人は限られます。
また、いつでも解約できるので、急な出費の時、現金化することもできますが、その場合、長期保有によるメリットを受けられるとは限りません。
● 「新NISA」に騙される 高齢者たちの末路
考えてみてください。2019年の日本人男性の平均寿命は81.41歳。日常生活を制限されずに暮らせる「健康寿命」は、72.68歳。女性の場合は、平均寿命が87.45歳、健康寿命は75.38歳です。
ということは、仮に65歳から20年間積み立てたら、85歳になります。亡くならずに生きていても、楽しくお金を使えない身体になっているかもしれません。
それにもかかわらず、金融機関の窓口では、「長期なら、リスクは低くなるのでお金が増える可能性がありますよ」という説明をするわけです。
繰り返しますが、なぜ目先の大暴落さえ予測できないのに、「20年なら大丈夫」などと、言い切れるのでしょうか。「世界経済は長い目で見たら右肩上がりになる」というのは、金融庁をはじめとした金融機関の希望的観測でしかないのです。
● 「つみたてNISA」も 商品が終了するリスクあり
ここで覚えていただきたいのは、もしかしたら20年以内に消滅してしまう「投資信託」があるかもしれないということです。
皆さんは、「投資信託」の「繰上償還」を知っていますか?
そもそも投資信託は、皆さんから預かったお金をまとめて株式や債券に投資して運用します。
しかし、仮に多くの人がその投資信託を解約し、投資できるお金が減って効率的な運用ができなくなったら、信託期間が無期限のものや償還日前のものでも、投資信託の運用そのものを終了してしまうことがあります。
これが、繰上償還です。販売会社から投資信託を買った人に、その旨の通知が届きます。
つまり、自分の保有する投資信託が含み損になっていても、マイナスのまま解約しなくてはならなくなる可能性があるかもしれないということです。
自分は長期投資するつもりでいても、投資信託のほうが先に「逝ってしまう」ことも起こりうるのです。運用成績が悪ければ、「つみたてNISA」で買った投資信託でも繰上償還することがあります。
● お金が返ってこない事態でも 国はあなたを守ってくれない
「つみたてNISA」をスタートする際にもらう「投資信託説明書(交付目論見書)」には、次のような留意点が書かれています。
ファンドは、大量の解約が発生し短期間で解約資金を手当てする必要が生じた場合や主たる取引市場において市場環境が急変した場合等に、一時的に組入資産の流動性が低下し、市場実勢から期待できる価格で取引できないリスク、取引量が限られてしまうリスクがあります。これにより、基準価額にマイナスの影響を及ぼす可能性、換金申込みの受付けが中止となる可能性、既に受け付けた換金申込みが取り消しとなる可能性、換金代金のお支払いが遅延する可能性等があります。(「三井住友・DCつみたてNISA・全海外株インデックスファンド」の「投資信託説明書」)
ようするに、「投資信託の暴落などを理由に解約したい人が殺到した場合、解約を受け付けてくれないケースがありますよ」ということ。
積立投資の説明書には、こうした一文は必ず入っています。こう書いてある以上、株価が大暴落して一刻も早く現金化したいと思っても、受け付けてもらえなければ諦めるほかありません。
まさか、国が後押ししている「つみたてNISA」で、そんなことは起きないだろうと思うかもしれません。しかも、「『つみたてNISA』はいつでも解約できるのがウリだ」と堂々と宣伝しているのに。
けれど、国は個人の財産形成が促進されるように、「信託期間が無期限または20年以上」「信託報酬が一定水準以下」「分配頻度が毎月でない」など、一定の要件を満たしていれば、「つみたてNISA」の対象となる許可を出しているだけです。
選ぶのは皆さんの自己責任なのです。
ダイヤモンド・オンライン
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最終更新:3/13(木) 6:02