能登半島地震、被災地で見た「地域の足」の現状 各社が連携して運行、「現地への関心」が復興のカギになる

5/22 4:32 配信

東洋経済オンライン

 2024年元日に発生した能登半島地震。大都市を襲った阪神・淡路大震災や広範囲に被害を出した東日本大震災と比べると、マスメディアにとっては局地的な災害という捉え方なのか、最近はトップニュースで報じられることがほとんどなくなった。

■被災した現地の現状は? 

 しかしながら筆者にとっては、数年前に石川県の地方銀行である北國銀行でセミナーを担当し、現地でバスや鉄道を運行している北陸鉄道の方々と意見交換をしてきた経験があり、現地の状況が気になっていた。

 もちろん発災直後は人命救助優先の局面だったので、現地に足を踏み入れることは控えたが、震災から3カ月が経過した4月を迎えて、訪ねても邪魔にならないかもしれないと思うようになり、2つの会社に連絡を取った。

 幸いにして対応してもらえることになり、大型連休直前に現地を訪れるとともに、北國銀行および北陸鉄道に話を聞くことができた。

 具体的には金沢市を出発して、七尾市、穴水町、輪島市を訪れた。4月6日に全線での運行を再開したのと鉄道の穴水駅、輪島駅跡地にある道の駅輪島、1月27日から臨時便の運行を再開しているのと里山空港などの交通結節点にも立ち寄った。

 まず感じたのは、ニュースでは輪島市や珠洲市の話題が多くを占めるが、実際はそれ以外の地域も、至る所に地震の爪痕が見られたということだ。

 石川県内のすべての自治体に支店を持つ北國銀行では、「能登町の松浪支店は損傷が激しく、珠洲市店での仮営業を決定し、穴水支店と志賀町の富来(とぎ)支店は現在、町役場内で営業している」とのことだった。たしかに穴水町を訪れると、倒壊している家屋が各所で見られるなど、想像以上の惨状となっていた。

■バスにも深刻な影響

 穴水町の南に位置する七尾市も被害を受けている。北陸鉄道グループで輪島市・珠洲市・穴水町・能登町の奥能登地区を担当する北鉄奥能登バスは「七尾にある委託整備会社のリフトが土台の沈下で使えなくなり、車検の際は金沢まで車両を持っていかなければならず苦労している」と、業務に深刻な影響が及んでいることを明かした。

 取材でも使った金沢市と輪島市を結ぶ自動車専用道路、のと里山海道および能越自動車道は、徳田大津インターチェンジ―のと里山空港インターチェンジ間については、輪島方面のみ通行可能となっていた。つまり金沢方面は一般道への迂回措置が取られていた。

 この区間はほとんどが七尾市と穴水町に属している。ここからも、被害が大きかったのは輪島市と珠洲市だけではないことが裏付けられる。

 前述の自動車専用道路は、至る所で盛土が崩れ、応急処置として細く曲がりくねった道を通しているという状況で、通常は約2時間で行ける金沢―輪島間が、一般道とほぼ同じ約3時間もかかった。7月には途中の橋を除いて対面通行に戻るという発表が信じられないほどの状況だった。

■倒れたビルが横たわる輪島市内

 のと里山海道が能登有料道路として開通したのは1982年(その後無料化)と、比較的新しい。しかし2007年の能登半島地震でも、今回と同じ区間で数カ所の路面崩落などが起きている。一方で輪島からの帰路に使った一般道路は、比較的平坦な場所を選んで走っているためか、被害は軽微だった。

 地震の多いこの地域の道路として、盛土を多用して山間部に道路を通すことが理想的なのか、考えさせられた。

 輪島市の惨状はニュースで多くの人が見ているとおりで、朝市が行われていた付近は一面が焼失したまま。交差点には倒れたビルが横たわっていた。ただし道路には新たに車線が引き直されるなど、臨機応変な対策も確認できた。

 今回取材した2社では、輪島市内にある北鉄奥能登バス本社が、「揺れで車両がぶつかったり、道路の損傷により一時入出庫が不可能となったりしており、整備工場は解体が決定した」とのことだった。

 北國銀行の話では、七尾市以北の6市町の事業者の再建はこれからとのこと。また北陸鉄道では、大型連休を利用して解体前の実家を見に戻ってくる人もいるという話が出てきた。さらに言えば、金沢から輪島に通じる道路は、今も通行止めの箇所があり、現時点で大型車が通れそうな道は1本しかない。

 年始という発災時期や細く長い能登半島という地勢を考えると、阪神・淡路や東日本と直接比較するのではなく、この地震ならではの事情を汲んだうえで対応すべきではないかと、現地で教えられた。

■人員配置にも影響が出ている

 ここまで物的な被害を紹介してきたが、北國銀行、北陸鉄道ともに、最初に話していたのは人的な被害だった。

 双方ともに死者や重傷者は出なかったものの、2次避難によって職場を離れざるを得なかった人、避難所から業務に向かう人など、さまざまな苦労があることが理解できた。

 当然ながら従来のような人員配置は難しく、「穴水支店は火曜日と金曜日の10~14時、富来支店は毎週火曜日の9~12時の営業」(北國銀行)とのことであり、今後も町役場内で営業を続けていくかどうか、議論していくという。

 バスもそれ以前から顕在化してきた運転士不足が加速したような状況であり、道路状況もあって当初は運休を余儀なくされた。

 そんな中で1月25日には、金沢と輪島、珠洲、能登町を結ぶ特急バスが、復興支援も兼ねて無料で運行開始。続いて2月5日には路線バスの穴水輪島線および穴水線(穴水町―輪島市門前町)が復活した。

 「特急バスは北陸新幹線が延伸開業する3月16日まで無料で、利用者の方々から感謝の言葉をいただいた。無料運行は貸切バスの事業許可があれば運転できるので、北鉄金沢バスや北鉄白山バスに応援してもらった」(北鉄奥能登バス)

■金沢方面の移動需要に対応

 さらに4月22日からは、珠洲や能登町から金沢の病院に通いたいという声に応えるため、のと里山空港や穴水駅とを結ぶ便を設定。空港をハブとして輪島から金沢に向かう特急バスに乗り継ぐダイヤを組むとともに、のと鉄道を使って金沢方面に向かう需要にも応えている。

 分野の垣根を越えた対策で運転士不足をカバーし、少しでも快適な移動を提供しようという姿勢に好感を抱いた。

 今後については楽観視はしていない。避難した住民が戻ってくるかはわからず、それは人材にも影響してくる。奥能登に住み続けている人たちへの対応も、「避難所住まいの方が多く路線や停留所の見直しが必要」(北鉄奥能登バス)とのことだった。

 一方で北國銀行は、震災前から珠洲市でVisaカードのタッチ決済を推し進め、人口あたりトップの普及率となったことを追い風に、2023年10月に開始したデジタル地域通貨「トチツーカ」のサービスを生かそうとしている。

 デジタルポイント「トチポ」のサービスを珠洲市で先行導入していたのに続いて、今年4月には、日本初の預金型ステーブルコイン「トチカ」のサービス提供を石川県全域で開始した。

 「震災を機に現金からデジタルへという意識は高まっている。家屋が倒壊しても影響が少ないので、タンス預金から移行するという動きがある」とのことで、ピンチをチャンスに変える動きとして注目したい。

■今後の復興を左右するのは…

 そして両社がともに取り上げていたのが観光の話題だ。

 北國銀行は「金沢や加賀に観光に来てもらうことによる消費や税収などの経済効果が、直接的にも間接的にも能登の復興につながっていくことが大切」と話し、北陸鉄道は「観光産業への支援によって交通需要が増えてくることを期待している」と語っていた。

 復興が本格化するのは今後であり、地元のインフラを支える企業はその先まで見通している。その足取りが確実に進むためには、私たちの能登を思う気持ちが大きく関係しているということは言うまでもない。

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最終更新:5/22(水) 4:32

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